音がない静かな部屋に1つ、ぱたん、と軽い音が鳴った。
振り返れば、手を放した扉が閉まっていた。いつものように一応確認すれば、さっきの軽い音とは裏腹に扉の取っ手はビクともしない。ため息をつき、前を向く。
そしてまた、次が始まる。
足が鉛のようで動かすことが億劫。だけれど、他に道はない。頭ではそうと分かっていても、ほんの少しの希望を胸に見回してみる。だが、やはり目の前にしか進めないことが分かり、周りの人間はいつも通り"恐らく"私のことを応援していた。
本当はどうなのか分からない。少なくとも、侮蔑の色は見えない。だが、応援する時にあるべき声援が一切聞こえないのだ。
それも当たり前、私の周囲は透明な壁によって囲まれていてその向こう側に彼らがいる。動きはあるのに一切の音は通じてこず、パントマイムでも見ている気分になる。だがそれよりもこの状況は数段不気味だ。
ここに来てからそれだけはずっと変わらない。
一体いつからこんなことをやり始めたのか思い出せない。示された賞金に目が眩んだだけというのは憶えてる。
いわく、扉をひとつ越す度に金額が2倍になっていく、と。
最初は夢中で乗り越えた。その頃は、まだ前に進む扉以外にほかの扉があった。
だが、今は無い。
そう、前に進む扉と戻れない今来た扉のみ。いつまで続くともしれず、扉を開ける度に募る徒労感と尚早と絶望が身体にまで影響を与えてくる。目は霞み、足は重く、湧き上がるため息はとどまることを知らない。
正確には扉まで透明なせいで、周りの彼らに紛れてほかの扉がどこにあるのか分からないのだ。
わかるのは進むべき道とその向こうの真っ赤な扉だけ。危険信号のように、人の興奮を駆り立てるように、真っ赤な扉があるだけ。
そしてその道中には色々な罠や仕掛けが無数にしかも無色透明に仕掛けられ続けている。
リタイヤしようにも場所が分からないまま、ここまでズルズルと来てしまった。次こそ終わるはず、と本当は信じてすらいない言葉をそれでも気休め程度に口にして、疲労の泥濘から足を引っこ抜く。コンディションは確実に最悪だ。
それでも慣れている私は、どうにか罠を乗り越えて次の扉にたどり着く。
周りの動きが激しくなったが、私には関係がない。
目を閉じて、取っ手を握る。正直、回数を重ねてきた身からすればこの扉を開ける行為こそが最も辛い。息が震えて、体の奥からなにか大事なものが引き抜かれる感覚がする。そんなことをずっと続けてきた。
だが、進まねば終わらない。ゴールに至ることも、あるいは死ぬことも。
息を整え取っ手を回した。
扉を開く。
次は、またすぐに。