巴マミは暗殺者   作:百乃綾香

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書きたいところをがんがんに詰めたらなんか長くなりました。
多分今の時点で最長の話です。


38時間目 センスの時間

駅前の公園から少し離れた駐車場、そこに杏子が立ち、フェンス越しに公園で集合するマミたちを眺めていた。

マミたちは10人ほどのグループで楽しそうに話していてその空気は穏やかといったものだった。

 

「あんな大勢で仲良くやっていて・・・よくやるわ・・・」

 

ハンバーガーを口にしながら杏子はそう口にした。

ふと、思い出すマミと共闘していたあの事。

あの頃はなんでもできると思っていた。正義の味方になったと浮かれだって、純粋に魔女退治をしていて、本気で親父の説教と自分の魔法は世界を救うと信じていて・・・。

 

あのマミ達のクラスメイトらしき人らと楽しそうにしてるのを見てると歯がゆくなってしまう。

羨ましいなんてことはない。ないはずなのに・・・。

 

「なんでこんな未練がましく椚ヶ丘に来ちまうんだ・・・」

 

そんな気持ちの悪い想いを抱えながら、やはり帰るかと振り向いた時だった。

 

「やだ、E組じゃん。あそこいるの」

 

声色が気持ちの悪いものでも見つけたように話す声が聞こえた。

その声の持ち主はマミたちと同じ制服に身を包み、虫けらでも見るような目でマミたちのことを話していた。

 

「なんでこんな目立つところで大勢で群れてんの?」

「知らなーいバカは群れるって聞いたし」

「これから私たちは塾だっていうのに、E組は気楽でいいよねー」

「だぁーれも期待してないから勉強しなくていいからねー、逆に羨ましい」

「じゃあ、アンタE組行く?」

「行くわけないじゃん。あんなごみ溜め!」

「やだ、いうじゃん」

 

杏子の感情を逆なでるような甲高い声でE組を笑い蔑む姿に杏子は不快感を表した。

椚ヶ丘に通っていた時もマミの制服を着た人たちがたまにE組だというグループをバカにするような話を度々耳にしていた。なんなら駅でE組らしき人が物をパクられそうになったときもあり、杏子が助太刀に入った時もある。その時、なぜか誰かに見られたような気がするが、ともかく、コンビ解消前からさっきのようなE組に対する悪口を杏子は聞いており、その度に杏子は嫌悪の感情を募らせていた。

その後も二人の嘲笑話は止まらず、球技大会で勝ったのはマグレだ調子のんなとか、誰誰がどうとか、誰それがどうだったとか、むしろE組の事好きだろと言わんばかりの悪口のオンパレード。おそらくは半分くらいは憶測からくる謂れもない中傷ではあったが。

マミのクラスの情報収集、と聞こえはいいが、人間の怖いもの見たさな好奇心で聞き入ってしまい、あまりの悪口の多さにさっさと立ち去らなかった事を後悔してしまった。

 

(人を蔑み笑うのがエリート様の特権ってか。父さんが破門されたばっかりの頃もこんなこと言われてたな。勝手なもんだ)

 

やはりこんなことろにはいたくない。まあ、半分くらいは嘘であろうが、情報聞けたのならいいかと、そう思い立ち去ろうとした時だった。

 

「あとさ、巴さん調子乗ってたしE組行きってざまぁって感じしない?」

 

ふいにマミの名前を出され、杏子は足を止めた。

 

「わかる。いつ誘っても「ごめんなさぁい、忙しいのぉ」って断ってばっかでさ。こっちの親切も知らないで」

「両親死んで引っ越してきてかわいそーだから気を利かせたのにね」

「それでも?成績いいから我慢してたけど、テストサボったからねぇ。私テストほっぽっても平気だからって思ってたんじゃない?」

「それでE組行き?自業自得じゃん」

「てか、よく夜の街歩いているの見られてたし、遊んでいたんじゃない?」

「えー、もしかしてエンコーのやつ?いやだ、本校舎(ウチ)にいてほしくない!」

 

さっきまでは顔と名前が一致しない奴らの話であったからまだ我慢できていたが、マミの謂れもない誹謗中傷に流石に堪忍袋の緒が切れた杏子は、話をしていた2人に対してはっきり聞こえるようにガシャン!とフェンスを強く叩いた。その大きな音に悪口を言っていた二人はビクッと肩を震わせて杏子の方を振り向いた。

 

「よぉ、アンタら。さっきから大声でごちゃごちゃうるせーんだよ。こんな人通りの多いところで悪口大会とかエリート様はいいご趣味してるねぇ。さぞかしあんたらの学校は生徒の品位があると評判高いだろうな」

 

そう睨みつけながら煽られ、2人の生徒はしかめっ面をしながらその場を移動した。

 

「何さっきの?知り合い?」

「知るわけないじゃん。あんな学のなさそうなの」

「巴さんの事言ったら急にこれだから、巴さんの知り合いとか?」

「あー、なんかなっとガシャン!い、いこいこ。そろそろバス来るし」

 

そういってそくささと去って行く2人を見て杏子はいたたまれなくなってしまった。

 

(マミたち・・・学校であんな事言われてるのかよ・・・)

 

マミたちは悪口大会が始まった段階でさっさと移動しており、あの2人のきつめの中傷を聞いてはいなかった。そのことだけが救いかと、ほっとする他なかった。

けれどもいい気はするわけもなく、杏子に苛立ちが募るばかりだった。

 

(街守っといてあんな扱いじゃ世話ないぜ。つまんねーな、正義の味方ってよ)

 

さきほどのいらだちを解消するかのように二個目のハンバーガーをかぶりつきながら杏子はその場を離れていく。

 

(さやかも馬鹿みたいに正義の味方ぶって、ワルプルギスの夜に負けてしまって、友達も失って、住み慣れた街も離れて・・・アイツも結局あきらめてしまったのかな・・・)

 

始めて対峙した時のことを思い出す。使い魔に真剣に挑み、邪魔をした自分に「間違っている」と曇りひとつない瞳で啖呵を切ったあの眩しい姿を。けれど、いつしか彼女の瞳にも曇りが現れ、また“ある者”のせいでそれは消えた。

 

(しっかしほむらの奴、一体何がしたかったんだか・・・)

 

突然目の前に現れ、協力しろと持ち掛けた少女。あまりのうさん臭さに一旦は追い払ったが、結局は引き受けてしまった。その後あまりの注文の多さに苛立ち、呆れ果て放棄してしまったが。

 

(そういえば、なんでアイツはマミの名前を出したんだ?)

 

ふと思い出した彼女がうっかりこぼしたマミの名前。杏子はふいに気になってしまい、こっそりとマミたちの後を追うことにした。

 

 

 

 

 

流氷のような結界内部。

マミたちと偶然結界内で合流したさやかが8本足の白いもじゃもじゃの魔女と対峙していた。

魔女はマミのリボンで拘束され、それをさやかたちの斬撃で脚も全て切り離され身動きが取れなくなっていた。

 

「巴!今だ!」

「OK!ティロ・フィナーレ!!」

 

磯貝の掛け声を合図にマミが弾丸を放って魔女は爆散した。ひんやりとした結界は崩れ、夏の蒸し暑い日の落ちた薄暗い公園へと戻って行った。マミは見回して皆の無事の確認をした。

 

「みんなお疲れ~。ケガはないわね」

「見学の方も無事だよ~」

 

見学のほうにいた渚が声をかけ、マミも一安心といったところだった。

 

「こちらもないです!いや~、相変わらずかっこいいですね。マミさんのティロ・フィナーレ!」

「ふふ、ありがと。ところでグリーフシードは落とさなかったけど・・・美樹さんは大丈夫?」

「大丈夫です!あたしのことは気にしないでください」

「そう・・・みんな、グリーフキューブでちゃんと浄化してよね」

 

三村と中村が裏で集めてたグリーフキューブで浄化をしているのをさやかはどこか羨ましそうな顔で見つめていた。それに気が付いた片岡がグリーフキューブを差し出した。

 

「美樹さん、よかったらなんだけどあなたもこれ使う?」

 

そう聞かれたさやかは少し戸惑った顔して、首を振った。

 

「あ、いえ大丈夫です。お気遣いありがとうございます」

「でも、美樹さんにはいろいろお世話になってるし・・・たまには使ったっていいでしょ?」

「いいんです、ほどこしとかいらないんで」

「でもいつも断ってるじゃない。美樹さんだけ出ないんだし、別に少しぐらいならこっちも困らないから」

「なんかグリーフキューブ(それ)目当てで仲良くしてるって思われるようでいやなんです。あたしは心からマミさんたちを慕って行動してるので」

「そんなこと言われても、美樹さんもソウルジェムの浄化しないとでしょ?」

 

片岡にそう説得されてもさやかは首をふるばかりで受け取る様子もなかった。

困った片岡を見て、磯貝がさやかに話しかけた。

 

「じゃあさ、こうしないか?美樹が俺らの治療する代わりに代金として俺らのグリーフシードを払う。それなら美樹も気にしなくていいんじゃないか?」

 

その交渉にさやかはとまどってしまい、上手く返事が出来なかった。

 

「え、でも、治療ならタダでもしますから・・・」

「俺らだってタダで美樹に治療してもらうわけにはいかない。治癒魔法だって魔力使うだろ?そんなの美樹に悪く思って安心できないんだ」

 

その説得にさやかは沈黙をし、

 

「・・・わかりました。そういうことならグリーフシード受け取りますね」

「ああ、今度からよろしく頼む」

 

そう言って一同は変身を解いた。

魔法少女姿から制服の姿に戻り、解散の流れになりそうなところでさやかがおずおずとマミに尋ねた。

 

「そういえば、いいたいことがあるんですけど・・・」

「なにかしら?」

 

さやかはマミたちの腕を指さして叫んだ。

 

「その派手な文様はなんなんですか!!い、入れ墨ですか!!?」

 

それを指摘され、マミたちは顔を見合わせてあー、言われたと困り笑いをした。

 

きっかけは朝の事だった。衣替えで夏服の制服で登校するE組生徒。その中で異彩を放って教室に入ってきた生徒がいた。菅谷だった。

菅谷の左腕には派手な文様が描かれており、みんなは何があったんだと困惑し、殺せんせーはどこから持って来たのか非行に関する本を山積みにしながらマッハで読み漁っていた。

菅谷の腕に描かれたのはメヘンディアートといった、肌に描く一種のおしゃれと判明し、教室ではそのメヘンディアートに興味が集まった。

殺せんせーへの軽い暗殺を経て、誰かが描いて欲しいと言ったのをきっかけに俺も私もと催促され、イリーナが教室に入って時にはクラス全員の腕に菅谷による芸術が施されていた。

その後イリーナが気絶したことで菅谷と殺せんせーによる芸術対決が行われ、結果イリーナは見るも無残な姿にされてしまい、実弾を乱発する騒ぎへと発展した。

 

「大丈夫よビッチ先生!魔法で消せる!消せるから!」

「消せる消せないじゃないのよ!よくも私の夏服デビュー台無しにしやがって!!キーーー!!!!」

 

と、そんな大騒ぎをさやかに包み隠さずに話すわけにもいかず、「菅谷がやってくれた」と端的に説明するだけにいたった。

 

「め、メヘンディアートねぇ・・・よく先生が許してくれましたね」

「うちの先生勉強さえできたらわりとなんでも自由だから」

「あの堅物そうな先生が!?人は見かけによらないとはいいますけど・・・へー意外だなぁ」

 

・・・意外と烏間が寛容なのは事実だが、許可されたものの大部分は殺せんせーによるものが大きい。メヘンディアートだって難色は示されたが殺せんせーに説得され、暗殺に悪影響があるかといえばそうでもないので一回限りと認可してくれたものだ。

とはいえ表向きは烏間がメヘンディアートを許可したとも取れるのでさやかたち本校舎生徒には烏間のイメージ像がカオスなものになっている可能性も否定できない。

 

「よかったらお前もやるか?」

 

菅谷は余っていた塗料を取り出してさやかに勧めた。それにさやかはちょっと困った顔を示した。

 

「いや、いいです。本校舎(こっち)許してくれるとは思えないので」

「大丈夫よ。肩の袖に隠れるところに描くからよ」

 

菅谷にそう言われ、さやかは「それなら・・・」と肩を差し出した。

安定して描くためにベンチに座り袖をめくった。

 

「じゃ、お望みのモチーフを教えてくれ」

「モチーフ?」

「そ。なんか特定のイメージがあれば俺も描きやすいし、好きなモンだとテンションもあがるだろ」

 

さやかは少し恥ずかしがりながら

 

「えっと、クラシック音楽ーって感じで」

「了解。じゃ、じっとしててくれよ」

 

菅谷は慣れた手つきでサラサラと楽譜を描き、横にバイオリンをつけて完成とした。

 

「どーよ、クラシックって感じじゃねぇか?」

「え、あの、バイオリンは・・・」

「ん?別にピアノとかでもよかったけどスペース考えたらバイオリンになった。バイオリンのほうがクラシックぽくねってね」

 

その菅谷の説明を聞いているのかいないのか、さやかの顔は赤く染まっていた。

 

「菅谷!お前そうやって女の子の好感度上げてモテる気だな!」

「その変な発想やめろ!俺の芸術はモテるための道具じゃねえんだよ」

 

嫉妬じみた岡島に菅谷が怒るとさやかは首を振った。

 

「あの、違うんです。えっと、あたしの知り合いがバイオリンやってて、あたしにとってもバイオリンってかなり身近な楽器なんです。だから、バイオリン描いてくれたの、嬉しくて・・・ありがとうございます」

 

そう言って頭を下げたあと、さやかは肩に描かれたバイオリンを嬉しそうに眺めていた。

中村はそのさやかの様子を見て何かを察したようにいじわるそうに笑い、さやかに腕をまわした。

 

「!ひょっとしてそのバイオリンやってる知り合いって上条君?」

「はい!凄腕のバイオリニストなんです!」

「んでもって、さやかちゃんの好きな人でしょ?」

 

そう聞かれたさやかは顔を真っ赤に染め、口を魚のようにパクパクさせた。

 

「だから、恭介はそんなんじゃなくてですね・・・」

「ならその顔はなんなのかな~ん~?」

 

中村に突っつかれたさやかは真っ赤になった顔を伏せて黙ってしまった。

 

「莉桜さん、あんまりからかわないの」

「えへへ、いいじゃんこんくらい。で、どうなの?実際のところ」

「本当に違うんですよ!」

 

さやかが立ち上がった瞬間だった。

 

「あれ?さやかじゃん」

 

ふと、さやかにとって聞き覚えのある声が聞こえた。

 

「あ・・・杏子!アンタ・・・なんでここに!」

「それはこっちのセリフだよ。アンタ引っ越すとか聞いたけどこの椚ヶ丘とはね」

 

杏子がチョロスを口にしながらにやにやしながらさやかにそう語りかけた。

 

「一体何しに来たのよ!」

「喧嘩しにきたんじゃねーよ。そこのマミに話があるんだよ」

「マミさんに何の用だ!人の犠牲をなんとも思わないアンタに話させる訳いかないでしょ!というかなんでアンタがマミさんを知ってるのよ!」

 

さやかが興奮状態で杏子につっつかかろうとしたとき、さやかの後ろから腕が伸び、静止させた。その腕の持ち主は渚だった。

 

「待って美樹さん。一旦落ち着いて話聞こうよ。多分だけど、佐倉さんは本当に戦う気はないと思うよ。だから気を収めて。ね?」

 

渚にそう悟られてさやかは虚を突かれた顔をして、黙ってコクリと頷いた。

 

「それで?話って何?」

 

杏子はポリポリとうなじを掻いていぶかし気な目で話をした。

 

「マミ、あんたさ暁美ほむらって知り合いか?」

「え?」

 

杏子の質問にマミは耳を疑った。

 

「別に知り合いでもないけど・・・なんで?」

「いやさ、数が月前にほむらがアタシんとこを訪ねてきたんだよ。それであいつ見滝原をアタシに任せたいって言ってきたんだよ。なんで隣とはいえ縁もゆかりもない見滝原守んなきゃいけねぇんだって追い払ったらボロっとアンタの名前をこぼしたんだよ。なんで知ってんだって聞いたらむしろ向こうが驚いていて・・・

まあ、それっきりほむらからマミの名前が出ることはなかったんだけど、アンタ、ほむらと会った事あるのか?」

 

そう聞かれてマミは首をひねって首を振った。

 

「いいえ。だいたい暁美さんの名前自体聞いたのはつい最近よ。というかなんで暁美さんが私の名前を知ってるの?」

「そういうなら本気で知らねーだろうな。じゃあなんでアイツマミの名前言ったんだ?」

 

杏子も杏子でわけがわからないといったように髪を掻きむしり、小さくため息をついた。

 

「まあ、いいか。用はそれだけだよ。あとそれと、アンタらなんかわらわら見学にやってきてるけどしょーもない願いで魔法少女になろうって思うならぶっ飛ばしてやるから覚悟しな」

 

そう言い残して杏子はどこかへ去って行った。

 

「あの・・・マミさん。あの杏子って知り合いなんですか?」

「昔馴染みっていったところ。でも、暁美さんを知らないのは本当よ」

「なぜか巴さんの名前を知ってる謎の魔法少女暁美ほむら・・・のちのち重要な伏線になる予感がするわ!ラスボスじゃなくとも章ボスは固いわね」

「不破さん?」

「伏線は知りませんけど・・・。大丈夫だったんですか?アイツあたしにケンカふっかけてきたんですよ!ひどい目にあったりしてませんでしたか!」

「大丈夫だから。心配ありがとうね」

 

マミはそうさやかに笑いかけそれにさやかはこくんと頷いた。

 

「そうですか・・・。ならいいです。ところで、見学の人たちって契約する気とかあるんですか?」

 

さやかに問いかけられ、渚たち見学メンバーは顔をお互いに見合って答えた。

 

「私ね、正直契約するタイミング逃した気がするんだよね。今はこの非日常を見せてもらってるだけでいいかなってね」

「俺もだな。魔女の造詣がいい刺激になるなってだけでついてきてるだけで特に叶えたい願いとかねーんだよな。今が一番楽しいんだよ」

 

不破も菅谷やそのほか何人かはあまり契約する気はないのだが、魔女退治見学についてくるのは好奇心だけではない。ナイフや銃の訓練も兼ねている。

もちろんそのこともさやかに伝えられることはない上に、さやかも不審に思わない限りはそのことにつっこみをいれることもないのでマミたちE組の面々も安心できている。

 

「魔女の造詣・・・?さっきもメヘンディアート描いてもらったし、菅谷さんって芸術家志望だったりするんですか?」

「おうよ。この間も三村と一緒に神浜までアリナ・グレイの個展見にいったしよ」

「そうそう。結構グロイ題材が多いんだけど引き込まれる魅力があるんだよ。俺のチャンネルにアリナ・グレイの紹介動画あるから見てみろよ。口頭とパンフに乗ってる絵の説明しかないけどな」

「ちょっと見てみますね・・・・・・

へぇ・・・ちょっと興味そそられるな。んでもなんか変なコメントありません?大丈夫ですか?」

「まあ、魔法で注目集めてるから変な奴もくるだろ。普通のことだよ。これぐらい気にしてたらテレビマンできねーよ」

「そうなんですね・・・。他の人もそんな感じですか?」

「僕は・・・前は菅谷君と同じで特に叶えたい願いとかもないからいいかなって思ってたんだけど・・・ちょっと色々あって、僕自身の力をつけたいって思って今、色々考えているんだ」

「俺は叶えたい願望ってのがあるんだよ。聞きたいか?」

「どうせエロいことでしょうが」

「いいだろ別に。男として女体の感触知りたいって思うのは当然だろ。この手で・・・」

 

そんな下衆な願いを口にした岡島の動きが停まった。

 

「どうしたの?今更自分が恥ずかしくなった?」

「いや、なんか、前に一度触れた事あるような・・・」

「ビッチ先生じゃない?」

 

中村からの発言に反応したのはさやかだった。

 

「え?ビッチ先生っていうか・・・え?どういうことで?」

「うちの副担とんでもない痴女なのよ。この前も集会の時に渚を自分の胸に堂々と押し付けていたし」

 

その話を聞いたさやかは顔を真っ赤にして後ずさりした。

 

「えええええええ、マミさんところって・・・」

「あんまり誤解しないでほしいっていいたいけど・・・事実なのよね」

「ビッチって・・・またすごいあだ名ですね・・・そんな先生で問題になったりしないんですか?」

「あれでも一応いい先生だしね。うん、でも本校舎の人たちにはナイショよ」

 

さやかはへ、へぇと返事をしたが顔はあちらのほうを向いていた。しかしE組では豊満な胸の押し付けどころかディープキスまで行われている。そんなことをさやかに伝えるわけにもいかない。

 

「まあ、だから岡島君。アンタはビッチ先生で我慢しときな」

「お、おう・・・」

 

片岡に呆れたように小突かれ、岡島は黙って考え込んでいたが、

 

(・・・まあ、ビッチ先生しかありえないか)

 

と、追及するのをやめてしまった。

 

「で、岡島さんはその・・・エロのことしか願いにないんですか?」

「んなこともないけどな。急ぐこともでもないし他の願いもゆっくり考えているところだよ」

「ふぅん」

 

 

 

 

椚ヶ丘でのさやかの自宅。

さやかは自分のベッドに腰かけ、この前手に入れたグリーフシードで自らのソウルジェムを浄化していた。

 

「はい、処分して」

「お安い御用さ」

 

ソウルジェムを受け取ったキュゥべえは背中にある虚空に放り込み、ちょっと満足そうにふぅと一息入れた。

 

「それにしてもさぁ、なんでマミさんたちのクラス全員素質ありなの?仁美なんかはキュゥべえ見えなかったりするのに」

「それはマミたちのクラスが訳アリだからさ」

「訳アリ・・・?どういうこと?」

 

さやかの疑問にキュゥべえは淡々と答えた。

 

「普通少年で素質がある子はそうそういないんだ。けれどもあのクラスはほぼ全員が平均値を超えている。ま、流石に全員が同じほどってわけでもないけどね。例えば赤羽カルマなんかは実は一番素質がないんだ」

 

意外な人物にさやかは思わず声をあげてしまった。

 

「えええ!!?あの人滅茶苦茶強かったよ!!?一番余裕そうにしてたし!」

「それは本人の戦闘のセンスが高いことが起因するね。蓄積された喧嘩経験からくる勘や読み、元から高い身体能力、それに加えて彼自身が高い学習能力を兼ね備えているから例え素質が低くてもいくらでも圧倒して戦えるんだ。

そういう意味では彼は“魔法少年”の才能があるとも言えるね」

「才能と素質って同じ意味じゃない?」

「いいや。素質はその人が持っているもの。才能はその素質をいかに伸ばせるかってものだね。いくら素質があっても伸ばす才能が無かったらその素質はないといっても過言じゃない」

 

そう言われてさやかは失踪する直前のほむらに言われたことを思い出した。

 

「あなたみたいな人は魔法少女になるべきじゃなかった。なのにむやみやたらに首突っ込んで出来もしないのに突っ走って人の忠告を聞きやしない。人のため人のためとかいっときながらやることは迷惑をかけることばかり。だからまどかは死んだ。

あなたのせいよ!あなたがまどかを殺したのよ!こうなったのもなにもかも!」

 

何かを言い返したくて顔をあげると既にほむらはそこにいなかった。自分に吐けるだけの暴言を一方的に吐いて、言い返す前に逃げ出した。そのことがさやかは許せなかった。

が、それと同時に

 

(才能って羨ましいな・・・)

 

キュゥべえからの言葉はさやかの心に劣等感を生み出していた。

まどかよりも弱い素質。カルマのように弱くとも圧倒できる才能もセンスもない。マミのような技量もない。他にも色々と・・・。自分にはないものを他の人は持っている。

 

(・・・ダメダメ!マミさんたちを羨んだりしちゃ!決めたじゃん!アタシがマミさんたちを守るって!あの卑劣な本校舎の連中から守るって!)

 

ふと、さやかは自分の勉強机の方に目をやった。

手つかずの課題、見直す気になれない赤点の小テスト、途中放棄した予習のあと・・・

思い出すのはひそひそと聞こえるクラスメイトの声。

 

「別にいいもん、E組に行っても。アイツらの仲間になるくらいなら落ちこぼれ扱いでいいし」

 

自分に言い聞かすようにさやかはそれを口にしたのだった。

 

 

 

 

椚ヶ丘のとある貸店舗

 

「いらっしゃいませ~。レコンパンスへようこそ!」

 

「ここって出来たばかりのお店かい?おじょうちゃん」

 

「はい、まあ、引っ越したといいますか・・・なんといいますか」

 

「ほお、そうかい。じゃ、新店舗祝いにこのフルーツタルトのホールを貰おうかな」

 

「ありがとうございます。2300円になります」

 

「ほらよ。そういえばおじょうちゃんって学生か?アルバイト?」

 

「実家の手伝いってところですかね。あ、ちょうど頂きます」

 

「ほう、そうかそうか。またくるぜ。頑張れよ」

 

「ありがとうございました。またお越しください」

 

「まばゆちゃんさっきのはお客さん?」

 

「はい、気前よく1ホール買って下さいました。なんかフレンドリーなお客さんでしたよ面倒見のいいおじさんみたいな」

 

「・・・・・・・・・」

 

「咲笑さん?どうしましたか?」

 

「まばゆちゃん、客商売するんなら覚えておいてほしいんだけどね」

 

「・・・?はい、なんでしょうか?」

 

「ああいうお客さんは注意するんだよ。こっちが悪くなくても気に入らないことがあったらクレーム入れてくるタイプだから」

 

「ええ!?そうなんですか・・・?」

 

「映画見てればわかるんじゃない?いい人に偽装した悪い人。あの人多分そういうタイプだよ」




Nora

北極の魔女  性質は後ろめたさ


凍える結界に居場所を置く魔女。
本当は泳げるにもかかわらず、水に落ちてしまうことを恐れ、結界の流氷を守ろうと右往左往している。

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