ぎゃるげー・ざ・ろっく!   作:ドラクマzeq

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♪12 地球外生命体、後藤ひとりの初バイト

 

 「すぅ……はぁ……」

 

 一年二組の教室前にて。俺は、扉の前で深く深呼吸して、気配を消す。

 数秒経って、俺は自身の存在の消滅を確認する。廊下に立つ生徒たちも、俺が消えたことに気づいた様子はない。もちろんだが扉は開けない。次に教室を去る人間と入れ替わるようにして教室へと侵入するのがベスト。

 

 そして、すぐにその時はやってきた。

 教室を出て行く生徒が扉を開ける瞬間を見計らって、俺はその隙間から素早く中へと滑り込む。体をなるべく目立たないようにし、扉が閉まるのと同時に静かに教室内に足を踏み入れる。心臓は少しだけ高鳴りながらも、冷静さを保っている。

 

 ここまで完璧だ。誰も俺の姿に気づいていないし、意識していない。

 

 

 教室へと侵入し、目的の人物を見つけると、刺激しないようにゆっくりと近づく。この時、声をかけるまで本人に気づかれてはならない。もし、気づかれてしまった場合は、塵となって消える可能性があるからだ。

 

 ここが正念場。後藤ひとり検定二級試験――

 後藤さんに急に話しかけても逃げられないことを目標としたこの試験。

 俺の冷静さと慎重さが試される瞬間だ。足音を立てないように、呼吸も静かに整えながら、後藤さんの背後へと近づく。

 

 後藤さんは机に向かって何かを熱心に書いており、まだこちらに気づいていない様子だった。目の前に近づくにつれ、その緊張感は一層増していく。俺は一歩一歩、彼女に近づきながら、心の中で自分を鼓舞し続ける。

 

 そして、ついに彼女の肩に手をかける直前の位置まで来た。ここまで来れば、あとは一呼吸置いてから、静かに声をかけるだけだ。少しでも動揺を見せたくない。完璧なタイミングで、失敗の許されない一瞬を迎えた――

 

「後藤さん、今帰り?」

 

「……あうぇ!? あっ、えっ、はい」

 

 合ッ格!

 

 後藤さんはかなり驚いた様子をみせたものの、塵となることもなく、俺から逃げることもなかった。

 最近は余り後藤さんと話していなかったせいか、後藤さんとの関係性がリセットされ、何故か話しかけても逃げられたりすることが多かったので、今回の成功は俺の中でかなり大きい。

 

「後藤さん、今日からスターリーでバイトだって虹夏さんに聞いてたから。一緒に行かない?」

 

 そして、後藤さんは今日から我らがスターリーで働きだすらしい。俺に早くも後輩が出来たということでもある。

 

「あっ、はい。お供します」

 

「それじゃあ、行こうか」

 

 

 俺と後藤さんは教室を後にし、スターリーへ向かう道を歩き始めた。

 

 

「あ、あの、バイトのことなんですけど……」

 

「うん、どした?」

 

 しばらく歩いていると、後藤さんが少し躊躇いながらも口を開いた。

 

「わっ、私でも上手く出来ますかね!?」

 

 そう俺に問いかける後藤さんの目には、不安が色濃く浮かんでおり、いつもより声の震えも大きい気がする。具体的にはビブラートかかってるレベル。

 

「うーん? 出来ると思うけど……普通にドリンク渡したり、掃除したりするだけだよ。力仕事は多分やらないんじゃないかな。俺はやるけど」

 

 機材の搬入とかは多分しないだろう。基本的には受付とドリンクスタッフのみだから、仕事としての難度はそこまで高くないんじゃないだろうか。PAさんみたいな専門職になってくると話は変わってくるが。

 

「うっ……出来る気がしない……」

 

「大丈夫だよ。何かあったら土下座したら何とかなるって。後藤さん、俺よりいい土下座するんだし楽勝だよらくしょー」

 

 俺もここ数日のバイトの中で、土下座のスキルレベルが上がった感覚が確かにあった。一時期はこの道で食っていけるんじゃないかと錯覚したほどだ。そんな俺より練度の高い土下座を習得している後藤さんなら、何があっても許してもらえるだろう。

 

「土下座!? えっ、あの、土下座って何で……」

 

「いやぁ、店長怒ると怖くってさぁ~。俺、まだ全然働いてないけど、めちゃくちゃしめられたし。後、給料も引かれた。でもまぁ土下座しとけばとりあえず何とかなるよ」

 

「暴力……減給……ぁ、私、やっぱりバイト辞めときます……」

 

 まずい。後藤さんがしぼんでいく。

 

「大丈夫、大丈夫! 俺がしっかり教えるから! それに虹夏さんも教えてくれるって!」

 

「あ゛あ゛あ、バイト行きたくないぃ……」

 

「!? 後藤さん!? 後藤さん!? うわ、なんだこれ! と、溶けてる!?」

 

 俺の目の前で後藤さんがドロドロと溶け始め、まるで液体に変わるように体全体が変化していく。その様子は、彼女の体が次第に粘性のある液体になり、地面に流れ落ちていくようだ。彼女の肌の色が変わり、形が崩れていく。

 

「どうしよう」

 

 溶けていく後藤さんを救う術はなく、気づけば後藤さんは、ピンク色のスライム状の物体へと変貌を遂げていた。

 

 

 

 ▽

 

 

 

「星、お前、その手に持ってるのなんだ」

 

「後藤さん、だったモノです」

 

 俺は手に持ったスライム(後藤さん)を落とさないように、優しく店長へと見せる。

 

「誰だよ……あぁ、今日からバイトの子か。どうなってんの、それ」

 

 ワカラナイ。後藤さんも異能持ちなんだろうか。あるいは地球外生命体。

 

「おっかえり~! って夜鷹君! 早いね! あれ? ぼっちちゃんは? 一緒じゃないの?」

 

 店長と一緒にスライム後藤をいじくり回していると、リョウと虹夏さんが一緒に帰ってきた。

 

「これです」

 

 虹夏さんとリョウにも、スライム後藤を見せる。

 

「「?」」

 

「後藤さんです」

 

「そんな訳あるか! ……って、え! ほんとに!?」

 

 本当です。店長と一緒に色々試してみたけど、後藤さんの状態は変わらない。

 

「すみません……後藤さんは、もう……」

 

「ちょっと! 諦めてないで早く元に戻すよ!」

 

 虹夏さんがリズムを刻むように叩き、俺が造形を整えるようにこねくり回し、リョウがベースでポムっとする。

 十分ほど経つと、スライム後藤は少しずつ変化を見せ始めた。最初はわずかな変化だったが、皆の努力が実を結び、スライムの表面が滑らかになり、色合いも安定してくる。

 

「これで……どうかな?」と虹夏さんが汗を拭いながら呟く。

 

 スライム後藤は、少しずつ元の形に戻りつつあった。最初はぼんやりとした輪郭が現れ、次第に人の形が鮮明になっていく。

 

「後藤さん、頑張って!」俺は励ましながら、その変化を見守る。

 

「よし! 後、もう少し、最後まで気を抜かずに行こう!」

 

 虹夏さんの掛け声が、皆の気持ちをさらに引き締める。

 

 スライム後藤の変化は続き、ついには完全に人間の形が整った。

 

「はっ! え? 私、いつの間にスターリーに……」

 

 良かった。無事、意識も取り出したみたいだ。特に後遺症もなさそうならこれでいいな。ヨシ!

 

「ぼっちちゃん! それじゃあ、とりあえず机片して、掃き掃除しよっか! 夜鷹君も一緒に教えてあげて!」

 

「分っかりまし――」

 

 気を取り直して準備にかかろうとした時だった。

 

 【後藤さんのジャージを脱がし、メイド服を着せて仕事させる】

 【制服を捨て、メイド服を着て仕事する】

 

 一難去ってまた一難。

 油断したときにこいつはやってくる。

 男のメイド服なんざどこの層に需要があるってんだ!

 かといって後藤さんの服を脱がすのは普通に犯罪!

 腹ァくくれ俺ぇ!

 

「店長、メイド服とかありませんか」

 

「あるけど、何に使うんだよ」

 

 何であるんだよ。最早この人がメイド服持ってたから出てきた選択肢だろこれ。

 

「着ます」

 

「は?」

 

「俺が、着ます」

 

 店長は呆然とした表情で俺を見つめたが、困惑した様子を浮かべながらも、メイド服を持ってきてくれた。手に取ったそれは、見た目には典型的なメイド服だが、そのサイズはおよそ俺に合いそうにない。いや、無理だろこれ。しかし、着ない訳にはいかない。

 

 俺は更衣室に入ると、服を手に取り、慎重に着替えていく。サイズの合わないメイド服を破壊しないよう、ゆっくりとゆっくりと慎重に袖を通し、何とかメイド服を着ることに成功した。

 鏡に映る自分の姿が滑稽で仕方ない。サイズが合わないせいで、メイド服は体に不自然にフィットし、フリルやリボンが歪んでいる。袖口や裾が短すぎて、まるで子供の服を着ているような印象を与えていた。特に、胸元のリボンが無理に結ばれているせいで、全体的にアンバランスな見た目になってしまっている。

 

 更衣室を出ると、虹夏さんが机の下に潜り込んだ後藤さんを引きずり出そうとしているところだった。

 

「ちょっとぼっちちゃん、一息つかないでー! 夜鷹君、ぼっちちゃん引きずりだすの手伝って! って何その恰好!」

 

「趣味で。虹夏さんも着ませんか」

 

「着ないよ」

 

 あわよくば虹夏さんも着てくれないかと思ったが、まぁ着てくれるはずないわな。

 

「夜鷹君、一緒にぼっちちゃんにドリンク教えよう!」

 

「了解です。後藤さん、こっちこっち」

 

 後藤さんをバーカウンターに案内し、ドリンクの配置を教える。

 

「ここにあるのがトニック水で、こっちがビールサーバーで、カクテルがここ……」

 

「ぁ、はや、あああああ、う、歌にして覚えます!」

「どこから出した!?」

 

 どこからともなく取り出したギターで弾き語りを始める後藤さん。

 

「ぼっちちゃん! 一人の世界に入らないで! 戻ってきて~!」

 

 虹夏さんは後藤さんの首根っこを掴んで、一人の世界へと籠った後藤さんを呼び戻そうとしている。

 

「仕事しろ」

 

「ぐはっ」

 

 わちゃわちゃしている二人を見ていたら店長さんに頭を殴られてしまった。何で俺だけ……

 

 

 

 そんなこんなしている間にお客さんもぞろぞろと入ってきた。

 バーカウンターにはぼっちちゃんと虹夏さん、そして俺も一応入っている。店に入ってきたお客さんは一瞬チラッとメイド服姿の俺を見るが、その後は特に気にせず、カウンターに向かって行く。

 

「コーラください」

「はーい」と虹夏さんが元気よく応じる。

 

「ぼっちちゃん、コーラ」

「あっはい」

 

「ぼっちちゃん、ジンジャーエール」

「あっはい」

 

 後藤さんはカウンターの下から姿を見せることなく、ドリンクをカウンターへと置いていく。

 

「ぼっちちゃん、お客さんに失礼でしょ!」

「こっ、心の準備が……」

 

 後藤さんにはまだ少し難易度が高いか……

 

「目、合わせなくていいからちゃんと立とう!」

 

 虹夏さんが後藤さんに優しく語り掛ける。

 後藤さんは人と目を合わせるのが怖いんだろう。確かに気持ちも分からないでもない。ここは俺がありがたいアドバイスをしてあげよう。

 

 【俺は、いっつもおっぱいを見るようにしてるよ】

 【俺は、いっつも乳首を見るようにしてるよ】

 【俺は、いっつも乳房を見るようにしてるよ】

 

 ありがたいアドバイスさせろ!

 

 せっかく俺がいい話していい雰囲気作ろうとした時に何してくれてんじゃボケカスがぁ!

 全ての選択肢が軒並みきしょい上に全部ほぼ同じだ。

 

「……俺はいっつもおっぱいを見るようにしてるよ」

 

「お゛っ……!? え、あ……えと」

「ぼっちちゃん、無視していいよ。後、夜鷹君は仕事終わったら裏に来てね」

 

「違うんです……目って言うなればおっぱいみたいなものだよねってことが言いたくて。ほら、位置的にも、数的にも……」

 

 苦しすぎる……! 言い訳出来ねぇよ俺。

 

「星、セクハラとはいい度胸だなてめぇ」

 

「あっ店長……すみま――」

 

 そして、俺の意識は刈り落とされた。

 

 

 

 ▽

 

 

 

「――はっ!」

 

「うわ、起きた」

 

「……リョウか」

 

 目を覚ますと、目の前にはリョウの顔があった。周りを見ると、自分は店のソファに横たわっていて、リョウに膝枕をしてもらっている状態だった。

 

「夜鷹、店長に締められて意識失ってたから、膝枕してあげてた。後、働いてない分は給料から引いとくって店長が言ってた」

 

 給料引かれまくりなんですけど。

 

「聞いてくれよ、リョウ。俺、多分ここでバイト始めてから給料満額貰ったことないわ」

 

「変なことばっかしてるからじゃない?」

 

 リョウの言葉に、してるか? と反論しようとしたが、実際にはかなり多くのトラブルを引き起こしているのも事実だ。黙って頷くしかない。

 

「え、てか俺が意識ない間ずっとこうしてたのか?」

 

「そう、夜鷹は私に感謝すべき」

 

「お前は給料出てんの?」

 

「…………」

 

 こいつ! 俺をダシにしてサボってやがる!

 

「店長! ここにサボってるやつがいます!」

 

「恩を仇で返すなんて……酷い!」

 

「うるせぇ! 恩もクソもあるかぁ! 他の誰かが得をするのはいい! だが! お前が得をするのは許せねぇ!」

 

「クズ!」

 

「そっくりそのまま返そうか!」

 

「おい、クズ共。起きたんなら帰れ」

 

 店長の一喝で、口論は収束。

 結局その日は、リョウと俺は軽く片付けをしてから帰ることになった。

 




ぼざろ展よかったです。
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