巴マミは暗殺者   作:百乃綾香

55 / 60
挫折の時間にあたる話です


53時間目 結果の時間

「渚ー、元気ないね。どしたの」

 

僕が机で伏せっていると登校してきた茅野から心配をかけられてしまった。僕はとりあえずさっきあった詳細を話すことにした。

 

「いや、さっき僕の発案で共同暗殺しようってなって暗殺したんだよね、杉野と村松君と吉田君でね。内容としては4月の自爆テロの再現を・・・」

「何してんの!?」

 

茅野は呆れたような怒鳴り声をあげた。僕はもう笑うしかない。

 

「いや、意外性を狙って?もちろんケガしないように僕に硬化と反射の魔法をかけて、吉田君にあの時と同じもの作ってきてもらって」

 

茅野は何か言いたいことがあったみたいだけど飲み込んで僕の話を聞いてくれた。

 

「で、結果は?」

 

「失敗して殺せんせーにめちゃくちゃ叱られた。

『ケガしなきゃいいって訳じゃないんですよ』って真顔で淡々とね。

真っ黒で怒られるよりダメージあったな。杉野たちにも計画段階で止めてくれって叱られてて・・・いや、悪い事したな」

 

「そりゃそうだよ。・・・んで、その杉野は・・・」

 

茅野の言葉と共に僕らは杉野に視線を向けた。杉野はさっきから電話中だ。相手はおそらく進藤君。また聞きでしかないけどB組の多川さんっていう子が事故死したらしい。電話が終わって杉野がため息をつきながらクラス全体を見渡した。

 

「進藤からだけど、急なことでクラスでもバタバタしてるんだとよ。多川の葬式もいつになるかこっちはわからないみたいだ。一応E組(ウチ)でも参列する奴がいるならってことだけど・・・」

 

クラス全体が重い空気になる。人間はいつ死ぬかはわからないとはいえ、身近な人が亡くなる経験がほぼない上に不慮の事故となるとやるせない。

それにある意味で言えば僕らも他人事ではない。もし、あの飛び降り自殺が成功してしまってたら・・・背筋に寒気を感じてしまう。

 

「正直、多川って話をした覚えもないけど、元クラスメイトとしてはちょっと複雑だな」

「そうだよねぇ。・・・ねぇ片岡さん、大丈夫?」

「え?」

 

原さんに声をかけられ片岡さんはらしくもない気の抜けた返事をしていた。

 

「今日どうしたんだよ片岡。多川の死がそんなにショックだったのか?」

 

前原君に心配された片岡さんは大丈夫と気を取り直した。

 

「うん、まあ友達だしね。・・・でもそれだけじゃない。私、なんか大事な事忘れている気がするんだ。それが思い出せなくて・・・」

 

そこでチャイムが鳴り、教室に殺せんせーが入って来る。

 

「おはようございます。本日は号令はよろしいです。その気分でもない生徒もいるでしょうし。

皆もお聞きしているでしょうが先日B組の多川心菜さんがお亡くなりになられました。ご冥福をお祈りいたします」

 

殺せんせーが一礼をして教室は静かになる。

 

「さて、そんな追悼の気持ちをA組の賭けは待ってはくれません。ムリヤリにでも切り替えていきましょう!ここに全教科の採点が届いているのでね」

 

殺せんせーが複数ある封筒の中の一つを開けた。

 

「では、発表します。まずは英語から・・・

E組の1位・・・2名いらっしゃいます。そして学年でもダブルで1位!!巴マミ!中村莉桜!!」

 

クラスからおおっ!と感嘆の声が上がり、空気が一気に明るくなる。一番気落ちしていた片岡さんもE組が1ポイント先取したことが嬉しいのかパァと明るくなった。

 

「お2人とも100点満点で完璧です。巴さんは調子に乗ると詰めが甘いところがあるので心配していましたが」

「みくびらないで。気を緩める訳ないじゃない」

「そして中村さん、君のやる気はムラッ気があるので心配してましたが」

「なんか賞金百億かかっているからね」

「渚君も健闘ですが、肝心なところでスペルミスを犯す癖が直ってませんね」

 

テストを返されながらけっこう痛い指摘をされて僕は言葉がでない。

 

「さてしかし、触手を2本分とったところで、A組との賭け上では2人でトップをとってもたった1ポイントです。喜ぶことができるのは全教科返したあとですよ」

 

そう言って殺せんせーは次の封筒を開いた。

 

「続いて国語・・・E組1位は・・・神崎有希子!!

・・・がしかし学年1位はA組浅野学秀!!神崎さんも大躍進です。充分ですよ」

 

少し落ち込みつつも神崎さんはおしとやかにテストを受け取った。

 

「・・・やっぱ点とるよな、浅野は」

「強すぎ。英語だって巴中村との1点差の3位だぞ」

「さすが全国模試1位。中間よりはるかに難易度高かったのに・・・全教科変わらず隙が無い」

「五英傑なんて並べて呼んでるけど、結局は浅野1人、あいつを倒せなきゃ学年トップはとれねーんだ」

 

クラスに朝礼前とは違う空気が教室中を支配する。そして改めて思う、浅野君の恐ろしさを。

 

「・・・では続けて返します。社会!!E組1位は磯貝悠馬97点!!学年では・・・

おめでとう!浅野君を抑えて学年1位!マニアックな問題が多かった社会でよくぞこれだけ取りました!」

 

磯貝君は心から喜んでガッツポーズ。クラスでも歓喜の声が高まってくる。

 

「これで1勝1敗!」

「次は理科・・・奥田か!」

「理科のE組1位奥田愛美。そそて学年1位は・・・

素晴らしい!学年1位も奥田愛美!!」

 

クラスが喜びに包まれる。3勝1敗。これで僕らE組の勝利が決まった!!

 

「ってことは賭けの商品もイタダキだな」

「楽しみ~」

 

そんな声が上がる中、僕はふと後ろの方に目をやった。カルマ君がいない。いつの間に・・・?

 

「勝利は決まりましたがこちらも発表しなくては。数学、E組は・・・竹林孝太郎!!」

 

さっきの余韻からかクラス順位だけで喜びの声があがってくる。

 

「しかし1位はこれもA組浅野学秀!竹林君も大健闘です」

 

竹林君は苦い顔をしつつもいテストを受け取った。それでも拍手が起こる。しばらく拍手が続いたあとで頭に疑問が浮かんだ。

 

あれ?カルマ君の得意教科だよね、数学って?

 

「あとは副教科も・・・っと。みなさん素晴らしい成績でした。中間よりはるかに難易度が高かったにも関わらずよくぞここまでの仕上がりに。先生は嬉しくて嬉しくて・・・死んでよいとはいきませんが」

 

殺せんせーの発言にみんなでズルっとズッコケた。

 

「なんだよ間際らしい!!」

「今日やるにはこのギャグは不謹慎ですし、それに先生としての最終目標はクラス全員が学年50位以内を取る事です。今回の勝利を経験した君たちはもう負け癖から脱却したはずです。この調子なら最終目標に君たちは必ず達成できる。

ではここから軽いご褒美として自由時間とします!各自HRまで自由に過ごしてよし!」

 

自由時間と聞いてみんなでおしゃべりしたりするなかで片岡さんが立ちあがって教室を出て行った。廊下では殺せんせーが待っている。僕は気になってしまい、あとをついていくことにした。

2人が入ったのは特別教室。廊下から様子を覗こうとするのは僕だけではないようだ。

 

「巴さん!矢田さん!磯貝君も!」

 

巴さんが口に指をあててシッとする教室のほうを指さした。

 

『昨日、片岡さんの様子がおかしい所を目撃してね。今日は昨日ほどじゃないけどちょっと変だし様子を見にね』

 

巴さんにテレパシーで伝えられ、僕は静かに頷いて教室の中を覗いた。

 

「お友達のご不幸をお悔やみ申し上げます。親しかったのでしょう?」

「うん、まあ・・・そんなとこ。でもこんなことになるだなんて」

 

片岡さんの表情は暗いままだ。

 

「君の責任感は素晴らしい。ですがその責任感のまり自分が押しつぶされる危険性があるます。今のように」

 

片岡さんは顔を伏せた。痛いところをつかれたのだろう。

 

「彼女の死に責任をもつことは結構なことだ。しかし一番やってはいけないことは死をもって償う事。それははっきり言って逃げです」

 

片岡さんが顔を上げる。

 

「逃げることは悪いことではない。ですが責任から逃れることだけは先生は許しません。

彼女の事を精一杯弔いなさい。死者への責任の果たし方はそれでいい。そして死者に囚われることなく生きてるみんなを大事にしてください。わかりましたね?」

 

殺せんせーはちょっといじわるそうに教室を覗き込む僕らを指さしてそう言った。そこで片岡さんもこっちを向いて目が合い、なんだか気まずい。

 

「では先生はこれで」

 

そう言い残して殺せんせーはマッハで教室を後にした。残された片岡さんはちょっとい涙ぐんでいる。

 

「メグ!!」

 

いてもたってもいられず矢田さんが教室内に飛び込んで片岡さんの元へ駆け寄った。

 

「大丈夫だよメグ。私たちは何があってもメグの味方だから。辛い事があったら何でもいって。協力できることならなんでもするから。ね?」

 

矢田さんに語り掛けられ僕らも頷いた。

 

「ありがとうみんな。でも、私はもう大丈夫だから」

「・・・そうか。じゃあ教室一緒に戻ろうぜ片岡」

 

磯貝君に優しく誘われ。片岡さんは何も言わずにコクコクと首を縦に振って特別教室を出て行った。片岡さんの笑顔が柔らかい。多分彼女は大丈夫だ。僕は隣にいる巴さんと顔を見合わせてホッと息をついた。

 

 

 

校庭でカルマは一人歯を食いしばっていた。カルマの総合順位は14位と散々なものだった。

カルマはテスト期間だからといって特別気合をいれて勉強などしてなかった。

通常運転でサラッと浅野に完全勝利すると思っていた。なんなら正しい勝ち方を教えてやるつもりでもいた。

その結果が14位。カルマは負けたのだった。相手が何か妨害してきたわけでもない。ただ、負けた。いいわけのしようもなく負けた。

 

「さすがにA組は強い。5教科総合は6位まで独占。E組の総合は竹林君片岡さんの同点7位が最高でした。当然の結果です。A組も負けず劣らず勉強した。テストの難易度も上がっていた。怠け者がついていけるわけがない」

「・・・・・・・・・何が言いたいの?」

「恥ずかしいですね~。「余裕で勝つ俺カッコイイ」とか思ってたでしょ?」

 

殺せんせーに後ろからささやかれカルマは顔を真っ赤にした。

 

「先生の触手を破壊する権利を得たのは巴さん、中村さん、磯貝君、奥田さんの4名。暗殺においても賭けにおいても君は今回何の戦力にもならなかった」

 

殺せんせーは顔色を緑の縞々にしてカルマの周りに分身をつくりつつくり倒す。

 

「わかりましたか?殺るべき時に殺るべきことを殺れない者は暗殺(この)教室では存在感を無くしていく。刃を研ぐのを怠った者は暗殺者じゃない。錆びた刃を自慢げに掲げたただのガキです」

 

殺せんせーの煽りに耐え切れなかったのか、カルマはほほを突かれた触手を跳ねのけその場を後にしていった。

 

「おい、事情が違うとはいえさっきとは随分対応が違うんじゃないか?」

「ご心配なく。今回、彼にはこの方が有効です。彼は多くの才能に恵まれている。だが、力ある者はえてして未熟者です。本気ではなくても勝ち続けてしまうため本当の勝負を知らずに育つ危険がある。大きな才能は負ける悔しさを早めに知れば大きく伸びます。

テストとは、勝敗の意味を、強弱の意味を正しく知るチャンスなのです」

 

ー成功と挫折を今一杯に吸い込みなさい生徒たちよ!勝つとは何か負けるとは何か、力の意味を今!

 

     私が最後まで気づけなかった、とても大事なことだからー

 

 

 

HRに入り殺せんせーが教壇に立つ。カルマは既に教室に戻りぶしつけに席に座っていた。

 

「さて皆さん素晴らしい成績でした。早速暗殺の方を始めましょう。トップの方はご自由に」

 

殺せんせーは心の中で余裕をぶっこいていた。4本はややきついがどういうことでないと心の中で縞々顔。それを知ってか知らずか後ろからガタガタと席を立つ音が立ち、寺坂たち4人が殺せんせーの前に並び立った。

 

「おい待てよタコ。5教科トップは4人じゃねーよ」

 

その発言に殺せんせーは頭にはてなを浮かべた。

 

「4人ですよ寺坂君。国英社理数合わせて」

「はっ?アホ抜かせ。5教科っつたら国英社理・・・あと家だろ」

 

バサと出された家庭科のテストは4枚とも100点満点。文句なしの1位トップである。

 

「か、家庭科~~!!!??」

 

口をあんぐりと開け、驚愕してしまう。その様子に寺坂はニヤニヤとにやけ顔を晒していた。

 

「だーれもどの5教科とは言ってねぇからな」

「クックックッ。クラス全員でやればよかったこの作戦」

「ちょ家庭科のテストなんてついででしょうが!こんなの・・・」

 

慌てふためく殺せんせーを見て千葉がカルマに向かって促す。その意味を瞬時に理解しカルマの顔はすぐにいつもの自信満々な顔へと戻った。

 

「ついでとか家庭科さんに失礼じゃね殺せんせー。5教科の中で最強と言われる家庭科さんにさ」

 

カルマの煽りをうけて教室中が湧きに湧く。

 

「そーだぜ殺せんせー!」「一番重要な家庭科さんで4人がトップ!!」「合計触手8ほーん!」

 

8本コールが教室中に響き渡り殺せんせーの汗が止まらない。そんな中マミが一立ちあがる。

 

「意義あり!」

 

その声にコールは止み、マミに注目が集まる。

 

「破壊できる触手は8本じゃありません」

「おお、そうです巴さん。いってやりなさい!」

 

回りは突然のマミの行動に困惑しているが、客観的には否定されているであろう寺坂たちはニヤニヤしたままだった。マミの行動の意味を知っているからだ。

 

「触手破壊権は8本じゃなくて・・・・・・9本よ」

 

マミが出したのか100点満点の家庭科のテストだった。それをみた殺せんせーは「きゃーー!!」と甲高い声を上げてしまった。

 

「ちょ、ちょお!!巴さん!!!真面目な君まで何やってるんですか!!大体君は既に触手の破壊権をもっているでしょうが!!」

 

そう殺せんせーに指摘されるがマミは得意げの表情だった。

 

「あら殺せんせー。確かこうおっしゃってましたよね?『総合と5教科全てでそれぞれ誰かがトップを取れば、6本もの触手を破壊できる』・・・。つまり1人が6本とっても問題ないって事でしょ?まさか1人1本だなんて言わないわよね?」

 

殺せんせーはタジタジになり、やりとりを聞いていた生徒たちの目は一層輝き反論される前にマミへの擁護の声が湧きたってくる。

 

「そうだそうだ殺せんせー!」「1人1本だなんて許さないぞ殺せんせー!!」「合計触手9ほーん!!」

 

9本コールが教室中を響き渡り殺せんせーは震えに震えあがる。

 

「それと殺せんせー。これはみんなで相談したんですが、この暗殺に・・・今回の「戦利品」も使わせて頂きます」

 

磯貝の発言の意図が読めず、殺せんせーの目は一層点になっていた。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。