ごちゃまぜ習作集   作:お否さま

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【素人とカレーとキャンプ】

 

 

溢れる緑とその間にサラサラと流れる小川の音。人踏みつける小石のジャリジャリと、鳥の声。そこらに立てられる三角形の仮住居。

 

「はーい、テキトーに複数で集まってねー。

材料はこっちあるから取りすぎない程度に持ってってー、特にじゃがいも買いすぎたからじゃがいも」

 

投げやりというか大雑把な監視員の声もこういう行事ならではと思うと、実に感慨深く思えて……こないな。あの人どんなとこでもあの調子なんだもん。

 

とはいえ、いつも図書室にいつく謎の妖怪と噂されている僕でさえ、多少テンションが上がっている。キャンプとはある程度の人類はなかなかに興味惹かれるものでは無いだろうか。

こんなリラックス効果ありすぎる場所で本を読めると考えると、そうなるのも仕方ない。よし、みんな任せた、僕は早速本を読まなきゃならない。

 

「許すわけなかろ」

 

思わず、ぐえっと声が出る程思いっきり後ろ首を引っ張られた。

この雑さ加減は……

 

「なんですか、先生。僕にはみんなの荷物を見張る大役が待ってるんですけど」

「お前は持ってきた本をガン見するだけだろ。

ほら、お仲間があっちでお前の大役待ってるから行った行った。」

 

先程、その辺で適当に声を上げていた監視員、もとい僕の担任だった。いつもはざんばらに伸ばしてる(癖にやたら綺麗な)黒髪を後ろで一つにまとめているせいか、多少かっこよく見える。まぁ腐った魚みたいな目つきと、口元に加えているタバコは変わらない為、僕の評価は普段と同じくダメ人間だが。あとこの人、ピチピチの男子高校生の僕より背が高くてコンプレックスを刺激されるのであんまり近くに立たないで欲しい。

 

「安心しろ、背とか関係なくお前は私の下だ」

「派手に喧嘩売ってます、先生?」

 

学校外の行事なのでこちらでの役目である監視員と呼ぶべきなのかもしれないが、何となく呼び慣れてる方が出てしまう。そこそこそ親しい上にある程度お世話にもなっている為、こういう場面で逆らえないのが辛いところだ。

軽口に軽口で返し、先生の指差す方へ向かう。

先に準備を始めていたメンバーに詫びを入れてから僕も手伝う。と、僕の後ろから先生が付いてきていた。

 

「あれ、先生。ここにいていいんですか?」

「監視員も班に入って仕事するんだ、ガキが余計なことしないようにな」

「せめてほかの班員の前ではそういうこと言わないでくださいよ……」

「馬鹿め、下に見てる奴にしか言わないに決まってるじゃないか」

「担任変更の嘆願書出そうかな」

 

そんなこんなでキャンプでの昼食作りが始まった。メニューは行事料理三種の神器のうちがひとつカレーだ。あと2つは豚汁とBBQ。

しかし、カレーか……。うむむ、とした唸り声を聞きつけたのか後ろから先生が尋ねてくる。

 

「どうした、苦手だったか?」

「いや、そういう訳じゃないんですが、ちょっと」

「なんでも言ってみろ、ある程度は叶えてやるぞ、お前だけ川魚の丸焼きでもいい」

「捕まえるところから入ってますよね、それ。

じゃなくて、素人が多すぎるなぁって」

「は?」

 

なんで、そんな豆鉄砲に強かにうちすえられたワニみたいな顔をしてるんだろう。

よろしい、教育が必要なようだ。

 

「いいですか、先生。カレーを料理することはいわば戦いなんですよ?」

「おい、新しい爆弾を投下してくるな」

 

それから僕はコンコンとカレーの偉大さ、その歴史と過去の偉人たちの偉業、果てはカレーによる健康効果、アレンジ方法まで完璧に講義して見せた。もちろん、話しながらカレー作りにも参加している。当然だ、話にかまけてカレーを他人に任せるだけなんて、カレー好きの風上にもおけない。

素人が多いため、柔らかい言葉と態度で伝えるのはなかなか難しかったが、他の班より多少は食べれるものが作れたはず。特に野菜の切り方と煮込みにはこだわった。万が一の事態に備えて、マイカレースパイスを常備しておいて本当に良かった。

 

先生は僕の話を珍しく真ん丸な目で聞いていたが、途中からまた……いや、なんかいつもより腐った目つきで聞いていた。終わったあとも何やらブツブツ呟いていたが、きっと僕の講義が身にしみてありがたかったのだろう。またカレー信者を増やしてしまった。

 

「おい、こういう時って話だけで他は疎かにするやつだろ、なんでめちゃめちゃテキパキ作ってやがるんだ。しかも仮にも女の私より料理スキルが高すぎるなんてもうどうしたらいいんだよ私は」

「何か言いました、先生?」

「……あー、なんでもない」

「そんな隅っこで陰キャみたいにブツブツ言ってるならカレー食べてくださいよ」

「はいはい、持ってきてくれてありがとな」

 

作ったカレーを差し出して、先生の手前に座る。

 

「ん、おい。他のメンバーと一緒に食ってこいよ」

「先生の近くがいちばん安心できるんで」

「んぐ」

 

陰キャの僕は慣れてる人の近くでないと、気持ちよくご飯を食べることが出来ない。なんか悲しくなってきたな……。

そんな虚しい僕の存在にはさすがの先生も閉口したらしく、無言でカレーを咀嚼していた。

沈黙に耐えかねて、次に口を開いたのは僕だった。

 

「どうですか、それ」

「ん、美味いよ。やっぱお前の作るカレーがいちばん美味い」

 

それだけ言うと先生は、照れ隠しのようにまた無言の咀嚼に戻った。

だけど、もうそんなに気まずくない。安心した僕は先生と一緒にカレーを食べ始める。

1番食べて欲しかった人に1番欲しい言葉を貰えたし、なによりほんとに少しだけだけど先生の口の端が上がっていたのを見た。

うん、その顔が見たかったんだ。

 

こんなだから、僕は先生に逆らえない。

 

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