ごちゃまぜ習作集   作:お否さま

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【夏と電車と厚底】

僕は、地獄と天国の境界線を跨いでようやく一息つく。

 

空気の抜けるような奇妙な音と共に、外界とこちら側が区切られた。

しばらくすればガタンゴトンと規則正しい音が響き出す。

 

ひんやりとした空気で満たされた車内に、僕以外は厚底を履いた女しかいない。

厚底、黒を基調とした今の時期には恐ろしい服。顔の美醜は見分けがつかないが、2本ぶらさがった髪型や耳につく鉄の輪、それにバッグにジャラジャラついたキャラものなんかは世間では可愛いと称されるものなんだろう。

仕事にケツを蹴飛ばされてる僕にはどうもついていけない文化ではあるがそれぐらいはなんとか理解出来る。

 

女から何となく目を離して向かいの車窓を除くとその仕事が遠ざかっていくところであった。そのままぼんやりと流れる緑を眺めていると視界の隅に何かが引っかかる。

 

そちらに目を合わせると、何が楽しいのか、目の前の女の靴先がブラブラと揺れ動いている。重そうな厚底だから遠心力もすごそうだ、とか益体も無い想像が脳をつく。

表情は見えない、というか見る気がない。

ただ靴の動きから何となく目を離せずにいた。その間にもぬるりと目的地が近づいてくる。

靴はゆらりゆるり、電車はぬるりずるりと。

陽炎か催眠術かのように僕はずっとそれを眺めていた。

 

いく程経ったのか。何回か止まったり動いたりした後に。

 

「----------」

 

車内放送が遂に終着点を報じる。

あぁ、来てしまったか。これから臨む焦熱の地獄に思いを巡らせ、顔を歪めながら僕は席を立つ。

ふと顔を上げると、向かいの女もちょうど席を立ってこちらに視線向けているところだった。僕と同じく、ふと顔を上げただけなのだろうが、そこで初めて女の顔を見た。

 

嫌そうな顔。私に向けたものでは無いが奇しくも私と同じ顔だ。

 

きっと、同じことを思ったのだろう。

共感が笑みを連れてくると、向かいの厚底女も鏡のように苦笑していた。ほぼ同時だ。

並んでドアの前に立つと、またも空気の抜ける音と共に、今度は逆に地獄の先触れがムワッと襲ってくる。外に出るより前に気持ちが萎れて行くのを感じる。

ただ、冷気のおかげなのか電車へ乗り込む前よりすこしだけ。

 

横は見ずに、だけど示し合わせたかのように足を同時に外へ。

踏み出した世界の暑さにたじろぎながらも。

 

ちょっとぐらいなら地獄でもやってけそうだ。

 

何せ、言葉が通じていなくとも仲間と確信できる人がいるのだから。

 

そうして僕らは、日差しに顔を歪めながらも、しっかりとした足取りで別々の次へ向かうのだった。

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