日曜夕方
「いらっしゃいませー・・・ってあれ?」
「こんにちは。予約していた巴です」
みんなを連れてやってきたのはレコンパンス。前にクラスのみんなでやってきたお店だ。お疲れ様会と称してケーキをたらふく食べようか、ということになった。ちなみにメンバーに男子はいない。
出迎えてくれた愛生さんは私たちに気が付いて戸惑っていた。
「え、あの、この間の・・・えっと、ご、ご案内します!」
おどおどしながら愛生さんは席に案内してくれた。席についたところで岡野さんが声をかける。
「この間はあの女たらしがごめんねー?次会ったら無視でいいからさ」
「え、いえいえ。なんやかんやで助かりましたし・・・」
そこで愛生さんの動きが停まった。何か思考しているのか黙って視線や腕が落ち着きなく動いて、止まったかと思うと突然絶叫した。
「え!!??あれ、男の・・・ええー!!!」
何が言いたいのかはわかった。男の魔法少女に対するリアクションだ。この反応久々ね。っていうか今更驚くの?
「あの時はテンポの問題で驚かせるタイミングなかったんだよねー」
「不破さん?」
「男がどうしたのまばゆちゃん?」
厨房の方から大人の女性の声が聞こえた。たしか店長さんだったかしら。
「い、いえなんでも!あと、ご注文は」
「えっと、そうね・・・」
みんなでそれぞれ注文をしてケーキを待ちながらたわいのない話をした。その中で私は裏の方でせっせと作業をする愛生さんに横目で注目していた。
この前共闘した感じでは彼女は他の魔法少女とは違い、敵対してくることはなさそうだ。美樹さんみたいに結界内であったら協力するぐらいの関係性なら築けるかも。
それに同い年で学校に行ってない魔法少女とはいえ彼女を魔法少女暗殺者としてスカウトするのは気が憚れる。烏間先生のいうように魔法少女とはいえ公には一般人。そんな彼女をムリヤリ引き入れるのもなぁ・・・。
「はい、サービスのラテアートです」
急にテーブルに運ばれたのはかわいらしいラテアートだった。でもラテアートは誰も注文してない。みんなで不思議に思っていると運んできた店長さんが笑顔で説明をしてきた。
「まばゆちゃんのお友達来店記念でーす。それ描いたのまばゆちゃんなのよ」
「へぇ~かわい~」
デフォルメした猫やら熊やらのラテアートをみんなで歓喜していると背中を押されて愛生さんが私たちの前にやってきた。愛生さんは店長さんの顔を見ながら頭を横にふり、何かを訴えていたけど、店長さんは気づいていないのかあえてスルーしているのか「ごゆっくり~」と裏の方へと戻ってしまった。
がっくりと肩を落とした愛生さんはしぶしぶ私たちの方をむいた。緊張しているのか「あう~」と小さく言いながら顔を伏せてしまい、何も言わなかった。
「これ、愛生さんが描いたんだ。すごいね」
矢田さんに声をかけられ愛生さんはビクッと肩を震わせた。
「かわいいよね。他に描けたりする?」
口を震わせながら愛生さんは呟いた。
「は、簡単な花だったら・・・いけますけど・・・」
「そうなんだ!すごいね!」
「時間だけならあり余っているので・・・ハハハ・・・」
「じゃあ、悟○描ける?ル○ィは?ナ○ト!デ○!炭○郎!」
「不破さん、それはちょっと・・・」
「あ、えっと、漫画は・・・あまり見ないというか・・・」
ちょっと半べそ気味な愛生さんを見かねたのか店長さんがまた私たちの元へ戻って来る。
「どう?うちのまばゆちゃん。お友達的に」
「咲笑さん、この人たちまだ数回しか会ってない顔見知りですよ?名前も知らないし・・・」
「じゃあこれから友達になる?同い年っぽいし」
その言葉に愛生さんはひどく動揺していた。それをスルーして店長さんは話を続ける。
「同じ年頃の子とお喋りすればまばゆちゃんも元気になるだろうし、それに
「もともと学生らしいことしてませんよ・・・それに趣味もあるし・・・」
「だから、力になってくれない?まばゆちゃんのためにも」
愛生さんは顔を伏せてしまった。どこか訳アリな雰囲気を感じる。魔法少女である以上はなんかしらのトラブルにあっても不思議ではない。それはそれとして仲良くなることにはこちらとしてはなんら戸惑いもない。
「いいですよ」
「なかよくしよー!まばゆちゃん!」
「え、あの、その・・・」
もごもごする愛生さんの後ろで何かをひらめいた店長さんがこんなことを言い出した。
「今日はもうあがりでいいわよまばゆちゃん。で、好きなだけお喋りしてね~」
「え、ちょ、咲笑さん!」
店長さんはにこやかに手を振って裏に戻り、愛生さんは行き場のない手を落としてしまった。
「・・・で、愛生さんはいつからここに?」
莉桜さんが質問すると困り顔で愛生さんは応えた。
「6月くらいですかね・・・元々別の街にお店があったんですが、色々あってこっちに移転というか避難というか・・・」
「それって・・・見滝原?」
私がそう聞くと愛生さんは目を見開いて驚いていた。
「な、なんでわかるんですか?」
「なんでって・・・私も見滝原出身で前にこのお店の常連だったの。とはいっても買うのはお母さんだったんだけど」
「そうなん、ですね。キグーが続きますねぇハハハ・・・」
口下手なのか愛生さんの返答はたどたどしくて会話が続きにくいものだ。私たちが何かと話題を振っても彼女の返答はおぼつかないものばかり。
『うーん、愛生さん私たちと仲良くしたくないのかな?』
『敵対しなさそうだからこそ仲を深めたいって思ったんだけど』
そこにスマホの着信音が鳴り響いた。その鳴ってる元は片岡さんのものだった。
「あ、ごめん。友達から電話」
そういって片岡さんは電話にでた。
「何?・・・あ、はい。・・・はい・・・はい・・・え・・・はい・・・では、また」
急に片岡さんの表情は次第に暗くなり電話を切るとカバンをもって席をたった。
「ゴメン、ちょっとお先失礼するね」
そう言って片岡さんは固い顔のままお店をでてしまった。どこか様子のおかしい片岡さんに私たちは頭を傾げる。不破さんが愛生さんに見えないところでスマホを操作した。おそらくは律に何があったかを調べてもらうため。
「メグなんか暗かったね」
「なにかよくない電話だったんじゃないかな?」
なんだか胸騒ぎがする。そういえば私、片岡さんの願いをちゃんと聞いてないわ。
一体彼女は何を願って・・・?
◆
心菜が亡くなった。
心菜の番号で電話をかけて来たのはお母さんだった。テスト終わりにいったキャンプで川の濁流に呑まれて溺れてしんでしまった。
私のせいだ。
きっと私が願ったせいでこうなってしまったんだ。
心菜が執着しすぎると暗殺に影響がでると思い、執着する理由である溺れた記憶を無くさせた。
その結果、弱みに付け込んで家庭教師を強制されることはなくなった。おかげで暗殺に集中することができ、勉強も順調。少し心菜にさみしい想いをさせていると思ったけど、心菜は心菜で遊ぶ相手もいるわけだし、多少疎遠になってしまったけど、今のE組の状況からしてもこれでいいのだと思っていた。
でも、そんなことは全くなかった。
なんでこんなことになってしまったのだろう。よく考えたらあの契約で心菜が完全に泳げるようになったわけではないのはわかっているのに、忙しさにかまけて泳ぎを教える機会もなくて、先送りにしてた末に心菜は溺れて死んだ。
私の責任だ。私が心菜を殺したようなものだ。
どうしよう、私の頭の中で混乱が蠢く。・・・そうだ、魔法!医学ではどうしようもなくても魔法なら
・・・どうやって?私の魔法は水流操作。そうだ、心菜の遺体の血流を動かせれば・・・
動かせば、本当に心菜は生き返れるの?ロクな医学知識のない私が下手やっていいの?それに時間がどれだけ立っているかわからない。私に連絡が入ったということは死亡してからそれなりの時間がたっていると思う。魔法を使っても無意味かもしれない。それに遺体も触れるかもわからないのに。
クラスの他の人の魔法ならきっと・・・
だめだ。これは私の問題だ。巻き込みたくない。それに死者蘇生だなんて・・・
私、何で魔法少女になったの?願うならもっと色々あったじゃない。なのにこんな結果・・・。
=邪魔だったから、心菜が=
ふと、頭に過った思いに私は心が寒くなるのを感じた。そしてしっくり来てしまった。私、あの子のこと邪魔に思っていた?そんなことない。ただ、心菜が私に執着しなくなり、楽になればと
楽になれば。すごく自分勝手じゃん、私。
心菜のためだとか言って、暗殺のためだとか言って、本当は心菜の事煩わしく思ってあんな願い事したの?
「ゴメン・・・ゴメン心菜・・・」
現に契約してからは心菜と過ごすのは数える程度になっていた。教室も離れているし暗殺に魔女退治に色々あって心菜のお誘いを断ることも多かった。
最後に心菜とどんな話をしてたっけ?
『ここはこうで・・・』
『あ、繋がったぁ!さっすがめぐめぐ。E組じゃあやってもないとこだろうによくわかったねぇ』
『・・・ま、ね』
『私に感謝してよ?3年でめぐめぐのことかってるの私ぐらいだよ?後輩にはひそかに人気あるけどE組だから3年にはさっぱりだし磯貝君ともども残念王子って言われてるし』
『残念王子は初耳・・・』
『あ、もうこんな時間ー♪んじゃあねめぐめぐ♪テストが終わったらキャンプなんだ楽しみー♪』
『心菜!川の流れは急なんだよ。下手に入らない方がいいよ。なんならライフジャケットつけて。海とは違った「わかってるわかってる。もう心配性なんだからめぐめぐは。めぐめぐに教えてもらった泳ぎで楽しむねー♪』
『あ、ちょっと!』
もっと強めに止めればよかった。そしたらこんなことには
=本当は大して心配もしてなかったくせに=
そんな事ない、でも、あの時はテスト期間で
=あまり会わなくたって心菜の事思い出すことも少なくなってたでしょ?本当に心配してた?=
それはそうだけど、それとこれとは話が違う。
=会わなくなって楽になったのは事実でしょ?=
そんな事思ってるわけ・・・
ふと、目の前を見ると映ったのは緑だった。苔むした緑の人間、それは私だった。
「─!!」
声にならない悲鳴が上がった。手足が折れ、骨が突き出て、頭からあちこちから血が流れ、体中に苔が張り付いている。私なのに私じゃない。
喉が張り付いたように声がでない。その緑の影は続ける。
=そもそもE組に落ちたのも心菜が原因じゃん。けどあの子は本校舎に残留。不公平って思ったことないの?あんなに我が儘に付き合わされてこっちが損するばかり。でも、もうあの子の我が儘に振り回されずにすむじゃない=
「死んでくれてよかった?そんなことあるわけない!」
=でも邪魔だって思った事一度もないなんてないでしょ?自分は我慢しているのにみんな自分のことばかり。むかつかないの?=
「やめてよ、そんなこと。言わないでよ」
耳を塞ぐ私に影が手を伸ばしてくる。
=ちょっとは自分に正直になりなよ。ムカついてるんでしょ?いろんなことに。だらしのないお兄ちゃんにデリカシーのない男子。本当は嫌なんでしょ?女の子に好かれたりハグ要求されたり。
自分が我慢すればすべて治まる。そう思ってた結果E組に入ってどうなった?=
「E組に入って・・・今はとても楽しいわよ。充実してる」
=違う。殺せんせーが来る前の話。E組に入れられて、友達だと思ってた人に見限られ、絶望して、そして飛び降り────=
「やめてよ!助かったんだからいいでしょ?」
影は何も言わなかった。しかし私の脳内に映像が流れ込んでくる。
磯貝君に連れられ、おぼつかない足取りで山の奥へと進み、開けた崖のふちに立つ。磯貝君が飛び降りるに続いて私も崖下の虚空に身を投げ出して・・・
痛い、
痛い痛い痛い痛い痛い
痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い
体中が痛い、
なんで?私たち助かったんじゃないの?
巴さんが助けてくれたんじゃ・・・
どうして、どうしてこんなに体が痛いの?
こんなの────
「チョッキン!!」
突然、女の子の声が聞こえたと同時に私の混乱する頭は収まった。
あれ?私今何を考えていたんだっけ?
「だ、大丈夫ですか?」
目の前にいたのはレコンパンスの店員さんの愛生さんだった。巴さんがいうには彼女も魔法少女。確かに目の前にいる愛生さんの服装は公の場に立つにはちょっとふさわしくない恰好だ。
「えっと・・・ありがとうございます。助けてくれて」
「あの、何かありました?落ち込んで店を出ていかれたので・・・」
私は心菜のことを思い出した。そうだ、私のせいで心菜が・・・
「・・・失礼します」
愛生さんがふいに私の顔を覗き込んできた。
『ねぇめぐめぐ。お願いがあるの』
『わぁ、初めてプールで脚つけずに端まで泳げたぁ!ありがとめぐめぐ!』
『あー、大丈夫大丈夫。勉強で忙しいし、また今度でいいや』
『あんたの教え方が下手糞で溺れて恥かいたんだけど。役に立たない泳ぎを教えた責任とりなさいよ!』
『あなたのせいで死にかけてから水に入るのも怖いんだよ?支えてくれるよね?一生』
パチン
『ねぇめぐめぐ。お願いがあるの
『わぁ、初めてプールで脚つけずに端まで泳げたぁ!ありがとめぐめぐ!
『あー、大丈夫大丈夫。勉強で忙しいし、また今度でいいや』
『あんたの教え方が下手糞で溺れて恥かいたんだけど。役に立たない泳ぎを教えた責任とりなさいよ!』
『あなたのせいで死にかけてから水に入るも怖いんだよ。支えてくれるよね?一生』
◆
背の高い女の子はハサミが閉じた瞬間気を失ったように倒れてしまった。ソウルジェムは・・・よかった、あまり濁ってない。
初期対応大事!初期対応マジ大事!
巴さんがつれてきた団体の一人の彼女が落ち込んでお店を出て行ってしまった。その彼女の左手にソウルジェムと思わしき指輪が嵌められているのを見ていてもたってもいられずに追いかけました。
その追いかけた先で驚いた。彼女がヒト型の緑のなんかに襲われているではありませんか!ヤバい魔力を感じとったのでそのヒト型のコケの首を断ち切ってやるとコケは影に沈んでいきました。
な、なんだったんだアレ!?使い魔!?にしては結界ないし・・・と思っている暇はありません。彼女のケアをしないと!私は彼女の瞳を覗き込んで記憶を見させてもらいました。見てる感じ我が儘な女の子。おそらくは彼女の契約の原因。そして彼女を苦しめる原因。
私は勝手ながらその記憶にハサミを入れました。そして彼女は意識を失った。これでいい、これで彼女を絶望から救った。けど、
「これで・・・いいんですよね?」
多分、彼女を苦しめる記憶はあれであっている。でも、電話の対応的にきっとあの子は・・・
勝手なことをしたのかもしれない。けど、彼女が絶望するところはみたくない。
もうなぎさちゃんみたいな思いはしたくない。
これでいいんだ。きっとこれで。
それはそうと記憶を覗いていると気になることが。
「暗殺の障壁って・・・なんのことでしょうか?」
そこは切りませんでしたけどなんか物騒な単語飛んでなかった?暗殺って・・・
というか任務を任されてるって言ってませんでした!?どういうことキュゥべえ!
というか暗殺って・・・あの暗殺!?え、もしかしてこの子
「あ、
魔法少女暗殺者(推定)におそるおそる距離をとる。気絶してるうちに後ずさりでそろりそろりと・・・
暗殺者って映画でしか見たことないけど映画だけで十分!魔法少女なだけで物騒なのにほかの物騒なの、嫌!
すると何かに当たったのかブニョリと背中に柔らかい感触。
え、ナニコレ。スライムみたいなやつ背中についた?
下を見ると大きな影が私の影を覆っていた。私はふと、頭上に視線を感じて空を見上げた。目に移ったのは大きな顔、正露丸のようなつぶらな瞳に食べられそうな大きなにやけ口。見える手は手袋で覆っているけど人間の形を明らかにしていない。どうみても人間じゃない!え、エイリアン!?
「あのー、もしかして私の生徒を助けていただきましたか?」
ただ、普通に話しかけるエイリアンに私は喉が張り裂けんばかりに絶叫をした。
「うぎゃあああああああ!!!!!」