3年E組にやってきた二人目の転校生暗殺者、堀部イトナ。
彼の口から発せられた告白、「血を分けた兄弟」
人間とタコの兄弟。ウソか誠かわからぬ関係に私たちはただ困惑していた。
その真意が今、目の前にしっかりと証明されていた。
イトナ君の頭から生え、うねる触手。殺せんせーと同じ触手。
それを目撃して、黒く染まる殺せんせー。
「・・・・・・・・・こだ。どこで手に入れた!!その触手を!!」
「君に言う義理は無いね殺せんせー。だがこれで納得したろう。両親も違う、育ちも違う、だが・・・この子と君は兄弟だ。しかし怖い顔をするねぇ。何か・・・嫌な事でも思い出したかい?」
「・・・どうやら、あなたにも聞かなきゃいけないようだ」
イトナ君に切り落とされた腕を再生して殺せんせーはそう言った。
「聞けないよ。死ぬからね」
シロさんの左袖から光が放たれ、殺せんせーが硬直したように見えた。
「この圧力光線を至近距離で照射すると君の細胞はダイラタント挙動を起こし、一瞬全身が硬直する。全部知っているんだよ。君の弱点は全部ね」
「死ね、兄さん」
その言葉と共にイトナ君の猛攻が始まった。ギリギリ目に捕らえられないスピードの触手のラッシュに、殺せんせーが一方的にやられていく。大きな一発が放たれ、煙が広がった。
「殺ったか!?」「・・・いや、上だ」
寺坂君の視線の先には息も絶え絶えな殺せんせーが電灯に避難していた。床にはエスケープ技の脱皮した皮が落ちている。もう、切り札を使わせただなんて・・・。
「脱皮か・・・。そういえばそんな手もあったっけか。でもね殺せんせー。その脱皮にも弱点があるのを知っているよ」
イトナ君の攻撃は止まらない。電灯に避難していた殺せんせーを叩き落としてしまった。床に落ちた殺せんせーにいくつものイトナ君の触手が襲い掛かって来る。
「その脱皮は見た目よりエネルギーを消耗する。よって直後は自慢のスピードも低下するのさ。常人からはメチャ速い事に変わりないが、触手同士の戦いでは影響はデカいよ。
加えてイトナの最初の奇襲で腕を失い再生したね。
二重に落とした身体的パフォーマンス。私の計算ではこの時点でほぼ互角だ。
また触手の扱いは精神状態に大きく左右される。気持ちを立て直すヒマもないリング。今現在どちらが優勢か、生徒諸君にも一目瞭然だろうねー」
『お、おい・・・』
『これマジで殺っちゃうんじゃないの』
心配そうな声がテレパシーで交わされ、説明できない焦燥感が私たちにも襲い掛かっている。
「さらには献身的な保護者のサポート」
シロさんの光線が瞬き、殺せんせーがひるんだ瞬間を逃さずイトナ君の触手がドリルのように貫き、殺せんせーの足が断ち切られてしまった。
「これで脚も再生しなくてはならないね。なお一層体力が落ちて殺りやすくなる」
「安心した。兄さん、俺はお前より強い」
殺せんせーが追い詰められている・・・。あと少し殺せば地球を救える。・・・のだけれど、私の心は穏やかじゃなかった。
よその魔法少女に
でも、目的はどうあれ、人々を害する魔女を倒すのは私の信念に影響はない。結果的に平和をまもれるのならそれで。
それは地球を破壊すると宣言している殺せんせーにも同じことが言える・・・はずなのに、それなのに私はすごく悔しかった。
殺せんせーは
「脚の再生も終わったようだね。次のラッシュに耐えれるかな?」
汗を流し、息を切らしながら、体勢を立て直して殺せんせーはこう言った。
「一見愚直な試合形式の暗殺ですが・・・実に周到に計算されている。
あなたに聞きたいことは多いですが、まずは試合に勝たなければ喋りそうにないですね」
触手をポキポキと鳴らして殺せんせーは目を光らせてシロさんを睨みつけている。でも、シロさんは余裕の態度だ。
「・・・まだ勝つ気かい?負けダコの遠吠えだね」
「シロさん、この暗殺方法を計算したのはあなたでしょうが・・・ひとつ計算に入れ忘れた事があります」
「無いね。私の性能計算は完璧だからね。殺れイトナ」
イトナ君の触手の攻撃が殺せんせーに降りかかる。ドンという衝撃と共に飛び散る木片と粘液。
イトナ君の攻撃は殺せんせーに直撃・・・してなかった。
ドロリと溶けたのは殺せんせーのでなくイトナ君のだった。予想外のことだったのかイトナ君は自身の溶けた触手を見て動揺していた。
「おやおや、落とし物を踏んでしまったようですねぇ」
床には対先生用ナイフがいつの間にやら置かれていた。本当にいつの間に・・・あたりを見渡すと渚君の手が不自然なポーズになっていた。なるほど、あそこから盗ったのね。
殺せんせーは自分の抜け殻をイトナ君に被せて包んでしまった。
「同じ触手なら対先生ナイフが効くのも同じ、触手を失うと動揺するのも同じです。
でもね、先生の方がちょっとだけ老獪です」
そう言って殺せんせーは豪快にイトナ君を教室の窓に向かって投げ、窓を突き破ってイトナ君は校庭に出てしまっていた。
「先生の抜け殻で包んだからダメージはないはずです。ですが、君の足はリングの外についている。先生の勝ちですねぇ。ルールに照らせば君は死刑。もう二度と先生は殺せませんねぇ」
勝利が確定した先生は勝ち誇るように緑の縞々の顔色でイトナ君に煽っていた。
「生き返りたいのなら、このクラスで皆と一緒に学びなさい。性能計算でじゃそう簡単に計れないもの、それは経験の差です。君より少しだけ長く生き、少しだけ知識が多い。先生が先生になったのはね、それを君たちに伝えたいからです。この教室で先生の経験を盗まなければ・・・君は私に勝てませんよ」
先生の心温まる授業を聞いたイトナ君の様子がおかしい。頭の触手が黒く染まり、何かぶつぶつ言っている。黒い触手を乱暴に振り回して近くの木をなぎ倒した。あまりに物々しい雰囲気に私たちは窓辺から離れていた。
「やべぇキレてるぞあいつ!!」
イトナ君は窓辺に戻り、目を血走らせてながら殺せんせーを睨みつけてる。黒い触手は太くなっていて血管らしきものが浮き出ている。先程のものより危険性が増している。
「俺は強い。この触手で、誰よりも、強くなった、誰よりも」
イトナ君が吠えて殺せんせーに襲い掛かった瞬間、どこからか針が飛んできてイトナ君に突き刺さった。麻酔張りだったらしくイトナ君は魂が抜け落ちたように白目をむいてその場に倒れてしまった。
「すいませんね殺せんせー。どうもこの子はまだ登校できる精神状態じゃなかったようだ。
転校初日で何ですが、しばらく休学させてもらいます」
シロさんはイトナ君を担ぎ上げると教室を出ていこうとしていた。
急展開についていけない私たちとは違い、殺せんせーはシロさんに物申した。
「待ちなさい!担任としてその生徒は放ってはいけません。一度E組に入ったからには卒業まで面倒を見ます。それにシロさん、あなたにも聞きたいことが山ほどある」
「いやだね帰るよ。力づくで止めてみるかい?」
殺せんせーが触手でシロさんの肩を掴むと、触手はドロリと溶けてしまった。
やれやれとでも言うようにシロさんは肩に乗った溶けた触手の残骸を払った。
「対先生繊維。君は私に触手一本触れられない。心配せずともまたすぐに復学させるよ殺せんせー。3月まで時間は無いからね。責任をもって私が・・・家庭教師を務めた上でね」
そう言い残してシロさんは去って行った。
嵐のように教室を荒らすだけ荒らして、なにがなんだか理解してない私たちを置いてけぼりにして。
教室は誰も言を発さずに呆然と立ち尽くしていた。
「・・・席、直すか」
磯貝君の一言でみんな我に返り、リング状にした席を戻していく。その間殺せんせーはゆっくりと教壇に戻り、席に座った。
何かイトナ君に思うことがあるのだろうかと注目してみると・・・顔を真っ赤にして触手で押さえていた。
「何してんの殺せんせー」
「さぁ・・・」
「シリアスな展開に加担したのが恥ずかしいのです。先生どっちかというとギャグキャラなのに・・・」
「自覚あるんだ!」
恥ずかしがるところがよくわからない先生ね・・・。シリアスやってたっていいのに・・・。
「カッコよく怒ってたねぇ」
狭間さんが前に出てきて続けて言った。
「“どこでそれを手に入れた!その触手を!!”」
「いやあああ言わないで狭間さん!改めて自分で聞くと逃げ出したい!」
揶揄われた殺せんせーに少し同情してしまう。多分あの時真剣だったのにねぇ。
「つかみどころのない天然キャラで売っていたのに、ああも真面目な顔をみせてはキャラが崩れる」
「魔法少女バレの事件で既に崩れているような・・・」
自分のキャラ計算している事は別にいいけど、そういう風に捉えるなら同情しなくてもよかったかも。
「・・・でも驚いたわ。あのイトナって子、まさか触手を出すなんて」
ビッチ先生を皮切りに私たちも殺せんせーに尋ねた。
「・・・ねぇ殺せんせー、説明してよ」
「あの2人との関係を」
「先生の正体いつも適当にはぐらかされたけど・・・」
「あんなの見たら聞かずにいられないぜ」
「そうだよ私たち生徒だよ」
「先生の事よく知る権利あるはずでしょ」
「魔法少女の事伝えたんだから、先生の事教えてくれないと平等じゃないわ」
私たちに詰め寄られた先生は覚悟を決めたのか、立ちあがった。
「・・・仕方ない。真実を話さなくてはなりませんねぇ。・・・実は、実は先生・・・
実は先生・・・人工的に造りだされた生物なんです!」
反応は静かだった。・・・うん、わかってた。
「だよね。で?」
「にゅやッ反応薄っ!!これ結構衝撃告白じゃないですか!!」
殺せんせーの正体についてクラスではなんどか議論になっているからなんとなくそうじゃないかとは結論が出そうになっている。殺せんせーは知らなかっただろうけど。
「・・・つってもなあ。自然界にマッハ20のタコとかいないだろ」
「魔力を感じないから魔女でもないし」
「宇宙人でもないのならそんくらいしか考えられない」
「で、あのイトナ君は弟だといってたから・・・」
「先生の後に造られたと想像がつく」
私たちの態度にむしろ殺せんせーが驚愕だったようで、往年の少女漫画のような顔になっていた。
「知りたいのはその先だよ殺せんせー」
渚君が先陣を切って本題に切り込んだ。
「どうしてさっき怒ったの?イトナ君の触手を見て。
殺せんせーはどういう理由で生まれてきて、何を思って
外の雨だけが教室になり響く。
「残念ですが、それを話したところで無意味です。先生が地球を爆破すれば皆さんが何を知ろうが全て塵になりますからねぇ。魔法を使おうが・・・ね」
久々にみた不気味な笑い。忘れそうになるけどその気になればすべてを破壊してしまう生物。
そして何を聞いても無駄なのだろう。
「逆にもし君たちが地球を救えば、君たちは後でいくらでも真実を知る機会を得る。
もうわかるでしょう。知りたいのなら行動はひとつ。
殺してみなさい
先生の大事な答えを探すのなら・・・君たちは暗殺で聞くしかないのです。質問が無ければ今日はここまで・・・また明日」
教室を出る時、殺せんせーは顔を赤らめて去って行った。
しん・・・と静まり返った教室。
「巴は・・・どう思う?」
「え?どうって・・・何が?磯貝君」
私に話しかけた磯貝君は真剣な目で問いかけてた。
「今の俺達に殺せんせーを殺れると思うか?怪物退治ならお前が一番経験あるだろ。巴の率直な意見が聞きたい」
磯貝君の言葉と共にみんなの視線が私に集まっている。・・・そうね。
「まず、魔法少女にとって殺せんせーの暗殺は縛りをした上で殺らなきゃいけない。
魔法の弾丸は肌に触れたら弾けて消えるし、魔法の刃物は刃を溶かしてしまう。みんな知ってることだけど。
使えるのは結局政府から支給されたゴムナイフとBB弾のみ。複製も試してみたけど・・・私の魔法ではできなかった。
普段魔女と戦っているからっていっても相手が違う。まさに未知の怪物。
それに殺せんせーには私たちの魔法の詳細を知られている。それだけでもかなりこちらが不利な状況。
・・・でも、私は殺れない事はないと思っているわ。
皆で共に頑張って行けばきっと・・・」
「そっか・・・ありがとうな巴」
そう言うと磯貝君はみんなの方に顔を向けた。
「みんな、烏間先生に話したいことがあるんだ。今まで以上に訓練してもらうよう頼もうと思う。同じ考えの人はついてきてくれないか?」
その磯貝君の問いかけに何人もが頷き、磯貝君を先頭にして烏間先生の元に向かった。もちろん私もついて行ってる。
烏間先生は校庭で防衛省での部下の人に指示を出しながら何かを設営していた。烏間先生が私たちの気配に気が付いて振り向いた。
「・・・君たちか。どうした大人数で」
「あの・・・もっと教えてくれませんか?暗殺の技術を」
「・・・今以上にか?」
少し驚いたような顔をしている烏間先生に私たちは自分の思いを先生にぶつけた。
「何となくさ、魔女退治の流れでいつか殺れるだろな~って呑気に考えていたけど」
「ああ、今回のイトナ見てて思ったんだ。誰でない。俺らの手で殺りたいって」
「もしも今後強力な殺し屋に先越されたら、俺ら何のために頑張ってたのかわからなくなる」
「契約して魔法の力得たのだって暗殺のためって側面もあるわけだし、無駄にしたくない」
「だから、限られた時間、殺れる限り殺りたいんです。私たちの担任を」
「殺して、自分たちの手で答えを見つけたい」
私たちの思いをひとつひとつ聞いていた烏間先生の目はとても嬉しそうだった。私たちの成長が。
「・・・わかった。では希望者は放課後に追加で訓練を行う。より厳しくなるぞ」
「「「はい!!」」」
ひとつ殻がむけ、暗殺教室は成長していく。己の殺意を手に握って上のステージへと私たちは進んでいく。