村松君推しです
なのでというわけではなく滅茶苦茶長くなりました。
「そしてワルプルギスの廻天が2026年2月に公開だよ!楽しみだね」
「2025年冬って言ってませんでした?」
「2025年度だよ、いろはちゃん」
「そんなことどこにも「年度、だから延期してない。イイネ」
「はい・・・楽しみなのは変わりませんし」
不気味な風車だらけの光景からビルの建設現場へとかわり、無事に魔女退治が終わったと認識できる。
初陣だった吉田は柄にもなく腰を抜かしてへたり込み上の空状態になっていた。
「こ、怖かった・・・」
「今日のは割と弱い方だったわよ。これぐらいでヘタレてたら倒せるものも倒せないわ!ほら立って吉田君。まだまだ貴方には教えなきゃいけないことあるんだから」
「勘弁してくれや・・・」
「貴女の武器ってバイクに変形できるメイスでしょ?他とはまた戦い方変わるわけだし、まだ逃がさないからね」
巴はちょっと鼻息荒く吉田に詰め寄り、これがあーだ、あれがどうこうだの語っている。後ろ姿しか見えないからわからねぇけど、その後ろ姿からキラキラとしたオーラが溢れていた。
さっきの魔女の結界内で吉田のバイクのケツに乗りながら銃を撃ち込んでいたんだが、そのときすごくワクワクとした表情を浮かべてた。
そん時「一度でいいからバイクの後ろに乗りながら銃を展開してみたかったのよ~」と恍惚に話していてどう反応していいやら。
わりと巴って形から入るタイプというか・・・ミーハーなんだな。
そんなやりとりを眺めていると視線を感じた。振り返ると杉野がしかめっ面で俺の方を睨みつけている。
「なんだよ・・・」
俺が睨みかえると杉野は「いや」と気まずそうに返事をすると
「お前らって案外とっつきやすいんだなっておもってよ」
「それの何がワリーんだよ」
「悪いとはいってねーよ。ただ、2年のときは二人ともヤンチャしていてクラスで浮いていたからなんか意外だなってな」
杉野にそう笑いかけられると怒るに怒れない。そういや杉野って2年のときの同級だったか。クラスで誰とでも仲良くなれるやつになんとなく避けられてるなとは思っていたけど、俺としては寺坂や吉田とつるんでいた方が居心地が良かったから特に気にもしてなかった。
それが今じゃ近くで何の蟠りもなく喋っている。切り替えがはえーとは思うけどこういうのも悪くはないだろう。
それに・・・
俺はスマホの画面を見た。画面には寺坂が自分らのグループで返事が遅いことに憤慨しているメッセージが表示されている。
ここ最近の寺坂は常に不機嫌だ。クラスが楽しそうであればあるほどイライラして俺らにあたり散らしてくる。
寺坂とつきあうのがだんだんしんどくなって俺は吉田と狭間に別グループの作成を提案した。案外にもすんなりと承諾され、寺坂が元々のグループにメッセージを送る度にどうするか話したりしている。
つきあうのがしんどいとはいえ寺坂との仲を完全に切りたくはない。あれはあれでいいところもあるわけだし、恩だってある。・・・でもちょっと限界だ。
クラスと距離を取っていた時と今とでは比べ物にならないくらいには心地よい。
それにあのタコ・・・殺せんせーだって悪くはない。吉田から評判を聞いたヌルヌル強化学習はとても分かりやすく、模試も今までで一番手応えを感じた。
このクラスの一員として過ごすことのなんと楽しい事か。寺坂も本当は群れるのも嫌いじゃないのにこじらせて孤立を深めている。
どうにかしたいんだけどなぁ・・・。
「吉田も契約しちまった以上は他人ごとじゃすまねーべ。いい機会だから俺も見学しようかなってよ」
「ふーん・・・。ま、これからはしっかりクラスの一員として働いてもらうからね」
「へーい。片岡に言わなくてもわかってるわ」
「ならいいけど」
片岡のおせっかいにすこし苛立ちながら返事をした。吉田はというと巴のヒートアップした解説に帰りたそうにしていた。俺は助けるつもりはない。吉田を放置する形で解散となり、俺はそのまま帰路へと立つことにした。
しかし、吉田も契約したのか・・・。事故みたいなもんだけれども。
やっぱ、俺も契約しようかな。
願いはほぼ決まっている。俺の実家のラーメン屋をどうにかしてほしいって願おうかと思っている。もちろんその文面そのまんま願うつもりはない。というか親父の頑固をどうにかしたいとか願おうかと遠回しに聞いたら巴からすごく叱られた。
今の松来軒には危機とかなにもない。平穏といってもいい。だけど俺にとっては不満だらけだ。うちのラーメンはマズイことで有名だ。メインのラーメンだけじゃない。チャーハンも餃子もクソマズイ。
それなのに中華だけでなくバカもみたいに手当たり次第にいろんな料理に手を付けて味がちっとも安定しない。せめてラーメンぐらいは味を調えろといっても子供の戯言だと耳を貸そうともしない。
このままじゃウチはダメになってしまう。そんな時にであったのがあのキュゥべえというやつだ。
なんでも願いが叶うだなんて文字通り願ったり叶ったりだ。でもその場で願わなかったのには理由がある。
一つは代償として戦うことになる魔女の存在が恐ろしかったこと。正直最初のあの化け物に怯えてしまい怖気づいてしまっていた。さっきの魔女だってマシになったとはいえやはり怖かった。
もう一つは寺坂だ。あの日、解散した時に寺坂から巴は信用するなだとあの白ダヌキは無理だの散々にこき下ろしていた。だけど、その時に言った「願い一回叶えてその後はただ働きとか割にあわねーだろ」という言葉に概ね納得しその時は契約を断念することにしたのだった。
でもそれでも俺としては諦めきれなくてこっそり巴に色々聞いたりしていたけど・・・
そんなこと考えていたら家のほうについていた。店の扉を開けるとお袋が出迎えてくれた。店は開いてはいるけどまだ客は来ていなさそうだった。
「おかえりー。さっさと着替えて店の手伝いしちゃいなさい」
「へーい」
そう言われて俺は適当に返事をしてふと店の様子を眺めてみた。
ガランとした若干薄汚れた店。おいしそうにもまずそうにも思わないスープの香り。まるでまとまりのないメニューの数々。
お世辞にも魅力を感じるとは思えない店。もし潰れたとしても惜しんでくれる人なのいるのか不安になってしまう。
それがいいとはいうけれど、どうしても焦燥にかられる。俺がどうにかすべきなのだろうか・・・。
次の日
登校してみると吉田が机に突っ伏して倒れていた。俺はからかい気味に吉田を揺すって起こしてみた。
「吉田?大丈夫か?」
吉田は俺に抵抗したり怒ったりすることなく小さく「村松か・・・」と言葉を発した。
「巴に戦略ノートをPDFで送られて・・・夜通しで解説させられた・・・。まじきちぃ・・・」
「そりゃお疲れ様だな・・・」
後ろを振り返ってみてみると、その指導をした巴はなぜだか得意げな顔でこちらを見ている。
「おめぇ、なんでそんなイキイキとしてるんだよ」
「え?そう見える?別にみんなにやってることだけど?」
「てかどんくらいの量を渡したんだよ」
「えっと・・・ノート20冊以上はあったような」
「
「心外!!一緒にしないで!!」
戦略を学ぶのは大事だと吉田を巻き込んで説教をくらい、朝から少しへばってしまった。狭間は気配消して俺達を嘲笑ってみてるし、他の奴らも笑っていやがる。話を聞いてたタコは「先生の何がダメなんですか~」と俺と巴に触手を絡めながらダルがらみしてきやがった。
腹立つ、けどクラスに居づらいとは思わない。なんだかんだ仲良くやるのが楽しくてしゃーない。
・・・そういや今日は寺坂登校してねーんだな。別に珍しいことでもねーんだけどここ最近の様子を考えると変に引っ込みがつかなくて居場所がないとか思ってんのか?
◆
放課後の教室
「律さん、どうですか?何か気になるものは見つかりましたか?」
「いえ、何も。どうにも魔法少女に関する情報が不自然なほどに引っかかってきませんでした」
「ふぅむ・・・。キュゥべえが情報規制しているのか、願いが原因でこちらには知れないのか・・・。佐倉さんに聞いてみても何も知らないようでしたし・・・」
「どうしますか?殺せんせー」
「相手の力量がまるで見えてこない。まあ、大人に見えてないわけなんですが。・・・生徒に何か不審な動きがあればすぐに私に伝えてくれますかね?律さん」
「はい、了解しました」
そのやりとりをジッと見つめる小さな獣のような影がそこにあった。
そしてその影は音もなくスゥと消えてしまったのだった。
◆
次の日の事
グースカと寝ているとスマホから呼び出し音が鳴りだした。眠たい目を擦って出てみると寺坂からだった。
「今すぐに学校の裏山に来い!いいな!」
俺の返事も聞かずに電話は切れ、俺は言葉も出なかった。というかまだ6時になったばっかだというのにこんな時間に学校ってどういう風の吹き回しだ?
俺は深く息を吐いて例のグループにチャットを送った。既読は1しかつかず、ほどなくして吉田から返事が送られた。狭間は・・・寝てるなこれは。
「・・・まあ、ここでブッチしても後がメンドーだし・・・行こうかと思うわ」
「そっか、なら俺もいくべ」
そう返信をしておいて俺は着替えをさっさと済ませ、カバンをかかえて下へと降りて行った。そこでは親父が昼の下ごしらえをしている。ラーメンの用意ではなく、ガパオライスの用意だ。親父曰く女性をターゲットにするとかいっていたが注文が入ったところなんてほぼない。注文が入ったとしても好奇心で注文したおっさんとかぐらいしかない。マーケティングとかよくわからないけど親父の戦略は根本的に間違っている。ズレにズレまくったメニューを作って誰からも注文されずに残飯として捨てる。なんてことは数多い。流石に全部捨てる訳もなくだいたいは朝食に回したり俺や弟の弁当のおかずになってたりはするけど。
「お、拓哉。もう学校いくのか?」
「ああ、いってくら」
なんとなくぶっきらぼうに返事をして学校へ足早に進んでいく。親父は鼻歌交じりに仕込みを再開していた。昨日もあんだけ仕込んでおいといて来客は15組ほど。夜だけとはいえこれでよくやっていけるものだ。
いつつぶれてもおかしくない、なんて周りからよく言われてきた。跡継ぎのお前も大変だと常連のおっさんに頭を撫でられたことが何度もある。その度になんだか虚しいというか、嫌な気持ちが俺に芽生えていた。
悔しかったのかな…。つぶれてほしくないんだよな、やっぱ・・・。
そんなことを考えながら学校の校舎へとたどり着いた。道中で吉田と合流し校舎の裏手に回ると寺坂がまちかまえていた。
「おせぇぞお前ら。ついてこい」
それだけいって寺坂は裏山へとズカズカ入って行く。俺と吉田も疑問に思いつつそれに続いた。草木をかきわけて進んだ先にあったのは、例のプールだった。
ラインでプールに関して気に入らねぇだのなんだの切れ散らかしていたのにどういう風の吹きまわしだ?
「プール?こんな朝早くから泳ぐのかよ」
「は?ちげぇよ」
俺からの疑問に鼻から笑い、返事として出た言葉に俺らは耳を疑った。
「このプールを滅茶苦茶にしてやろうぜ」
その言葉に俺は呆れ、吉田は寺坂に苦言を呈した。
「はぁ?何いってんだよ。そんなことして何になるんだよ」
「何って・・・あのタコをギャフンと言わすんだよ!」
寺坂は俺らからどうこう言う間もなくどこかから持って来たのか、バットを振り下ろしてプール脇に置かれていたサマーベンチを叩き壊してしまった。ベンチは木くずと化し、それを見て寺坂は少し満足気に笑っていた。
「あー!お前ついに・・・」
「うるせぇ。お前らも共犯だよ。ほらジューズ持って来たからこの中に捨ててやろうぜ」
缶ジュースを投げ渡されて俺は困惑した顔で吉田と顔を見合っていた。
今更こんなことしてなんの意味があるんだろうか。
俺らが黙ってつっ立っている間に寺坂はどこにそんなやる気があるのかどかどかとプールの破壊行動をしていた。雑誌やらなんやらを投げ捨てプールコースの敷居を引きちぎったりとやりたい放題だ。
「てめぇら何吊っ立ってんだよ!!」
寺坂に怒鳴られ、仕方ないので俺と吉田は渋々プールの破壊行動に参加することにした。とかいってもさっきの缶ジュースを捨てるだけだが。
数十分して満足したのか、寺坂は滅茶苦茶にしたプールを背に教室へと戻って行った。俺と吉田は少しモヤモヤした気持ちを抱えたまま教室へと戻った。後ろめたい気持ちで教室で過ごしているとビッチが教室に入ってきた。ずかずかと進んで既に登校していた巴の腕をつかむと引きずるように教室の外へと連れ出していった。
「新作水着の撮影会するわよ!マミ、アンタも付き合いなさい!」
「待ってください!それはいいですけどなんで私まで!」
「マミのリボンで拘束してもっといやらしくするために決まってるでしょ」
「お断りします!」
「あ、もしかしてリボンでヒモビキニでもしたかった?」
「そんなわけありません!」
なんて阿呆なやりとりなんだ。卑猥な漫才はいいがあのビッチ、水着撮影会とか言ってたな。岡島もほくほくした顔でカメラ抱えてたし。
・・・まずくないか?水着撮影ってことはプールで撮影するってことだろ?前の席の吉田も同じように冷や汗をかき、一緒に寺坂の方に視線を向ける。寺坂はなんでもないというようにニヤニヤしたまま黙っていた。
目的の読めない寺坂にどことない不安を感じていると、廊下を慌ただしく走る音が聞こえてきて乱暴に扉が開かれた。開いたのは撮影係であろう岡島だった。
「おい皆来てくれ!プールが大変だ!!」
岡島の呼びかけにみんなも何かがあったのを察してプールへと動いていった。俺らは何があったのか分かってはいるがここにとどまるわけにもいかずついていく。出ていく中、寺坂から声をかけられた。
「いいか?犯人について聞かれてもぜってー自白すんじゃねーぞ。しらばっくれるんだ。いいな!」
そういって寺坂はズカズカと教室を出て行った。確かに言いずらいんだけれどもああまでいうのはなんだか不自然だ。そんなことを気にしている場合じゃないな、と俺達は速足でプールへと向かっていった。
向かってみると案の定プールが滅茶苦茶にされた現場があった。
「ゴミまで捨ててひどい・・・誰がこんなことを・・・」
滅茶苦茶されたプールにショックを受ける一同
俺と吉田が罪悪感で目を反らしている中、寺坂は罪悪感を微塵も感じていないようだった。
寺坂が俺らに向かって目線で合図を送っている。
しゃーない、誤魔化すか。
「あーあー・・・こりゃ大変だ」
「ま、いーんじゃね?プールとかめんどいし」
渚が意味ありげな目で俺らを見ている。わりと目ざといやつだし、渚じゃなくてもわかっているやつはいるだろうけど。それがわかっているのかいないのか寺坂は渚に向かって睨みつけて胸倉をつかんだ。
「ンだよ渚。何見てんだよ。まさか・・・俺らが犯人とか疑ってんのか?くだらねーぞ、その考え」
「まったくです。犯人探しなどくだらないのでやらなくていい」
どこから現れたのか、タコがやってきた。何をしに来たと思えばあっという間に滅茶苦茶にしたプールを元の通りにしてやってしまった。
「はい、これでもとどおり!いつもどおり遊んでください」
クラスの奴らはさっきまでのことはなかったかのようにプールサイドで遊びはじめきゃいきゃいと騒ぎ始めていた。それと反対に寺坂は見るからに盛り下がり、俺と吉田も呆れながらもどこか追及されないことに安堵もしていた。
さっきまで教室にいなかったカルマが水鉄砲を持ち込んでタコに発射して楽しんでいる。
「ちっ・・・」
その様子を見て寺坂は更に苛立った顔をしてその場から去っていった。反抗したところであのタコには何にも利かない。それは寺坂自身わかっているはずだ。
追いかけようとしたが、今日のあれこれでなんだか億劫な気持ちなりやめてしまった。吉田も特にプール破壊に参加していない狭間も追いかけてなどいなかった。
◆
「寺坂の様子が変?」
「・・・うーん・・・元々あの3人は勉強も暗殺も積極的な方じゃなかったけど、特に彼が苛立ってるっていうか・・・プールを壊したのも主犯は多分寺坂君だし」
「ほっとけよ。いじめっ子で通してきたアイツ的にはおもしろくねーんだろ。あの2人もしぶしぶつきあったんだろうし、本トなんなんだよアイツ」
「ま、殺していい教室なんて、楽しまない方がもったいないとは思うけどね~」
◆
昼休み、ずっと不機嫌だった寺坂がしかめっ面のまま教室へ出て行った。今朝からのあれこれで一言いってやろうと追いかけようと廊下を出た所、タコに呼び止められた。
「村松君、ちょっといいですか?この前の模試の結果が届きましたよ」
「あ、わりぃ。俺急いでっから」
「まあ、詳しい話は後からでいいので受け取るだけ受け取ってください」
そういってタコは細長い紙を俺に手渡してこっそりと耳打ちをした。
「ヌルヌルの成果がでましたね。この調子で勉強を続けていけばよい結果を得られますよ」
その言葉が嬉しくて少し立ち止まって、紙に書かれている結果を見てみた。
点数はどの教科も平均点より上。志望校判定もAかB。過去最高といっていい結果だ。やっぱヌルヌル行っててよかったわ。
やっぱりタコ・・・殺せんせーに反抗したって意味も利益もない。アイツもこっちにくりゃいいのに。
校舎裏へと回ってみるとやはり寺坂がそこに座り込んでいた。今朝の威勢はどこへやらどんよりとした顔で地面を見つめていた。よ、と手を振るとそれに気づいた寺坂はこちらを見つめたが、何もアクションをせずに地面をまた見つめていた。小さくため息を吐きつつ俺は寺坂の脇に立って俺の思いを話してみた。
「なぁ寺坂よぉ。ちょっと考え方変えねーか?お前の提案で一緒にプールを壊したけどよ、見ての通りあのタコには嫌がらせにもなってねーし。クラスの奴らと距離置いても俺らにもう得ねぇしよ」
寺坂は何もいわない。どうしたもんかと考えてみると代わりに俺の腰の方に指をさしてきた。
「村松・・・なんだそのポケットは」
やべっ、と俺は思ったが、この際だとさっき貰った模試の結果を見せることにした。以前、気になっていたヌルヌル強化学習に参加したおかげで模試が最高の順位を得られたことも報告した。でも、寺坂は羨ましがるどころかぶちぎれていた。
「てめ、あの放課後ヌルヌル
「いやでもヌルヌルすんのとヌルヌルしないじゃ大違い「ヌルヌルうるせー!!」
ヌルヌル語りを大声でキャンセルされ、俺は背中を木の幹に強く叩きつけられた。声にならない痛みが一瞬で広がる。寺坂は俺を睨みつけた。その目はどこか逆恨みのような目線だ。
「ケッ、成績ほしさに日和やがって裏切りモンが!!」
そういって寺坂は立ち去って行った。
な、なんなんだよアイツ!そう心の中で思いながら奴を睨みつける。てか背中いってぇ・・・。
俺の中で寺坂への気持ちが醒めていく。背中をさすりながら立ちあがって言葉にならない言葉を小さく地面にぶつけた。少し気持ちが落ち着いたので教室へと戻ろうとすると足早に玄関から出ていく寺坂とすれ違った。俺とばったり目が合い、「ちっ」と舌打ちをして何も言わずに校舎からでていった。
本当になんだったんだアイツは・・・と呆れて教室へ入ってみると、なんだか室内が良くない空気に包まれている。
「吉田、何があったんだよ」
「あ、村松聞いてくれや!」
かなり怒り心頭な吉田の話によると殺せんせーがプールの廃材を使った木造バイクを自慢していたところ、何が気に入らなかったのかそのバイクを蹴り倒して壊してしまったらしい。それを批難していたらスプレー缶を取り出して煙をまき散らすといった問題を行為をやり、逆切れの末にカルマにちょっかいをかけられて教室を出て行った、ということがあったようだ。
「はぁ?ますます意味わかんねーなアイツ」
「だろ?いくら気に入らないからってあそこまですることねーのに」
クラスの奴らから感じる空気は呆れや嫌悪といったマイナスの空気ばかりだった。
そういや殺せんせーはどう思っているのだろうかと目線をやると別に怒るでもなくただ黙っているだけだった。いつも以上に表情が読めず、俺は首を傾げた。まあ、あまり引きずらないタコだから不自然でもないか。
その日の夜
店も閉店時間となり俺は部屋の中で出された課題をこなしていた。今日も客はまばらだった。親父が意気揚々に仕込んだ食材は半分無駄になってしまった。よくこんな経営体制で破産しないものだ。というか息子を私立に入れられるし、すぐにやめたけどわりといろんな習い事を色々やっては来てはいる。ウチ、わりと金に余裕あるのか?なら、親父が危機感無くこの店をやっていけるのも頷ける。だからといって今のような状態でいいだなんて思えない。
このお店を今すぐにでもどうにかしたい。その思いは誰になんと言われようと変わることはない。
契約・・・なぁ。
「何かお悩みのようだね。村松拓哉」
窓から声をかけられ、少しギョっとして目を向けるとそこには白い生き物、キュゥべえが座っていた。
「お前・・・いつの間にいたんだよ」
「まあまあ、でも僕に用があるんじゃないのかい?」
こいつ・・・神通力でも持ってるのか?まあ、テレパシー使えんだから当たり前か。
「何も迷うことはない。君が契約さえすればどんな願いだって叶えられる。店を立て直すことだって可能だ」
「ウチはまだ潰れてねぇ!!!」
「悪かったよ」
はぁとため息をついて椅子に深く腰掛けた。てかコイツから見ても潰れそうなんだろうな。どうにかしろと幼いころに泣きつくと親父からは子供にはこの店の良さがわからん、としか返ってこなかった。・・・近所の大人からいわれたこともあるんだけど、と当時の俺は言いたかったが無駄だとおもって飲み込んでしまった。
金銭的な余裕はあるのはなんとなくわかる。急ぐようなことでもない。わかってる、わかってはいるんだけど・・・
「でも君はこの店の将来を憂いているんだろう?なら悪い話でもないとおもうけどね」
「それは・・・まあ、そうだけどな」
・・・やっぱり諦めきれない。
殺せんせーには焦らなくていい、地道にスキルを磨いていけとはいわれてっけど、ここが潰れてしまっては意味がないと思っている。
俺が継ぎたいのは、経営したいのはこの松来軒なんだ。大きくするのはそれこそ自力で身に着けるスキルを活かすつもりだ。
でも、そのスキルを活かす場は今の俺じゃどうしようもない。いつ潰れるか怯えるよりかはせめて地盤を固めるために願うってのも・・・ありじゃねぇかな?
それに、契約を否定していた寺坂の言うことを聞いて今までいいことなんてあったか?少なくとも3年になってからは一つもない。
だったら・・・
「キュゥべえ、俺契約するよ」
小さな赤い目はじっと俺を見つめている。そのどこか不気味な目に吸い込まれそうになるが、ここで引くつもりはない。
「そうか、じゃあ願いを言ってくれるかい?」
少し震えそうになる声を押さえて俺ははっきりと言葉を発した。
「ウチの店を潰れないようにしてくれ!」
同時刻、E組校舎の裏山に一人の影がそこにあった。その影は一斗缶を抱え獣道をズカズカと進んでいる。
「村松も吉田も裏切りやがって・・・」
その影、寺坂がひがみをこめて呟きながらたどり着いたのは小川だった。その脇に一斗缶を蹴り倒し、その中身がとくとくと小川に流れていく。
寺坂は今日一日のことを思い出していた。
ある者の依頼により吉田と村松を呼び出してプールを破壊。しかしあのタコが即座に直してしまい嫌がらせにもならなかった。
村松はいつのまにやら共にバックレようといっていた補習に参加し、成績が上がったと上機嫌で報告。
吉田はあろうことかタコと仲良さそうにバイクの話で盛り上がり、クラスの連中とも和やかにしていた。
マホウショウジョの事柄はなんとなく気にいらないが、寺坂にとって更に気にいらないのがクラスが殺せんせーと呼ぶ怪物だった。あのタコのせいで寺坂にとって心地よい場所が居心地の悪い場所へと変わってしまった。
腹が立つ、本当に腹が立つ。
だから・・・・・・・・・シロに協力することにした。
「ご苦労様」
シロは手袋越しに柏手を鳴らし寺坂を労った。
「プールの破壊、薬剤散布、薬剤混入。君のおかげで効率よく準備ができた。はい、報酬の十万円。また次も頼むよ」
シロから手渡れた現金を手にし寺坂はほくそ笑んだ。
ここの方が心地良いと