自身が進んでいる道が合っているのか。
深夜の田園地帯は、そんな誰しも抱えるような底知れない恐怖を与えてくる。だがそんな宵闇にも信頼出来る磁針はある。ぽつんぽつんと設置されている街灯だ。
次までの距離が長いが、迷うことなく誘導してくれる。それは都市であっても田舎であっても変わることはなく。
今宵もそんな田舎道の街灯に誘われるように、一人の男が現れた。
男は仕事帰りだった。
酔いはしていないけれど、深夜をふらふらと一人で歩いているその姿は遠目から見れば酔っ払いにしか見えない。
そして、特に気になるのは表情だ。見てるものがあればどうかしたのだろうかと心配する程度には彼の顔は憔悴しきっていた。
それこそ街灯が無ければ田畑に突っ込んで動けなくなるんじゃないかと言うぐらいに。どこからか聞こえてきた犬の遠吠えにもまるで無関心だ。
そんな男はフラフラとしながら次の街灯へと入る。本来なら足を止めずに、また次へ、また次へと帰宅までに通り過ぎる幾本かの1つとなるはずだった。
だが、今回そこで彼は何かを見つけた。それは、田舎ならお馴染みの、野菜の無人販売だった。
こんな夜更けにそれに特別目をつけることはあまりないだろうが、今日はなんだか気になったようだ。
普段なら気にもとめないものだが、魔が差したのか彼はそこで立ち止まり、置いてある野菜を見てみようと思い立つ。
だが、不審に眉を顰める。
他がどうなのか分からないがここにはトマトしかないのだ。真っ赤で丸々としていて、何より先ほど取れたのかと疑うくらいに瑞々しさに溢れている。目をこらせば朝露さえ見えるのではないだろうか。
なんとも魅力的だ。
男はひとつ手に取り、おもむろにかぶりつく。
宝石のような誘惑に耐えきれなかったらしい。
味はどうだったのかと言うと、まぁ男の蕩けたような顔を見れば明らかだろう。
そのまま無心にシャクシャクと食べる男。
へた以外を体内に収めた彼は、手を拭き財布を取り出すとひらりと一緒に引き上げたものを落としてしまう。
それは幼い男と、母親と、1匹の犬が美味そうにトマトを食べる写真であった。
それを拾い上げた男は、なんとも言えない、心の奥の大事な気持ちのひとつが染み出したかのような顔をした。
幾分か後に男はお金を置いてその場を離れた。
ワンっ。
なにかに気づいた男が振り返る。
街灯に照らされたその顔は、来る前と違って穏やかだが活力が溢れていた。
そうして男は再び、今度はしっかりと。
次の光へ歩き出した。