「やあ、みんな。僕くぬどんだよ!」
くぬどんだー!
「今日は待ちに待ったプール開き!」
プールだー!わーい!
「本校舎生徒であれば、休日や放課後など開いてる時間であれば自由に使えるよ!」
「E組生徒も
身分を弁えろー!
「ま、お前らE組には小川で水かけが丁度いいけどな!ギャハハハ!!!」
マジザマァ!わーー!!
燦燦と夏の日差しが射す真夏の日。私たちは殺せんせーに連れられて裏山の中を歩いている。水着の上にジャージを着て。さすがに裏山内は木陰が多いので思ったより暑苦しくない。そんな道を歩きながら莉桜さんは殺せんせーに疑問をこぼしていた。
「しかし、中学生にもなって小さな沢で水かけ遊びでもしようかと思っているのかね、殺せんせーは」
「こんな炎天下で本校舎のプール往復するよりかはマシでしょ」
「いやいや、今はまだいい方だよ。そうね・・・アニメで10年後だと暑すぎてプールにすら入れないなんて事態もおきているわけだしね」
「・・・不破さんは何を見ているの・・・?」
例のごとく意味のわからないことを垂れ流す不破さんにツッコミを入れながら殺せんせーについていく中、こんな会話が聞こえて来た。
「渚君、この前凄かったらしいじゃん。見ときゃ良かった。渚君の暗殺」
「本トだよー。カルマ君面倒そうな授業はサボるんだから」
「えーだってあのデブ嫌だったし」
話しているのは先日の鷹岡先生相手に対して行った暗殺のことだ。恐怖政治で私たちを支配しようとしていた鷹岡先生を渚君が退けてしまったのいうものだ。その日はただスゴイとしか思わなかったけれど、日を置いて考えると彼の暗殺の才能がとんでもないものとわかってしまう。
人間であれば誰であっても通用するだろうし、彼なら魔法少女相手だったら敵かもしれない。でも魔女相手には通用しないと思うし、そもそもの話、魔法少女同士の戦いはなるべく避けたい。・・・避けたいからこそ彼の暗殺の才能が適しているかもだけど、少なくともまだ契約していない渚君を巻き込んでもいいものか。
それに、吉田君のこともある。昨日、彼は強盗に襲われて朧げな意識で契約したらしい。彼みたいに生きるか死ぬかの瀬戸際での契約は望ましくない。
吉田君は大して気にしてなさそうだったけど、私は自分が契約した時のことを思い出して気が気じゃない。この前魔女退治見学にやってきていた理由が魔法少女の契約を考えているとかならまだ救いがあるかもしれないけれど・・・。
そんなことを思っていると殺せんせーが立ち止まった。
「つきましたよ、ご覧ください」
そう言われて茂みをわけ進むと、そこには岩で囲まれたプールがそこにあった。
「これぞ、E組専用プールです!」
みんなは目の前の自然でできたプールにテンションが上がり、羽織っていていたジャージを脱ぎ捨ててプールに次々と飛び込んでいった。かくいう私も先ほどまで頭の中で色々と考えていたことを横に置き、舞い上がって一緒に飛び込んだ。
プールではみんな各々楽しく過ごしている。設置されたコースでガチで泳ぐ者、ボール遊びをする者、水かけ遊びと様々だった。
「楽しいけどちょっと憂鬱。泳ぎは苦手だし、水着は体のラインがでるし」
「大丈夫さ茅野。その体もいつかどこかで需要があるさ」
浮き輪に浮きながら愚痴をこぼす茅野さんに岡島君がフォローになってない下衆発言をしていた。それに呆れた目を向けているとトントンと肩を叩かれた。肩を叩いていたのは莉桜さんだった。
「巴ちゃん、私と原ちゃんで潜水対決するから審判してくんない?」
「いいけど・・・原さん不利じゃない?莉桜さんには魔法があるのに」
「魔法は使ったりせんよ。それに原ちゃんから対決の申し出を貰ったわけだし」
「そうそう、たまには羽を伸ばして楽しみたいもの。それにちょっと挑戦したくなったりしてね」
珍しく年相応な態度の原さんの様子を見て私も審判を承諾した。
「では、よーい・・・始め!」
開始の合図をかけたと同時にどこからかピピッと笛の音が聞こえて来た。その笛の音がしたほうを見ると殺せんせーがホイッスルを咥えてしかめっ面でどこかを指さしていた。
「木村君!プールサイドを走ってはいけません!転んだら危ないですよ!」
木村君は戸惑いながら「すんません」と謝罪をした。そこから殺せんせーの指導が続く。
「原さんに中村さん!潜水遊びはほどほどに!長く潜ると溺れたかと心配します!」
「岡島君のカメラも没収!狭間さんも本ばかり読まないで泳ぎなさい!菅谷君、ボディーアートは普通のプールでは入場禁止ですよ!」
と、こんな感じでピーピー言われるものだからみんな呆れた顔で殺せんせーを眺めていた。口に出すとあーだこーだ言われるからテレパシーで不満も出てくるわけで・・・。
『こ・・・小うるせぇ・・・』
『いるよねー、自分が作ったフィールドの中だと王様気分になっちゃう人』
『うん。有り難いのにありがたみが落ちちゃうよな』
そんなことを言われていると事を知ってか知らずか、一方で殺せんせーは上機嫌でホイッスルを警戒に鳴らしていた。
「フルフフフ。景観選びから間取りまで自然を活かした緻密な設計。皆さんにはふさわしく整然と遊んでもらわなくては」
ニヤニヤしながら殺せんせーは己の信念なるものを語っていた。そう思うのは勝手なんだけどそれを口に出すから私たちからぶー垂れるんだけどね。そんな殺せんせーに呆れていると倉橋さんがパッと殺せんせーの元へ近づいてきた。
「カタいこと言わないでよ殺せんせー。水かけちゃえ!!」
「キャア!!」
ニッコニコで倉橋さんが水をかけた瞬間、殺せんせーから甲高い悲鳴が出た。殺せんせーがグググと固いビニールのような音を立てながら縮こまるのを私たちは呆然と見てるしかなかった。その情けない声に水をかけた倉橋さんでさえ困惑している。
あら?もしかして殺せんせー・・・
私の脳内にある案がひらめいた。私はテレパシーを使って片岡さんに話しかけた。
『片岡さん。殺せんせーに水をかけてくれない?』
片岡さんはコクリと頷くと静かに潜り変身する。プール淵の水が竜の形をなして殺せんせーに襲い掛かり、バシャん、と透明な壁みたいなもので弾かれてしまった。殺せんせーの周りにはいつの間にか透明なアクリル板が置かれ、水がかかったところに水滴が垂れている。
「ダメですよ、岡野さん。授業中に魔法を使っては」
「私の魔法をアクリル板扱いするな!!」
殺せんせーが緑のしましま顔で煽っているのを呆れながら見てると片岡さんが水面から上がってきて、今の様子を見て少し悔しそうな顔をしていた。
『ダメだった?』
『ええ、マッハで動けるしね・・・。水が持ち上がって時点でアクリル板即座に用意できるわけよね』
『そっか・・・。せっかく私の魔法が活用できる時来たのにな・・・』
作戦は上手くいかなかったけれど、殺せんせーが水を回避したがっているのはわかった。これは使える弱点だ。
その日の昼休み
私たちは裏山に集まって作戦を練ることにした。
「そういやさ、片岡は今まで試したことなかったのかよ。水殺」
「雨の日に少しだけ試したことあるんだけどね。その時は上手くいかなくて・・・」
「でも、その時は水が弱点、までは把握できてなかったのよね。多少の水くらいは殺せんせーには問題じゃないみたい。でも、今回はいい機会だわ」
「そうだよね!メグの魔法で殺っちゃおう!って言いたいけどさっきは対策されてたよね」
矢田さんに指摘され、私は再び思考を巡らす。殺せんせーは水が自分の弱点であることはバレるのは承知のつもりだったのかもしれない。じゃなかったらあんなプール際に余裕そうに座ってたりしない。あのアクリル板も事前に準備して隠していただろうな。自分から弱点見せびらかしてるって考えると舐められいるようでやっぱりムカつくけど。
「うーん・・・、殺せんせーの油断を誘うためにも水殺は時間をおいてもいいかもしれないわね。それまでにじっくり計画を練りましょ。それには・・・」
私は少し離れた所で見てるある人物の元へと歩み寄った。
「吉田君の協力が必須よ」
自分に振られるとは思っていなかったのか吉田君は面食らったような顔をしていた。
「は、はぁ!?いや、俺は・・・」
「不本意とはいえ契約したんだから他人事ではすまさないんだからね。ほら、来なさい!」
「ま、待てよ!」
吉田君の腕を引っ張ってみんなの輪に連れていく道中で私はふと振り返った。なんとなく心配そうについてくる村松君と止まったまま動きもしない寺坂君。その寺坂君の顔は木々の影になって見えなかったけど、どこか私に対して不穏なものを感じた。何か声かけようかと思ったけれど作戦会議のように専念したくてそのまま吉田君を連れて背中を押した。
「今、殺せんせーが把握してないのは吉田君の固有魔法だけよ。内容次第ではあなたの魔法が要になるかもだし」
「んなこといわれたって俺キュゥべえから何も聞かされてないんだよ。昨日は色々あってバタバタしてたし」
「じゃ今日の魔女退治に来てもらうから。貴方には来てなかった分色々教え込まないと」
「それはいいけどよ・・・」
「吉田君」
急に声をかけられた吉田君は少し肩をビクッとさせてその声の主である原さんに目を向けていた。
小さくため息をついた原さんは少し眉を鋭くして吉田君に歩み寄った。それにタジタジになっている彼の頬に手を振れ、はっきりと力強い声で言った。
「もう、死なないようにね!」
真剣な目の原さんの迫力に押されたのか吉田君は何も言わずコクリと頷いた。
放課後、いつもの駅前の公園に新たに吉田君と見学で村松君が集まった。
少し飲み物を買うとかで発生した休憩時間のことだった。ちょっとした出来事があった。
「ん」
杉野君が何かに気が付いてどこかに向かって手を振っていた。
「今の・・・クラブの人?」
「おう、さっきのは一年の子なんだ。入部時期は同期なんだけどな」
「仲いいんだ」
「まあ、同期とはいえかわいい後輩って思ってるよ」
「そういえば、さやかちゃんから聞いたんだけど、杉野君あの進藤君とも仲良くやってるんだって?」
矢田さんに話を振られて杉野君は嬉しそうに返した。
「そうなんだよ。むしろ去年より今の方がより親しいかもな。美樹といえば、この前進藤から聞いたけど美樹とすれ違ったらしくてよ、そん時にすんげぇ睨まれたんだってさ」
「さやかちゃん根に持ってるね・・・」
「根に持つ?どういうことだよ」
矢田さんは球技大会前にあったことを話すと気まずそうに「見られてたのか」と笑っていた。
「そんときは、まあ、嫌な気持ちになったはなったけどよ。もう球技大会も終わったし水に流したよ。今はたまに立ち話ぐらいはしてるぜ。美樹の話はラインで聞いたけどな」
「あ、ラインつながってるんだ」
「まあ、最近な。個別チャット作ってそこで。もちろん暗殺の話はしてねーよ」
「進藤君も私らがE組だからってあんな態度とったわけで、2年の時はかなりいい子だったんだよね」
「それも理事長の洗脳の影響かもな。本来はどんな奴にも分け隔てなく接せれる奴なはずなのに」
元B組の面々で進藤君についてなんとなく話題にする。そういえば進藤君2年の時に力仕事をよく快く引き受けてたわね。これといった下心なしで。野球の腕だけでモテてるだけじゃないのね。
そんな話をしている時だった。
「あれ?めぐめぐじゃん」
片岡さんの背中越しに聞いたことのある声が聞こえて来た。
「・・・や、心菜」
多川さんだ。多川さんは少しくねくねして片岡さんに近づいて媚びたような声で話しかけた。その片岡さんは気まずそうに眼をそむけて、苦笑いをしながら返事をしていた。
「こんなところで会うなんてぐうぜーん♪今日用事っていってたじゃーん、どしたの?」
彼女は目をウルウルさせて上目遣いで片岡さんの顔を覗いていた。片岡さんはうん・・・と少し暗く返事をして話を続けた。
「まあ、みんなでいきたいとこあってね、うん、また今度集まろう・・・ね。だから、今日は・・・ゴメン」
「ふぅん・・・」
多川さんは何かが気に入らないような声をした後、
「ま、いっか。私も友達と遊ぶ約束だし?別にいいけど?今度の週末彼ピたちと川遊びにいくんだ♪土産話楽しみにしててね♪」
その話を聞いた途端片岡さんの顔色は一気に変わり、血相を変えて多川さんに端を発した。
「!か、川は流れが速いから注意してよね!言ったようにプールとは違うんだからさ」
「分かってる、分かってるって。うん、じゃーねーめぐめぐ♪」
そういって彼女は手を振ってどこかへと去ってしまった。それを見届けると片岡さんははぁと肩を落としてため息をついていた。そういえば彼女、よく片岡さんとくっついていたけど、何かあったのかしら。
「ほんっとなんの用だったんだよあのぶりっ子ヤロー。自慢しに来たのかよ」
その様子を見ていた村松君が悪態をつきながら多川さんを睨みつけていた。片岡さんはそんな村松君に対して多川さんを庇うように説教を始めた。
「ちょっと!そういう態度を女の子に対してしないの!」
「いいだろ別に。本人どっかいっちまったいしよ」
片岡さんに叱られた村松君は面倒くさそうに言い返した。それでも村松君の不満は続いていた。
「それに俺、元々あの女嫌いなんだよ。イケメンに媚びへつらって俺みてーな冴えない男には態度悪いしよ」
「それは村松君の態度が良くないからじゃないの?」
「俺のせいだっていうのかよお前!」
「まあまあ」
村松君を押さえながらも私はテレパシーで一方的に彼に話をした。
『私も正直彼女苦手だから落ち着いて。というかこんなところで喧嘩しないの』
それを聞いた村松君は少し落ち着いたようだった。しかめっ面の片岡さんから顔を背けつつ、わりぃと返事をしていた。
2年の頃、ちょっとカッコイイとウワサされていた当時3年の先輩にしつこく言い寄られていた時、多川さんがやってきて先輩に話かけて来た。助けに入ったのかと思ったのだけれど、多川さんは私の事は見えてないかのように先輩に言い寄っていた。けれど、その先輩は多川さんに興味がなかったようで適当にあしらわれていた。その隙に逃げ出して教室に戻ったはいいけど問題はそのあとだった。
あの後に呼びだれてあの先輩に近づくなだの色目使うなだのなんだの詰め寄らた。正直私はあの先輩に興味がないから気にするなといったところ、男っ気ないものねと余計なことを言われてそれ以来話してはいない。
正直からみはそれだけ。あの時は魔女退治に専念していたこともあって孤立していたから校内で特別親しい人も逆に絶交状態の人もいなかった。
だからこそE組にきてしまったのかもしれない。
でも、そんなことはどうでもいいんだ。今のやり取りの間に飲み物を買っていた子も戻ってきて既に本日の稼働メンバーがそろっていた。私はそれを確認すると号令をかけることにした。
「それじゃあみんな集まったわね。魔女退治行くわよ!」
私が声をかけるとみんなは頷いてそして軽快な返事をした。その返事に私は少し喜びを感じた。日を追うごとにクラスが明るくなっている。今まで距離を取っていた2人も加わってくれているのがまた喜ばしい。
見学に来てくれなくてもいいから寺坂君もクラスの一員として関わってくれたらいいんだけどな。そんなおせっかいを考えてしまった。
寺坂は以前よりも増して苛立ちを覚えていた。
お昼休みの作戦会議で、寺坂は吉田と村松に行くな、と声をかけようとした。しかし、吉田は自分に目もくれずに引っ張られてしまい、村松も頼まれもしないでついていった。
2人が自分と距離を取ろうとしているのが今回でハッキリと実感してしまった。そんなこと認めたくないのに。
ついこないだまでつるんでいたのに、ここ最近はめっきり減っている。狭間も今はクラスの女子のラインの方を見てる気がする。もちろん推測であり、寺坂にスマホを監視する趣味などないのだが。
あのタコさえいなくなってくれたら・・・
そんなことを考えながら歩いていると後ろから「やあ」と声をかけられた。その声は低く渋めの声だった。少なくともあのきな臭い妖精の声ではない。それと昨日の不気味な女の声でもない。
寺坂が振り向くとそこにいたのは、白装束に身を包んだ男だった。
「え・・・おめぇは確か・・・シロ?」
名前を呼ばれたシロは不敵そうに拳を口元に持っていきながら微笑んだのだった。