ごちゃまぜ習作集   作:お否さま

100 / 100
祝!目標の100話でございます!
皆様ここまでありがとうございました!


【良いお年を】

 

テレビの音が無意味にガヤガヤと聞こえる。こたつを挟んで、向かい側には見慣れても見蕩れる彼女の横顔。ボブカットに白いセーターが愛らしい。けれどもその表情はいつもの無感情よりもさらに固く見えた。

固い唾を飲み込み、もう一度彼女に問う。

 

「いま、なんて?」

「だから、この関係も終わりにしようって。」

 

彼女はピシャリ、と僕の言葉をたたき落とした。

どうしてこうなったのだろう。

お互い25歳。20歳で告白してこれまで上手くやってきたはずだ。年末に実家ではなく彼女とすごしているのだって僕の気持ちが分かるはず。彼女だって僕とすごしてくれている。だってのになぜ。もった湯のみには茶柱ではなく漣が立つ。

 

「なんで」

「あなたも、わかってるはず。」

 

テーブルに置いた指が、かつかつと僕の答えを急かす。正直に言えば、分かっている。きっと僕の男気のなさが問題なのだろうと思う。思えば告白してから一度も結婚の話をしていない。彼女だって不安になって来る時期だろう。なら、僕に見切りをつけても仕方ないのかな、と理解してしまった。きっと新しい生活をお互いに送る方がよほど幸せになるのだろう。

 

「まぁ、そうだよな……。君の美貌なら何年経っても愛せるだろうし」

 

他の男のあても着いているのかもしれないな。後半の言葉は胸が苦しくてつっかえた。

僕の足りない言葉に、それでも分かりやすく顔を輝かせた彼女にやはりそうだったのか、とさらに息が詰まる。

 

「うん、だったらすることはひとつだよね」

 

思えば新年になるし関係のリセットにはちょうどいいのかもな。それでも、僕がもっと君を愛せていれば。僕が君にふさわしい人間になれていたのなら、この結末はもっと違った形になっていたのだろうか。

長くいてこそ気づく、彼女の口の端が少しだけ歪み。普段ほとんど無表情でも、少しばかり彼女は表情が動く時がある。普段感情が薄い君が最も感情を動かされた時の合図。今は喜び。それがなんとも苦しい。

涙は見せなかった。彼女の思いに答えられなかった僕が甘えるのは卑怯だから。

けれどこれだけは、最期に。

 

「ねぇ、ほんとに最後だからさ。

ひとつだけやりたいことがあるんだけど、いいかな?」

 

零時まであと数分。

シンデレラの気分だ、負け犬の。

彼女は不思議そうな顔で僕をうながす。

それなら、と。この日の為に準備してきた箱を目の前に差し出す。叶わないからこそ、自分勝手な気持ちを1度だけ。どれだけ君のことが好きだったか。

今にも潤みそうな瞳を痛いほどつむって、 つっかえそうな喉を無理やりに開けて、今だけは僕の君に愛を捧ぐ。例え0時を過ぎれば魔法が溶けるとしても。

 

「僕と、付き合ってください」

「うん、その言葉待ってた。喜んで」

 

あぁ、君以上に愛せる人はきっとこの先現れないだろう。君にも辛いことをさせたろう、そんなに目を腫らして。よろこんで、なんて言葉、ぼくだって本当は聞きたく……ききたく……よろこんで?

 

「え? な、なんで?」

「? どうしたの?」

 

お互いに目を合わせる。

彼女は純粋な疑問。目の周りは真っ赤だけど美しさは増していて……。天使がとおりすぎる。

数十秒の膠着から抜け出して彼女の肩を掴んだ。。

 

「え、僕と別れたいみたいな話じゃなかった!?」

「なんで、違うよ、言うはずない」

 

すると彼女は今度こそ泣き出してしまう。

 

「ごめん、そんなつもりじゃなくて!

関係を終わりにしよう、なんて言うから嫌いになったのかなと思って!」

「ううん、恋人は終わらせて、あなたと夫婦になりたいって。だから」

 

ああ、彼女のことよく知ってるのは、言葉が足りないのは知っているはずだったのに。

恥ずかしくて、彼女を傷つけて顔から火が出そうだった。

 

ようやくお互いが落ち着いて見つめ合う。

落ち着くと、じんわりとした実感が迫ってきた。

数分前よりもさらに愛らしくて抱きしめたくなる。

だけどそれよりも先に。

 

「ね、これまで恋人でいてくれてありがとう。

今年1年も君といて本当に楽しかった。」

「私も」

「だから来年もよろしくね、今度は夫婦として」

「うん、良いお年を……いや二人でいい年また作ろーね」

 

そういうと彼女は潤んだ瞳で顔をちかづける。

 

0時の魔法は蕩けた。

シンデレラでもなくてお姫様は彼女で、しかもキスでだけど。




これにて年内投稿とごちゃまぜ習作集に関しては、一旦更新止めます!
ここまで読んでくれたあなたのおかげで私がいます。
本当にありがとうございました。
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