赤く、紅く、海が広がる。
大切だった人、一生を看取るとまで思った人。
心地よい会話が癒しをくれた人、困った時にいつも助けてくれたあの人。
名前を知ってる、名前を知らぬ。
全てが区別なく私の前に広がる。
あぁ、またこの夢か。
理解したくもない何かが腐った匂いと、広がる赤と悲鳴。
その中心で1人私はうずくまっていた。何も出来ない自分に絶望したのだろうか。それは紛れもなく私ではあったが、それを認識している私はどこかその場面から1歩引いて見ているようで、自分ではないようだった。
ただ、私の足元に誰かが……いや、何かが横たわっているのは見えた。つまりは、そういうことなんだろう。
こんな地獄見たくない、こんなことならいっそ。
その時、顔を上げた私と目が合った。
その目は何も映していなかった。
ピピピピピ。
「……う、あ」
寝覚めは最悪だ。
今日の夢が悪いことだけ分かるのに、その内容は思い出せない。
何より、頭の内側からガンガン叩かれているみたいな痛みが最高に不快だ。昨日肉パーティした後にしこたま酒飲んだからそれが原因だろう。
酒は悪い文化だな、根絶させるために飲み干さないと。
ズルズルとベッドから這いずり出て、洗面所へ向かう。
途中、昨日の残骸がその辺に転がっており、時折不気味に呻いていた。ほんと酒ってダメだな。
ただ、そんなダメ人間共だけでは無いらしい。
洗面所から帰ってきた私を出迎えたのはエプロン姿でキッチンに佇む愛らしい姿。
クラスのマドンナ、宮舞寧々。私の恋人だ。
なにやら楽しげに鼻歌をして軽やかに調理器具を扱っている姿は、全国の男どもが夢にまで見た光景だろう。まぁ、辺りの死屍累々と、彼女がそれ以上に飲んでいたことを加えたら、清楚は息をしなくなるが。
「あ、おはよ往花ちゃん」
「おはよぉ今日も可愛いねぇ」
私と目が合うと彼女ニッコリ笑顔を咲かす。
こんな彼女が私の彼女。素晴らしいね。
そして、発言からお察しの通り私たちは同性で付き合っている。
女なら誰でもよかったわけじゃないし、前は男が好きだったからこれは運命ってやつだ。
「あ、そういえばお酒飲む? 昨日の残りがあるんだけど〜」
「本気で言ってる?」
「美味しいのにぃ、このお酒」
「名前はいいんだけど強すぎるでしょ」
「リリーブラッドって素敵な名前だよね〜」
私たちにはぴったりな名前なんだけどね。
料理を作り続ける彼女の後ろに立つ。
本当はそれだけのつもりだった。けれど、視界に移る彼女はなんというか逃してはいけないものに見えて、もう会えないような気がして何故か胸が締め付けられる。
だから、そのまま細くて儚い姿を胸の内に収める。
「ん〜、危ないよ?」
「いいんだよ」
今は無性に彼女が欲しかった。
ぐつりと煮え立つ鍋を横目に、私は彼女の首筋に口を近づける。
「…んっ」
甘く滴り落ちるような声。理性は消え失せた。
彼女が包丁を持っていることも無視して、こちらに向き直させる。
何かを期待しているような瞳に答えて再度、首に口をちかづける。今度は喉仏の所に口を当て、獣性に従う。
今度は赤が見えた。
そして、それは止まらない。
「え、いや、なんで」
それは私か、それとも彼女の声だったか。
そこにいたってようやく私は思い出した。
今朝見た夢は、夢では無いこと。
私の体はとっくのとうに腐り落ちていること。
消えかけの理性で辺りを見回す。
周囲に転がっているモノは比喩ではない、死屍累々。
染み出す赤は消えない。止まらない。
肌の下で何かが蠢く。
目の前の彼女は息も絶え絶えで、私は蹲り。
血肉を啜る、化け物1人が終着点。