校舎が夕暮に染まっていく。
白い外壁がオレンジ色になるその様は、どこかノスタルジィを感じる。子供の時の記憶を、忘れていたはずの思い出を引っ張り出してくる。
下校を告げる無機質な鐘の音、窓から見送る先生の顔と、校庭を駆け回る子達の元気な声。
私にもあんな時があったなぁ、と思い返してみる。校庭を駆け回る方よりかは、教室でお絵描きをしていることが多くて、下町で働くお母さんのお迎えを待ちながら友達とくだらない事で笑いながら色々描いていた。
くだらない、と思い返してしまう程には大人になったのだろう、私は。それでも、あの日があったからあの人に____
「おかあさん!」
思い出にふけりすぎてしまっていたみたい。
いつの間にか、目の前には娘がふくれっ面で立っていた。この前水族館で見たフグのようで、我が娘ながらとっても愛らしい。
「んー、どした」
とりあえず、目線を合わせながらほっぺをつんつんする。ぷしゅっと空気が抜けた。可愛い。
「さっきから呼んでたのに全然来てくれないから私から来ちゃった!」
「おー、なんと魔性の可愛さだろ」
抗議の意を込めて私の人差し指を握るのも、愛らしきことこの上ない。
「そんな君にはもう一本を足してあげよう」
抑えてた手と逆の手で、別のほっぺたを突っつく。大福のようにモチモチすべすべ。
「や〜め〜て〜!」
大声を出すと私から離れる娘。ふしゃーと唸る姿はまるで子猫。特に丸っこいのにキリッとした目がお気に入り。このまま抱っこして帰りたい。
「聞いて聞いてママ」
「んー?」
「あのね、今日めあちゃんと一緒にね、放課後お絵描きしたよ」
「あら」
どうやら血は争えないらしい。
ふんすふんすと何かを隠してドヤ顔してる娘に、聞いてみる。
「何かいてたの?」
「ふっふっふー、パパとママの絵!
どっちも大好きだから!」
あらヤダかわいい。
そう思いながらも娘の描いた絵を見てみると……明らかに片っぽだけ__
「ねぇ、パパの方が大きくない?」
「だってパパの方が好きなんだもん」
"なんで、僕も描いてるの? なんでパパと同じくらい大っきいの?"
"ママよりパパとたーくんの方が好きだからね!"
ふと娘の影が喋った気がした。思い出の残滓か、夕方の魔法か。思わず、ふふっとにやけてしまう。
やっぱり血は争えないみたいだ。
それはそれとして。
「私も同じぐらい大きく描きなさい」
「むぎゅ」
腹いせにもちもちほっぺをつまむ。
パパより接する時間長いのに、あっちの方が好き度大きいのはちょっと癪。
あと私の方がパパ大好きだし。