鷹岡が赴任してくる数日前の繁華街にて
ああ、居心地が悪ぃ。同じ落ちこぼれだったはずの奴らが目標を見つけて生き生きとしていやがる。
それだけでも腹立たしいのにそれどころか
孤立している、なんて思いたくない。みんなあのタコにいいようにされている。
3年になって腹立つことばかりだ。思い通りにいかない事が多い。何もかも、あのタコのせいだ。あのタコが変なこと言い出したせいでこんなことになっている。あのうさん臭い白ダヌキが俺らに付きまとっているのもタコが原因じゃねぇのか?多分。
それにマホウショウジョの話を聞いてからどうにも吉田と村松の様子がおかしい。あいつら2人とも家が自営業だから色々と思うところがあるからだろうか。なんなら狭間もたまにジッと白ダヌキを見つめることがある。
うさん臭さの塊の白ダヌキに願うとか、絶対ろくでもねーことになるだろう。だけど、そのうさん臭さを大体隣にいる巴が打ち消してしまっている。ただでさえ巴は優等生なわけで、白ダヌキに耳を貸さなくても巴のいうことなら信用してしまう。そんな馬鹿みたいな構図でクラスのやつがホイホイ契約してしまっている。
そんなことを考えながら一人で歩いてると景色が変わった。なんだか薄暗い。
「ちっ・・・こんな時に」
いつ魔女の結界に巻き込まれるかわからないからと、巴から口煩く言われてしぶしぶ持つことにした魔法付きのモデルガンを取り出した。
しかし俺一人で魔女退治をするつもりはない。だれかが来るまでその場で待機するつもりだ。
見学だとかは一回も行ったことないし、下手に動いて犬死はご免だ。どこかに隠れるところはないか探すことにするか。
そう思って少し移動したとき、パシャと水たまりみたいなものを踏んだような音がした。よく見てみると・・・血か?これは?なんで血だまりが・・・
その血だまりを先を辿ってみるとまず目に飛び込んできたのは宙ぶらりんの足だった。かすかに揺れる足先からつたるように血が一滴一滴先程の血だまりに落ちていく。この時点で俺は息がつまりそうだったが、更に目線を上げてすぐに後悔した。
目線の先には腹を掻っ捌かれて中身が空っぽな人間が吊るされている。それも四五人。
「─────っ!!!」
声にならない悲鳴をあげてその場にへたりこんでしまった。あの時のタコとは全く違う恐怖。
吊るされた学ランを来た俺より少し上ぐらいの男たち。奴らの空洞の目で俺を見ているような気がして更に震え上がらせる。
な、なんなんだこれ・・・。こいつら魔女ってやつにやられたのか?ここで死んだらこんな目にあうのか?
「は、早く逃げねぇと」
「アラあなた迷子?」
背後からそう話しかけられ俺は後ろを振り返った。そこにいたのは浮いてるように見える生首。それはなんかの古いドラマのような真っ白い顔に耳まで割けた口、そして額に角を生やしたバケモンだった。光の宿ってない目と目が合い俺は喉が避けそうになりながら絶叫した。
「うわああああああぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
俺は即座に手に持っていたモデルガンをその生首のバケモンに向けた。バケモンは少し驚きながらモデルガンの銃口をなんの躊躇もなく握った。
「ちょちょちょ。ダメだよ、オモチャでも人にこんなもの向けちゃ・・・」
バケモンは諭すように思いのほか優しい声をしながらモデルガンを握りつぶしてしまった。強度がどのくらいかはわからないが、政府制作のモデルガンがそんな柔いとは思えない。つまりはこいつがバカ力も持ち主ということだ。そう理解してしまうと背筋が凍るのを感じる。
そんな俺の状態を知ってか知らずかバケモンは怪しい声で話を続けた。
「私が安全なところまで案内してあげるよ。だから大人しくして。ね?」
「何を言いやがるんだ魔女が!!」
「え、うそ、魔女いるの?ドコドコっ!?っていないけど・・・?」
「テメーのことだスケ〇ヨ野郎!!」
「・・・もしかして魔女って私の事言ってる?大丈夫だよ、私魔女じゃないよ!私、魔法少女だから」
そう魔女みたいなやつは声色だけはにこやかに答えた。その素っ頓狂な答えに俺は呆然と動きを止めるしかなかった。ま、魔法少女?こいつが?
荒くなった息を整えながら奴を観察してみる。生首が浮いているようにみえたのはバカでかいエリザベスカラーをはめているからだ。靴はよくわからないヒールを履いていて腕にもよくわからないものをつけている。それに・・・なんかこいつバカデカくね?落ち着いてみても顔の不気味さは一切かわりがない。
おちついてみてもこいつを信用することは出来そうもない。
「て、てめぇのいうことなんざ信用できるか!」
「あ、信じてくれない・・・。どうしよう、困ったなァ、困ったなァ、困らないかァ。アハ」
そいつは勝手に困って勝手に自己解決して俺に対して笑いかけた。
「でも、君って魔女のこと知ってんだよね?ならここがいかに危険かよく知ってるよね?なら大人しくわたしについて来た方がいいと思わない?」
「ぐ・・・」
魔女にそんな正論を言われるとは思わず俺は黙ってしまった。信用はできないけれど今はいう事を聞くしかないかもしれない。
「・・・わーったよ。ついていきゃいいんだろ」
「うんうんいい子いい子。じゃあ結界の入り口までしゅっぱ~つ!」
しぶしぶながら俺は自称魔法少女だとかいうバケモノについていくことにした。
鼻歌まじりに結界を歩く自称魔法少女は、落ち着いてみると女性らしいフォルムをしていて、それでいて四つん這いで歩いているから後ろを歩いている俺としては目のやり場に困る。それに近くで見てもかがんではいるがかなりタッパがあるようにも感じる。背筋を伸ばせば下手したら俺よりデカい可能性だってある。
言われてみれば人間寄りの見た目だが、巴にこいつの姿を見せたら魔女だと判断するだろう。
「あ、そういえば名前聞いてなかったね。貴方お名前は?」
「は?ただ行きがかりに会っただけのやつに名前教えたくねぇよ」
「それだとあなたが悪い人だった時になくさないといけないから大事なことなんだ。だから名前教えて?」
なくす?何をいってるんだコイツは。・・・まあ、答えないと話も進まないようだし答えとくか。
「・・・寺坂竜馬」
「うんうん、寺坂竜馬・・・うん!リストに載ってなかったってことは貴方は悪い人じゃないってことだ。よかった~」
「なんだよ悪い人って・・・」
リストだの悪い人だのコイツの話はよくわからない。そんな俺の疑問を無視してそいつは話を続けた。
「悪い人はね、悪い事をするんだ。それでいい人が苦しんでしまうの。だから私悪い人をなくす仕事をしているんだ」
人をなくす?亡くすってことか?
「・・・つまり殺し屋ってことか?」
正直殺し屋は割と身近な存在なせいで何気なく口に出してしまった。
思わず出た言葉に目の前のそいつは足を止めた。何かマズイことでもいったのかと身構えたがこちらを振り返って笑いかけた。
「殺す?殺すかァ・・・、まあそう見えても仕方ないよね。でもなくさないと世の中が良くならないからこの仕事辞める気はないよ。あの人たちもなくしてきたところだし」
その言葉を聞いて俺は思わず後ろを振り返った。あの、屠殺されたような学ランの奴らを、目の前のコイツが、殺した。知り合いに殺し屋がいるとはいえ、実際に殺している現場を見たことは一切ない。あれが・・・本物の・・・。
背中に冷や汗が流れる。もし、リストだかなんだかに俺の名前があったら?そう考えると震えが止まらなくなる。通報したほうがいいのか?あれは?
そう思ってスマホを取り出した。しかし電池切れが電波が悪いのか画面が真っ暗なままだ。あの勝手に入ってきた律も静かなわけだ。俺は諦めてそいつに話しかけることにした。思ったよりは話は通じそうな相手でもあるし。
「なあ、わざわざテメーで手を下さなきゃならねぇのかよ?ケーサツに突き出すとか騙されたとかなら弁護士に相談とかいう手もあるぞ」
そう聞くとそいつは困ったように首を傾げた。
「うーん・・・でも警察に通報しても、悪い人はいなくならないよね?警察も弁護士もなくすまではやってくんないから私がなくしてるんだ」
正論っぽく言ってるけど言ってることは何一つ正しくない。何を言ってるのか理解ができねぇ。心の中で頭を抱えているとそいつは何かに気がついたようで俺の方に向き合った。
「・・・あれ?そういえば君って魔女のこと知ってるってことは魔法少女のことも知ってるってことだとね?なんで?」
「別にいいだろ、知り合いにいんだよ」
「ふーん・・・」
そいつは一瞬にして俺の顔面まで迫ると、じぃと見つめて来た。コイツの目を見ていると頭がくらくらしてくる。なんなんだこれは。
「もしかして、キュゥべえに魔法少女になることよう誘われてたりする?」
その言葉に俺は何も言えなかった。けど、それは要らない心配だ。俺は契約する気なんてこれっぽっちもない。
「聞いちゃダメだよ。あんなのの言うことを。竜馬君は竜馬君の人生を歩まないと」
「けっ。誰が聞くかあんなイカサマ白ダヌキの言うことをよ。変な心配してんじゃねぇよ」
「そっかそれなら安心だねって、ついたー!」
雑談しているうちにいつの間にか景色が元にもどっており、無事に結界から出られたというのがわかった。
「じゃあね竜馬君。気を付けて帰ってねー。もう魔女の結界に巻きまれないようにねー」
そういって奴は戻ろうとして、首だけ俺の方を向いた。その不気味さに思わず小さく声があがる。
「竜馬君。そういう態度気をつけようね。悪い人みたいだからさ。リストに載っちゃわないようにね」
そういって奴は結界へと消えて行ってしまった。それと同時に俺は脱力してしりもちをついた。
「な、なんだったんだアイツ・・・」
頭のおかしな奴、と片づけてしまえば楽ではあるが、なんの悪びれもなく人殺しを宣言していた。
あれは・・・通報するべきだろ。そう思って再びスマホを取り出してふと思い至った。
ー人殺しが悪い事なら俺達がやってることって・・・なんだ?ー
いや、あのタコは人間じゃないし、国のお偉いさんが殺してくれてって言ってんだからあのタコ殺したところで罪に問われることはないと思う。
けど、アイツはどうだ?多分殺したのあの学ラン集団だけじゃない。悪い人なら殺していい?そんなこと許されるのか?
あれ、でもタコは地球を壊そうとしている悪い奴で・・・ソイツは殺さなくてはならなくて・・・でも悪い人間は殺すことは良くなくて・・・
なんだか頭がおかしくなりそうだ。
何も考えたくない。そもそも考えて行動すること自体苦手だ。
もう暗殺とかどうでもいい。
誰かが殺ってくれるならそれはそれで構わない。安全圏にいるのことの何が悪いんだ。
俺はこんがらがる思考を強引に解決して元の繁華街を歩きだした。
タコさえいなくなりゃすべて解決する。そうなる簡単は方法はないのだろうか。
そう思いを巡らせながら。
「あの人たちが持ってた本。京都旅行のガイドブックかな?しおりとか表紙に書いてあったけど・・・
でもこれすっごい面白い!あとでシィにもみせてあげよっと」
なんでユゥがしおりをもっているかは暗殺教室3巻のおまけを見てみよう!
そこに答えがあるよ!