西住長女は逃げ切れない   作:筋肉とタッパのある娘さんがね、好き

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ちっちゃい女の子もね、好き


1.ツインテールの根本

 撃てば必中 守りは固く 進む姿は乱れ無し 鉄の掟 鋼の心

 

 

 

 即ち、西住流だ。

 長い歴史を持つ日本戦車道の代表的な流派。変幻自在の戦法を謳う島田流とは対象的に、規律や伝統を重んじる団体であるために、教育的な意義でも評価され現在も多くの門下生を待つ。

 また、選手の平均値を重視し、突出したエースを必要としない汎用性の高い戦術は学生の戦車道においても広く用いられており、特に西住流の過去ほとんどの代の家元をOBに持つ黒森峰女学園は高校戦車道において無類の強さを誇る。

 それ故に、所謂"顔役"としての意味合いも強い流派と言えるだろう。

 

 

 そんな西住流の今代の家元である西住しほには3人の娘がいる。

 

 1番下が西住みほ。現在高校1年生。黒森峰戦車道の副隊長を勤めていたが、今年の夏の大会でのとある事故をきっかけに転校し、現在は戦車道には関わっていない。

 

 真ん中が西住まほ。現在高校2年生。1年次より黒森峰の隊長としてチームを率い、前述の事故さえなければ10連覇を勝ち取っていたであろう名手である。その場面に合わせ西住流を完璧な形でなぞる戦術は素人目にも穴がなく、来年の大会の優勝候補としても名高い。

 

 そして1番上が目の前の人物、西住りほ。現在高校3年生。夏の大会を最後に高校戦車道を完全に引退し、大学選抜の隊長候補として経験を積んでいる。3姉妹の中で唯一黒森峰以外に進学し、全くの弱小高であったアンツィオを優勝寸前まで導いた傑物である。その際は主力戦車のエンジントラブルにより試合中に棄権という形を取り準優勝となったが、整備が万端であったら確実に優勝を勝ち取っていたであろうと言われている。

 

 

「ふぅん……正直言って、随分無茶な計画に見える。ってか、計画とすら呼べないぜこれは」

 

 

 手元の資料をペラペラと捲りながらこちらを見やる彼女。思わず身体が縮こまるのを感じる。私も大洗女子学園の生徒会長として多くの大人たちと対峙したが、彼女は別格だ。

 Leone(獅子)とも渾名される眼光や身に纏うオーラだけでなく、180後半に迫る長身に、隆起した全身の筋肉。生物としての格の違いすら感じる体格差だ。彼女がその気になれば、私など頭からボリボリと食われ───はしないだろうが、その程度の本能的な恐怖を感じていた。

 

 

「無理は承知です。それでも、何もせず廃校よりは何かをする道を選びたいのです。どうか、お力添えをお願いします」

 

 

 しかし、こちらにも引き下がれない理由があった。国が掲げる学園艦の統廃合計画により、我らが大洗女子学園が廃校の憂き目にあっているという理由が。

 計画には日本での戦車道世界大会のリーグの誘致の為の資金確保という背景があり、大洗女子学園にはそれを避けるに足る理由───つまり、高校戦車道における実績が必要だ。

 

 

「角谷杏さん、あなたの資料によると大洗の戦車道は既に廃され、現在の生徒には特に有力な経験者はなし。戦車を保有している記録は残っているが、具体的な場所も不明。確かにこの資料の通りの戦車が残っているならば全くのノーチャンスってわけでもないが、それでも優勝は不可能と言い切ってしまってもいいだろう」

 

 

 やはり無理か。

 彼女ほどの傑物をもってしても、現状は絶望的なのに代わりはないらしい。

 

 

「うし、そんじゃあ大洗を案内してくれや。最近ついにうちもヘリを導入したからな、今から行くぜ」

「はい……え?」

 

 

 予想外の言葉に固まる私を急かすように、彼女は手元のコーヒーを飲み干して立ち上がった。

 

 

「下見だよ、下見。ガレージだの、練習場所だの、教官やるんなら確認しなきゃならんだろ」

「……そ、それはつまり」

「誰もやらねえとは言ってねえだろ。受けるぜ、大洗の教官」

 

 

 イタズラっぽく笑いながら、胸を叩く彼女。

 資金も人材もない賭けにすぎなかったが、ようやく一つの光明が刺した瞬間だった。

 

 

 

 

 ◇◆◇

 

 

 

 

 

 や、ややや、やってもうたでござる──ー!!!!! 

 

 得意げにキメ顔を披露したはいいが、心の中の俺はゲロを吐きながら校舎の窓を叩き割って頭からダイブしたいくらいの狼狽え方をしていた。

 

 自己紹介をしよう。俺は西住りほ。俺は転生者。俺はガルパンおじさん。そして俺はできればあんまり原作に絡みたくないタイプのオタクだ。

 

 昔話もしよう。転生し、西住家の長女に生まれ、鼻を垂れながら全力で戦車道を楽しんでいた俺は、中学2年のある日気がついた。このまま俺が黒森峰行っちゃったらどうなんの? と。

 言った通り、俺は原作をそのまま楽しみたいタイプのガルパンおじさんだ。このニシズミハイスペックボディを遺憾無く発揮すれば、原作最大の転換点とも言えるあの事故を防ぎ、黒森峰10連覇を達成することもできる。

 あの事故に関連して彼女が負った心の傷は言うまでもなく看過し難い。ただ、その過程がなくては彼女は大洗の仲間たちに出会うことはなかったし、自分自身の戦車道を見つけることも叶わなかったし、大洗女学園は廃校の憂き目を免れなかっただろう。

 

 断じて、俺は断じてそんなことを許すわけにはいかない。

 妹が傷つくところを見たくない、ついでに言うとその辺を上手いことやってマイスウィートリトルシスターズから尊敬の目で見られたい。そんな甘い心をペシャリと握りつぶし、俺は西住流から決別する道を選んだ。

 

 具体的には西住流に乗っ取らない破天荒なキャラを演出し、アンツィオ高校に進学し、一年目から隊長として大会に臨み、優勝確実という場面で整備不良を理由に棄権を選ぶことで黒森峰の連覇を途切れさせることなく家元(お母様)に俺の実力を認めて貰い、西住流を捨て自分の看板を打ち立てる許可を得たのだ。

 

 長く険しい道のりだった。家元の絶対零度の視線と叱責に耐え、荒れに荒れたアンツィオの戦車道メンバーと拳で語らい、中学時代のコネを総動員してP40を導入し、余りにも貧弱な戦車達で夏の戦車道大会を勝ち抜いた。

 そして番長……もとい、隊長の立場を一年後に入学してきたアンチョビに任せ、高校戦車道から自然にフェードアウトした。

 

 そうして予定通りに件の事故が起き、マイスウィートリトルシスターズ達の様子に心を痛めつつも必死にフォローし、来年から始まる原作に思いを馳せていたところに、彼女がやってくる。

 

 

 角谷杏。大洗女子学園生徒会長、現在2年生、かわいい、公式によると身長は142cm、誕生日は1/1のAB型、かわいい、好物は干し芋、あとかわいい。

 

 

 つまり、彼女は俺の推しの1人であった。

 俺は昔から、小柄で可愛い女の子が好きで好きでたまらなかった。弁明しておくが、俺は決してロリコンではない。最低でも高校生以上じゃないとなんかテンションが上がらない。年齢に対して伸び悩んでいる身長に対して気にして背伸びをする感じとか、逆に全く気にせず飄々としている感じとか、そういうのに唆られるタイプなんだ。そういう子との体格差を目立たせるために今世では牛乳を飲みまくり、必死に筋トレをしていた。

 

 

 そしてたった今、原作に関わらないためにした約5年間ほどの血の滲むような努力を、推しの沈んだ顔一つで全力でどこかに放り投げたのがこの俺、西住りほだ。

 心の中の俺は既に地面に到着し、鬼の形相でゲロを吐き散らかしながら学園館の橋に向かって駆け出している。

 

 

「実際のところ、戦車道はいつ頃から始めるつもりなんだ? 来年度のはじめか?」

「はい、選択制の科目の一つとして戦車道を導入する予定でいます。ついでに単位や学食についての特典もつけ、無理矢理にでも人を集めようかと」

 

 

 そんな俺の努力をぶち壊してくれたスーパープリチーガールから状況を聞きながらヘリポートに向かっているところだ。

 スーパープ(ryの声色から隠し切れない喜色が伺えるし、足取りもどこか軽く見える。かわいいね、ツインテの根元とかしゃぶっていい? 片方だけでいいんだけど。

 

 既に学園館の端から大海原に飛び込み、どこかに向けてバタフライを開始した心の中の俺もどこか笑顔に見える。あいつはどこに向かっているんだろうか。

 と、ここで心の中の俺が水を掻きながら話しかけてきた。

 

 

『ガボッ! 俺よボッ! おおあぼっ! 妹ボボッ! 原作どおボボボボ!!!!』

 

 

 なるほど確かに、一理ある。元々大洗は俺が何もしなくても勝つ運命にあるはずだ。故に、俺は指導をしつつ本筋はマイリトルリトルシスターに任せ、小柄で可愛い女の子たちを陰から見守っていればいいと、そういうことだな。

 考えてみれば、その通りかもしれない。

 

 

 つまりこれより……始まるわけだ。

 原作への干渉を最低限に収めつつも、杏ちゃんや麻子ちゃんや典子ちゃん、他にもいっぱいいる女の子たちを眺める夢のライフが!!!!

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