巴マミは暗殺者   作:百乃綾香

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椚ヶ丘って神浜にありそうな学校だよね


31時間目 父親の時間

俺の父親は警察官だ。

そういうと厳しいんだろうなとか正義感が強いんだなとかよく言われるけど、どうなんだろうか。

正直俺は自分の父親が恥ずかしいと思っている。

警察官である親父は子供が生まれたとき、舞い上がって俺に正義(ジャスティス)、弟には勇気(ブレイブ)って名付けた。そのせいで子供がどんな目で見られているか全く理解せずに。

いざ名前について言おうものなら叩かれてしまう。

「親のつけた名前に文句をいうとは何事だ!」

そんな事を言って、俺達の言葉を聞こうともしない。

 

じゃあ警察官としてはどうかというと、全くもって誇れない。

ついこの間、親父は同僚にセクハラをかまし減給をくらった。にもかかわらず自分の非を認めずうだうだ文句をいうだけだった。減給直後は俺は悪くない俺は悪くないと酒を吞みながら言ってばかりだった。それを咎めようとしない母親もそうだ。正義に即しているとは思えない。

2人とも単にジャスティスだのブレイブだのの言葉に酔いしれてるだけだ。

 

かといって毒親と言われると肯定もしきれない。それでも愛は貰ってるとは思っている。

 

それでも俺は自分の父親に辟易し、自分の名前に嫌気がさしていた。

入学式でフルネームを呼ばれたときは地獄だった。会場の体育館が一瞬ざわっとしたのを今でもはっきりと覚えている。それがきっかけなのか、名前をことあるごとに弄って来るやつもいた。

それだけが原因ってわけでもないけどいじられるストレスが重なって成績が悪化し、俺はE組に落とされてしまった。

 

E組の先生は雪村先生も殺せんせーも俺の名前に何も言わず正義(まさよし)とよんでほしいという頼みに快く承諾してくれた。クラスの奴らも意外とデリケートな所は触れない奴らばかりで武士の情けで正義(まさよし)と呼んでくれている。・・・苗字呼びが多いからあんま意味ないと思うけど

 

そんな時に魔法少女の話を聞いた。キュゥべえと契約すればバケモノとの闘いの代わりに願い事を一つだけ叶えてくれるという。

すぐに頭に思い浮かんだのは「名前を変えてほしい」という願いだった。でも、馬鹿馬鹿しいと思ってやめた。願いと使命が釣り合ってなさすぎる。

 

それでもどこか捨てきれない思いがあったのか見学は続けていた。巴の戦いを見てると昔憧れてたヒーロー物を思い出してくる。無邪気なあの頃、テレビに映る「正義のヒーロー」というものに憧れてた時に。まだ素直に親父を尊敬してた頃に。

 

「はぁ・・・」

 

宿題を片づけながら今日のことを思い出していた。美樹さやかって言ったっけ?悪い奴ではないんだけどな・・・。

 

『もっと誇りにしてもいいじゃないですか!そんな素敵な名前をつけてくれた親御さんのためにも!』

 

「素敵な名前」ねぇ・・・。そんなことも何度も言われた。本当は思ってもないくせに。俺を励まそうと心にもない事を言って。

 

そんなことを考えていると母親の呼ぶ声が聞こえた。夕飯の時間だ。

居間の方に向かうと弟の姿が見えなかった。同じ疑問を思った親父が母さんに尋ねた。

 

「おい、勇気(ブレイブ)はどうした?」

「さぁ、家には帰っているはずだけど・・・」

正義(ジャスティス)勇気(ブレイブ)を呼んできなさい」

「わかった」

 

俺は弟の部屋のドアの前に立ち、ノックをする前になんとなく後ろを振り返った。別に居間からここは見えないけどなんとなく視線を気にしてしまっていた。

本当は勇気(ゆうき)って呼んでやりたいけど、そんなの親父に聞かれたら最悪平手打ちだ。「正しく名前は呼べ」って・・・。

悪いけど家では勇気(ブレイブ)と呼ぶしかない。小さく息を整えてドアをノックした。

 

勇気(ブレイブ)?夕飯の時間だぞ?」

 

返事がない。何度かノックしてるけど反応がない。それにドアの隙間から光が漏れてない。家には帰ってるはずだよな?

嫌な予感がして弟の断りもなしにドアを開けた。

 

「入るぞ?」

 

入ると真っ暗な部屋の中で弟が机に突っ伏して泣いていた。廊下から入った光で見えたのはボロボロのランドセルだった。俺はすかさず弟に駆け寄った。

 

「どうした勇気(ゆうき)!学校で何があったんだ!」

「兄ちゃん・・・」

 

弟は俺に抱き着くとわんわんと泣き出してしまった。

 

「学校でいじめられてる子がいて、その子、庇ったら、今度は、僕が、いじめ、られて、今日も、ランドセル、が・・・」

 

最後までいい切らないまま弟は泣き突っ伏してしまった。俺は弟の話に固まってしまった。

気が付かなかった。弟が学校でそんなことになっていたなんて。ただ恐ろしくて弟の肩を抱くしかなかった。

 

「おい、いつまで・・・」

 

親父も俺が遅いと思ったのか様子を見にやってきた。さすがの親父も弟の異常事態に気が付いて弟にことのあらましを聞いた。

 

「どうした!誰にやられた!」

「お父さん・・・」

 

弟は泣きじゃくるだけで何も言えなかった。困惑する親父に代わりに俺が弟から聞いた話を説明すると、親父は弟の肩をつかんだ。

 

勇気(ブレイブ)。お前は何も間違ってない。立派なことをしたんだ。堂々としてなさい」

 

弟の目を真っ直ぐ見て親父はそう言った。たまに見せる父親らしい一面。少しずれているけどそれでも父親なんだと思ってしまった。弟はそんな親父の顔を見つめてた。震える唇で弟は口を開いた。

 

「だったら・・・この名前を変えてよ!勇気(ブレイブ)なんて名前なんでつけたの!」

 

その瞬間、親父の平手打ちが弟の頬に直撃して体が吹っ飛んだ。弟の体を受け止めて親父の顔をみると、さっきとは違い真っ赤な怒りに満ちた形相をしていた。

 

「親のつけた名前に文句を言うとは何事だ!せっかく勇気(ブレイブ)って名付けたんだ。勇気をもって立ち向かうんだ!それでも俺の息子か!なのに泣き言をいうなんて・・・」

 

何を言っているんだコイツは・・・。

だんだんと親父の的外れな説教が遠くに聞こえてくる。少しは親らしいところがあると思ったらこれだ・・・。ああ、

 

コイツサエイナカッタラ

 

2人が言い争うなか、俺は立ち上がって弟の部屋を出た。ぐるぐると渦巻く頭で俺は自分の部屋に戻っていた。

そうだ、俺達兄弟はあの父親に苦労し続ける人生なんだろう。

薄っぺらい正義を持つ身勝手な父親に・・・。

 

「せめて、もっとマシな性格してたらな・・・」

「それは本当かな?木村正義(まさよし)

 

ふと前を見るとキュゥべえが部屋の中心に座っていた。

 

「君が戦いの運命を受け入れるというのなら、僕が力になろう。さあ、君の望みを言ってごらん?」

「望みっつったて・・・」

 

俺が今抱いたのはどっちかというと呪いみたいなものだ。それにあれでも俺は親父を嫌いになりきれない。いなくなってしまうのは・・・いやだ。

 

「別に親父さんを消すことを提案しているわけではない。少し考えれば君たち兄弟が幸せになれる選択は色々とある」

 

俺はゆっくりとキュゥべえをみつめていた。

 

「幸せになれる・・・苦労せずにすむのか?」

「ああ、君さえ望めばどんな奇跡だって起こしてしまう。親父さんに苦しむことだってなくなるはずだ」

「俺が・・・契約すれば、いいのか?」

「そうだ。契約して力を得ればマミたちの助けにも暗殺にだって役立つはずさ」

 

頭に過った昔みた「正義のヒーロー」の姿。男なら誰でも憧れたあの姿とは少し違うけど、俺も・・・

そう言われたとき、俺の心は決まった気がした。

 

「・・・わかった。契約するよ」

「本当だね?じゃあ、望みはなんだい?」

「親父を・・・正義の人にふさわしい人物にしてくれ!」

 

 

 

 

 

「と、まあ契約したらすぐさま親父、人が変わって弟のいじめの対処に乗り出したんだよ」

「弟さんのこと解決出来たらいいわね。所で浮かない顔をしているのはどうして?」

 

昨日の事を少しはしょりつつも話したところ、巴にそんな質問をされてしまった。

俺は言葉につまった。正直、覚悟はできていたのに契約した瞬間から・・・というより、得た魔法を知ってから後悔しているからだ。

 

「・・・それで得た魔法が「洗脳」だとよ。なんか親父に悪い事してしまったって気がして・・・やっちまったかなって」

 

そのことを話すと、巴はすごく悲しそうな顔をしていた。巴が一番気にしていたところだろうしな。

 

「へぇー、木村洗脳使えるようになったんだ?」

 

話を聞いてたらしくカルマが俺の元に近づいてきて、耳打ちをした。

 

「なら、さっそく寺坂に使ってみる?」

「言っとくけど悪用する気はないからな」

 

ふと、肩を叩かれた感触がして振り返ると不破が漫画をもってこちらを見ていた。

 

「木村君・・・ヒ○アカ4巻おすすめよ」

「不破はどうした・・・てか漫画いつも持ち歩いているのか・・・」

「・・・お父さん変えるのありなんだ」

「ちょっとまて。なんか俺、神崎に天啓与えた?」

 

なんてツッコんでいると巴が少し笑っていた。

 

「なんかおかしいか?今のやりとり」

「ごめんなさい。でも安心していいんじゃない木村君。そうやってフォローしてくれる子もいるんだし、力になれるって思えばいいんじゃないかしら。木村君なら変なことには使わないだろうしね」

「そういや殺せんせーに報告した時、微妙な顔されたけどこう言ってくれたな。

自分が願った結果に目を背けるな。変えてしまったのなら、今後どう付き合っていくか自分で考えろって」

「そうよ、タコのいう通りよ」

 

そう言いながら教室に入ってきたのはビッチ先生だった。

 

「基本人間が一番付き合わなきゃいけないのって親なのよ。それがどんなにひどい親でも簡単に切り捨てられないものらしいわ」

「らしいって・・・なんで曖昧な言い方を?」

「しょうがないでしょ。私、両親からも師匠(センセイ)からも愛されて育ったんだから」

 

と、得意げにビッチ先生は語った。

 

「だから両親の愛は私は信じているけど、そうでない人もいるのは嫌になるほど知ってる。本来はそういった人たちが多い業界だし。

でもアンタたちは幸運よ。愛のあるなしが死に直結しないんだから。それに日本にも「いつまでもあると思うな親と金」っていうことわざがあるでしょ。本当にいついなくなるかわからないものよ。

だから大切にしなさい、親との時間を。それがいい人であろうが悪い人であろうがそれが自分を作り出すのだから。親が生きている間に作れるものは作っときなさい」

 

ちょっとビッチ先生が真面目なことをいうとこそばゆいけどちょっとだけ割り切れそうな気がする。

 

「・・・はい!」

 

俺はビッチ先生に力強い返事をした。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

「契約したと聞いた時は肝が冷えたが、こういったサポートで生徒を守っていくのも必要だな」

「そうですね。なるべく彼らの選択は否定したくない。奇跡によりゆがみが生じたとしても、私たちは彼らの味方であり続けましょう」

「俺も、生徒たちが奇跡に頼りたくなる気持ちもわからんでもないしな」

「ところで、烏間先生の親御さんはどうしてしたか?」

「俺の話はいいだろうが」「いいからいいから」

「たいしたものはないぞ。病気がちの妹の世話につきっきりな事が多かったがそれ以外は普通だ。そういうお前はどうなんだ」

「私?私ですか?」

『さっさと稼いだ金を渡せゴミが!俺の酒代を稼ぐだけしか存在価値ないくせによぉ!』

『このガキ・・・殺す前に殺しやがって・・・そんな目で見るな・・・殺して・・・やる・・・』

「・・・・・・・・・・・・」

「・・・貴様が言うはずもないな。やめておく」

「ヌルフフフフ。そうですよ烏間先生、聞いたところで意味もないのでね」

「お前が始めた話だろうが」

 

 

 

本校舎。そこにある理事長室に生徒が一人入ってきた。

 

「失礼します」

「おや、どうしたんだい。浅野君」

「ある生徒について話があるんです。

2年D組の美樹さやか、彼女どうにかなりませんか?E組に対する扱いに対して抗議することが多く、本校舎生徒に悪影響を及ぼします。最近はA組の志筑仁美まで同調することが多い。

何か対策を講じましょうか?」

 

息子である浅野学秀に提言され、理事長はそっと両手を組んだ。

 

「君が何かをする必要はない。入学時に規約を読まずに我が校の決まりに文句を言う生徒は別に彼女が初めてではない。

彼女たちがE組を哀れに思うのならそれはそれでもいい。弱者に施しを与えるのは悪いことではない。

目を向けるべきは彼女たちがE組が他を上回る手助けをすることだ。そこまでいったらこちらも黙っている訳にはいかない。

彼女たちには我が校のルールをしっかりと知らせなければならないからね」

 

その言葉に学秀はニヤリと笑った。

 

「わかりました。どうせ二年生である彼女らにE組を上に引き上げる手伝いが出来るとも思えませんからね。

それにE組から本校舎に戻れた所で必ず優秀であり続けられるとも限らない。二年前にE組から本校舎に帰還した高校女生徒が半年ほどまえに中退しましたしね。高校校舎の事情はまだ把握しきれてませんが、彼女、とてもじゃないが本校舎に戻れるほどの成績ではなかったそうで。

まあ、ちょっとしたプレゼント(・・・・・)なら珍しいことでもないですが」

「油断してはいけないよ、浅野君。まれに奇跡だなんだと言って下の者が上を上回ることもある。しかし、我々はそんな奇跡も許してはいけない。そこは肝に命じておきなさい」

「言われなくとも」

 

理事長と学秀はお互いの顔を見合って爽やかに笑いあった。しかしその間の空気は黒く、邪悪なオーラを放ち、その場に他の人がいたならば卒倒していただろう。

誰にも理解できぬ親子関係は歪に、しかし椚ヶ丘における強者として相容れぬ威厳を放っていた。

 

 

 

 

 

所変わって、風見野の郊外にある朽ち果てた教会。そこのベンチに寝ころぶ少女の姿があった。

 

「父さん・・・違うんだ・・・あたしはただ・・・話をきいてくれ!置いていかないで・・・あたしは魔女じゃない・・・父さん・・・父さん!!」

 

少女、杏子はガバッと起き上がった。肩を上下させ、荒れる息がこぼれていく。体から噴き出す冷や汗を拭って、激しく鼓動する心臓を掴んで落ち着かせていた。

 

「久々に夢見たな・・・胸糞わりぃ・・・」

 

杏子はどこか痛む頭を押さえながら説教台に立ち前かがみになった。ミニドーナツが入ったふくろを開け、そのひとつを口に投げ込んだ。

 

新聞を読みながら世の中の不幸を嘆く父親だった。そんな父は人々を救いたい一心で説教中教義にないことを説き始めた。

結果、父は本部から破門され、一家は食うにも困る生活になってしまった。

誰も父の話を聞いてくれない・・・。そんなときに出会ったのが奴だった。

 

「・・・はぁ」

 

けれど、それが間違いだった。

最終的に父親は変わってしまい酒に入り浸り、暴力を振るうまでになってしまった。そして・・・

 

さっき見た夢のせいで嫌なことを思い出してしまった、と杏子はふてくされていた。

 

「マミの奴、今日もグループで楽しくやってんだろうな」

 

杏子は初めてマミと出会った頃を思い出していた。

初めての魔女退治で取り逃がした魔女を追いかけてはるばる椚ヶ丘までやってきてしまった。そこで出会ったのがマミだった。

そこで出会ったマミは強く凛々しく勇ましく、まさに正義の味方というべき人だった。杏子もそんなマミに憧れを抱いていた。けれど、

 

杏子は腹が立っていた。マミと行動を共にしていた男女グループに。いつのまにあんなに大所帯になっていたんだ、と。

 

「にしても魔女が集まってるからってあんなに大勢が食いっぱぐれないとかありえるのか?」

 

彼らの行動方針はわからないがおそらくはマミと同じで使い魔も狩っているのだろう。よりグリーフシードが足りなくなるだろうに・・・なぜあの人数を保てる?

 

「食いっぱぐれないかは置いといて、君が椚ヶ丘を離れてから4人増えたけどね」

 

急に現れたキュゥべえに驚きはしなかったがキュゥべえの発言に驚き思わずミニドーナツがつまりせき込んでしまった。

 

「大丈夫かい?」

「うるせぇ、ってなんでまたそんなに増えてんだよ!」

「僕に聞かれても・・・」

 

曖昧な答えしかしないキュゥべえに今更呆れもしないが、ふとあるひらめきが過ぎった。

 

「なんかカラクリがあるな、こりゃ」

 

杏子はニヤリと笑い、ミニドーナツを沢山口に投げ込んだ。

沢山の魔法少女・・・一部少年が健全に過ごせるのには理由がある。それを調べるためにも椚ヶ丘に行かねばならない。

しかし、それを実行するにはあの魔女モドキをどうにかせねば・・・

隙間風が吹き付ける教会で一人、杏子は舌なめずりをするのであった。

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