全速力で喜多さんをまいてやってきましたSTARRY。
階段を下りて中に入ったはいいものの、如何せんライブハウスに入ったのは初めてなのでどうすればいいか分からない。
とりあえず受付か……? 今日がライブってことはリハーサルとかもするだろうしスタジオの予約もしてるはず。
「今日はどのバンドを見に来られましたか」
恐る恐る受付まで行くと、物腰柔らかそうなお姉さんが笑顔で迎え入れてくれた。
「えっと、見に来たというよりスタジオを借りに? 借りてる? と思うんですけど……」
そこまで言って気づいたが、俺は喜多さんの所属するバンド名もバンドメンバーの名前も知らない。やばい。聞いとけばよかった。
「……?」
俺が口ごもると、受付のお姉さんは怪訝な顔で俺を見つめてきた。
まずい。何とか誤魔化さないと。
「実は記憶がなくて……」
「はい?」
駄目だ。無理に決まってる。これは誤魔化しきれない。
受付のお姉さんの顔がどんどんと強張ってくる。最初に話しかけたときにあんなにも穏やかだったのが嘘みたいだ。下手な動きを見せると通報されそう。お姉さん? 今下ろした手で通報しようとしてない? 大丈夫そ?
どうにか起死回生の一手を……!
瞬間、俺の脳内に一筋の希望の光が差し込んだ。
【――結束バンド】
【――カラフルラジカル】
ナイス選択肢! お前はいっつも来てほしい時に来てくれるなぁおい! 後はいらん時に来ないようにしてくれマジで。
けど、どっちだ……!?
何故だか分からないがこの選択肢だけは絶対に間違えちゃいけない気がする。根拠はないが、外したらそれだけで何かが終わってしまうような……そんな気が。
どっちだ……よく考えろ! あのキラキラ陽キャ大臣の喜多さんが入るバンドだぞ。カラフルラジカルはなんだかいかにもそれっぽい。喜多さんキラキラしてるし、色鮮やかな雰囲気も似合うだろう。それに比べて結束バンドだぁ……? ダジャレだし、ちょっと寒い。喜多さんのイメージにあまりにもそぐわない。つまり、結束バンドはない! Q.E.D. 証明終了。答えはカラフルラジカルで確定だ!
「――結束バンド」
あ?
俺の完璧な推理の結果とは裏腹に、口をついて出た答えは絶対にないと悟って切り捨てた選択肢で。けど、口に出してみると意外にもしっくりきた。
「結束バンド? なら、山田さんのところかな。今はあっちのスタジオで練習してると思うけど……」
正解? 不正解? どっちか分からんがもう出るとこ出るしかない。
「あ、ありがとうございます!」
俺は受付のお姉さんが指差したスタジオの扉の前まで行くと、すーはーと大きく深呼吸をしてからドアノブを捻った。
「あっ、にじ……か、じゃない誰」
扉を開けて、目が合ったのは男とも女とも言えないような中世的な顔立ちをしたユニセックスな少女だった。
「あぁ……え、と俺は喜多さんの代理で来ました。
「郁代の?」
よっしゃビンゴぉ! ありがとう結束バンド!
「喜多さん、今日来れないみたいで」
「なるほど。私は山田リョウ。ベースやってる」
「よろしくお願いします。俺はギター、やるつもりではあります」
やれるかどうかはともかくやってみせる気概はあるんです。意外にも俺の隠された才能が発揮されるとかあるかもしれないし。これでやれたらバンドマン目指すのもアリだな。
「今は虹夏……うちのバンドのリーダーが不在。さっき慌ててどっか行った」
「えぇ……本番前に大丈夫なんですか、それ」
「だいじょばない。店長も怒ってた」
もしかして店長さんが帰ってきたら俺も一緒に怒られたりするんだろうか。代理で来て怒られるの嫌すぎるな。
「ギター連れてきたよー!」
俺がアンニュイな気持ちになっていると、急に元気な声が後ろから聞こえてきた。振り向いて声の主を確認すると、そこには天使のような笑顔を浮かべる金髪の女の子と、冗談みたいな全身ピンクジャージにピンク髪の猫背の女の子が立っていた。
「やっと帰ってきた」
「リョウ~~~と、誰?」
金髪の天使は俺を見上げて可愛らしく首をかしげている。ほんのり困ったような表情がとても愛らしい。彼女の姿に、さっきまでの緊張が和らいでいく。
「俺は――」
【喜多郁代のストーカーの星夜鷹です】
【山田リョウのストーカーの星夜鷹です】
【あなたのストーカーの星夜鷹です】
はい、詰んだ。
どうしてこんなことするの? 俺をどうしたいの? この選択肢。
豚箱確定√なんて誰も望んじゃいないんだが。
とにかく一番傷の浅い選択肢を選ぶしかない。すまん喜多さん!
「喜多郁代のストーカーの星夜鷹です」
「……ッ!?」
「えぇ!?」
「待ってください、違うんです。これには理由があるんです」
何気に山田さんが一番ビビってるな。案外小心者なんだろうか。そしてピンクジャージの女の子は気絶している。
「お、おねぇちゃーん!」
「冗談! 冗談だから! ちょっと場を和ませようと思って……」
「質の悪い冗談すぎる……!」
「そういうの、やめた方がいいと思う」
金髪の女の子は俺にドン引きして後ずさり、山田さんは震えながら俺の肩に手をぽんと置いてきた。ごめんね。俺も辞めたい。
「星夜鷹っていいます。今日は喜多さんの代わりで来ました」
「喜多ちゃんの!? ってことはギター弾ける?」
「ギター兼ドラム兼ボーカル兼サクラ担当の星夜鷹です。何でも任せてください」
「いや、兼任しすぎだから!」
実際今日は何だってやるつもりで来た。どんな理不尽だって乗り越えてやろうじゃないか。
「私は伊地知虹夏。ドラムやってるんだー。よろしくね!」
伊地知さん。うん、覚えた。もう一生忘れない。可愛い。
「その後ろで気絶してる子は……」
「えっ? ああ、ひとりちゃん、ひとりちゃん。起きてー! 戻ってきてー!」
「…………はっ!!!」
伊地知さんにぺちぺちと頬を叩かれて目を覚ましたピンクジャージちゃんは俺を見るとずざざぁっと後退、いや、バックステップした。
「すすすす、ストーカー……!」
「違う! 違うから! 本当にすみません!」
俺が少し近づく度に後ずさり、後ずさり、軽やかなバックステップを決めるひとりちゃんが落ち着きを取り戻したのは十分後だった。
▽
「はぁ、はぁ……それじゃあ、改めて自己紹介しよっか。この子はベースの山田リョウだよ。変人って言ったら喜ぶよー」
バックステップ大魔神と化したひとりちゃんを落ち着かせるのに多大な貢献をしてくれた大天使伊地知さんは息も絶え絶えのようで、呼吸を整えて山田さんの紹介をする。
「う……はぁはぁ、うれしっ……くない、はぁっはぁし」
クッソしんどそう。
恐るべしバックステップ大魔神。
「あっ、ごごごごご、ごとっ、後藤ひとりです、すみません!」
ひとりちゃんは後藤さんというらしい。何故全身ピンクジャージなのか気になるけどもしかしたら運動しやすいようにかもしれない。あれだけのバックステップを見せてくれたんだからきっとそうに違いない。結局俺の運動神経をもってしても捕まえられなかったし、なんだかんだ伊地知さんが落ち着かせてくれなかったらやばかったかも。
「俺は星夜鷹です。秀華高校に通ってます」
「そっかそっかー! それで! 星君は今日はギターやってくれるの!?」
伊地知さんがテンション高めで詰め寄ってくる。近い近い、後何か良い匂いする。
「ギターは弾けないです」
「えっ、でもさっきギター兼任してるみたいなこと言って……ま、まぁいいや! じゃあドラム? ツインドラムかぁ~。ちょっとやってみたかったんだよね!」
「ツイン? いえ、ドラムも叩けないです」
「えっ、じゃあボーカル?」
「今日喉の調子が悪くて……」
「何しに来たのっ!?」
唯一出来る可能性のあったボーカルは喜多さんの声真似してたら喉が潰れた。仕方ないね。
「俺からギターとドラムとボーカルを引いたらサクラしか残らねぇよクソっ! せめて結束バンドのサクラ担当として賑やかし頑張ります……」
「いらないよそんな担当!」
「虹夏そろそろ時間が」
どうやら時間もなくなってきたようで山田さんは伊地知さんの袖を掴んで準備に取り掛かる必要があることを伝える。
「うそっ! もうそんな時間! 練習しよっ練習!」
山田さんがベースを抱え、伊地知さんはドラムスティックを構える。それに習うように後藤さんもギターケースからギターを取り出した。
俺は……何もやることなくなったし隅っこで座っとこう。
背景、背景と化すんだ……
書いてて気づいたんですがぼっちちゃんが加入するまではインストバンド路線だったんですかね?原作ではインストバンドと虹夏ちゃんも言ってますし。ギターが二人になったからボーカルありにしたのかもしれないですね。この作品の結束バンドは最初からボーカルあり路線だったってことでお願いします。(前話で喜多ちゃんにボーカルまで背負わせてしまっていた。すまん喜多)