ぎゃるげー・ざ・ろっく!   作:ドラクマzeq

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♪8 強制お泊まり会 in 伊地知家 上

 

「は? 何言ってんのお前」

 

 ドスの効いた店長さんの声に思わず肩がすくみ、俺はその場で固まってしまった。

 

「いやぁ、店長さんの家に泊まっちゃおうかなーなんて、あはは、冗談ですよ、冗談!」

 

 店長さんの目が一層鋭くなり、冷たい風が吹いたかのような雰囲気が漂う。

 

「本気で言ってたらその口縫い合わせてたぞ。まったく……お前までリョウみたいになるつもりか」

 

 山田さんも伊地知さんの家に泊まったりしているんだろう。羨ましい限りだ。とはいえ、同性を家に泊めるのと、異性を家に泊めるのでは話が全く違ってくる。店長さんのこの反応も当然のものだ。

 

「あんまり遅くなると親も心配すんだろ。とっとと帰れ」

 

 バイトを終えた現時点で、時刻は既に十一時を過ぎており、確かに早く家に帰らないと親は心配するだろう。普通の家庭なら。

 

「いえ、俺の親はもう……今は一人暮らしなんで。実はちょっと寂しいってのもあったり」

 

 これは本当だ。一人暮らしを始めた最初の頃は、ドキドキだったりワクワクが止まらなかったものだが、いざ慣れてくると、掃除に選択、料理にゴミ出しだったりとやらなきゃいけないことがクソ程ある。たった数十分で終わるような作業も億劫なのだと、一人になってやっと実感した。

 それに会話がないってのも寂しいもんだ。夜の静けさの中で、ふと誰かと話したり、家族の温もりを感じたりすることがどれほど大切だったか……

 

「そんな悲しそうな目で私を見んなよ。まるで私が悪者みてぇだろ。でも……そうか。お前も大変だったんだな」

 

「本当に大変でしたよ」

 

「……虹夏に変なことしないって誓うなら今日くらい泊めてやってもいい」

 

 ……んっ? えっ! 嘘、何で!?

 今の会話の間に店長さんの心の中で一体何があった!?

 さっきまで絶対に泊める訳ねぇだろみたいな顔してたのに、今はまるで我が子を見る母のような優しい顔で俺を見てくる。

 

 だけどこれは思ってもないチャンスだ。ここで俺は自分をアピールすることで、伊地知さんとの仲を深めつつ、店長さんの信頼も取り戻せる!

 

「ならお言葉に甘えてお邪魔します!」

 

「虹夏に手出したら速攻で追い出すからな」

 

「はいっ」

 

 

 

 ▽

 

 

「お邪魔しまーす」

 

「おかえりーお姉ちゃん……と、星君? どうしたの?」

 

 STARRYの三階に住む伊地知さん宅へとお邪魔すると、ひょっこりと迎えてくれたのは、ピンク色のエプロンを身にまとった伊地知さんだった。

 控えめにいっても似合いすぎている。この姿を見ることが出来たってだけで来た甲斐があったってものだ。毎朝味噌汁作ってほしい。

 

「ただいま。今日こいつ泊めるから」

「え゛、何でそうなった!?」

 

「寂しいんだとよ」

 

「そんな兎みたいな」

 

「寂しいぴょん」

 

 伊地知さんの家に泊まれなかったら寂しくて死んじゃうー。

 

「やっぱこいつ帰らせるか」

 

「それがいいよ」

 

「冗談! 冗談ぴょん! ちょっと茶目っ気を出しただけですって!」

 

 場を和ませようと思ったが、余計なことは言わない方が良さそうだ。黙って流れに身を任せよう。

 

「虹夏、まだご飯食べてなかったのか」

 

「うん、今日はお姉ちゃんと一緒に食べたいなーって思ってたんだ! もう少しで出来るから待っててねっ」

 

「俺も手伝いますよ」

 

 伊地知さんからしたら急に押しかけてきた形になるし、ただご馳走になるだけなのも気が引ける。それにエプロン姿の伊地知さんをもっとこの目に焼き付けたい……!

 

「いーよいーよ。星君はゆっくりしてて!」

 

 伊地知さんは笑顔で俺にそう言ってくれるが、それじゃあ俺の気が済まない。

 

「そういう訳にはいきませんよ。伊地知さんこそ、自分の家だと思ってゆっくりくつろいでいってください」

「ここあたしの家なんだけど!」

 

 遠慮しているのか中々俺を台所にあげようとしない伊地知さん。

 伊地知さんは少し困ったように眉をひそめながら、俺の申し出を受け入れるか迷っているようだ。確かに今の今までの俺を見ている伊地知さんが不安になるのは分かるけど……! 俺だったら絶対俺みたいなやつ台所にいれないし。

 

「絶対邪魔だけはしないんで!」

 

 今度こそ汚名返上させてください。このままじゃ俺の評価は地の底だ。

 

「うーん……分かった。じゃあ一緒に作ろっか! 今日は肉じゃがなんだ!」

 

 俺の必死の頼み込みに折れたのか、はたまた俺の土下座の気配を感じ取ったのか、伊地知さんはにっこりと笑って包丁を手に取り、俺を台所へと案内してくれた。やっぱり伊地知さんは優しいなぁ。

 

 それにしても肉じゃがか……正に家庭の味を感じられる一品だ。作るのが楽しみになってきた。

 

 

 【塩を入れる】

 【砂糖を入れる】

 【佐藤を入れる】

 

 【じゃがいもの芽を取る】

 【じゃがいもの芽を食べる】

 【じゃがいもの眼を取る】

 

 【弱火でしっかりと煮込む】

 【中火でしっかりと腕を煮込む】

 【強火でしっかりと全身を煮込む】

 

 料理中に出てきた怒涛の選択肢を掻い潜りながら、俺は伊地知さんとの初めての共同作業を終え、何とか五体満足で生還した。

 

「お姉ちゃん、ご飯出来たよー!」

 

 伊地知さんはソファでくつろいでいた店長さんを呼ぶと、テーブルに皿を配膳する。メインの肉じゃがの他にも味噌汁や炊き立てのご飯も食卓に並べられていく。

 全ての料理をテーブルに並べ終え、食事の準備が整うと、伊地知さん、店長さん、俺と順番に着席した。

 「いただきます!」と言った伊地知さんの掛け声とともに、俺は自分の皿に盛り付けられた料理を口に運ぶ。

 肉じゃがの深い味わい、炊き立てのご飯のふっくら感、味噌汁のあたたかさ……これら全てが、俺と伊地知さんの共同作業における賜物だと思うと味わい深いな……

 味は当然ながら美味い。俺が今まで食べてきた中で一番美味いと胸を張って言える。これがお袋の味……? 虹夏ママ……?

 

「どう? 美味しい?」

 

「おいじぃです」

 

「うわ、泣いてる。こわ。でも嬉しいよー! お姉ちゃんいっつもぶっきらぼうだから、美味しいと思ってくれてるか分っかんないんだよねー。お姉ちゃん、つんつん、つんつんつんつん、でれぇって感じだから、あんまり褒めてくれないし」

 

「うるせぇ、後デレてないから」

 

 店長さんはツンデレだった……!? だとしたら俺への態度もまだツンの可能性が……? 果てしないツンの先にデレがあるなら俺もまだ頑張って見ようと思えるな。

 

「そういえば、今日はぼっちちゃんの話で遮っちゃったから聞けなかったけど、星君はどこに住んでるの? ここから遠かったり?」

 

「いや、かなり近いぞこいつの家。ここから徒歩十分もしないだろ」

 

 何で俺の住所が店長さんに知れ渡ってるんだ……と思ったけどそういえば今日、履歴書渡してたな。

 

「えっ、そうなんだ。じゃあもしかしたら、どこかで会ってたかもしれないね!」

 

「そうですね」

 

 俺、もっと早く伊地知さんに会いたかったよ。

 

「そういえば、親に連絡とかしなくて大丈夫?」

 

「虹夏……」

 

 伊地知さんの問いに、店長さんは急に暗い顔をして伊地知さんに視線を向けた。

 

「親は……俺が高校に入学してからすぐに……」

 

「あっ、ごめん……」

 

「海外に飛び立ってしまって……おかげでいきなり一人暮らし、人生ハードモードですよ」

 

 何故か高校進学と同時に、父母二人揃って海外へと飛び立っていった。何でも仕事の都合らしいが、それにしたって出発直前に告げるのは酷いだろうと思ったことを覚えている。

 しかし、俺はこの展開に対してある意味納得していた。何故なら、ギャルゲー主人公の親は海外出張しがちだからである。

 むしろ家に親がいる主人公なんて主人公じゃねぇよとすら思う。

 古来からギャルゲーの主人公の親は、子を置いて海外へと行くものだと決まっているのだ。

 恐らく俺の親も、俺が高校を卒業するまでは帰ってこないんじゃないだろうか。

 

 親の旅立ちの日には驚愕と、少しの寂しさと、そしてやっぱりこの世界は俺が主人公のギャルゲーに転生したんだなと感動さえしたものだ。やっとこのクソ選択肢も報われる。そう思ってたんだけどなぁ……

 

「はっ? お前の親亡くなったんじゃないのかよ」

 

「いや、全然生きてますよ。勝手に殺さないでください」

 

 店長さん、俺のことが嫌いかもしれないとは思っていたけど、まさか俺の家族もろとも()るつもりか……? ツンの部分強すぎない? デレが来る前に一族皆殺しにされそうな勢いすら感じるな。

 

「心配して損したじゃねぇか……」

「本当だよ、紛らわしい言い方しないでよね」

 

 あれ、何か勘違いされてたっぽい? 確かに俺の言い方も悪かったか。良かった。店長さんも心配してくれてたんだな。

 

 

 

 

 

 

 

「ごちそうさまでした」

 

 それからは、雑談に花を咲かせながら夕食を食べ終えた。最初は怖いと思っていた店長さんも話してみると案外いい人で、なんだかんだ伊地知さんのお姉さんなんだなと思わせられた。

 伊地知さんは言うまでもなく天使で、彼女の気配りや笑顔は、場の雰囲気を一層和やかにしてくれた。いきなり押しかけてきた男の対応までやれちゃうだなんて、コミュ力高すぎるな。

 

「CMに出てる食べ物ってやたら美味そうに見えますよね」

「あー、分かるかも」

 

 そして、現在俺はテレビを見ながら伊地知さんと談笑中である。

 

「そろそろ帰るか?」

 

 時計の針は深夜一時を指す少し前。伊地知さんとの何気ない会話も盛り上がってきた所で、まるでこの流れを断ち切るかのように店長さんが割って入ってきた。

 

「帰りませんよ。泊まっていいって言ったじゃないですか。俺は何が何でも今日は泊まって帰りますよ。今後二度とこんな機会ないかもしれませんからねぇ!」

 

 自然と帰る流れに持っていこうったってそうはいかない。言質は取ってある。俺の頭にな! 優しくて可愛い他校の先輩の家にお泊りだなんて特大イベント、俺が見逃すはずがないだろう。

 

「こいつ……」

 

 店長さんは呆れたように俺を見つめながらため息をつく。

 

「ああ、ほら、着替えとか色々ないだろ」

 

「今から全速力で家帰ってお泊りセット持ってきます!」

 

 ここから俺の家まで徒歩約十分。走れば俺の足ならもっと早く着くだろう。速攻で着替えと歯磨きに、夜更かし用のゲーム用具を持って戻ってこよう。

 

「そのまま帰れよ」

 

「き、気をつけてねー」

 

 必ず俺はここに帰ってくるからな……!

 




新曲楽しみです。
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