ぎゃるげー・ざ・ろっく!   作:ドラクマzeq

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前話ですが、推敲に推敲を重ねて下書きを投稿するという愚行を犯していました。すみません。既に編集済ですが、内容に大きな変更はありません。


♪6 命を救うロックンローラー

 

 俺ならいける、俺ならいける。

 

 心の中で呪文のようにその言葉を繰り返し、体を奮い立たせる。

 神は乗り越えられる試練しか与えない。ならば俺の脳内(なか)の神もまた、乗り越えられる選択肢しか与えない……はずだ。

 喜多さんと別れた後、俺は社会的な死を免れる為、自身の肉体を信じ、屋上からの決死行を選択していた。

 

 校内へ入り、階段を駆け上がろうとすると、見慣れた姿が俺の目に入ってくる。

 

「後藤さん?」

 

「あぅ、あばばばば、ほ、ほほしさん……!」

 

 階段下の机やら掃除用具が置いてある謎スペースに、寝っ転がって丸まっている後藤さんの姿があった。

 俺が声を掛けると飛び上がって正座し、流れるような速さで頭を下げる後藤さん。

 なんて美しい土下座のフォーム……それに、土下座を始めるまでの起こりが一切感じられなかった。俺が観測出来ない程の速さでの土下座……! 後藤ひとり! こいつは俺を超える土下座マスターか……!

 

 それはそれとして、こんなところで一体何をしてるんだ後藤さん。もうすぐ朝のHR(ホームルーム)が始まる頃合いだが。

 

「後藤さんは、こんなところで何を?」

 

「すみません、すみません!」

 

 後藤さんはひたすらに頭を下げ続け、というよりも床に向かってヘッドバンギングをし続け、謝罪の意を示してくる。

 今日はやたらと謝られるな。しかも、不要な謝罪が多い。知らず知らずの内に俺は無辜の民に罪悪感を与える能力に目覚めていたのかもしれない。

 

「あっ、あぅ、ほ、星さんはいかがお過ごしでしょうかっ!」

 

「俺? 俺は今から屋上から飛び降りるとこだよ。気分は最悪だ」

 

「飛びおっ!?」

 

 未だ俺の頭上に残り続ける選択肢は、無情にも【屋上から紐なしバンジー】と存在感を放ちながら主張してくる。

 選ばなかった選択肢はこの時点で消えており、この段階で俺が選択を変えることは不可能だ。

 選択肢から選んだ時点で、既に時は動き出しているので、実行する必要はないのでは? と思うかもしれないが、これは今この瞬間も俺が屋上から飛ぶ意思がある為、世界が通常に機能しているのであって、その意思を捨てた瞬間にこの世界は時を止めることになる。

 つまり回避不可。一度選んだ選択肢は必ず実行しなければならない。

 

「大丈夫だよ。人間そんなすぐに簡単に死なない」

 

「流石に屋上から飛び降りたら死ぬのでは……」

 

 俺もそう思う。でもそう思わないとやってられないよね。

 

「あの、だ、駄目です。私も死にたくなる時はありますけど、それでも死んじゃうと、今まで頑張ってきたこととか、全部、全部終わっちゃいます……!」

 

 後藤さんは、必死な顔で訴えかけてくる。そこには俺の知る気弱そうな少女の姿はなく、強い意志と切迫感が宿っていた。

 

「ごめんね、後藤さん。心配してくれてありがとう。でも、これはやらなきゃいけないことだから」

 

 おのれ選択肢め。覚えてろよ。俺に報復出来る機会があるのならば、必ずお前を木の下に埋めてくれる。

 

「星さん!!!」

 

 話もそこそこに切り上げ、屋上へ向かおうと階段へと踏み出した途端、後藤さんは今まで聞いたことがないような大きな声を上げて俺を呼び止めた。

 そんなに声量出るんだ、と思わず歩を止めて後藤さんに振り返ると、背負っていた真っ黒なギターケースからギターを取り出している。

 

「それでは聞いてください。死なないで、死なないで、君はまだまだ頑張れるのエレジー……」

 

 何か急に弾き語り始めたぞ。

 

 後、エレジーは死者を悼む歌なんですけど。まだ、俺生きてるよ。これ聴いちゃうと死亡√確定しそう。

 

「んっ?」

 

 後藤さんの即興エレジーを聴いていると、いつの間にか頭上の選択肢が消えていることに気が付いた。まるで初めからそんなものは提示していないと言わんばかりに綺麗さっぱりと消えている。

 

 何でだ? 何かしらの条件を満たした、ということか? 今までこんなことは一度もなかった。提示された選択肢は選択後、行動に移すまでは必ず消えなかったし、途中で選んだ選択肢が覆されるなんてことはなかった。

 

 まさかこの選択肢は今日、この時間に後藤さんに出会う為のフラグだったということか……? 条件を満たしたから選択肢が消え去った……? いや、今は何より命の危機が去ったことを喜ぼう。ありがとう後藤さん。

 

「あの、どうでしたか……」

 

 後藤さんは俺に向けた希死念慮(きしねんりょ)消滅応援歌を弾き終えたようで、自信がなさそうに俺の顔を見る。今日、初めて後藤さんと目が合った気がする。なんか、よく見れば可愛い? いや、今はそんなことよりお礼を言わねば。

 

「ありがとう、後藤さん! 後藤さんの曲、体に染み渡ったよ。そうだよな、死んじまったら元も子もないよな! やっぱり屋上から飛び降りるのは止めだ止め!」

 

「ほ、ほんとですかっ!?」

 

「うん! 後藤さんは俺のヒーローだよ! 感謝!」

 

 ありがとう、後藤さん。君は命の恩人だ。この恩はきっと忘れない。そして次も俺が理不尽な目に遭ってたら助けてくれると嬉しい。

 

 

 

 ▽

 

 

 

 今日は絶対にクラスメイトに話しかける、話しかけるんだ……!

 

 昨日、虹夏ちゃんとリョウさんとバンドを組み、スターリーでのライブを終え、千歩前進した私なら挨拶くらいどうってことはないはず……!

 教室の扉を開けたらおはようございますって皆に挨拶するんだ。

 

「あっ、おっ!」

 

 教室に入り、声を発そうとしたものの、私の口から出たのは情けない声? とも言えない緊張して裏返った奇声。

 

 ああ、やっぱり私には無理だ。千歩進んだと思ってたけど、私にとっての千歩なんて他の人から見たら一歩にも満たない。成長したと思ってたのは自分だけで、実際には何も変わっていないんだぁぁぁぁばばば……

 

 

「それでさ~」

「なにそれー」

 

 しかも私の席が取られているー!

 昨日はテンション上がって眠れなかったせいで、今日はちょっといつもより来るのが遅くなったけど……! いつもはそこそこの時間に登校して寝たふりしてたから席が取られる事はなかったのに……! やってしまった私ぃ……!

 

 まるで自分の席かのように、私の机に堂々と腰を下ろしている陽キャ女子。

 話も盛り上がってるみたいだし、これで私が「そこ、私の席です」なんて言おうものなら、「は? 今話してんですけど」「空気読めねー」って言われるに違いない……!

 

 そして私は、朝のHR(ホームルーム)でクラスメイトを不快にさせたで賞を受賞して、今日一日廊下に立たされ、学校中の生徒に後ろ指を指されるんだ。ああ、中退したい。

 

「うぁぁ」

 

 想像しただけで眩暈がしてきた。

 とりあえず、HR(ホームルーム)が始まるまでどこか人のいないところで時間をつぶそう。

 

 いつの間にか私の足は階段下の謎スペースへと向かっていたようで、気がついたら私の体は丸まって寝転がっていた。

 

 ああ、なんで私はこんなにも駄目なんだろう。ギターはこんなにも上手いのに。上手いんだよね? オーチューブのコメント欄では沢山褒められるし! ああ、やっぱり私の居場所はネットだけ。

 スマホを取り出して寝転びながら、私はオーチューブを開いてコメント欄を開き、スクロールしていく。

 

『ギターうめぇ!』

『次はこの曲弾いてください!』

『どうやったらそんなに上手く弾けるようになりますか?』

『ギターヒーロー神!!!』

 

「うぇへへ」

 

 ネットの人たちの賞賛は私の承認欲求をこれでもかと満たしてくれる。ああ、ずっとこの世界で生きてたい……

 

「後藤さん?」

 

 自分を満たしてくれる電脳世界に浸っていると、急に自分の名前を呼ぶ声がした気がした。幻聴かなと思い、なんとなく声のした方を見ると、昨日のライブで暴れていた星さんがこっちを見ていた。

 私は声にならない声を上げ、すかさず土下座する。

 

「後藤さんは、こんなところで何を?」

 

 そうですよね。ミジンコ以下の私がこんなにスペースを取るだなんておこがましいですよね。すみません。でも、私にはここにしか居場所があぁ……! 

 何か話せ、何か話すんだ私!

 

「あっ、あぅ、ほ、星さんはいかがお過ごしでしょうかっ!」

 

「俺? 俺は今から屋上から飛び降りるとこだよ。気分は最悪だ」

 

「飛びおっ!?」

 

 なんでっ!? もしかして私、今とんでもない現場に出くわしてしまったんじゃ……

 星さんが言うには人間はそんなに簡単には死なないそうだけど、流石に馬鹿な私でも屋上から飛び降りたらよっぽどのことがない限り死んでしまうのは分かる。

 というか星さんがこのまま屋上から飛び降りてしまった場合、直前に話した私も疑われるのでは……!? 

「星君死んじゃったの、後藤さんのせいらしいよ」「えー、嘘、やだー」って噂されることになる!?

 

「あの、だ、駄目です。私も死にたくなる時はありますけど、それでも死んじゃうと、今まで頑張ってきたこととか、全部、全部終わっちゃいます……!」

 

 軽々しく死ぬななんて言えないけど……でも、それは、悲しいことだと、私は思う。

 

 だけど私の陳腐な言葉じゃ星さんには届かなかったようで、行ってしまいそうになる彼を、私は思い切り声を振り絞って引き留めた。学校でこんなに声を出したのは初めてかも。

 

 言葉で駄目なら、ギターで語るしかない。

 そもそも私には最初からこれしかなかったんだ。

 無責任に人を応援する曲はあまり好きじゃないけど、やるしかない。

 

 私は深呼吸を一つして、ギターを取り出した。弦に指を触れながら、心の中のもやもやした感情を少しでも伝えられるように、慎重に音を紡いでいく。

 

 私の全身全霊の即興ソングは、彼の心に響くだろうか――

 

 

 

 

 

 

 

 

「あの、どうでしたか……」

 

 自身はあんまりないけど、私に出来ることはしたはず。

 恐る恐る星さんの目を見ると、星さんは大粒の涙を流しながら立ち尽くしていた。

 私の音は伝わったようで、彼は涙を流しながら飛び降りることを撤回してくれた。

 「後藤さんは俺のヒーローだよ!」と言ってサムズアップする姿に、もうさっきまでの死を覚悟したような哀愁は感じられない。

 

 そして、彼の言ったヒーローという言葉を反芻する。

 

 ヒーロー……ヒーロー……うぇへへ。そうだ、私はヒーローだ。

 それに、星さんもこんなにも褒めてくれるなんて、これはもう私のファンと言っても過言ではないのでは!? うん! そうだ! きっとそうに違いない!昨日のライブでもすごい応援してくれてたし!

 

 そっ、そうだよね。私ギターヒーローだし。ファンの一人や二人そりゃ出来るよね!

 

 今なら何でも出来る気がする! せ、せっかくだし、ファンの悩みを聞いてあげるのもいいかもしれない。ふふ、私は迷えるファンをギターで導く粋な女……

 

「そ、その、私に出来ることがあったらなんでも聞きますよ! ちょちょいのちょいで解決しちゃいます!」

 

「えっ? あー、そうだな……じゃあ、一つ頼み事していい?」

 

「任せてください!」

 

「俺の友達に、今すごい悩んでる子がいてね? その子はすごく責任感が強くて、頑張り屋なんだけど、色々あって立ち止まっちゃっててさ。助けてあげたいんだけど、俺じゃどうにも出来そうにはなくてね」

 

 嫌な予感がする。

 

「後藤さんにその子の背中を押してあげてほしいんだ」

 

 無理ー!

 私を全肯定してくれるであろうファンの星さんならまだしも、私の対人能力はゼロ! 星さんの悩みだと思って聞いてたけど別の人と関わる可能性があるなら私に出来ることなんて……ない! 調子に乗ってなんでも出来るなんて言ってすみません。

 

「あ、えっと、その」

 

 断れ! 断るんだ私! 断れぇぇぇぇぇぇ!

 

「はい……任せてください……」

 

 ここで断れたら陰キャやってない! 

 

「それで、その人っていうのは……」

 

 一応その人の名前を聞いておこうと星さんに問いかけるも、機を図ったかのようにキーンコーンカーンコーンと、聞きなれたチャイムが響き渡った。

 

「チャイム鳴っちゃったね。遅刻する前に急ごうか。走ればギリ間に合うよ」

 

「あっ、えっ、結局誰の背中を押せば……?」

 

「近いうちに分かると思うよ! ただ、後藤さんの力がいる人がいるんだってことだけ覚えておいてほしい!」

 

 星さんはそう言って、ダッシュで階段を駆け上がっていった。

 

 私の力……私の力が必要な人なんて本当にいるんだろうか。私なんて人と目も合わせられないし、友達もいないし……

 

 でもでも、星さんは私の音楽を聴いて思いとどまってくれた。

 これってもしかして私はすごいことをしたのでは?

 音楽で命を救う。

 うんうん。よくよく考えたらすごいことしてた私!

 私に救えない命なんてない! ロックンロールで世界平和を語るんだ! そしてゆくゆくは世界中の皆にちやほやされるんだー!

 




今回のMVPはぼっちちゃんの机を椅子にしてた陽キャ女子です
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