「花火大会、ですか?」
ミューちゃんはそう返すと、首を傾げた。
連動して蜂蜜色の綺麗な髪がしゃらりと動く。
真ん丸に見開いたおめめは、湖みたいな碧色だ。
「そ、お祭りとほとんど一緒かな」
こちらの世界に来てから日が浅いから知らないのも仕方ない。あっちじゃ花火は号令だったりの合図用だったし。
僕の答えに彼女は目を輝かせる。
「であれば、またヤキソバやタコヤキを頂けるのですね!?」
「間違っちゃいないけど」
君の世界にも花火はあったんだから、もっとこう、あるだろ反応的な何かが!
ミューちゃん。本名ミューズ・ティア・オスワルド。白ワンピに麦わら帽の今では想像もできないが、これでも1国のお姫様。
その証拠……になるかは分からないが、とにかく精霊か、それとも女神かと言われても危うく信じそうになるほどの人外じみた美人だ。
髪や目は言わずもがな、顔の造形だってそりゃまた素晴らしいし、隣に並ぶのが恥ずかしいくらいには小顔。手や足も極端に細い訳ではなく、肉体全体で見てとても均整のとれたプロポーションだ。
そんな彼女は、僕が異世界に行った時に出会った。行ったというかほぼ誘拐だったけど。
なんやかんやで問題解決して戻ろうとした時に、僕の腕に捕まってついてきたのが彼女である。一応あちらではパーティメンバとして活躍するほど強い人物なのだけど、こちらではただのか弱いお姫様……ってほどでもなく護身術を教えたらするする覚えていった。
性に合うのはヒップホップのダンスだそうだ。
そんな彼女はこちらに来てから随分と熱心な食マニアになってしまった。具体的にはB級グルメあたり。
「じゃあ、着替えて18時に集合ね。
着替え方は母さんに教えて貰って」
「ふふ、了解しました。
ユカタというのでしたか?こちらの祭りの正装は。実は、ドレスとはまた違った優美さがあって1度着てみたかったのです。」
そう言ってルンルンしながら浴衣選びに向かうお姫様。
楽しげな様子を見てたらこちらまで祭りが楽しみになっていった。
「お待たせしました」
涼やかで透き通った声が響く。
振り返るとそこには浴衣を着たお姫様がいた。
「あの、いかがでしょうか……」
少し恥じらい気味にこちらを見る彼女はうなじが夏のせいか、見えているうなじが艶やかで見る場所に困る。浴衣は濃い紫に花火の模様が散らしてあるような柄。
金の髪と宝石よりも尊く輝く顔がまるでいっとう大きな花火に感じられるほどよく似合っていて美しい。
「とってもよく似合ってるよ!美人さんすぎて眩しい!」
「あら、お上手。ですが、あなたのために着た甲斐がありました」
そう言って益々嬉しそうに微笑むおひめさまは、控えめに言っても人を殺すほどの美貌だった。心臓の音がうるさくなっていくのが自覚できる。
「そ、そういえばさ!」
焦って誤魔化そうとする自分はなんと醜いのだろうか。
「あっちに、食べ物の屋台が出てたよ!」
「なんと。早く行きましょう、待ちきれません」
そう言うと彼女は僕の手をしっかりと掴み、走り出そうとする。
瞳を湖面のようにキラキラと輝かせるその姿は、まるで童女だ。
心臓の音は変わらない、むしろ先より大きい。でもそれも仕方ない、と笑えるぐらいには余裕が出来た。それは彼女の綺麗さを認めつつもその内面も好きになってしまった男の、成長とも言えるし弱さとも言えるのかもしれない。
「行こうか」
異国情緒溢れるおひめさまは、庶民な僕を連れて、ガラスの靴の代わりに下駄の音を楽しげに笑わせて祭りのただ中へ飛び込むのだった。