「彼女は律役。理事長から人工知能の参加は許されなくてな。ネット授業で律が教えた替え玉を使うことで決着がついた。本来はテスト当日参加予定だったのだが、コイツが早めに教室に来させてほしいと頼み込んで来たんだ」
殺せんせーは律の替え玉通称“ニセ律”さんの肩に触手を置いて
「烏間先生の上司の娘さんだそうで。口も堅く詮索もしないと。あと、例のことも把握していますが、口外しないとのことです。少しの間ですが君たちの仲間になります。仲良くしてやってください」
殺せんせーがそう言うと同時にニセ律さんは深々と改めてお辞儀をし、律の席へと向かった。いつのまにやら律の席には座れるところが設置してあってそこに着席した。
「そして話には聞いています。A組と賭けをしたのだと。大いに結構。君たちは一度どん底を経験しました。だからこそ次はバチバチのトップ争いをしてほしいのです!」
ニヤニヤと笑いながらも私たちを讃える殺せんせー。やっぱり殺せんせーがいるのは心強い。
「なのでカルマ君!!朝から気だるげにしない!君なら総合トップが狙えるでしょう!!」
大あくびをしていたカルマ君は余裕そうに笑う。
「言われなくてもちゃんと取れるよ。あんたの教え方が良いせいでね。けどさぁ、最近トップを取ればっかり。フツーの先生みたいにやすっぽくてつまらない。それよりどーすんの?そのA組が出した条件ってなーんか裏で企んでいる気がするよ」
殺せんせーは何も返さなかった。でもカルマ君の懸念も理解できる。あの浅野君、ちゃんとあったことはないけど腹に一物でも抱えていそうな気がする。
「心配ねーよカルマ。このE組がこれ以上失うモンありゃしない」
「勝ったらなんでもひとつかぁ。学食の使用権とかほしいなぁ」
「ヌルフフフ。それについては先生に考えがあります」
殺せんせーが取り出したのは椚ヶ丘学園のパンフレットだ。
「これをよこせと命令するのはどうでしょう」
その提案に私たちは湧く。これはなかなかにいい
「先生の触手、そしてコレ。ご褒美は十分に揃いました。暗殺者なら狙ってトップを取るのです」
放課後
「も、ものすごく疲れたダス・・・」
ニセ律さんが今日一日勉強をした結果、机に突っ伏して倒れていた。
「皆さんの足を引っ張らぬよう必死でやってきたダスけど、私の学校より進度が早い気がするダス。ある程度は律さんに事前に教えてもらっているダスが、今日はこれが限界ダス・・・」
聞けばニセ律さんはニセ律さんで元々通っている学校があるのだと。今回は殺せんせーが無理言って向こうの学校を数日間休んでこっちに来てもらっているらしい。現実的に言って複数の学校掛け持ちとか大変よね・・・。
「大変だったね~。ニセ律お疲れ~」
「勉強もダスけど、皆さんとの仲も深めてほしいって言われてるダス。なので一緒に下校してほしいんダス」
真面目なのか彼女はそうお願いしてきた。別に頼まれなくても大丈夫だと思うけど。
「いいよ~。一緒に帰ろ」
「でも下校中は人に聞かれてもいいように“律”って呼ばないとね」
倉橋さんと矢田さんに許しを得て、今日はクラスのほぼ全員で帰ることになった。テスト前には珍しく殺せんせーは用事ということで放課後は留守になっている。なので居残りで勉強する者もいない。
みんなでワイワイと勉強の話だったりどうでもいい雑談だったりをしながら帰り道を歩いていた。
「どう“律”?テスト頑張れそう?」
「なかなか難しいダス。でも恥になるような点数を取るわけにはいかないダス!!」
そんな話をしていると路地端からひょっこりと美樹さんがやってきた。どこか焦っているようで私たちと目があったあと、落ち着かない様子でキョロキョロあたりを見回していた。
「あれマミさんたち。みなさんお揃いで・・・今帰りですか?」
「美樹さんもこんなところで・・・あ、丁度いいわ。美樹さん名前は聞いたことあるわよね。吉田君と村松君。この間契約したの」
「・・・魔法少女の集まりがむさくるしくなってくる」
「悪かったな」
「あ、そんなことより!マミさんこの辺で使い魔みませんでしたか!?」
美樹さんにそう問われ、私たちは首を傾げた。使い魔がいるならいるで魔力反応とか感じそうだけどソウルジェムに反応は見られない。
「見てないわね」
「そうですか・・・。あれおかしいな」
「あなたが美樹さんダスね」
急にニセ律さんが美樹さんの前に立ち、手を取って握手をした。
「お話は伺っているダス。自・マチルダ・律というものダス。お会いできて嬉しいダス!」
その勢いと迫力に押されて美樹さんは呆然としたまま腕をニセ律さんに任せていた。
「ど、どうもよろしくです・・・」
「そして初めまして。律の父です」
ニセ律さんの後ろに現れた巨体、要は変装をした殺せんせーが現れ、辺りは時が停まったように静まり返った。
『『『な、なにやってんだよこのタコ!!』』』
この姿で人前に現れた事は何度かあるが、ここまで個人の前に出た事はなかった。美樹さんはすっかり固まっていた。
『おい、美樹の顔引きつってるぞ』
『無理もないわ。こんな魔女みたいなやつが挨拶してきたら誰だってそうなるわ』
美樹さんはソウルジェムをつけた左手を見つめ殺せんせーを見つめ返しを何度か繰り返し、震える手で殺せんせーを指さし恐る恐る尋ねた。
「・・・この、魔女・・・魔女?が、お父さん?」
「はい、自コロ助と申します。諸事情ありE組の秘密の教師をしています。はい、名刺」
『その偽名どうにかならなかったのかよ!』
殺せんせーはいつの間に作ったのか名刺を美樹さんに手渡した。美樹さんの目線は険しいものになり、啖呵を切った。
「本当ですか?ぜんっぜん似てないじゃないですか!何よりその曖昧な関節!そんな人間いるわけないでしょ!」
『うーん・・・そこだけ?他にも指摘するところあるでしょ』
『というかおかしい言われて当然だろ。こんなバケモノ』
しかしかなり直球な質問が来たので殺せんせーは顔を伏せてしまった。困っているのかしら?
「ええ、美樹さんが疑うのも無理はない。真実をお話しましょう。実は、実は私・・・
魔女の呪いでこうなってしまったのです!」
再びの静寂
『『『いや、無理があるだろ!』』』
テレパシーで一斉にツッコむ。そうとは知らないのか殺せんせーは説明を続けている。
「元々は教師をしていたのですがある日魔女の結界に巻き込まれて気が付いたらこんな姿にされてしまい・・・」
『嘘つけ元からその姿だっただろ』
「そこで魔法少女に救われ命だけは助かったのですが、いかんせんこの姿で教職に立てず、不気味がられ学校をクビ・・・再就職もままならないと困っていた時にたまたま椚ヶ丘の理事長に救われ、E組でこっそり教鞭をとっているのです」
まあ、よくもそんな作り話が吐けるものだと私たちは呆れていた。
『微妙に少しだけ本当のこと言ってるね』
『いやでも、さすがにさやかちゃんを騙せるわけ・・・』
「そ、それは大変でしたね」
『嘘だろさやかちゃんおい』
「じゃあ、一歩遅かったらまどかもこうなっていたかもってこと?」
『類似事例あったのかよ!』
美樹さんは納得したようで殺せんせーに対して優しい目を向けていた。本当に信じちゃったの?
「ですので先生のことは本校舎の人にはナイショでお願いします。騒ぎになっては大変ですので」
「わかりました。自先生のことは誰にも言わないようにします。でも一つ聞いてもいいですか?」
「なんで今の今まで黙っていたんですか?その口ぶりだと魔法少女のこと色々知ってますよね?ならアタシに早くに伝えたっていいじゃないですか!」
「あまり私のことを外部に知られたくなく生徒には黙っているように言っておりました・・・ですが、そのせいで生徒たちに不審な目が向けられてると感じ、腹をくくってこちらに赴いたわけです」
そう殺せんせーに真顔でいわれると流石に美樹さんも言葉がないようで何か納得したように息をついた。
「・・・それは仕方ありませんよね。あ、そだマミさんたち!今日いっしょに魔女退治いきませんか!」
「テスト期間中は勉強に集中!!美樹さんはこちらでご勘弁を」
そう言って殺せんせーはグリーフシードを美樹さんに手渡した。ウチでは律が全面管理してるから殺せんせーでも入手は可能とはいえいつの間にって思ってしまう。美樹さんはちょっと不満そうにしていたけど手渡されたグリーフシードを受け取りポケットにしまった。
「まあ、テスト期間ですもんね。というかマミさんたちホント余裕ありすぎる・・・そういうことならアタシはこの辺で失礼しますね」
「どうせなら巴さんたちに勉強を教わるのも「大丈夫でーす。本当に、本当に大丈夫ですからー!それじゃあまたー!」
そういって美樹さんは去って行ってしまった。美樹さんが見えなくなったところでみんなで殺せんせーを咎め始めた。
「何してんだよ殺せんせー!!」
「国家機密が堂々とでてきてんじゃねー!!」
「美樹さん怪しんでたじゃない!!」
「いえいえ、むしろこれでいいんですよ。これで美樹さんが君たちに疑いの目を向けることはないでしょう」
それでいいのだろうかと思うと殺せんせーは話を続けた。
「疑いの目というのは根深いものですが、納得できる答えを提示されれば案外あっさり引くものです。この場合無理に真実を言っても受け入れられるものでもない。しかし嘘で塗り固めるのもいけない。大事なのは相手の不安に目を反らさないことです。疑うということは相手に対して不信しているということ。なので不安な気持ちに寄り添うのが大事なことです。
「もしかしてニセ律さん呼んだのも?」
「テスト期間だけだと誰かが怪しむでしょう。これからは無理のない範囲で彼女に影武者をしてもらいます。それに目標のためには彼女の協力も必須ですからね」
それをいうと同時にニセ律さんは私たちに一礼をしてその場を立ち去った。彼女も彼女なりの任務があるということだ。
「さて、君たちの対戦相手は努力を惜しまない強敵です。気を緩めることなくしっかり準備をしていきましょう」
「ハイ!」
殺せんせーは満足そうにヌルフフフと笑うとマッハで立ち去って行ってしまった。そこでクラスで解散する中、私はこっそりと寺坂君たちと合流した。
「さて、寺坂君たち。計画たてましょうか」
「おう。副教科作戦なんだがな、家庭科で決まったぜ」
「ま、色々話したんだが家庭科が一番可能性ありそうだってなってよ。範囲のワークをやりつつもうまーいこと安井に近づいてヒントでも頂戴しようかってなったんだ」
「副教科の教師は五教科の教師に比べて多少は厳しくはないからね。比べて、だけど」
「それに五教科で手一杯の本校舎の奴らに相手されなくてヒマしてるだろーしよ」
ニヤニヤしつつも彼らは真剣だ。副教科は基本暗記。いかに五教科の勉強時間から効率よく副教科で点を取るか、それが普通だとは思うけど私たちは違う。満点を取るなら五教科並みにでもしないといけないかも。
「今日はワークをやって身辺調査は明日からだ。巴も来るだろ?村松んちで集まってやるんだ」
「ウチ、今日は定休日だしよ」
「へぇ。じゃあお邪魔しようかしら?」
どこか悪い笑みを浮かべながらお店に向かっているとふと村松君の目線が後ろの方に向いてるのに気が付いた。
「村松君、どうかしたの?誰か見てる?」
「え?いや、さっき常連とすれ違ったってだけど?」
「それだけかよくだんねぇ」
「最近できた常連だよ。ウチ新規に飢えてるんだよ悪かったな」
そんな話をしながらお店に付き、勉強と対策会議をして、そしてやってきたテスト当日。
私たちはテスト会場である本校舎内にいた。
「みんな、
「おうよ、万全だぜ」
胸を張って歩いていると教室から怒鳴り声が聞こえてくる。これはウチとは別の教室だ。
「負けやがれE組ー!!」「お前らなんて精神壊されるような命令されてしまえばいいんだー!!」
騒いでいるのはⅮ組だという男子二人組。片方はなぜか鼻栓をしている。
「なんじゃありゃ」「さぁ?」「アイツらは無視しててもいいでしょ」
そういいながらテスト会場に入ると他のみんなは既に席に座っていた。そこに烏間先生が声をかけてくる。
「君たちで最後だ。正式な参加ができない律と共に伝えておく、頑張れよ」
「・・・はい!」
席につくと肩に乗っていたキュゥべえが降りて後ろのロッカーに飛び乗った。
「さて僕からもだ。今地球がなくなるのは僕らとしても困るんだ。だからこそ君たちには担任からのミッションにもA組とやらの賭けにも勝ってほしいんだ。けど君たちの自分の力で解決したいという意志を尊重して手出しはしない。これだけは伝えておく、頑張ってね」
先生たち、そしてキュゥべえ。私たちには心強い味方がいる。いける。
「用意、始め!」
監督の先生の掛け声と共に答案用紙をめくり私は鉛筆を走らせた。最初の科目は英語。今回は前回とは違いしっかりと範囲内なので全ての
この学校特有だけど、テスト問題を解いているとなぜだか他の人と会話をしているように感じる。今もほら、
「今更日本の中学レベルでつまずくかよぉ!」
A組の瀬尾君がラスト問題に一撃を喰らわせていた。けれどあまりに効いてはないみたい。呆然とする瀬尾君の脇を颯爽と駆け抜けてラスト問題にトドメを刺す影があった。
「お堅いねぇ。力抜こうせ優等生!」
莉桜さんが満点回答を出してケラケラ笑っている。
「多分読んでないっしょ?サリンジャーの「ライ麦畑でつかまえて」」
殺せんせーが勧めてくれた本。ちゃんと目を通してよかったわ、面白かったし。私も渚君に続いてラスト問題にトドメを刺す。問題は満点を出して消えた。
「巴ちゃんもナイスファイト!」
「フフ。莉桜さんと渚君もね」
見直しも済ませて時間となり、私は鉛筆を置いた。これで英語は完了。さて後は・・・
午後、
「用意、始め!」
先生の合図と共に解答用紙をめくる。副教科は五教科より時間が少し少ない。その分難易度は低めだけどそれは対策をしていたらの話。副教科だからとノーベンで挑みでもしたらあったという間にやられてしまう。
「来やがったな・・・」
家庭科の問題がイノシシのようなモンスターに見える。私たちは
「ワークの問題を思い出せば攻撃場所ははっきりみえてくる。一発一発丁寧に!」
「よし!ラスト!」
一番最後の問題はワークになりオリジナルの問題。
「健康的な体づくりのするためには一般的にどのような点に着目すべきか答えよ」
「規則正しい生活リズムを送り、食事の栄養バランスを取れているかどうかという点」
一発を撃ち込みモンスターの頭蓋に命中。ポンと花丸が現れ私は安心する。トントンと肩を叩かれ振り向くと寺坂君たちもニヤニヤしている。どうやら彼らも成功したらしい。
家庭科も無事終わりそして2日目のテストもこなし・・・そして全ての教科を終えることができた。
殺るべきことは殺った。あとは結果を待つばかり・・・
ただ、結果を待つ間に事件が起きてしまうだなんて私は予想だにしていなかった。