ソイツが聖剣【亡びの無明】か。
俺の耳に声が届いたのと、持っていた剣で悪意を払うのはほぼ同時。からんとおちた矢の先はなにかの液体が付着していた。
「今ので仕留められたのなら楽だったのだがな」
柱の後ろから、一人の男が矢を継がえながら悠然と歩いてくる。闇色で揃えられた服とズボン、ダガーに弓。まちがいなく暗殺者であろう。だが、妙だ。そうであるなら、なぜ、目の前に出てくるのか。
俺の物問いたげな視線を解したのか、やつは弓を置きダガーを抜く。
「なに、あんたに不意打ちは無駄そうだと判じたまで。それにこっちの扱いの方が得意でね」
そう言って切っ先をこちらに向けた男は、唯一見える目元だけで分かるほど挑戦的な顔だ。
なるほど、斬り合いにはそれ相応の自信がある武芸者と見える。
であれば、こちらも抜かねば無作法というものであろう。頭のどこかでよく分からない知識が反応する。それに従う訳では無いが、腰に佩いた剣をずるりと抜き放つ。刀身を目の当たりにして、男は眉をしかめた。
「随分と扱いが悪い」
「元からこうなのだ、すまんな」
何度磨こうとその名の行為の如くさびていく。
これがこの剣の特性。いや、汚点だ。
「なるほど、聞いてはいたがそうなるのか。
なんとも聖なる剣とは思えんな」
「そりゃそうだろう、なんせ聖剣とは周りが勝手に言っているだけなのだから」
事実、この剣は聖なる力など宿っていない。
これに宿っているのは執念だ。常人であれば気が狂い、果てに至る前に自殺してしまうほどの鉄心を徹し続けた愚かなまで信念に生きた男の、執念。
「聞きたいか?」
「いいや、それはオレの仕事じゃない。
オレの仕事はそれの回収だ。
廃聖堂を占拠する不浄を滅して、聖剣を回収しろってな」
「成程、これ以上の言葉はいらないか。」
「あぁ」
今度こそ、目の前の男が両の手にダガーを持ち、構えを取る。仕掛けてくるか。
そう思った瞬間、男は手のダガーをこちらへ向けて投げ放つ。不意のことに反応が遅れ、持った剣で弾く。自分でもわかる悪手だ。
弾いたダガーは確実に俺の腕を硬直させ、後ろへ弾かれたダガーの影から、既に新しい刃物を振りかぶった男が目の前にいた。
常人であれば、首を取っていただろう。それほどまでに見事な腕だった。人を殺すのが本分であるとはいえ、研鑽を積んできたのだろうとわかる。私個人としては非常に評価ができることだ。
だが。
鉄が力強く打ち付けられる音と共に火花が踊る。
それに彩られた顔は驚愕に染まっていた。
「オマエ…それは」
だが一角の達人、さすがの反応速度だ。
追撃は見事に弾き、避け、距離を取った。
そう、私は常人では無い。
「それが、そいつの能力か」
油断なく彼は私の手元を睨む。
私の手の内に収まる剣は、依然として錆びた刀身を相手に見せている。だが、私の周囲には新たに幾本もの剣が突き刺さっていた。もちろん、先程はじき飛ばしたものでは無い。
文字通り新たに出現したものだ。
この剣は、剣を出現させる。
それはただの増殖などでは無い。
出現させる物は自由なのだ、それが剣と呼ばれるものであるなら。
所有者の魔力を喰らい、その場に剣自身に蓄積された記憶内のモノを出現させる。
それがどのような聖剣、魔剣、一点物であろうと内部構造や能力まで抜き取ったモノをその場に取り出すのだ。
先程、男の斬撃を防いだのも同じ理屈。
周囲に出した剣にぶつかったのだ。
今回のように単純に防御としても使えるがこの力の真価は攻めにある。
私は剣を床に突き刺し、その力を解放する。
「すまない、武芸者よ」
まともに斬り合うことが出来なくてすまない。
私個人は評価すれど、剣自体はこの男を悪と断ずる。既に私の体は自由がきかず、評価に与せずただ剣の奴隷だ。
剣に吸い取られた魔力は周囲へと広がっていく。気づいた男は慌ててその場から脱しようとしていたが、もう逃げられない。
この剣の絶対的な奥義。
それは召喚した大量の剣を敵陣へ一斉に射出する、ただそれだけの超質量の物量攻撃だ。
もちろん、避けるスキマなどありもしない。
一瞬後、大規模な金属音が反響し男を食らいつくした。
とても人とは思えない肉塊と化した男と、その周囲に夥しいほど刺さる剣の原。
その全ては、おそらくこの剣の持ち主が戦場で葬った相手から写し取ってきたものだろう。突き刺さったそれらは、錆びた刀身と朽ちた持ち手からさながら無数の墓標に見えた。
そうして私は再び教皇の椅子へと座り直す。
私を殺すものが現れるのを待つために。
新しい墓標が増えないよう祈りを捧げることしか出来ない命を、続けよ、と剣が仰せのままに。
一ヶ月経ちました。
記念で過去話のタイトル決めでもしようかと思います。
案が出たところから順番に決めますので、何話目かと決めたいタイトルを感想でくれると嬉しいです。
決めてくれた人の名前も付けちゃいます。