2人が受動的だからなのか想像以上に絡まないです
朝から雨が降りしきる日、殺せんせーが真剣な顔で教室に入ってきた。
「皆さんに大事な話があります。心して聞くように。
お菓子は添加物なしのものを選ぶべきですか?それとも添加物いりの方がいいですか?
はい、中村さん!」
「ええっ!?また私!?」
前にも似たような質問をされた莉桜さんはちょっと面倒くさそうにしながら
「どっちでもいいんじゃないかと・・・」
「はい、その通り!大事なのはおいしさと作る人の気持ち、あと一番は衛生面です!
くれぐれも皆さんは体に悪いからと添加物入りのものを避けるような行為は行わないように!特にマフィンなどの手作り食品はきちんとした行政の指導が入っているお店で買いましょう!以上!」
と、高らかに宣言すると先生はどこかスッキリしたようで
「ところで、今日は転校生が来ると聞いていますね」
それが本題であろう話を持ち掛けて来た。そこにバシバシとツッコミが入って来る。
「転校生が来るのにさっきのやりとりいらねーだろ!」
「その前置きは省けねーのか!」
「てかなんで2回連続で私なのさ!」
多分、3人目がくることになっても莉桜さんがあたりそうね・・・。
「でもまあ、ぶっちゃけ殺し屋だろうね」
ツッコミ態勢から切り替えた前原君が発した感想に私も賛同する。
「律さんの時は少し甘く見て痛い目を見ましたからね。先生も今回は油断しませんよ。いずれにせよ皆さんに
そういって殺せんせーは答えていた。
「そーいや律、何か聞いてないの?同じ転校生暗殺者として」
「はい、少しだけ」
原さんに聞かれた律は転校生の話をはじめた。
「初期命令では私と「彼」の同時投入の予定でした。私が遠距離射撃、彼が肉迫攻撃。連携して殺せんせーを追い詰めると。
ですが・・・2つの理由のその命令はキャンセルされました。
ひとつは彼の調整に予定より時間がかかったから。もうひとつは私が彼より暗殺者として圧倒的に劣っていたから」
律から語られる「彼」の話に皆、ごくと息をのんだ。
「私の性能では・・・彼のサポートをつとめるには力不足だと。そこで各自単独で暗殺を開始することになり、重要度の下がった私から送り込まれたと聞いています」
殺せんせーの指を飛ばした律がその扱いって・・・いったいどんな人なんだろう・・・。
ガララと扉が開かれた音がして、私たちは前方のドアの方に注目する。
教室に入ってきたのは白装束の人だった。この人が転校生・・・?
『え?この人が?』
『また珍妙な格好だな・・・』
『というか、なんとなく中学生っぽくないような・・・』
そんなコソコソ話をテレパシーを通して話していると白装束の人が腕を伸ばした。クラス中に緊張感が漂う中、その人は手をパっと開き、音がなり少しだけ肩をビクッとさせてしまった。その人の手には鳩が現れ出ていた。・・・手品?
「ごめんごめん驚かせたね。転校生は私じゃないよ。私は保護者。・・・まあ、白いしシロとでも呼んでくれ」
その人、シロさんは朗らかな声で語ってくれた。
「んだよ、変な奴・・・」
「寺坂ビビった?ん?」
「ビビってねーよ!」
「・・・まあ、殺せんせーじゃなかったらビビりそうなものだけど・・・」
前の方を見てみると教壇に殺せんせーの姿はなく、教室の隅の天井に液状化していつのまにやら潜んでいた。
「ビビってんじゃねーよ殺せんせー!」
「奥の手の液状化まで使ってよ!」
「い、いや・・・律さんがおっかない話するもので」
ちょっと驚いてしまった殺せんせーはゆっくりと隅から元のところへ戻って行った。
「初めましてシロさん。それで肝心の転校生は?」
「初めまして殺せんせー。性格とかが色々と特殊な子でね。私が直で紹介させてもらおうと思いまして」
そう言ってシロさんは教壇の前に立った。なんだか抜け目ない人というか・・・あまり信用できそうもないひとだな。
それはそうとシロさんが立ち止まって少しの間が置かれていた。この間、何?
「何か?」
「いや、皆いい子そうですなぁ。これならあの子も馴染みやすそうだ。では紹介します。
おーい、イトナ。入っておいで」
イトナと呼ばれた転校生。どんな子だろうかと私たちはドアの方に注目した。
ドガンと後方から衝撃を感じて後ろを振り向くと白髪の男の子が壁を突き破って教室に入ってきて律の隣に速やかに着席した。
「俺は勝った・・・。この教室の壁よりも強い事が証明された」
「「「いや、ドアから入れよ!」」」
「それだけでいい・・・それだけでいい・・・」
その男の子はぶつぶつとつぶやくだけだった。
『なんかまた面倒臭いの来やがった!』
『殺せんせーもリアクションに困ってる・・・』
『笑顔でもなく真顔でもなく・・・』
『なんだその中途半端な顔は!!』
「堀部イトナだ。名前で呼んでください。それと私も少々過保護でね。しばらくの間、彼のことを見守らせてもらいますよ」
また変な転校生に変な保護者付き・・・。暗殺者には変人しかいないのかな・・・。ロヴロさんはそうでもなさそうだったけど・・・。
「ねえイトナ君。ちょっと気になるんだけど、今外から手ぶらで入って来たよね?
外どしゃぶりなのに・・・なんでイトナ君は一滴たりとも濡れてないの?」
カルマ君の疑問を受けてかイトナ君は辺りを見回した。すると席に立つと私の前にやってきた。
「・・・どうしたのイトナ君。私に何か?」
戸惑いつつも微笑んでイトナ君に対応すると、イトナ君の手が私の頭に置かれた。
「・・・・・・おまえは多分、このクラスで一番強い。けど安心しろ。俺より弱いから・・・俺はお前を殺さない」
イトナ君は私の目を見ながらそう言っていた。・・・な、なんなの?
もしかして私が魔法少女ってバレてる?この事はごく限られた人しか知らせてないはずだけど。
「俺が殺したいと思うのは・・・俺より強いかもしれない奴だけ。この教室では殺せんせー、あんただけだ」
そう言ってイトナ君は殺せんせーの元に歩んで立ちはだかった。
「強い弱いとはケンカのことですかイトナ君。力比べでは先生と同じ次元には立てませんよ」
「立てるさ。だって俺達血を分けた兄弟なんだから」
え
「「「ええええええええええ!!!き、き、き、き兄弟ぃぃぃ!!??」」」
衝撃の言葉に私たちは開いた口が塞がらなかった。聞き間違いではなさそうだけど・・・どういうこと?
「負けた方が死亡な兄さん。兄弟同士小細工は要らない。お前を殺して俺の強さを証明する。時は放課後、この教室で勝負だ」
そう言い残してイトナ君はシロさんとともに教室から出ていき、扉が閉められた。と、同時に教室では何人もが立ち上がって殺せんせーに質問攻めを始めた。
「ちょっと先生!兄弟ってどういうこと!?」
「そもそも人とタコで全然違うじゃん!」
「いやいやいやいやいや!全く心当たりがありません。先生生まれも育ちもひとりっこですから!両親に「弟がほしい」ってねだったら、家族内が気まずくなりました!」
「そもそも親とかいるのか!?」
とんでもないカミングアウトをしたイトナ君を交えた授業は、律の時とは違って大人しいものだった。だけど、私たちが授業に集中できるわけもなく、後ろに座るイトナ君の様子をただ観察していた。
イトナ君は午前の授業中は何も動く様子はなく、ただ机に教科書もノートも出さずに殺せんせーを見つめていた。
ただ、昼休みになるとちょっとした動きがみられた。
イトナ君の机の上には大量のお菓子が山積みにされ、それを片っ端から食していた。
『すごい勢いで甘いモン食ってんな。甘党なところまで殺せんせーとおんなじだ』
『表情が読みずらい所とかな』
「にゅぅぅ・・・みなさん黙りながら会話してますね・・・。何を言ってるかはわかりませんが、私と彼を比較してるのはわかります・・・。なんだかムズムズしますねぇ」
殺せんせーもどこか落ち着いてない。午前中ずっとイトナ君と比べられ続けたらそうなるに決まってる。
「気分治しに今日買ったグラビアでも見ますか。これぞ大人の嗜み・・・」
そう言葉を発した同じタイミングで殺せんせーとイトナ君が同じクラビア雑誌を取り出した。
胸のおおきなグラビアアイドルが表紙に乗った青年誌。というか・・・
『『『巨乳趣味まで同じだ!』』』
「これは俄然信憑性が増してきたぞ!」
「岡島君我慢できなくなって口にだしちゃったね・・・。でもどこが?」
「なんたって、巨乳好きは皆兄弟だ!」
「三人兄弟!!?」
岡島君まで同じのをださなくてもいいと思う・・・。
「もし本当に兄弟だとしてさ、何で殺せんせーはわかってないの?」
「うーん、きっとこうよ」
茅野さんの疑問に答えるべくなのか、不破さんは自身の推理を披露した。
「とあるタコの王国、そこは敵国の侵攻によって滅びの一途を辿っていた。
『陛下!敵軍がすぐそばまで迫っております!』
『ぬうう、やむおえん。息子たちよ!お前たちだけでも生き延びよ!』
城から逃げ出す2人の兄弟・・・しかしあと一歩というところで敵軍に囲まれてしまった!囲まれる兄弟の背には大きな川と丸太の橋・・・
『先にいけ弟よ!この橋を渡れば逃げ切れる!』
弟を逃がした兄は後を追って橋を渡るが、背中に攻撃を受け、川に落ちてしまう。
『兄さん!』
『構うな行け!』
『兄さーーん!!!』
『弟よ、生きろーーーー!!!!』
・・・で、成長した2人は兄弟と気付かず宿命の戦いを始めるのよ」
なんだかキラキラとしながら語る不破さんに悪いけど・・・ツッコミどころが多くて答えになってなさそう。
「・・・うん・・・。で、どうして弟だけ人間なの?」
「えー、キュゥべえに願ったとかでいいんじゃない?」
「なんて安直な!」
「きゅうべえ?」
不思議そうにつぶやくイトナ君を見て私たち全員が思った。
『『『コイツ、キュゥべえのこと知らない!!』』』
『ちょっと不破さん!さっきの禁句だったんじゃ・・・』
『いやー、うっかりで・・・最初に口にだした岡島君が悪いってことで・・・』
『俺のせいなのか!?』
『それか口に出して質問した茅野さんとか』
『私のせいでもあるの!!?』
テレパシーでとてもくだらないやりとりが繰り広げられてるなか、莉桜さんが私に聞いてきた。
『そういや巴ちゃん、イトナ君に魔力とか感じたりする?魔法少年ってことはなさそうだけどカルマの例もあるんだし』
『そうね、・・・・・・・・・・・・・・・いいえ、感じないわ』
『んじゃ普通の人間ってことね。・・・でも兄弟って何で?』
『さぁ・・・』
そういえば今日は教室でキュゥべえの姿を見かけてない。いつもはロッカーの上でのびのびしているのに。みんながテレパシー使えてるってことは近くにいるんだろうけど・・・。どこにいったのかしら。
放課後、シロさんに言われて私たちは机をロの字に並べた。その中に殺せんせーとイトナ君が入る。イトナ君はジャケットとつけてたファーを脱いで、ノースリーブのタートルネック姿になった。
「机のリング・・・!?」
「ああ、まるで試合だ。こんな暗殺仕掛ける奴は初めてだ」
烏間先生たちでさえも困惑するこの状況を作ったシロさんはこう語った。
「ただの暗殺には飽きてるでしょ殺せんせー。ここはひとつ、ルールを決めないかい。
リングの外に足がついたらその場で死刑!どうかな?」
シロさんから提示されたルール。暗殺、というよりかは闘技といった感じだ。
「・・・なんだそりゃ。負けたって誰が守るんだそんなルール」
「いや、皆の前で決めたルールは破れば先生としての信用が落ちる。殺せんせーには意外と効くんだ。その手の縛り」
「・・・いいでしょう受けましょう。ただしイトナ君、観客に危害を与えた場合も負けですよ」
殺せんせーも覚悟を決めたのか、イトナ君を真っ直ぐ見据えていた。
「では合図で始めようか
シロさんが手を上げ、私たちにも緊張感が伝わってくる。
「暗殺・・・開始!」
手が降ろされた瞬間、殺せんせーの腕が切り落とされた。それだけでも大事なのに、私たちの視線は別のところにあった。
彼の頭から生える触手のほうに
空を切るようにうねる触手に、私は・・・いいえ私たちは驚きを隠せなかった。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・こだ」
空気が冷えていくの感じて思わず身震いをした。見ると殺せんせーの顔が真っ黒に染まっていく。昨日の佐倉さんに見せた物の比じゃないくらい、真っ黒の、ド怒りの顔色だ。
「どこでそれを手に入れたっ!!その触手を!!」
世にも恐ろしい形相の殺せんせーを前にしてもシロさんはどこか飄々とした態度をとっていた。
「君に言う義理は無いね殺せんせー。だがこれで納得しただろう。
両親も違う、育ちも違う、だが・・・この子と君は兄弟だ。
しかし怖い顔をするねぇ。何か・・・嫌なことでも思い出したかい?」
殺せんせーは黒い顔をしたままなにも言わない。
「・・・どうやら、あなたにも話を聞かなきゃいけないようだ」
切り取られた腕を再生して殺せんせーはシロさんを睨みつけている。
私たちの知らない因縁が
旧校舎外の木の枝からキュゥべえは教室の様子を眺めていた。
「堀部イトナ。反物質エネルギーの開発研究の残骸から生まれた触手を植え付けし者。
僕らインキュベーターからすれば反物質エネルギーは旧文明の代物ではあるから感情エネルギーと比べるとゴミにも等しいものだけれども・・・彼にはそっちのほうが魅力的らしく僕らの誘いには全く乗ってくれなかった。
しかもむやみやたらに体をつぶされる始末・・・代わりはいくらでもいるけれどもったいものだ。
全く、訳がわからないよ。そんなに触手の力は魔法より魅力的なものなのかな?
・・・でも、正直な話、僕らには彼に執着する必要はない。
それはそうとイトナの態度はちょっと予定外ではあった。イトナの契約の望みが低い以上、僕らのプランも変更していかないといけない。
このクラス全員と契約できれば理想に見合ったエネルギーは得られる。全員集めても