ごちゃまぜ習作集   作:お否さま

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【コーヒーとロッカーと試験会場】

 

 

皆さんはロッカー開ける時に特別な情動に襲われたことは無いだろうか?

慣れたもの、もしくは通常時ならあまり何も思わないかもしれない。けれど、それがこと試験とかの大事な日、しかも普段使ったことない場所ならどうだろう。私は少しばかり、緊張感というか名前もつけられない特別な感情に浸されていた。1番近い気持ちを書き起こすのなら、ゲームをやっている時にラスボス戦の1歩手前で、セーブポイントにいる時。後戻りができないという事実と、だからこそと息を締めて最終確認をする、あの感覚。はたまた、銃弾にひとつずつ入念に弾を込めていく感覚だろうか。

 

本当に力を入れなければならないのはこの後なのに、妙に手が強ばる。だが、扉を開けるのに支障がある訳では無い。取っ手の、冷たい鉄の感覚を受け入れてぎちりと戸を開く。

 

だが、そこには先客がいた。

 

「やぁ、兄弟? 準備はバッチリか?」

 

声とともにそいつの身体はチャプンと気軽に音を立てた。

ロッカーにはコーヒーが、いた。

何を言っているのか。理解するのが難しいとは思うが、待って欲しい。私も同じだから。

 

そいつはどう見ても、見た目はごく一般的なコーヒーのボトルだ。強いていえば今まで見たどのメーカーのものでもなさそうではあるが、コーヒーにそこまで情熱を注いでいるわけでないので、ホントにあるのかないのか分からない。

大事なのは、発声器官に相当する物は有していなさそうという点で、その上で喋ったという点だ。

いやまて、試験前の緊張が祟って幻聴が聞こえているだけなのかもしれない。誰かが話しかけられたのを聞き間違えただけだろう。

そこにちょうどよくロッカーの中にコーヒーなどあったからだ。冷静に考えれば、このボトルも誰かの忘れ物だと想像がつく。

 

「あー、緊張でもこれはまずいか……?」

 

思わず口に出てしまう。試験中とかに聞こえたらまずいな、とか考えてたらつい。

 

「あぁ、まずいまずい超まずい、何がマズイかって幻聴じゃない事気づかないのがやばいぜ〜、兄弟」

「幻聴であって欲しかったなあ……」

 

私が目を向けると、コーヒーは自力で少し近づいてきていた。怖いよ普通に。

しかもやつが声を上げる度にちょぴちょぴちょぱちょぱ中のコーヒーらしき液体が音を立てる。誤魔化しがきかない。

というの、今ので叫ばなかった私を誰か褒めて欲しい。人によっては一時的な意識喪失にあたるSAN値攻撃だろこれ。

 

「で、お前はなんなんだ?」

「見てわかるだろう、ただのコーヒーだよ。その辺に置いてある1本だ。他とは違うのはイカしたフォルムと小洒落た口上が得意ってことだな」

「その辺に置いてあるやつは喋らないんだわ」

「まぁ、実際のところ俺自身も自分のことがよくわかってねぇんだ。いつからここにいるのかも知らねぇが、あんた以外にも結構会っているから少なくともココ最近の話ではねぇぜ」

 

喋るコーヒーなんてものがあれば、噂になるはずだけど……もしかしてこいつ人を騙して対価を得ようとするタイプか?

 

「待て待て疑うな落ち着いて聞け。

喋るのを聞いたのはあんたで二人目だよ。他の奴らは俺が話しかけようがピクリとも反応しやがらなかった。」

「2人目?」

「ああ、目山ってやつを知ってるか?」

 

知ってるも何も、とても有名な人だ。この試験会場だってその人が初めて天啓を得た会場だからって、私も含めてたくさんの受験者が選ぶし。

 

「そうそうそいつそいつ。んでその天啓ってのが、俺」

 

胸を張っているのか分からないが、ふふんと聞こえてきそうな声とチャプンという音が被さる。しかしそれを聞いて私は半目になる。

 

「普通に信ぴょう性無くなったが。

そんな都合のいいことあるわけないだろ」

 

だが私の素っ気ない言葉にもめげずそいつは言葉を連ねる。

 

「信じなくてもいいぜ?

ただ、逃していいのかこのチャンスを。

天啓を得るのは簡単だ。声に従え、とかじゃない。

ただ、俺を飲むだけ。俺はコーヒーとしての責務を果たし、お前は一躍有名になる。実にシンプルな話だろ?」

 

確かに有名になりたいとは思う。かの有名な目山伝説が始まったこの会場に来た時点でその願掛けもあるのは否定しない。

 

だが、限りなく怪しい。未だ幻覚を見ている、or夢を見ていると言った方がまだ信じられる。

それにこういった話にはだいたい裏があるはずだ。だがこいつは、それについて触れていない。

 

こいつの言う通り、私はこのチャンスを逃せばこの先常に後悔し続けるだろう。冷静に、そう冷静になればおかしい話だと感じるのかもしれないが、今の私にはその冷静になる時間さえ残されていない。そして、突然出された魅力に対して完璧に抗えるほど強くもない。

 

カチカチ。

 

時計の針がせきたてる。喧騒は遠く、心臓は煩く鳴り響く。

私は___

 

「さぁ、選べ。俺をとるか、輝かしい栄光を捨てて生きるか」

 

私、は。

 

決断は首を切るように。

迅速に、明確に、そして鋭く下される。

 

 

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