「もうやめろ鷹岡!!」
私の髪が鷹岡先生から離れたところで烏間先生が私たちの間に割って入ってきた。
「巴さん、左腕は大丈夫か?」
「この位平気です!」
実際この位の衝撃は魔女からも攻撃してくる。全く利かないわけじゃないけどこれぐらいで引くわけがない。
「前原君と神崎さんは」
「一応へーきっす」
「こちらも・・・」
他の被害にあった二人も自身の魔力や私の治癒魔法で多少は回復してるだろうけど、痛みは残ってるようだった。
「ちゃんと手加減してるさ烏間。大事な俺の家族だ、当然だろ」
「いいや、家族ではありません。私の生徒です」
赤い顔をした殺せんせーが鷹岡先生の肩をつかんだ。
「フン!文句があるのかモンスター」
鷹岡先生は何がわるいんだとばかりに鷹岡先生は持論を述べた。
「体育は教科担任の俺に一任されている。それに今の罰も立派な教育の範囲内だ。それとも何か?多少教育論が違うだけでおまえは危害も加えてない俺を攻撃するのか?」
殺せんせーはピクピクと怒り心頭みたいだけど何も言い返せないみたいだった。
鷹岡先生はぐるりと顔だけを私たちの方に向いて例の事を尋ねた。
「んで、誰か答えないのか?父ちゃんは知りたいんだよ。“プライベート”をよ」
もちろんそれに答える者はいない。誰もが黙って鷹岡先生を睨みつめた。
『いう訳ねーだろ』
『俺達のこと騙しやがって』
授業が始まるまでの親しみの目を向ける者はいない。警戒、嫌悪、侮蔑。そんな目線が鷹岡先生に刺さるがこの人には特に利いてなさそうだ。
『木村君、矢田さん、いいかしら』
『なんだよ』『どうしたの?』
『私がうまいこと鷹岡先生の気を引くから視界に入らないところでどっちかでもいいから魔法で彼の動き止められる?』
『『了解』』
テレパシーで会話しているのを知ってか知らずかニヤニヤしながら私たちを見回している。
「誰か言わないのか~え~」
鷹岡先生は私たちの周りを歩いて顔を見比べている。多分、無理やりでも吐かせようとか思ってるんだろう。
「おいお前、一体何を隠している」
鷹岡先生は岡島君の目の前で立ち止まった。拳をゴキゴキと鳴らして今にも殴ろうかと準備をしている。
岡島君はビクビクと怯えているけど口を結んで首を振った。
「父ちゃんに隠し事する奴はオシオキだなぁ~」
指輪を介して魔法を繰り出そうとした時だった。突風のようなのが吹き、烏間先生が鷹岡先生の手首をつかんだ。
鷹岡先生の拳は岡島君に当たることなく、岡島君は気が抜けたようにその場にへたり込んでしまった。
「やめろ。これ以上暴れるっていうのなら俺が相手してやる」
片腕で鷹岡先生の手首を握りしめて烏間先生はそういう。けど、鷹岡先生はあまり動揺していなかった。
「フン、言わないってなら俺にも考えがある」
そう言うと鷹岡先生は懐からゴムナイフを取り出した。
「烏間、おまえが育てたこいつらの中でイチオシの生徒を一人選べ。そいつが俺と闘い一度でもナイフを当てられたら・・・おまえらの隠し事に何も言わないし、烏間に訓練を任せて出てってやる」
思わぬ発言にどこか安堵の空気が流れる。全部を信じる訳でないけどこの人に魔法の事を明かさずに済むのならそれにこしたことはない。しかし、なぜか鷹岡先生は自分のカバンの中をごそごそと探り出した。
「ただし、使うナイフはこれじゃない」
鷹岡先生はゴムナイフを投げ捨てカバンから取り出したのは・・・
ほ、本物のナイフ・・・?
そのナイフを鷹岡先生は地面に突きさして目を血走らせながら笑った。
「殺す相手が
し、正気なのこの人?その迫力に少し眩暈がしてくる。
「よせ!彼らは人間を殺す訓練も用意もしていないんだぞ!」
「安心しな。寸止めでも当たった事にしてやるよ。俺は素手だし、これ以上ないハンデだろ」
この人の狙いがわかった。ナイフを持って怖気ずくだろう私たちをボコして反抗心をへし折る気だ。
この中だと対人戦は私が一番している。さっきは髪を引っ張られたけどまだ負けてはいない。
私がやらないと・・・みんなを守るために、私がこの人を倒してやらないと・・・!
烏間先生は地面に突き刺さったナイフを引き抜いて私たちに歩み寄った。その歩みはある生徒の目の前で止まった。その生徒はわたしではなく、
「渚君。やる気はあるか?」
烏間先生が指名したのは渚君だった。な、なんで渚君を!?それはみんなも思ったみたいで、ざわざわとしていた。
「選ばなくてはならないなら、ここでは君が適してるだろうが、返事の前に俺の考え方を聞いて欲しい」
烏間先生は一旦ナイフを降ろして語り始めた。
「地球を救う暗殺任務を依頼した側として俺は君たちとはプロ同士だと思っている。だからこそ
プロとして君たちに払うべき最低限の報酬は君たちが当たり前に過ごしていた中学生活を保障することだと思っている。だから無理に受け取る必要はない。その時は俺が鷹岡に頼んで報酬を維持してもらうよう努力する」
目線こそ渚君に向けられているけど私たち全員に向けて話してくれるのはわかる。私たちを信頼しているのをわかっているからこそ、私はくやしかった。
烏間先生は私が鷹岡先生と相対したから魔法少女のことがバレるのを危惧して渚君を選んだんだと思う。それは理解している。でも、選ばられなかったことがかなりショックでもあった。
渚君が受け取らないのなら私が申し出よう。次は何も躊躇せずにねじ伏せよう。私は大丈夫だからと。
そんな心配をよそに渚君はナイフを受け取った。
「やります」
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「渚君。やる気はあるか?」
鷹岡先生から投げられたナイフ。烏間先生が選んだのは僕だった。
受け取るかどうか迷う前に話してくれた烏間先生の僕らへの想い。
僕は前に烏間先生に尋ねたことを思い出した。魔女退治見学についてどう思っているかを。
「あの、烏間先生としてはどう思っていますか?」
「どう、というと?」
「僕、契約する気ないんです。命がけで叶えたい願いとかないので。それに将来の夢も覆したい想いもない。それでちょっと遠慮してたら杉野とかみんな契約してしまって・・・
イトナ君の事もあってからは魔女退治見学にいくようにはなったんですが、殺す技術を上げたいからついてきてるだけなんで・・・
ああいう命がけのことってそうするしかない人がするものじゃないかとか思って、何不自由ない暮らしをしてる僕が関わっていいものなのかなって思いまして・・・」
「俺の家庭は軍人でもない一般家庭で両親は今も健在だぞ」
「あ、いや、別に烏間先生を責めたわけじゃなくてですね・・・」
「俺も君を責めたわけじゃないぞ。ただ、この職業を選んだのには理由があってな。
俺にはかつて病弱な妹がいたんだ。幼くして亡くなってな、それが君たちぐらいの年の俺には悔しく思ったんだ」
その烏間先生の話に僕は目を丸くした。
「そんな顔をするな。別に隠す事でもないしな。
俺が自衛隊の道を選んだのもそんな経験があったからだ。どんな者でも護れる力を見に着けたい。どんな弱者にも寄り添いたい。そんな想いでやってきた」
そう真剣に話す烏間先生に、僕はある質問をした。
「・・・もし、魔法少女になるかわりになんでも願いが叶うって言われたらどうしますか?」
「今なら絶対ならない。が、君たちぐらいの年頃だったら・・・どうだろうな。でも今の状態を俺は何も後悔していない。だから渚君も後悔しない選択をしてくれ。そのために
妹さんの話はふられたら普通に話すだろう。僕に特別というわけでもなさそうだ。でも烏間先生の言葉は信じられるものだった。
僕はこの人の目が好きだ。今でも真っ直ぐ目をみて話してくれる人は家族にもいない。
立場上僕らに隠し事も沢山あるだろう。何で僕を選んだのかわからない。けど、この先生が渡す
「やります」
僕は強く返事をしてナイフを受け取った。
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渚がナイフを受け取り生徒の間にどよめきが走った。渚に勝ち目があるのか、そんな不安が広がっていた。
そんな空気を鷹岡は機敏に察知していた。
そして確信していた。先程の女子が使用した妙な力はこの目の前の男子にはない。おまけに運動神経も大したことはなく、体格も華奢で馬力もない。
それだけでも負ける要素がない上に鷹岡は知っている。本物のナイフを人間に向けたとき、素人はどう思うのかを。ナイフで人を刺せば死んでしまう、本気で戦えるわけではない、そう思うだろう。その心理をついて叩き潰していたぶり尽くす。そうすることで自分に恐怖し、自分の教育に従うだろう。
鷹岡はそう信じ切っていた。
そんな鷹岡の思惑をよそに烏間は渚にのみ聞こえる音量でアドバイスをしていた。
一方で少し離れたところから様子を見ていた殺せんせーとイリーナ。イリーナは烏間の選択に疑問をもっていた。
「カラスマの奴、頭が変になったのかしら?なんであそこで渚をだすのよ」
「見てればわかります。烏間先生の出した答えは正しいですよ。あの条件なら私でも渚君を指名するでしょう」
アドバイスも終わり、烏間は渚の元を離れた。鷹岡は上着を脱いで勝負の体制に入った。
『おい・・・渚のナイフ当たると思うか?』
『・・・無理だよ。烏間先生相手でもロクにあたりゃしないのに・・・』
『キュゥべえはどう見るの?』
マミに問われ、どこからか現れたキュゥべえがその問いに答えた。
『潮田渚が負けるだろうね。訓練してるといえ相手は軍人、対して渚は契約すらしてないただの中学生。ちょっと無謀にも思えるね』
淡々と評価するキュゥべえの言葉にマミたちに一層不安が押し寄せた。
『もちろん手がないわけじゃない。君たちの誰かが願えば全て解決する。そのためにこうして僕が待機しているからね』
そう言われ、皆は目配せをした。その中で一人がテレパシーで名乗りをあげた。
『私、万が一の事があったら契約する』
名乗り出たのは倉橋だった。
『烏間先生の方が良いって最初っから思っていたもん。別にあの人を消したって構わない。でも今はまだしないよ。だって今契約したら烏間先生の選択を否定することになるし』
『なら倉橋陽菜乃。君は潮田渚の勝利を確信しているのかい?』
『それは・・・』
キュゥべえにそう聞かれた倉橋は思わず口ごもってしまった。烏間を信じてはいるが、渚の勝利は疑問なのは隠しきれなかった。
そんなやりとりが行われてるとも知らず、渚は鷹岡と相対していた。
渚はナイフを手に烏間のアドバイスを思い出した。
ーいいか、鷹岡にとってこの勝負は戦闘だ。目的がみせしめだからだ。対して君は暗殺。強さを示す必要はなく、ただ一回当てればいい。奴の行動パターンは巴さんが少しだけ引き出してくれた。同じ動きをするとは限らないが、参考にはなるだろうー
ふと、渚は思い立った。
そうだ、闘って勝たなくていい
ー殺せば勝ちなんだー
渚は歩いた。ただ歩いた。通学路を歩くように普通に歩いた。
ただ、なにもアクションをせずに歩いて、鷹岡にぶつかった。何も起こらない一瞬の間。
その瞬間、渚は鷹岡の頸動脈に向かってナイフを振り上げた。あわや殺されかける寸前で自分の状況に気が付き、鷹岡はのけ反ってそのナイフをかわした。
かわしたことで体勢が崩れた鷹岡の服を渚は引っ張って転ばした。背後に素早く回り、脇腹を両足で固定して片手で鷹岡の目を塞ぎ、もう片方の手に持つナイフの背を軽く首筋にあてて・・・。
「捕まえた」
笑顔で勝利宣言をした渚にマミたちは口をあんぐりと開け、唖然としていた。ただ一人、勝利を確信していた殺せんせーを除き。渚を選んだ烏間でさえ衝撃が走っていた。
烏間が渚を選んだのには理由があった。
暗殺教室が始まって2週間がたったころにあった自爆テロ事件を烏間は目撃していた。そこで渚が殺気を隠して殺せんせーに近づき、それどころか上手く抱き着くところを見ていた。その時は計画した寺坂たちを厳重注意したのだが、冷静に考えてみると渚のターゲットにあそこまで接近できたこと自体が異常であるのだ。
5月頃の集会終わりで絡んできた本校舎生徒に対して相手を怯ませるほどの殺気を放っているところも目撃していた。
そして昨日訓練で感じた異様な空気。これに生命的危機を感じ、つい渚を思わず吹っ飛ばしてしまった。戦闘に関しては下から数えた方が早い渚の攻撃を一番脅威に感じた。言いすぎでなければ、人生の中で一番に。
そのことを複合して考え、烏間は渚を選んだのだ。
あのときは正体がわからなかったが、今ならわかる。
本番に物おじしない才能。つまりは人を殺してしまうという忌諱にものともしないということだ。
カルマやマミのような戦闘の才能ではない。渚には暗殺者の才能があるということだ。
これを咲かしてもよいものか、烏間は驚き焦り、迷っていた。
「そこまで!!」
殺せんせーが宣言して渚からナイフを取り上げた。一旦解放されたにも関わらず鷹岡は顔面を青くし、震えたまま腰が抜け、動けないでいた。
「勝負ありですよね烏間先生。まったく、本物のナイフを生徒に持たすなど、正気の沙汰ではありません。ケガでもしたらどうするんですか」
ナイフを菓子のようにシャクシャクと食べ、渚は照れくさく笑った。勝負が決まったことで見ていた者たちも渚の元へ駆け寄った。
「やったじゃんか渚!」
「ホッとしたよもー!!」
「大したもんだよ。よくあそこで本気でナイフを振れたよな」
「いや・・・烏間先生に言われた通りにやっただけで・・・鷹岡先生強いから・・・本気で振らなきゃ驚かす事すらできないかなって。ほら、僕ってまだ・・・だし、そんな僕だから本気出さないとってさ」
少し困りながら話す渚に前原が近づき、軽くビンタした。
「いたっ!なんで叩くの!!」
「あ、悪い・・・ちょっと信じられなくてさ。でもサンキュ渚!今の暗殺スカッとしたわ!」
笑って渚に感謝を述べる前原に対し、マミはなんだか申し訳なさそうにしていた。
「ごめんなさい渚君。私がしっかりしてなかったせいで」
「いいんだよ。巴さんが立ち向かってくれたから僕も進めたんだし」
「ん・・・ありがと」
その様子を烏間は眺めていた。ああしてるととても渚は強そうには見えない。だからこそ鷹岡はまんまと油断して反応が遅れた。
暗殺者にとって弱そうな事は立派な才能である。自然に近づく体運びのセンス、敵の力量を見て急所を狙える思い切りの良さ。暗殺でしか使えない才能。
渚の思わぬ才能の発覚に烏間は困惑していた。この暗殺者の才能を伸ばしてよいものかと。
「烏間先生、今日はずいぶんと迷ってばかりいますねぇ。あなたらしくない」
「悪いか」
いつの間にか背後にいた殺せんせーにウザがらみをされ、烏間は青筋を立てた。
「いえいえ、でもね烏間先生」
殺せんせーが指さした方を見ると、鷹岡が渚の背後に立ちあがり鼻息あらく激怒していた。
「このガキ・・・父親同然の俺に刃向かって・・・まぐれの勝ちがそんなに嬉しいか。もう一度勝負だ!今度は油断しねぇ。心も体も全て残らずへし折ってやる」
負けた屈辱で血管が浮き出、目を血走らせ顔中に皺をよせる鷹岡に対して怯える目で見る者は誰もいなかった。
「・・・確かに、次やったら絶対に
本気で僕らを強くしようとしてくれたのは感謝してます。でもごめんなさい、出てってください」
渚はそう言って頭を下げた。
「黙って聞いてりゃ・・・ガキの分際で、大人になんて口を・・・」
鷹岡が顔をよりぐちゃぐちゃにして渚に憎悪を向けていた。それに渚は片足を半歩後ろに引いた。
「先生をしてて一番嬉しい瞬間はね。迷いながら自分が与えた教えに生徒がはっきり答えを出してくれた時です。そして烏間先生、生徒がはっきり出した答えには先生もはっきり応えなくてはなりませんね」
渚に襲い掛かろうとした鷹岡を特急でかけつけた烏間に膝打ちで止められた。あごを強く打ち、寝っ転がされた鷹岡を置き、烏間は生徒たちを見つめた。
「俺の身内が迷惑かけてすまなかった。後のことは心配するな。俺一人で君たちの教官を務められるよう上と交渉する」
「くっ・・・やらせるかそんな事・・・俺が先にかけあって」
「その必要はありませんよ」
ふいに声が聞こえ、校舎の方をみると、そこに浅野理事長が立っていた。
「・・・ご用は?」
「経営者として様子を見に来てみました。新任の先生の手腕に興味があったのでね」
彼が進む道を自然と生徒たちはよけ、浅野理事長は鷹岡の元に歩み膝をついた。手で鷹岡の顎をつかみ、じぃと鷹岡の目を見つめた。
「でもね鷹岡先生、あなたの授業はつまらなかった。教育に恐怖は必要です。一流の教育者は恐怖を巧みに使いこなす。が、暴力でしか恐怖を与えることができないなら・・・その教師は三流以下だ。自分より強い暴力に負けた時点でそれの授業は説得力を完全に失う」
そう評価を下す浅野理事長に鷹岡はガタガタ震えながら歯を鳴らすこともできすにただ怯えることしかできなかった。
浅野理事長はさらさらとメモ帳を下敷きに書き物をし、それを鷹岡の口にズボッと入れた。
「解雇通知です。以後あなたはここで教えることは出来ない。椚ヶ丘中の教師の任命権は
鷹岡は口に入れられた解雇通知をぐしゃぐしゃと噛み飲み込みながら屈辱に震えていた。ガバッと立ちあがると鷹岡はどこかへと去って行った。
「鷹岡クビ・・・」「ってことは今まで通り烏間先生が」
「「「よっしゃあ!」」」
「理事長もたまにはいい事するじゃんよ」
「う・・・うん。あっちの方がよっぽど恐いけどね」
鷹岡に怯える事がなくなったと生徒たちは飛び跳ねて喜んだ。その様子を浅野理事長はただ黙ってジッと見つめ、何も言わずに去って行った。
皆が喜びに舞う中、一人浮かない顔をするマミに殺せんせーがやってきた。
「どうかしましたか?」
「私、不甲斐ないなぁって。渚君はフォローしてくれたけど私がしっかりしてなかったから・・・」
そう自虐的になるマミを殺せんせーはそっと肩に触手を置いた。
「いいですか、巴さん。君は自分がやらねばやらねばといつも思っていますよね。でも、今回みたいに自分とは違う得意分野の持ち主が道を切り開くことがあります。その他人の得意分野に思い切って甘えてみる、というのも大切なことですよ」
殺せんせーはマミの崩れた髪をブラシで解きながらそう語る。
「甘えるということは助けを求めるということです。自分が動けなくて困ったときは遠慮なく仲間を信じましょうね」
ブラシ一本でマミの髪は元のくるくるとしたロールに戻った。マミは静かに頷き生徒の中に戻って行った。入れ替わるように烏間が近寄り殺せんせーに尋ねた。
「聞きたいのだが、例えばお前は「将来は殺し屋になりたい」と渚君が言ったらそれでも迷わずに育てられるのか?」
「答えに迷うでしょうね。ですが、良い教師は迷うものです。本当に自分はベストの答えを教えているのか内心は散々迷いながら生徒の前では毅然として教えなくてはいけない。決して迷いを悟らぬよう堂々と
だからカッコイイんですよ。先生って職業は」
そんな話をしていると中村と倉橋が烏間に話しかけた。
「ところで烏間先生さ。生徒の努力で教官に返り咲いたし・・・なんか臨時報酬あってもいいんじゃない?」
「そーそー。鷹岡先生そういうのだけは充実してたよねー」
生徒にせがまれた烏間は小さくため息をつくと、
「・・・フン、甘いものなど俺は知らん。財布は出すから食いたいものを街でいえ」
そういい、生徒とついでにイリーナも報酬に歓喜した。
「にゅやっ。先生にもその報酬を!」
「えー殺せんせーはどうなの?」
「今回はろくな活躍なかったしな~」
「いやいやいや、烏間先生に教師のやりがいを知ってもらおうと傍観してて「ほっといて行こ行こ烏間先生!」
殺せんせーを無視する倉橋に誘われ、烏間は口元を緩ませて渚の背を叩いた。
迷いながら人を育てる面白さにはまりながら。
「ここ、私のお気に入りよ。ここでおいしいもの食べてあの先生の思い出塗りつぶしましょ」
マミを先頭に店に入り、どこか気だるげな店員が迎え入れた。
「いらっしゃいま・・・せっ!!?えええっ!!?さ、咲笑さーーん!!!緊急事態!エマージェンシー!団体客が来ましたー!!!」
30人近い客の来店に驚愕し、一転大騒ぎする店員を他所に中村は渚をディスプレイの前まで押した。
「ほら、本日のMVP!アンタが一番に選びなさいな」
「えっ、僕はなんでもいい・・・」
「遠慮することないって渚!」
その名前を聞いた店員は足を止めた。
「・・・なぎさ?」
しかし、呼ばれた渚の姿を見てすぐに首を振った。
(ただの同名か。姿も全然違うしなー。それに・・・なぎさちゃんがここにいるわけないか。だってなぎさちゃんは・・・なぎさちゃんは)
ー魔女になったんですからー
書き溜め期間に入るので次回更新はやや遅れます・・・