巴マミは暗殺者   作:百乃綾香

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バイクはググった知識を規約に反しないようにちょっと弄ってます
チキンなので企業名はそのまま出しません


42時間目 轍の時間

何日か前、何気なく教室でバイク雑誌を広げていると、目の前からタコが話しかけて来た。

 

「ほお、「ファルコン」ですか。日本のバイクメーカーの傑作ですよね」

 

少しワクワクした顔でバイクの話を振られ、俺は言葉がでなかった。

 

俺の実家はバイク屋で、チビの時からエンジンやらモーターやらに触れて来た。俺にとって一番身近なものはバイクで、自然と他の乗り物にも興味を持って行った。

 

中学の部活は趣味に見合った鉄道研究部に入った。色んな電車に乗れて楽しかったけど、本命であるバイクについて話せる奴はここにはいなかった。少し浮いていた理由としては俺の見た目に問題があったと思える。

中学から始めたドレッドヘアに着崩した制服といった所謂中学デビューともいえる姿は、元々の厳つい顔つきも相まって部内のオタクたちには恐ろしい存在に思えたのだろう。背伸びしたさに不良になったはいいけど、俺がいるのは進学校。勉強はやらなくてはならなかった。勉強は元々嫌いではなかったけれど、自分の想定よりも高い難易度についていけなくなって、勉強が嫌になってしまった。

 

そんな時、ある男に目がいった。それは周りにあわせて必死になって勉強しているときだった。クラスメイトである寺坂がおもむろに立ちあがった。

 

「どこにいくんだい寺坂君」

「別にどこにいったっていいだろ。授業少しサボったくらいで遅れる事はないだろ」

 

そう言って寺坂は勝手に教室を出て行った。周りの奴らは怪訝な顔で寺坂を見ていたけど、俺にはなぜだかそんな寺坂が輝いて見えていた。

俺が憧れていた不良ムーブそのもので、そんな奴が目の前にいるのがなんだか嬉しかった。

そこから俺は寺坂とつるむことが多くなった。強そうなやつとつるむことで俺も強くなったような気がしていた。二年に上がった時にヤンチャしていた村松とも絡むようになり、そこから俺、寺坂、村松の三人でつるんでばっかりだった。

当然、遊んでばっかだったから成績はみるみるうちに悪くなっていった。悪くなっていく成績直視したくなくてサーキットに通いまくって・・・最終的に俺はE組行きになってしまった。

それでも俺は反省することもなく、授業態度も悪いままだった。

 

4月になって月を爆破した犯人だとかいうやつがいきなり担任になった。そいつを暗殺しろとか意味わかんねー事言われるし、受け入れられるわけがなかった。

奇妙な学園生活が始まって2週間がたつか立たないかという時だった。寺坂がこんな提案をしてきた。

 

「自爆テロを起こして、あのタコを殺そうぜ」

 

一番あのタコに苛立っていた寺坂の提案に俺と村松は困惑した。そんなあぶねーことできるかって。

 

「何も俺がやるわけじゃねーわ。お前らにやらせるきもねーよ。渚を使うんだよ」

 

E組になって寺坂がこのクラスで便利なポジションを得るために狙いを定めたのは渚だった。男のくせに女みてーに貧弱でチビで無茶ぶりも割と答えてくれる渚は俺らにとって都合のいいパシリだった。

そんな関係の渚に自爆テロをやらせる。別に渚を殺すわけではないし、あのうっとおしいタコがいなくなれば清々する。

結果、失敗するわ、俺らが首謀者だとバレて滅茶苦茶怒られるわで散々なものだった。そこから渚は俺らに近づく事はなかったし、俺らも渚に絡むこともなくなった。後、なぜか中村に蹴られた。

 

その何日か後に魔法少女だとかいうファンタジーな出来事に俺らは巻き込まれた。あの魔女とかいう怪物と戦う代わりになんでも願いを一つ叶えてくれるとかなんとか。

寺坂や狭間は興味なさげだったけど、俺は正直気が惹かれていた。

 

バイク文化の復活。

それが俺の野望。

 

バイクの話をしても寺坂も村松も相槌を打つだけで盛り上がったことは一度もなかった。俺の好きな物(バイク)の事で語り合える仲間が欲しかった。

 

「好きなんですか?バイク」

 

タコにそう聞かれて俺はどう答えるべきか迷った。あんな悪い事したにも関わらず、このタコはあんなに悪い事したにも関わらず俺達を無下にしたりせずに他の奴らと平等に扱ってくれた。そんなタコに対して俺は、案外悪う先生じゃないかもしれないと思い始めていた。奴の開く特別授業も楽しかったと原も言っていたし、クラスの雰囲気もどんどん明るくなっていった。

 

「オメーにわかんのかよ」

「わかりますとも。先生も昔はね、バイクに乗って世界をあちこち回ったものです。レンタルバイクでしたけど」

「どこの世界にテメーみたいなバケモンにバイクを貸すレンタル屋があんだよ!あっても非合法のヤベーとこだろ!」

「いいじゃないですかそんなことは」

「ハァ・・・んで、どんなの乗ってたんだよ」

「バカティのキャスターとか好きでしたねぇ。教師になった時に改めて調べてみると会社の歴史もなかなか興味深いものでしたよ」

 

そこから俺はバイク談義で小一時間ぐらい話し込んでいた。こんなに楽しい時間は久々だった。

 

俺は今、自分の部屋で一人物思いにふけっていた。他の家族はそれぞれ用事があって出かけている。

 

中間はあの理事長の妨害のせいで伸びやしなかったけど、一二年のときと比べりゃかなり成績は上がった。不参加(バックレ)決め込んだ球技大会は見事に野球部に勝利してしまった。そん時の楽しいそうなこと。E組が順調であればあるほど寺坂は苛立っていた。最近は俺らに対して八つ当たりも多くなって正直寺坂のそばは居心地が悪かった。

今更仲間に入れてくれって、おこがましいくて言えないけど、あっちの方が楽しそうに思える。この間思い切って村松と一緒に魔女退治見学にいこうと駅前の広場に来てみたけれど、巴に不審がられて引き返してしまった。まだ俺らはいじめっ子グループの悪ガキとしか思われてないみたいだ。しょうがないけど。

 

ふと、下の方から声が聞こえてきた。あれ、もう帰って来たのか。みんな遅くなるって言ってたのに。でも、なんだか聞いたことのない声だ。男の声だからお袋でも姉ちゃんでもねぇ、親父にしては・・・若くね?従業員に新卒がいた気がするけど・・・。

なんとなく下の声が気になって俺は下の階の作業スペースの所に降りることにした。

 

作業スペースのところをこっそり覗くと俺は目を丸くした。

明らかに従業員でもない男5人くらいが店のバイクを物色している。これは・・・強盗か!?最近この辺で泥棒が入ったとか聞いたことがあるような気がするけど、やべぇじゃねぇかこれ。

警察に連絡したいけれど、スマホは上の階に置いてきてしまったし、固定電話はあの作業所内だ。

静かに上るか、と振り返ろうとしたその時だった。

 

「おい!ガキが見ていやがるぞ!」

 

やべぇ見つかった!逃げようと階段に走ろうとしたところ、仲間の一人が廊下の近くにいたようだ。運悪くつかまってしまい、俺は頭をかち割られてしまった。

 

体が崩れて意識が遠のいていく。頭がぼんやりとして熱く感じる。カランと棒状の何かを投げて俺を殴ったやつが離れていく。強盗共がケラケラ笑いながらバイクを物色する声が聞こえる。でも、その声すらどこか遠くに聞こえてくる。

 

俺何もできてないじゃねぇか。

ヘタレなくせに粋がって悪ぶって、他人まで傷つけてまでして得たものは何一つない。

不真面目に過ごしてきたからこうしてみすみす強盗団にやられてバイクも奪われてしまう。

はなっから真面目に訓練してればこんなことにはならなかったのかな・・・。

クソっ、強盗が離れようとしている。いかせたくねぇ、逃がしたくねぇ。せめて、せめて願うなら・・・

 

「アイツらを捕まえてくれ・・・」

 

目の前に白いのが映し出された。俺は朧気な意識でそいつに手を伸ばした。なんでもいいからアイツらを止めてほしくて。

そして意識を失った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「吉田君!吉田君!」

 

なんだか騒がしい声がして目を開けてみると、タコが慌てたような顔をしていた。少しだけだるい体を起こすとタコはホッと安心したようなため息をついた。

 

「あれ・・・なんでタコがここにいんだよ」

「律さんが連絡してくれまして。不審な物音をキャッチしてすぐに私に連絡してくれたのです。それより、家に不審者が入ったそうですが大丈夫ですか吉田君!?ケガしてたりしませんか!?」

 

そう言われて頭のように手をやるといつのまにやら血は止まっているように思えた。あれ、頭殴られてたよな、俺。

 

「いや、大丈夫だけどよ・・・あ!強盗!!奴らどうなったんだ!!?」

「君の家の店に入った強盗ならホラココに」

 

タコの触手が示すほうを見てみると、あの強盗団がグルグルに拘束されて目を回していた。意識失ったあとでなにがあったんだ、これ。

 

「これ、テメーがやったのか?」

 

そう聞くとタコはだんまりとして俺を見つめていた。なにか、答えあぐねているような、戸惑いを感じる。

 

「ところで吉田君、左手のそれは・・・」

 

そう言われて左手をみると巴がしているような指輪が嵌めれらていた。

そういえば意識失う前にキュゥべえが現れたような・・・え、俺契約したのか?それならそうと言えばいいのにアイツどこいきやがったんだ。契約したらほったらかしかよ。どうかしてるぞ。

というか、これやったの俺か?何願ったんだっけ?ぼんやりしてたからあまり覚えてねー。

そんなことを考えているとタコが触手を俺の頭にポンと置いた。

 

「・・・まあ、何はともあれ君が無事でよかった」

 

触手で撫でれられ、俺は心が温かくなったのを感じた。なんとなく気に入らなくて反発していたけど、家族並みに大事にしてくれている。それがたまらなく嬉しかった。

 

「・・・・・・サーセンした」

「何を謝ることがありますか。クラスのみんなと仲良くしてくれればそれでいいのです」

 

長い事反発してたのにニコニコと受け入れてくれている。

 

「あ、そうです。明日君たちに見せたいものがあるので楽しみにしてくださいね」

 

そう言って殺せんせーは去って行った。遠くからサイレンの音が聞こえる。多分律か殺せんせーが通報してくれたのだろう。

これで強盗の件は解決しそうかな。

…あと、もういい加減クラスの奴と仲良くしようかな。受け入れてくれるかはわからないけど大暴れした律とも仲良くしてんだから、臆することはねぇよな…?

 

「・・・って、これ警察になんて説明したらいいんだよ!!」

 

店の倉庫で俺は一人絶叫した。

 

 

 

 

 

殺せんせーは夜空を飛びながら顔を黒く染めていた。それは自分自身に対する怒りだった。

狭間を救えたことで少し慢心してしまったのか、やりたいこと優先で生徒自身に対して一瞬でもないがしろにしてしまったからなのか、生徒を危険な目にあわせてしまった。

吉田のあの態度からいって、間違いなくあの強盗に危害を加えられていた。そして、彼が無事だったのは【契約】したからだろう。多少のケガなら魔法で治せるとのマミも説明していた。

問題は【契約】したことそのものではない。本音からいうと、殺せんせーは魔法少女の契約を歓迎していない。明らかに危険な魔女をし続けなければならない状況にわざわざ自分から首を突っ込んでほしくはないからだ。

しかし、生徒本人が強い意志で契約したのなら殺せんせー自身は何も口出しをしないと決めている。どんな選択であれ、生徒の意思は否定したくない。それが彼が教師になったときに決めたルールだからだ。

しかし、吉田の件はどうだろうか。

彼は契約した自覚があまりなかった。あの状況から推理するならば、頭を殴られた朧げな意識のなかキュゥべえが吉田に契約を持ち掛け、同意も怪しいまま契約を成立させてしまったのだろう。

それが真実ならなんて卑劣なやり口なんだ。ヤクザのやりかたとさほど変わりがない。

しかし、もし契約していなければ最悪生徒を失っていたかもしれない。その可能性がある限り、殺せんせーにはキュゥべえに対して怒る資格もなにもない。彼が無事なことが向こうに対して大儀がある。

おそらくは狭間も似たような状況だった。彼女の契約を止めれたのはスマホを持っていて律が即座に対応できたからにすぎない。

奥田の契約も前原の契約も似たようなものだ。級友の危機を救うために、元カノの命を救うために契約をした。その行動自体は責められるものではない。だからこそ質が悪い。

考えすぎかもしれないが、生徒たちを無理やり契約させるため、危機的な状況を作っているのか?そうだとしたら多少過保護になってでもいいから生徒を守らないといけない。

しかし、そうではなくたまたま危機的な状況を利用しているとしたら?それが自身が原因だとしたら?

そうだとしたらより、生徒を守らねばならない。烏間やイリーナと連携をとり、場合によっては理事長にも説明するべきか。

まずやるべきことは

 

「魔法少女についてもう少し勉強しなくては」

 

殺せんせーはある方向に目をむけた。その目線の先の街、その外れの教会で杏子がポテトチップスをボリボリとむさぼり食べていた。ボロボロになった教会の屋根は崩れ落ちており、そこから三日月がちらりと杏子を覗き込んでいるのだった。

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