8月半ば。
夏ど真ん中。
私はビルの中に居た。
夏の鬱陶しさは空調によって除かれているがソレでも窓から見える外では、まるで見てはいけないナニカのようにゆらゆらとカゲロウが揺れている。
どのぐらい暑いかは想像するまでもない。
そもそもさっきまでそこにいたし、私。画家としては外に出にこんな風に空調が聞いた中でずーっと作品を書いているのがあっていると思うのだ。
そんなド熱中に、熱気とカゲロウを縫ってボロボロ汗を零しながらも、ここまで来たのはクライアントに作品を納めるため。
とある富豪が、ありがたいことに私の絵を気に入ってくださったので、依頼されたものを書き上げたというわけだ。
値段も相まって、今でさえ夢見心地ではあるが、それはふわふわと心が嬉しさを抑えられないからだ。
とはいえ。
言いたいことがない訳では無い。
せめて呼びつけるならもっと朝早くか夜遅くなら気温もマシだったろうにと思う。もっともそれこそ結構な値段を提示されているので、私のわがままなのだろうが。
なので今の私は、クライアントのお膝元で服を変えるわけにもいかずに結果、多少汗を拭い化粧だけ整え、べっしょりと貼り付いた気持ちの悪い服で待っている。
新手のプレイ内容か?果たして正解なのかと疑問に思う。
そんなことにつらつらと思考を泳がせていた私を、コンコンという音が現実に呼び戻した。呼び戻したついでにどうやらあちらさんも私をお呼びらしい。
通された部屋では、私よりも明らかに肌色が艶やかな(どれだけ上に見積もっても23くらいか)女性がパリッとしたスーツ姿で待っていた。
余計にペットりと貼り付いたシャツが恥ずかしく思える。
「よく来ていただきました、先生。会いたかったです。
持っていただいた絵は小間使いにお渡し下さい。後で浴びるほど鑑賞いたします。」
小間使い!
てっきり部下的なものかと思っていたら、私を呼びに来た人は御恩と奉公に生きる人であったようだ。
少なくとも本の中以外で聞いた事のない単語、小間使い。
そんなくだらない事を考えている私など気にも留めずに彼女は、微笑んでいる。
「渡しましたね? お帰りになる前に少しお話しませんか。私は先生の感性にも興味がありまして。」
そう言うと彼女は私の手を引いて奥の部屋へと導く。
部屋には大きなベッドがひとつ。
なるほど百合の花が依頼されていたのはもしかして。
後ずさりすると、彼女は1歩近づき札束を握らせる。
そうして、たじろぐ私にニコリと微笑んだ。
「すみませんね、私は気に入ったものは全て手に入れたい性質でして。夜が更けるまででいいので沢山『お話』しましょう、ね?」
肌色が隠せない私のシャツに向けられる彼女の視線は、きっと、肉食獣のそれと同じだった。
ここから入れる保険とか、ありませんか?