渚君たちに魔法少女の話をした数日後、お昼休みの裏山で不破さんにも同じ様な説明をした。
「へぇ。杉野君断っちゃったんだ」
「ああ、あの教師の助言で吹っ切れたらしい」
杉野君がどんな願い事をしようとしていたのかは知らないけど、自力で解決できるのならそれにこしたことはない。
「悩みが解決できたのならいいじゃない。でも男の子の魔法少女は見てみたかったけど」
「男子の変身モノはだいたいフリフリのフリルを着せられるギャグにしかならないわよ」
「よくわからないけど・・・それはちょっと見たくないわね」
「変身した時の衣装は僕らが決めれることではない。基本君たちの意思が反映されているけど、たまに露出が高めの服になって嫌がる子もいる。なんでそうなるかはよくわからないけどね」
露出高めか・・・。ちょっと嫌だな。私の服はそんなことなくって良かった。・・・スカートが短めなのは許容範囲よ。かわいいし。
「つまり・・・キャラデザの人の趣味がそうさせているってことね」
「不破さん?」
「あー、私たちの場合は原作にあるか、これ書いてる人の趣味かの二択よねー」
「不破さん?さっきから何言ってるの?」
と、よくわからない話に脱線しそうになっていると、近くで声が聞こえた。
「いたいた」
「今日のおやつは北極の氷でかき氷だとよ」
「コンビニ感覚で北極いくよなあのタコ」
磯貝君たちだ。そう言えば朝に合同暗殺の話をしていたわね。私も片岡さんから誘われていたけど、不破さんに話がしたいからって断っちゃった。
「行くぞ。百億円は山分けだ!」
磯貝君の合図とともに5人の生徒が殺せんせーの元へ駆け出した。
「殺せんせー、俺にもかき氷食わせてよ!」
まるで子犬かのようにやってくる彼らに感涙していた。・・・ちょっとチョロい気がしないわけでもない。ちょっとぎこちない笑顔と共に殺せんせーに近づき、一斉にナイフを突き立てた。
けれど、それはあっさりかわされ、いつもの少しムカつく顔でヌルフフフと笑っていた。
「でもね、笑顔で少々わざとらしい。油断させるにはたりませんねぇ」
殺せんせーはいつの間にかナイフを奪い取ってバラバラと落としていた。
「こんな危ないナイフは置いといて、花でも愛でて良い笑顔を学んで下さい」
磯貝君たちの手のうちにはチューリップが握られていた。あれ・・・?あの花って・・・
「っていうか殺せんせー!この花クラスのみんなで育てた花じゃない!!」
やっぱりそうわよね。いくら先生がマッハだからってそんなすぐにきれいなチューリップ用意できないわよね。
「ひどい殺せんせー・・・大切に育ててやっと咲いたのに・・・」
矢田さんの悲しむ声に殺せんせーはオドオドしていた。
「す、すいません!今新しい球根を・・・」
シュバっと殺せんせーは消え
「買ってきました!」
いつのまにか触手いっぱいに球根を抱えて戻ってきた。
「マッハで植えちゃだめだかんね!」
「承知しました!」
「一個一個いたわって!」
「はい!」
岡野さんと片岡さんに挟まれながら、殺せんせーは通常速度でせっせと球根を植えている。
「なー・・・あいつは地球を滅ぼすって聞いてっけど」
「お、おう。その割にはチューリップ植えてんな・・・」
「そりゃあ私たち生徒が育てた花勝手に摘んだんだもの。詫びくらいいれてほしいわ」
「巴・・・見てたのか」
少し離れたところで花壇のやりとりを見ていた磯貝君と前原君に話しかけた。
「あなた達だってあのお花に水やりくらいはしてたでしょ?本当にひどいわ殺せんせー」
「ま、そりゃそう思われるわな」
二人に説教されながらペコペコしつつ球根を植える殺せんせー。確かに前原君が思うように彼が月を破壊した張本人とは思えない情けない姿だった。
「おや、巴さん」
殺せんせーが私に気が付いた。というより見ていたことに気が付いたというか・・・
「何やら不破さんとお話してましたが、何を話していたのでしょうか?」
ま、まずい・・・魔法少女の事が殺せんせーにバレちゃう・・・。あんまり先生にバレたくないのに・・・
「殺せんせー・・・」
「ハイ、何でしょうか?」
「乙女の会話盗み聞きするなんてサイテー」
「いやあぁぁぁぁぁ!!違うんです!なんかのアニメの話ということしか・・・」
まあ、その認識が本当なら・・・いいかな?多分・・・バレてはなさそうね。
「・・・殺せんせーには教えません」
「巴さん!あの!先生本当に何も聞いてなく、どっちかというと磯貝君たちの作戦のほうが・・・」
「そっちは聞いてのかよ!」
と、殺せんせーはとげとげしい視線を感じ後ろを振り向いた。
「手が止まってるんだけど」
「いいから植え替えをしなさい!」
「ハイぃ!!!」
怒り心頭の片岡さんと岡野さんの気迫に押されて先生はまたせっせと作業を続けた。完全に植え終わる頃にチャイムが鳴り、私たちは教室へと戻って行った。
「うーん・・・どうしようかな」
不破さんが悩みながら戻るのを見かけた。私が合同暗殺を見守っている間にキュゥべえと色々話をしていたらしい
「願い事決まらない?」
「そうなの。某ドラゴンの球を集める漫画とかならシェ○ロンが三つも叶えてくれるけど一つとなると悩むのよねー」
「そうね。私はその漫画あんまり詳しくないけどあまり伏れてなくない?」
「あと、願い事によるけどあんまりメリットが感じられないっていうか・・・デメリットの方が大きそうってのもあるわ」
「・・・だから後悔しない決断をしてね。不破さん」
「うん、わかった」
五時間目の授業の終わり、殺せんせーがヘコヘコしながらある提案を持ちかけた。
「放課後にハンディキャップ付き暗殺大会をしますので、参加したい方はどうぞ・・・」
「ハンデ付きってなんなんだよ・・・」
事情を知らない杉野君がもっともな疑問を口にした。
「花壇を荒らしてしまったお詫びです。先生の体を縛り上げて木に吊るします。先生は何も出来ませんので殺し放題ですよ?」
そういってナメてるしましまの色をして笑っていた。・・・本当に悪いとおもっているのかしら?
「殺せんせーちゃんと反省してる?」
「してます!してますとも片岡さん!!!」
「・・・なんなんだこの茶番」
寺坂君の言葉になんの反論もできなかった。
放課後、私は茅野さんと岡島君と共にハンデ付き暗殺大会の準備をしていた。既に先生は縛られており、今のところ銃で狙わているところ。校庭からギャーギャーと騒がしい声が聞こえてくる。
「考えりゃわかることだけど、ナイフが届かないのは想定外だったな」
「まあ、あんな暗殺方法があること自体おかしいから」
「二人とも無駄話せずにいきましょ。もしかしたらこの間に殺せて百億円貰い損ねるかもしれないわよ」
私たちは縄なり棒なりを抱えて殺せんせーが吊るされている大木の元へむかった。
「おーい!棒とヒモ持ってきたぞー!」
「お、待ってたぞ!」
茅野さんは様子を見に来た烏間さんと話しているのか少し遅れていて、私と岡島君の持ってきた道具でせっせとナイフの柄に棒を括り付けてリーチを伸ばしていく。
「ヌルフフフフ。そんな道具を増やしたところでムダですよ。こんな状態でも華麗にかわすことができますから」
「クソ!ヌルヌルかわしやがって!」
なかなか当たらない攻撃。それに悔しそうにする私たちを見て緑のしましまの舐め切った顔をしている。
「ほら、お詫びのサービスですよ?こんなに身動きできない先生を殺せないでどうします?」
・・・別に花壇ごときで命差し出せとは言わないけど、絶対反省してないわね、コレ。烏間さんの顔がなんだか険しい。なんだか申しわけないわね・・・。
ちょっとお灸をすえてやろうかしら?みんなは殺せんせー本体を狙ってるけど、本当に狙うべきは別。吊るされている枝を狙って折らせれば・・・。
私は銃に少しだけ力を強める魔法をかけて枝に向かって狙撃した。
「おおっと!」
けれど、先生には見抜かれて反動を利用して枝ごとかわされてしまった。
「いいアイディアでしたね巴さん。けれど先生には効きません。君たちが私を殺すなど夢のまた夢・・・」
ふり幅が大きくなったせいか上向きに枝が振り切り、限界に達してバキっと音を立てて折れてしまった。殺せんせーは少しだけ打ちあがり、一回転して地面に叩きつけられた。私たちはその地面に寝っ転がる先生を見つめていた。
・・・・・・・・・
「「「今だ!殺れー!!!!」」」
こうなれば一斉攻撃よ!「危ないでございます」といいながら転がりまわる殺せんせーを刺して撃ち込んだりしてるけど転がりながらかわしていく。
「ちょっ・・・待って、縄と触手が絡まって・・・」
縄と触手で毛糸玉のようにぐちゃぐちゃになってる先生を見て思ったけど・・・コレ、私のリボン拘束いけるんじゃないかしら?
なんて考えているうちに殺せんせーは縄の拘束から抜け出して飛んで屋根の上に避難した。
「ちくしょ!抜けやがった!」
「ここまで来れないでしょう。基本性能が違うんですよバーカバーカ」
大人げないなぁ殺せんせー。魔法少女であることバレる覚悟で飛んでいこうかしら?
殺せんせーはひとしきり高笑いして荒げた息を整えると
「明日出す宿題を二倍にします」
「「「小せぇ!!!」」」
と捨て台詞を吐いてどこかへ去って行ってしまった。
「逃げた・・・つか自分でハンデつけたくせに」
「でも今までで一番惜しかったよね」
「この調子なら殺せるチャンスが必ず来るぜ!」
磯貝君の鼓舞を皮切りにみんなで褒めあったり讃えあったりしている。なんだかんだで楽しかったわね。
「巴さんもナイス判断!」
「殺せんせー避けてたけどありゃ焦っていたぜ」
「まさか枝を狙われるなんて思わなかっただろうよ」
「どうかしらね。結局はかわされてしまったし・・・でも拘束が効くのはいい情報だわ」
と、みんなで話していると烏間さんが近づいてきた。
「ひとついいか?」
「あ、烏間さんこんにちわ」
「茅野さんにも話したが明日から俺も教師として君らを手伝うことになった。よろしく頼む」
「そうなんですか。みんな気を付け!」
磯貝君の掛け声と共にピシっと姿勢を正し、
「烏間先生!これからよろしくお願いします!」
「「「よろしくお願いします!」」」
みんなで烏間さん改め、烏間先生に挨拶した。
「ああ、よろしく。磯貝君だったか」
「はい!」
「随分と統率力があるのだな。たいしたものだ」
「・・・はい」
烏間先生の誉め言葉に磯貝君は少し苦々しい顔をした。
「・・・?なにか、気に障ること言ってしまったか?」
「いえ!ありがとうございます!」
「うむ。では、俺は職員室でいろいろ準備があるので用事があったら尋ねるように」
それじゃあ、と烏間先生は校舎内へと行ってしまった。
「いやー。確かあの人自衛隊だっけか?そんな人から何学ぶんだろうなぁ」
「なんか厳しそー」
「でもちょっと楽しみだなー。殺せんせーの体育の授業めちゃくちゃだったもん」
「この前なんか体育のくせに地球で絵描き歌するとか言ってたしよ」
「かける訳ねぇっての」
「体育は人間で受けたわー」
なんてみんなで好き勝手言っていた。また頼もしそうな仲間が加わりなんだかこの暗殺教室がどんどん楽しくなっているような気がする。それに魔法少女を始めた中で今が一番楽しいのかもしれない。
「暗殺の事を嬉々として語る中学生か・・・。一般的な生活を与えられた彼ら彼女らなのに随分と異常な光景だね」
いつのまにかキュゥべえが現れていた。
「そもそも暗殺依頼されている時点で一般的とは言えないけどね」
「そーそー。渚のいう通りだよ。今が異常過ぎんだよ」
前原君のボヤキに他のみんなもうんうんと頷いている。
・・・アラ?
「・・・待って、さっき話してたの・・・誰?」
そうよね。キュゥべえの声が聞こえなきゃ前原君のセリフは成立しないし、みんな頷いたりしない。
・・・ってことはみんなキュゥべえの姿みえてたりするの?そんなことある?
「やあ、みんな」
みんな一斉に声のした方を振り向いた。
「僕の名前はキュゥべえ。よろしく」
みんな殺せんせーと初対面した時と同じような形相でキュゥべえを見ていた。
「「「ね、ネコが喋った・・・!!??」」」
「ねぇ、魔法少女の資格?ってそんなに安易なものなの?」
「そんな事ない・・・と思いたいんだけど」
渚君の呆れた疑問に私は否定しきれなかった。茅野さんも苦笑いしている。
なんとなくだけど・・・このクラス全体、キュゥべえが見えてるってことないわよね?そうなってくると逆に魔法少女の力で暗殺ってことが堂々と出来るんだけど・・・それって喜ばしいことなのかしら?
少しだけ頭が痛くなったような気がしてきた・・・
とある一人の部屋。赤い髪の少年はついさっきもらった手配書をじっくり眺めていた。それは子供の落書きのような黄色いタコ・・・殺せんせーが写されていた。バサバサとその手配書を仰ぎながら見ていると
「赤羽
窓から聞いたことのない声がした。
「アンタ・・・何?ネコ?タヌキ?」
「ネコでもタヌキでもない。僕はキュゥべえ。今日は君にお願いがあって来たんだ」
「お願い・・・?」
「僕と契約して“魔法少年”になってよ!」
次回 いよいよ彼が来ます