「暁美ほむら・・・それが窃盗犯だっていうの?」
カルマ君は少し怪訝そうにそう言った。
翌日の学校、昼休みの間に私はみんなを集めて昨日キュゥべえから聞いた話を共有した。
「そうよ。これはキュゥべえの推測だから断定はできないけど・・・あの子が言ってることはいつも適確よ。概ね間違いはないわ」
「ふーん・・・」
昨日のメンバーも窃盗犯の話は聞いていなかったので少し驚きながら話を聞いていた。
「それって昨日美樹がいってたやつだよな?」
「知ってるの杉野」
渚君に聞かれ、杉野君は昨日魔女退治であった話をした。
「お、襲われた!?あの見滝原からきた転校生に!?」
「おう、神崎さん庇っておもっきり背中斬られたけどな・・・」
「大丈夫なのそれ・・・」
「あの美樹ってやつ、治癒魔法が得意らしくて治してもらったからなんとかな・・・」
「へぇ・・・」
渚君は少し引きつつ話を聞いていた。詳細を話す杉野君もどこか許してはいないのか不貞腐れた態度をとっていた。昨日は美樹さんの謝罪の勢いで許すしかなかったけど、一晩たってふつふつと怒りが戻ってしまった、ってところかしら。
仕方ないだろうけど・・・美樹さんを完全に信じ切る、訳にもいかないものね。
「つーかよ、神崎もその美樹ってやつに勘違いされて襲われたんだろ?」
杉野君の話を黙って聞いてた寺坂君はイライラしながら言った。
「勘弁してくれや。ただでさえ狭間も、サクラっていったか?そいつに襲われたばっかだっていうのによぉ。
恨み募らせた転校生に前代未聞の窃盗犯魔法少女・・・。白ダヌキが見えるってだけで短期間にこんだけトラブル呼び込みやがって・・・、テメーらの面倒はテメーらでみれや。巻き込まれるこっちの身にもなれってんだ」
ギロっと睨みつける寺坂君に私は何も言えなかった。狭間さんが巻き込まれている以上は他人事じゃないと無理いって呼んだんだけれど・・・申し訳ないという気持ちしか湧いてこない。
「そうはいっても寺坂、その狭間に似た魔法少女と関係ない話とは限らないだろ?情報は多い方がいい。トラブルを回避するならその方がいいからお前たちも来てるんだろ」
磯貝君に諭されて寺坂君はちっと舌打ちをしてそっぽを向いた。
でも、本心としては狭間さんに似た魔法少女に殴るとまではいかなくてもなにかしてやりたいのかもしれない。
「ねぇ・・・魔法少女ってさ、ロクなのがいないのかな?」
矢田さんが少し悲しそうに言葉を発した。
「なんかさ、願い事叶えて魔女と戦って人を救って・・・昔見た魔法少女アニメみたいなかっこいい存在だなって思ったんだけど・・・」
矢田さんは歯がゆい気持ちで続けた。
「なんか現実はそうでもないんだよね。あの佐倉さんって子はなんだか乱暴で人を傷つけるのに躊躇しないし、狭間さんに似た魔法少女も同じ・・・さやかちゃんはともかくとしてその暁美ほむらって人は窃盗も何も関係ない・・・私怖いよ」
矢田さんの恐怖もわかる。魔法少女の中には人が使い魔の犠牲になることを厭わない人もいる。グリーフシードを得るためだ。けど、私たちの方針は使い魔も退治すること。しかも私たちE組は使い魔を倒すと劣化版のグリーフシードを得ることが出来る。どう考えても私たち敵みたいなものだ。
できることなら佐倉さんも美樹さんも関わらずにいたいのが本音だ。誰も犠牲にしたくないけど・・・私にだって優先順位みたいなのだってある。クラスの子が犠牲になるくらいなら・・・佐倉さんも美樹さんも追い出すのが最善なのだろう。
ただでさえ、正体不明の魔法少女がいるっていうのに・・・。
「ねぇ、私わかったことあるんだけどいい?」
不破さんが手を上げて話を始めた。
「その暁美ほむらってさ・・・仮に本当に窃盗犯だった場合、ワルプルギスの夜を倒すために盗んだんじゃないかな?」
不破さんは推理を続けた。
「確か烏間先生の話じゃ盗まれたらしき武器は見滝原の人のいない虚空に撃たれたんでしょ?・・・ねぇキュゥべえワルプルギスの夜って普通の人間に見えるの?」
「ワルプルギスの夜は普通の人間には見えないんだ。ただの人間には結界に巻き込まれない限りは魔女の姿は見えないけどね。ただし、ワルプルギスの夜は結界を必要としない強力な魔女だ。普通の人間にとっては巨大な災害にしか捉えられない。たとえそれが君たちが“殺せんせー”と呼ぶ教師だとしてもね」
「そっか、ならいいわ。つまりこういうことよ。暁美ほむらは時間停止を使って軍事基地に潜入、武器を頂戴してその武器を使ってワルプルギスの夜と戦闘、でも敗退して逃げ出した・・・これが真相ね!」
不破さんはどこかにまっすぐ指さして得意げにしている。
「それで・・・なんで軍事基地に潜入する必要が?」
茅野さんに指摘され不破さんはきょとんとした顔をした。
「えー、そりゃ・・・強そうだから?」
「そんなふわっとした理由?」
「自分の武器なかったのかよ。みんな何かしら持ってるぞ」
「ないから調達した!」
ふふんと得意げに追加の推理をしているけど・・・正直思いつきとしか思えないわ。ワルプルギスの夜を倒すためってのはいい線いってる気がしたんだけど・・・
「キュゥべえ、変身した時に武器がないってことある?」
「うーん・・・。拳や体術で戦う魔法少女を武器がないと捉えるのならそうだろうけど・・・大概なにかしらの武器はあるはずだよ」
それもそうか・・・なら、その暁美ほむらさんはあまりいい武器が渡されなかったとか?私のリボンもそうといえばそうだし。
「それで、その暁美さんの武器はなんなの?」
「銃だよ」
「結構戦えそうじゃない。なんで盗みまでしたのよ」
「それはわからないよ」
身もふたもない返事に私だけじゃなくみんなも唸ってしまった。
「それに・・・盗んだ量も常識を超えてるって言ってなかった?いくら時間停止がつかえる魔法少女だからって盗める量は限られてるでしょ?」
片岡さんの指摘に不破さんはうーんと考え込み、指を頭にあててひねり出したのは
「・・・・・・・・・ドラ○もんっているでしょ?」
「ドラ○もん?」
「その子は四次元ポケットを持っていた!だから武器を大量に盗めた!」
みんなの反応は静かだった。
「いや、いくら魔法ありだからって・・・無理くね?」
「いやいやワトソン君、一つずつ可能性をつぶしていけば残った答えがどんなにありえなくてもそれが正解なんだよ」
「なに一つ可能性潰してねーじゃねーか」
杉野君のツッコミに不破さんは黙った。
「ほむらちゃんに仲間がいたりしないかな?複数犯とか」
「さやかちゃんの口ぶりだと一人って感じしたけど?」
「その美樹が避けられてた可能性あるんじゃね?」
「うーん・・・否定できない」
「別に一度に一気に盗らなくても、すこしずつ持って行ったとか?」
「時間停止使えるしな」
「そっちのほうがありえね?」
「じゃあ、武器の保管場所は?それどうしたのよ?」
「さぁ・・・」
「ワルプルギスが来た当日に盗んだとか?それなら保管場所気にしなくてもいいし」
「ありえそうだけど・・・現実的かな・・・」
と、不破さんをきっかけに口々に議論はしているものの正解は出そうもない。
「やっぱり四次元ポケットが正解なんだよ!」
「それが一番自然なのかな・・・?」
不破さんは得意げだけど私も含めてなんだか納得がいかない。
「なんで四次元ポケット説不評なのよ~!」
「ちょっと万能すぎてどうよってな。巴の話じゃあまり魔法は万能じゃないって言ってたし」
「でも巴さんいろんなところから銃出してるじゃん!あれも似たようなものでしょ!」
「あれリボンで一から生成してるから四次元ポケットとはまた違うわ。銃の構造を理解してないと作れないし」
「え!巴おまえ銃の構造わかるのか!?他になんかの構造知ってたりしないか!?あ、バイク作れるとか・・・」
「反応すんな
「・・・頑張れば」
「巴も答えようとすんな!」
なんだか脱線してきたので、コホンと咳払いをしてキュゥべえに向き合った。
「ねぇキュゥべえ。その暁美ほむらさんって人、どうやって盗みを働いたか・・・知ってたりしない?」
「残念だけど僕は彼女に関する情報はほとんど持ってない。時間停止が使える契約した覚えのない魔法少女。これが僕が持てる情報の限りだし、今彼女がどうしてるかの観測もできない。こんなのは初めてだよ」
「じゃあ、四次元ポケット持ってるとかは!?」
「わからない」
「思った以上に使えねーな」
キュゥべえのそっけない態度は今に始まったことじゃない。私は深くため息をついた。
「まあ、詳しい話は私らも知らないし、烏間先生も教えてくれないか同じように詳しくは知らないかのどっちかだろうねぇ。その暁美ほむらって子に警戒するしかないね。盗んだ武器、見滝原で全部使ったって保障はないしね」
莉桜さんのまとめにみんながこくりと頷いた後、「あ、あの!」と渚君が声を上げた。
「もうさ、こんな事態にまでなっちゃったからさ・・・いうべきなんじゃないかな。殺せんせーたちに」
渚君の発言は少し強張るものだった。
それもそうかもしれない。誰か正体のしれないものが私たちを覗き、佐倉さんが襲い掛かり、狭間さんに似た魔法少女が暗躍し、美樹さんが誤解で襲い、それに件の窃盗犯があの暁美ほむらさんかもしれない。色んな事件があったからこそ確かに言っといたほうがいいとは思うけど・・・思うけど
「・・・やっぱり、ごめんなさい」
怖い。殺せんせーに魔法少女のこと告白するの。あんな不可思議で奇妙奇天烈で超破壊生物なのに割と現実的で心配性で少々おせっかいな殺せんせーのことだ。
簡単に信じないだろうし、信じたとしても魔法少女をしてることを危ないって禁止するかもしれない。なんなら拒絶するかもしれない。
私のこれまでが否定されるのは嫌だ。それにこの数か月の間、魔法少女のグループ活動が出来てとても居心地がいい。今まで一人で活動してたぶんその反動でこのグループに執着してしまってる分、解体してしまう可能性は・・・なくしたい。
「渚、人にはさ。言わなきゃいけない事でもいえないことってあるんだよ」
「中村さん」
莉桜さんは私の肩にポンと手を置いた。
「必ずしも人は合理的には出来てない。それが正しいって思っててもできない。嫌な思いをするかもしれない、傷つけるかもしれない、恐怖ってそういうこともあるんだと思うんだよね」
渚君は自分が間違ってたかもしれないと押し黙っていた。
「正論ってさ、正直無責任だと思うんだよね。安全でなんの関わりのないところから簡単にポンって出せちゃう。いやまあ、渚が魔法少女とは無関係、とは言わないけどさ」
莉桜さんは私の前に立って渚君に立ちはだかった。
「これは
莉桜さんにそう言われ、渚君はうんと頷いた。
「でも、言わないままってわけにはいかないでしょ。次は命が狙われるかもしれないっていうのに」
カルマ君がいつになく真剣にそう主張した。
「そこは・・・4班が不良たちとトラブったみたいなことって言っとけばいいんじゃない?魔法少女も多分戸籍ありの人なんだからうまいこと政府の力で牽制して」
「そう上手くいくのかね・・・相手が魔法少女のこと話したら自ずとバレるし」
「じゃあカルマ、アンタは言った方がいいって?」
カルマ君は少し黙ると
「うん、むしろE組の先生たちだけには。なんなら手助けしてくれるんじゃないかな?」
説得力あるカルマ君の言葉に少し考えてみる。烏間先生とかなら「暗殺に使えるのなら」とかいうのかな・・・?言うかなぁ・・・。どうしても否定される可能性ばっかり考えて体が強張ってしまう。
「なんなら・・・もう少し自衛の手段が欲しいところよ」
思わぬ意見が速水さんから発せられた。
「あの佐倉って人、もしかしたらわたしたち未契約組を人質に取るかもしれないし、暁美ほむらの人となりもわからない。そんな奴相手に魔法が少しかかってるとはいえモデルガンとゴムナイフじゃ太刀打ちできないわよ」
「佐倉さんはそんなこと・・・いえ、勘違いとはいえ寺坂君たちに暴力を振るった以上否定はできないわ」
「自衛の手段がほしいなら僕と契約するといい。簡単な話だ」
キュゥべえの話に速水さんは呆れたようにため息をついて睨みつけた。
「自衛したいからって契約して、やることは終わりのみえない危険な魔女退治。本末転倒でめちゃくちゃ。戦い続けられる動機があるのならいい手かもしれないけど・・・」
その言葉にある人がはっとしたようで、キュゥべえに向かって歩み寄った。
「キュゥべえ・・・俺、契約するよ」
「本当かい、
今の話の流れで契約するとは思わなかったのか、速水さんはギョっとして杉野君に詰め寄った。
「あ、アンタ今の話きいてたの!?自衛の手段がほしいからって」
「戦い続ける動機だろ?あるよ、動機。てか今できた」
ふうーと長く息を吐くと杉野君は神崎さんに軽く目をやった。
「俺らの班さ、ヤンキーに班員拉致られたって言ったろ?あんとき俺、腹殴られてなんもできなかったんだ。神崎さんと茅野を簡単に連れていかれてしまった。そのあと佐倉が三村を襲った時も俺は黙って突っ立てるしかなかった。美樹が襲い掛かった時は神崎さん守れたけど・・・斬られた痛みで動けなかった。それがさ、なんか俺なさけねーなーって。
魔法少女・・・てか少年になる資格あるのに巴たちに任せっきりでクラブたまにいいわけにして来なくて・・・してるつもりもねーけどさ。無責任だなって・・・今、思った。
けどさ、佐倉がまたいつ襲ってくるかわかんねぇ、暁美ほむらが来るかもしれねぇ、なんだったら名前も知らない魔法少女が殺しに来るかもしんねぇってなった時、俺黙っているのできねーなって思った」
杉野君は真っすぐにキュゥべえを見つめた。
「だから契約する。ちゃんと神崎さんや渚、みんなをちゃんと守れるように」
「・・・それが君の願いだね?」
「ああ・・・とはいっても詳細は詰めたいから本格的な契約は放課後にな。磯貝、アドバイスくれるか?」
「俺はいいけど・・・杉野、本当にいいのか?」
「ああ、覚悟は決まった」
杉野君の真剣な顔に磯貝君も満足そうに頷いた。
「守るための契約か・・・。マミちゃんさ、自分のための願いのほうがいいって言ってなかった?」
「それもそうだけど・・・杉野君みたいに願う目的がはっきりしてるなら人のための願いでもいいかもしれないわ」
「そっか・・・」
矢田さんは意味ありげにキュゥべえを見つめている。
「私も・・・契約しようかな。難病の弟治すために・・・それに戦える人は多い方がいいし」
「矢田さん・・・怖いって言ってなかった?大丈夫なの?」
「怖いのは怖いけど・・・マミちゃんたちと活動できるのなら、頑張れそうだし」
誰かを治すための契約はよくある話だ。だけど、思いつきやすい分、思いがけないトラブルが起こる可能性もある。私はそれを危惧して忠告していた。
色々な話を聞いている矢田さんなら大丈夫だといいんだけど・・・
「急ぐ話でもないし、ゆっくり決めて。なんなら私も相談に乗るし」
「ありがとマミちゃん。考えておくから」
ふと、頭にぽつりと水滴を感じた。すると雨がポツリポツリと降り出し、すぐに強く降り出した。
「やばい!帰るぞ!」
土砂降りの中みんな大急ぎで校舎へ帰っていった。ぐしょぐしょになった体で校舎に付くと殺せんせーがタオルを持って待っていた。
「はいはいはいはいはい!この時期は天候が変わりやすいですからね!天気予報を確認しつつ外での活動をしていきましょう!」
そう言いながら殺せんせーは私たちの髪を全員手早くタオルで拭いてドライヤーで乾かしていった。私たちの髪はすぐさま乾いていった。ついでに制服も体操服に着替えさせられてた。
「一瞬で制服も乾かしますのでお待ちを!」
そういって殺せんせーは教員室へと消えていった。
「相変わらず滅茶苦茶だよね、殺せんせー」
「そうね」
でも、私たちのことが大切に思ってくれてるのは伝わる。そんな人に・・・話したいっていう渚君の気持ちはわからなくもない。
いつか・・・殺せんせーたちに魔法少女のことを話す時がやってくるかもしれない。
けど、運命の時は私たちの予想を超えてあっさりとやってきたのだった。