10話分お読み下さりありがとうございます。
私は未熟な人間だ。
生まれてから今まででそう感じなかったことはない。自分よりもよくできる兄、その兄を褒める周囲の人間。
兄のことは嫌いじゃない、嫌いになれないくらいに私のことを気にかけてくれる完璧超人だ。
ただ、流石に「自分ができすぎるのが原因で苦しい思いさせてごめん」とは本人からは言えないから、気にかけ方も遠回しではあるが、とにかく私が彼を恨むことは無い。
でも、周囲まではそうコントロール出来ない。
何かにつけて、私と兄を比べる。先生もクラスの人も両親も。それだけのせいにしたくは無いが、いくらかの原因を心に撃ち込まれて私は鬱屈とした人間となった。
「はぁ」
部屋の片付けをしていると、息が漏れ出す。
できるだけ無心で作業はするのだがそういう時に限って嫌な気持ちが忍び込んでくる。
実家から持ってきたものは、オタク趣味の避けれない宿命として山と積み上がっている。
引っ越して一人暮らししよう!と思った時はなんといい考えかと思ったけど、いざ持ってきた荷物の仕分けをするとなんとも面倒さが込み上げてくる。
少しだけ休憩をしようか。
近くに置いてあったスマホに、忙しいはずの兄から心配のLINEが届いているのを見て、私はその考えも捨てた。
そろそろ薄闇と濃い闇が混ざり合い始めた頃、ようやく部屋の片付けが終わる。
「……遅くなっちゃったなぁ。ご飯買っといてよかった」
主にフィギュア類の設置がとても時間がかかった。オタクは細かいところにこだわりを見せて時間を忘れる。
買っておいたコンビニ弁当を電子レンジにほおりこんで待つこと2分。その間に飲み物とお菓子を机周りに配置する。目の前のモニターには推しの待機画面。
見つけたのは2年前くらい。
変な奴がいると思って見始めたのがきっかけだ。今では可愛さもかっこよさも持つ私の立派な推しだ。
温め終わった弁当を机の上に持ってきて食べ始めること二、三分後ほどで配信画面の端からぴょこんと元気なシルエットが飛び出してきた。
「ども!いまは未熟で死ぬまで完成しない元気印、湖守まりもでっす。」
2年前から変わらない、挨拶。
そんなどうでもいい挨拶に少しだけ安心感を覚える。
そう、見つけた当初Twitterで変なことをしてて深夜テンションの私は爆笑してそのままチャンネルまで見に行ってしまった。
その時は最新から見ても仕方ないと思っていて、1番最初の配信のアーカイブを見てたのだけど、全く同じセリフをずっと変わらずに言っている。
でも、私にとって大事だったのはそのあと。
【いいですよね、未熟って!いくらでも成長できそうで! 悪い意味で使われることも多いけど、でも何かを変えたい時とか自分の可能性信じたい時にとってもいい言葉だと思うんですよ。他人から言われたらなにをー!って思っちゃうかもですけど、自分で言う分には未来に向かって突っ走っていける感じで大好きです。
だから、もし色々言われてもみんなもいつかでーかっくなれるってマリモは信じて応援していきまっす!】
そんな言葉を聞いてなにか暖かい力が自分の体に巡ったのを感じた。
自暴自棄にやけくそに生きて、この気持ちを抱えたまま死ぬのだろうって諦めてた自分でもなんだか前に進もうと思えたのだ。
だからこそ、私は、花芽双葉は一人暮らしに踏み切った。人には逃げと捉えられるかもしれないけれど、私にとっては今まで選択肢にすら上がらなかった前進だったのだ。
"まりもちゃん聞いて! まりもちゃんの声で勇気が出て今日から一人暮らしを始めたんだ!
ホントにありがとう"
そんなコメントを打って、人工的な光で朧気に、けれど美しく浮び上がる桜を窓から見る。
カレンダーは芽吹きの季節を指していた。
閲覧数的には、自身の力不足ですがそんなに良くありません。
その少ない閲覧数の中で、ここまで読んでいただいた方がいることで私の勇気とモチベになっております。
冒頭でも述べましたが、本当にありがとうございます。