「やあみんな!僕くぬどんだよ!」
くぬどん様ー!
「今日は球技大会!スポーツを通じて生徒達の心身を鍛えるよ!」
スポーツマンシップー!
「競技は一年男子はハンドボール、女子はフットサル
二年男子はサッカー、女子はバレーボール
三年男子は野球、女子はバスケットボールで対戦するよ!」
「これは一般生徒のための行事だから残念なことに普段部活でやってる生徒は参加できないんだ」
「でも安心して!本選に出られない野球部と女子バスケ部はエキシビションに出てもらうよ!」
「エキシビションではE組の連中を生贄に校内に実力を示してもらうんだ!」
トレーニングモード!
「思う存分E組をいたぶってトーナメントで負けたクラスもスッキリだ!!」
ストレス発散ー!
「ギャーハハハハ!!・・・え?E組の奴ら・・・勝つ気なの?マジで?」
ピピッー!と笛が鳴って、試合の決着がついた合図が出た。
「試合終了ー!バレー二年はD組の優勝です!」
放送部のアナウンスと共にあたしはクラスメイトとハイタッチをした。
「えへへ。最強無敵のさやかちゃんは敵なしですからね~」
「負けましたわ~。さやかさん昔から体育は得意でしたものね」
対戦相手であるA組の仁美にぐっと親指を立てて言った。
この学校、椚ヶ丘学園は進学校であると同時にスポーツにも強い学校らしい。
設備のすごさには、たまに助っ人に入るあたしも舌を巻いてしまう。これが目当てで入る人もいるんだろうなぁ。
・・・で、成績が悪かったらE組行き、か。
「これより
とても嫌な単語を耳にしてあたしはしかめっ面をしてしまった。
トーナメントは4組だと綺麗になるからとE組は外されてしまうらしい。で、代わりにやらされるのは男子は野球部と、女子はバスケ部との対戦させられる、ようは見世物ってこと。
全校生徒が見ている前で部活でバリバリやっている部員が、ほぼ経験のないE組をボコボコしてさっぱり終わりましょうって触れ込みみたい。
本選に出られない部員のために力を見せつける場らしいけど、そんな一方的な物何が楽しいんだか。
この本校舎の人たちはマミさんたちE組によってこの街が守られてるって知らないんだ。教える気にもならないけど。
最初こそ、少しだけ不信感はもったけど、そのあと、E組の皆さんと交流をしていくうちに「なんだ、いい人ばっかりじゃん」って感じていつの間にかE組のみなさんが好きになっていた。
だからあたしは決めている。
「お疲れ様ですわさやかさん」
「仁美!クラスはいいの?」
「わたくしはさやかさんと行動したいですわ。上条君の様子も気になりますし」
「あー、恭介?アイツまだ足が不調だからマネージャーやってるって。で、仁美は行く?例のあれ」
仁美は少し渋い顔になって
「そうですわね・・・巴さんたち応援したいのですが、いささかコンセプトが気分悪いですわ。負け前提なのが」
「だよねぇ。マミさんたちが簡単に負けるわけないって思ってるけどさ」
そう話していると背後から寒気というか、邪気というか、そんな禍々しいオーラを感じ、身震いをすると、肩に手を置かれた。
「やあ、志筑さん美樹さん。学校には慣れたかな?」
「あ、理事長、先生・・・」
そのオーラを発していた理事長と目があって、あたしと仁美は後ずさりしてしまった。この人の前で反抗的なことが言えなくなってしまう。
「い、いや~まだ慣れてなくて・・・あの、あたしたちに何か?」
「君たちに見てもらいたいものがあってね、二人とも野球場に来なさい。上条君も呼んでいるからね」
意味がわからなくてあたしは仁美と顔を見合わせた。野球場ってE組の男子の人たちのとこだよね?
「な、なんで野球場に・・・?」
「君たちにこの学校における掟を示しておきたくてね。ちゃんと見届けなさい」
そういって理事長はどこかへと消えてしまった。
「な、何がしたいのでしょうか?野球部にボロ負けするところを見せつけたいとか?」
「・・・ま、行ってやってもいいんじゃない?あたしはもともとE組応援するつもりだったし、マミさんたちには悪いけど男子の方応援させてもらうとしますか!」
「さやかさんは頼もしいですわね。なら、行きましょうか」
ちょっとした不穏な何かを感じながら野球場に行くと、丁度三年の試合が終わろうとしていた。そこには恭介も観戦していた。
「恭介!恭介んとこどうだった?」
「うーん・・・うちは負けちゃったよ。それよりも理事長先生にここに行けって言われたけど」
「なんなんだろうねぇ」
と話していたところで試合が終わり、三年野球の決着がついたようだ。優勝したのはA組の人たちらしい。あ、この前仁美に言い寄ってきたスネ夫ヘアーの人いるし。
「おめでと~。カッコよかったよ田中君!」
優勝したA組の人に一人の女生徒がタオルを持って近づいてきた。あれ、あの人って・・・
「実は私、ずっと前から田中君の事・・・」
「いや、漏らした人はちょっと・・・」
そういって田中先輩は顔をひきつらせたままどこかへ去ってしまった。
「あっ、ちょ、待って!私漏らしてなんかない・・・」
虚空に延ばされた手がむなしく落ちて、そこにある男子生徒がやってきた。
「果穂てめぇ・・・よく元彼の前で・・・」
「あ、アンタが漏らしたせいで私振られちゃったじゃない!どうしてくれんのよ!」
「知らねーよ!お前だって漏らしただろうが!」
「アンタが我慢するかその辺ですればよかったのに、私に譲ったりしないから!」
「関係あるか!!元はといえばお前があのカフェ誘ったのがいけないんだろうが!!」
あの2人、雨の日に漏らして気絶している所を発見されたそうだ。
次の日からおもらしカップルなんて不名誉なあだ名が一瞬だけ話題になっていた。まあすぐに破局したけど。
2人の話をまた聞きしたところによると
雨の中、走っているとおかしな空間に迷い込んでそこからの記憶がないということらしい。
多分、魔女の結界に巻き込まれてしまったんだろうな。で、魔女か使い魔を目撃して気絶したと。あたしは助けた覚えないからマミさんたちだな、助けたの。
なんとうか・・・まあ・・・ご愁傷さまです。
おもらしカップル名物の痴話喧嘩を無視してあたしはE組の方に目を向けた。
「それでは最後に・・・E組対野球部選抜の
そんなアナウンスと共に野球部が入場してきた。グラウンドに入ると野球部の人たちはかなり入念なウォーミングアップを始めた。(一応は)素人相手にそこまで気合入れる?アンタたちがやるの(表面上は)弱いものいじめだよ?周りも
対してE組男子には魔法少年がいる。確か杉野さん、磯貝さん、前原さん、三村さん、木村さん、カルマさんがそうだったはず。
そんな人たちが一方的に負けるとは思ってないけど・・・。
「野球部の人、随分と本気だね」
「E組の先輩方、勝てるのでしょうか?」
野球部の本気の入れように仁美も恭介も不安がってる。
「大丈夫。勝つよ、E組は」
魔法少女は奇跡を起こす存在。魔法少年だってキュゥべえと契約したんだもん、同じことが言えるはずだ。信じよう、E組を。
あたしが
そうして、野球部とE組の試合が始まった。
「1番、サード、木村君」
球場アナウンスと共に木村さんがバッターボックスに立った。
「進藤君第一球、投げた!」
主将が投げたボールは凄まじい勢いでキャッチャーミットに吸い込まれ、ストライクを取られた。
「これはすごい!ピッチャー進藤君さすがの剛球!!E組木村棒立ち!バッドくらい振らないとカッコ悪いぞ~」
煽るような実況に少し苛立ちを覚えてしまった。周りではE組を嘲笑うようなクスクス笑いが聞こえてくる。
「140km出てるらしい」
「140!?プロ並みじゃねーか!」
「中二からドンドンガタイもデカくなって今じゃ180cm。選ばれた奴っていうのはああいうのをいうんだろうな」
どっかの生徒がおあつらえ向けの解説しているのを聞いて、あたしはある言葉を思い出した。
『中には全く経験がなくても才能だけでどんな魔法少女よりも強い力を持つ天才がいる。鹿目まどか。彼女がそうさ』
才能って・・・選ばれた存在ってズルいな。
そんなことより試合試合!にしても魔女に比べれば大したことないのに木村さんどうしたんだろ。銃が武器だからかってが違うとか?
「さぁ進藤2球目・・・投げた!」
主将が投げたボールは木村さんのバットに当たったってバント!?反応が遅れた部員の人たちの隙を走りぬけて木村さんは一塁に到達した。木村さん足速いもんなー。魔力強化なしで。
動揺が広がるグラウンドに次の打者が立った。
「2番キャッチャー。潮田君」
・・・あれ?潮田って・・・渚さん?あれ?え?渚さんって男だったの??
それに渚さんは契約してないけど、この人は大丈夫なのかな?
けど、あたしの心配は杞憂だったみたいで、渚さんもバントをして塁を抜けて一二塁が埋まった。
「お、おい・・・なんか変な流れになってきたぞ」
馬鹿にしたかった観客の動揺は気持ちがいいけど、にしてもどうなっているんだろう。木村さんはともかく渚さんも対処できるなんて・・・
練習で杉野さんが魔法で豪速になった球を出したとか?そんなことできたっけ?
ー さやかは、E組の練習相手が魔法なしのマッハ20の超生物であることを知らないー
続くバッターの磯貝さんもバントで野球部を翻弄して満塁になった。
そして次の打者は・・・杉野さんだ。
一週間ほど前、あたしは杉野さんたちが野球部に絡まれているところを目撃した。主将は杉野さんにこんなことを言っていた。
「来週の球技大会で教えてやるよ、人の上に立つ選ばれた人間とそうでない人間。この歳で開いてしまった大きな差をね」
出て行って言ってやりたかった。「杉野さんたちはすごい人だ」って。魔法のこと教えるわけにもいかないから黙ってしまったけど。
バッターボックスに入った杉野さんはバットを武器のように構えた。
それを目撃したとき、アタシは背筋に寒気を覚えた。
・・・今、魔女退治してたっけ?
そんな殺気が杉野さんたちから感じられる。
主将がボールを投げた瞬間、杉野さんはバントの構えから打撃へと移行した。振ったバットはしっかりと芯を捕らえて撃ちあがった!
「深々と外野を抜ける!走者一掃のスリーベース!なんだよコレ予定外だE組3点先制ー!!」
煽れなくて悔しそうな実況と共にあたしたちはE組優勢に喜びを感じていた。
「やりましたわ!3点リード!」
「へぇ、すごいねE組って」
「でしょでしょ♪」
そんな話をするあたしたちの脇を抜けてあの人がやってきた。
「顔色が優れませんね寺井先生。お体の具合悪いのでは?」
あの理事長だ。
「すぐに休んだ方が良い。部員たちも心配のあまり力が出せてない」
「り、理事長、いやこの通りは元気「病気で良かった。病気でもなければ・・・こんな醜態をさらすような指導者が私の学校に在籍しているはずがない」
おでこをあてられた寺井先生は泡を吹いて倒れてしまった。というか野球部への嫌悪で忘れたけどあの人
「ああやはりすごい熱だ。だれか医務室へ。その間監督は私がやります」
理事長はタイムを促してグラウンドに入ってきた。
「なぁに。少し教育を施すだけですよ」
一体何をするのかと不安になっているとマミさんたちの声が聞こえて来た。
「やー。惜しかった!」
「勝てるチャンス何度かあったよね。次リベンジ!」
マミさんたちの試合が終わったみたいだった。
「マミさん!結果はどうでしたか?」
「美樹さん、惜しくも敗退ってところね。いいところまでいってたんだけど」
「女バスのキャプテンのぷるんぷるん胸元見たら・・・怒りで目の前が真っ赤に・・・」
と、茅野さんの視線が仁美の胸に向けられてる。
「ぷるんぷるんの・・・胸元・・・!」
「後輩に嫉妬しないの茅野っち!巨乳に対する憎悪はなんなの!?」
あたしたちはスルーしてマミさんたちはベンチに座る男子たちのところへ集まった。
「すごい!野球部相手に勝ってるじゃん!」
「あー、ここまではね。で、一回表からラスボス登場ってわけ」
三村さんの恐怖を含んだ視線の先には理事長。何かを野球部に話しているけどあたしにはその内容はわからない。
「・・・!今入った情報によりますと、野球部顧問の寺井先生は試合前から重病で・・・野球部員も先生が心配で野球どころじゃなかったとのこと」
その実況を聞いてあたしは耳を疑った。
「ウソだ。
急に感じた鋭い畏怖をもたらす視線。みてる・・・あたしを、理事長が見てる。
「それを見かねた理事長先生が急きょ監督を執られるそうです」
盛り上がる会場。空気は完全に野球部の方の追い風になっている。
それにあの視線、「黙っていろ」って・・・
E組がボロ負けするのが正しいって言いたいの?何か言い返したいけど、あの視線の前ではなにも言い返せない。仮に言い返せてもあたしよりはるかに回る知能であたしを言い負かすのがわかる。
次の打席は前原さん。けど、前原さんは、ううん、あたしたちも目の前の異様な光景に唖然としてしまった。
「これは何だー!?守備を全員内野に集めて来た!こんな極端な前進守備みたことない!」
何・・・こんなの反則じゃない!
「バントしかないって見破られてるな」
「・・・つってもダメだろ、あんなに至近距離で!!目に入ってバッターが集中できねぇよ!」
「ルール上ではフェアゾーンならどこ守っても良いだね。審判がダメだと判断したら別だけど、審判の先生はあっち側だ。期待できない」
竹林さんの解説の通り試合は何も問題がないかのように前原さんもアウトを取られ、岡島さんも千葉さんも何も出来ずに3アウトになってE組の攻撃は終えてしまった。
野球部の攻撃に入り、杉野さんがピッチャーマウンドに立った。杉野さんの投げる球はヌルりと曲がってキャッチャーミットに納まった。杉野さんの変化球は魔女相手にも効くんだよね。
キュゥべえ言ってたっけ。杉野さんの固有魔法は「反射」だって。でも、バッターの時もそうだけど魔法を使ってる様子は全く感じない。素の実力ってことだ。
杉野さんの変化球のおかげで野球部は三者三振に終わってE組の攻撃に入った。
野球部の守備体制は相も変わらず反則スレスレの形態。カルマさんは何かを言いたげにそれを見つめていた。
「どうした。早く打席に入りなさい」
「ねーえ、これズルくない理事長センセー?」
カルマさんは観客を見渡して話を続けた。
「これだけジャマな位置で守ってんのにさ、審判の先生何にも注意しないの。
カルマさんの煽りにわかりやすくムカついたのか観客からあらんばかりの怒号が投げつけられた。
「小さい事でガタガタ言うなE組が!!」「たかがたエキシビションで守備にクレームつけんじゃねーよ!」「文句あるならバットで結果だしてみろや!」
カルマさんの煽り作戦?もむなしくE組は何もできすに3アウト。
2回のウラでは主将の打撃がE組を翻弄し2点入るのを許してしまった。
ーーーーーーーーーーーーー
「美樹さん志筑さん。彼女たちがどういったいきさつでE組と接触したか
どうも過度な憧れを抱いてるようだ。ここで彼女たちに目を覚ましてもらわないと。君たちの親しい先輩の真の姿をみせてあげないとね」
ーーーーーーーーーーーーー
3回表でもE組は得点を得ることができずに野球部の最後の攻撃になった。
「橋本君。手本をみせてあげなさい」
野球部の人がみせたのはバントの構え。
杉野さんの投げたボールは軽々しくあたり、塁に進めてしまった。
ヒットが出るたびに会場は黄色い声援で沸き上がる。
「いいぞ野球部ー!」
「E組どもをぶっつぶしてしまえー!」
「みたか転校生ども!これがE組なんだよ!」
ねじ曲がって醜い笑顔にE組を応援する声がでにくくなる。
「・・・悪趣味ですわ」
仁美はこれ以上見たくないと顔をふせてしまい、恭介は困惑する顔であたしを見ていた。
「あっという間にノーアウト満塁だー!一回表と全く同じ!最大の違いはここで迎えるのバッターはわが校が誇るスーパースター進藤君だ!」
沸き上がる声援。E組を応援する声はどこにも聞こえない完全アウエー。
何も言えない。何も出来ない。ここで黙ってE組が負けるのを見てろっていうの?
・・・
・・・・・・・・・黙って?
!
あたしの頭に閃光が走った。
ある!あたしにしか出来ない応援の仕方!
「さやかさん?」
「どうしたんだい?手なんか組んだりして」
マミさんは言ってた、E組男女全員に魔法少女(少年)の素質があるって。
なら、黙ってても届けられる手段はある。誰にも邪魔されず、確実に届けられる応援の声が!
『先輩方!』
あたしは頭の中でテレパシーを使って大きな声でE組にあたしの声を届けた。
『絶対に、絶対に負けないでください!卑怯で愚劣な主将の鼻をへし折っちゃって下さい!あたしE組の勝利、祈っているんで!』
ほどなくして、杉野さんから返答がテレパシーで返ってきた。
『大丈夫だよ。応援してくれてる美樹ためにも勝つよ。
とても頼もしい返事に心に広がってた暗雲が吹き飛ばされた。
ふと、視線を感じた。理事長のとは正反対の、見守るような心温まる視線。
「それでいいのです。ありがとうございます」
そう言ってくれてるような・・・そんな視線。ボールの方から感じたのは気のせい?
「もとは同じ野球部で競い合った2人!しかし杉野はE組に落ち、部活も追放!
なんとでもいいなさい。
E組に動きがあった。磯貝さんとカルマさんが自分のポジションから前進をした。野球部がやってたことだ。
「明らかにバッターの集中を乱す位置で守ってるけど、さっきそっちがやった時は審判は何も言わなかった。文句はないよね理事長」
な、なるほど・・・?まあ、やり返すって大事なことだし。
「ご自由に。選ばれた者は守備位置で心を乱さない」
「へーえ、言ったね。じゃ遠慮なく」
磯貝さんたちは更に歩みを進めて・・・え!?
「近い!全身どころかゼロ距離守備!振れば確実にバッドが当たる位置で守ってます!」
実況もドン引きの行動。主将もわかがわかってないようで呆然しているみたいだった。
「気にせず打てよスーパースター。ピッチャーの球はジャマしないからさ」
「フフ、くだらないハッタリだ。構わず振りなさい進藤君。骨を砕いても打撃妨害を取られるのはE組の方だ」
理事長の指示に主将もあたしも引いてしまった。相手は磯貝さんが普通の人間って思っているわけよね?そんな相手に本気のスイングって・・・
でもあたしの心配はいらなかったみたいで2人はほぼ動かずにスイングをかわしてストライクを一本取った。
主将にカルマさんが何かを囁いているけどあたしには何を言っているかは聞こえない。だけど、主将がガチガチに震えているのはわかる。
主将も観客もあたしたちもこの異様な試合光景に呑まれている。
杉野さんの第二球が投げられ、それを主将は間抜けな声を上げて腰抜けのスイングで打った。
そのボールはカルマさんにあっさりと取られキャッチャーに渡された。
「三塁ランナーアウト!」
そのボールは間髪いれずに木村さんに渡り
「二塁ランナーアウト!」
打ったんだから走ればいいものを腰が抜けて動けない主将を見て杉野さんが指示を出した。
「木村、次は一塁へ!進藤走ってないから焦んなくていいぞ」
木村さんのボールはいくつかバウンドをしてファーストにいる菅谷さんのミットに納まった。
「打者ランナーアウト・・・と、トリプルプレー」
「げ、ゲームセット!なんとなんと・・・E組が野球部に勝ってしまった!」
悔しそうな実況と共にあたしは顔が晴れ晴れと輝いている仁美の手を取った。
「やった!やったよ仁美!E組勝ったよ!」
「すばらしいですわ~!」
「なんだよつまんね~E組ごときに負けやがったぞ野球部」「あの戦力差で負けるかよフツーよ」
ぶーたれる人たちをよそにあたしは仁美と飛び跳ねながらE組の勝利を分かち合っていた。
E組のベンチにいるマミさんたちも大喜びだ。
・・・あれ?制服の人もいる。あれって確か・・・寺坂さんとかだったかな?
ふと、グラウンドを見ると主将が座り込んで項垂れていた。そこに杉野さんがやってきた。
「ゴメンな、ハチャメチャな野球やっちまって」
優しいなあ。あんなひどい事言われたんだから気を使わなくてもいいのに。
「でもわかってるよ。野球選手としてはおまえは俺より全然強ぇ。これでおまえに勝ったなんて思ってねーよ」
「・・・だったら・・・なんでここまでして勝ちに来た。結果を残して俺より強いと言いたかったんじゃないのか」
杉野さんは困ったようにこめかみを掻くと
「渚は変化球練習にいつも付き合ってくれたし、カルマや磯貝の反射神経とか皆のバントの上達ぶりすごかったろ。
でも、結果出さなきゃ上手くそれが伝わらない。
・・・要はさ、ちょっと自慢したかったんだ。昔の仲間に、今の俺の
とてもさわやかに笑う杉野さんにほだされたのか、主将に感じた嫌なオーラが削ぎ落されたように思える。
「覚えとけよ杉野。次やるときは高校だ」
「おう!」
なんか、めんどくさいね。男の友情って。
そんな2人のやりとりを眺めてたあたしに恭介が訊ねて来た。
「あの、さやか?なんかE組の人にかなり入れ込んでたけど・・・
その質問にあたしは胸を張って答えた。
「先輩だよ。あたしの誇れる、大好きな先輩!」