西住長女は逃げ切れない 作:筋肉とタッパのある娘さんがね、好き
「……はぁ、それで大洗女子学園の戦車道の指導を?」
「ええ。報酬も悪くかないし、飯もなかなかだしでそれなりにいい職場ぽいっすよ。そのうちこっちにもアンコウとか送りますわ」
西住家の食卓。大皿に盛られた大量のヒレカツを飲むようにして食う巨大女。向かいには彼女の母たる西住しほが座していた。
「全くあなたは、いつも久しぶりに帰ってきたと思ったら荒唐無稽なことを言い出して」
「荒唐無稽なことをきっちり報告する以外に帰ってくる理由もないすからねぇ。ってか、よく毎回歓迎してくれるっすよね、正直なとこアタシとしては追い出されても仕方ねえってか、塩投げつけられるべきってか、勘当されても文句言えねえような事したつもりなんすけどね」
「あら、して欲しいの?」
「いやいや、冗談冗談。例え話じゃないすか」
咀嚼の合間に軽口を叩きつつも手が止まる様子のない巨大女。見るだけで胸焼けがしそうな光景を眺めながら、ため息を吐くしほ。
「なんすか、人の顔見てデッカいため息ついて」
「……あなた、また背が伸びましたね」
「そうっすかね? 最後に測ったのは187とかでしたけど」
「いずれあなたに背を抜かれるのは予想してましたけど、常夫さんまで抜かしていくとは思っていませんでした。ついでに筋肉の方も」
「実家が裕福だとデカくなるもんっすよね。金持ちの家に生まれて良かったっすよ。一般家庭だったら今頃家も車も食っちまってましたわ」
しほの記憶が正しければ、この巨大女が高校在学中に行われた身体測定は185cm105kgだった。彼女はひっそりと頭の中で巨大女に紹介してやれる仕事を考え始めていた。
大学生でありながら既に自立し、実家とは袂を分かってはいるが、それでも大喰らいの愛娘が飢えるのは忍びないと言う親の愛である。
「それで、りほ。大学の方はどうするつもり?」
「ほぼほぼ選抜のスカウトで入ったようなもんすからね。プロ入りは大卒してからの予定ですし、こっからは家のじゃない新しい看板背負ってやらしていただく訳なんで、その為の活動の一環ってことでだいぶ融通効かしていただいたっすわ。まあ夏の大会が終わってからは単位取得が忙しくなりそうっすけど」
「あなたの戦車道の実力についてはよくわかってるし、一選手として尊重しているつもりだから言うことはないけど……学業については心配です」
「ちゃんとやりますって!」
ヒレカツを全滅させ、丼に注がれた味噌汁にターゲットを移した娘を見ながら、湯呑みを傾けて喉を湿らせるしほ。
そうしてしばらく無言の時間が続いた後、いくらか真剣な面持ちで、しほの方から切り出した。
「りほ、あなたの流派の名前は決まりましたか?」
ちょうど飲み干した丼を起き、待ってましたと言わんばかりに獰猛な笑みを浮かべたりほ。
彼女は傍に横たわらせた鞄から一枚の看板を取り出し、グイと見せつけながら口を開いた。
「"
この物語は、新たな流派を打ち立てた西住りほの今後を追う物語───ではない。
そう、そこにいたるまでの困難の道のりを語る物語───でもない。
これは、転生者である彼女が部外者として原作を楽しみたい一心で努力を重ね、そしてその努力の成果を性癖により全て無駄にする。ただそれだけの物語である。