ぽたりぽたり、と視界を犯す色。
赤とも黒とも言えないそもそもそのどちらの色にも似ていないのかもしれない。それは増えていく。
ただ色があることだけが分かる。きっとそこには何も無いのに。
ゆっくりとまぶたを持ち上げると、そこは見慣れた天井。
ただ白いだけ、他の色など混じりようがないもの。
であれば、先程までの色はなんだったのだろうか。答えは知っているが、それを出力するのは先送りにする。
ざぁ、と窓の外から雨の独り言が聞こえる。
ずっとブツブツと、まるでテレビのノイズのように。止まることなく、変わることなく。
薄暗い部屋で、ベッドの中、ひたすらに雨音に耳を傾ける。人によれば至福の時間なのだろう。こんな時間に閉じ込められてきた身でないのであれば。
もはや腕が管に繋がれてない方が違和感を覚えたり、髪が生えてくる事など諦めたり。
夢は夢でしかないと気づいたり。
そういう人でないのであれば。
物心ついてからすぐのことだ。
私は優しさの鎖で繋がれた。
心臓の病だそうだ。少し動くだけでも、獣のように心臓が唸る。
息切れが起こる。
だから、ベッドから場所を移すのは本当に最小限で、病院の塀から外の世界など忘れて久しい。
ああそうだ、両親が憎いか、なんて例え推測でも口に出さないで欲しい。私にとっては世界の1部と言っても差し支えない程で、私の生死の願望に関わらず、あちらがこちらに捧げてくれるものの重さと等価に関しては理解しているから。
だって生まれてから一度も親孝行などしたことも、もしかしたらする機会すらもないかもしれないのに、それでも私が生きているのはその証明だ。例え私自身が生きていたくないと願っていても、その段階すら超えて摩耗の死を待つだけでも、彼らに応えたいと思う心もまた事実のひとつだ。
病床とは思考の温床でもある。
温かいと書くにも、良い意味で使ったことはほとんど無いなと温床に思いはべらすほどには。
病気は選択肢を奪う。そして奪った結果、特定の行動を反復することになる。それは勉強や知識と同じで繰り返すほどに積み上がっていく。しかし、それが良いこととは言えない。
ほとんどの知識も思考も私にとって実践する機会は無いのだから。発散できず、体内に溜まるその栄養は逆にその欲望によって肉体を食い潰す。ぽたりぽたりと、まるで点描のように私を蝕み毒に浸していく。
だが、だからといってどうしたら良いというのか。
私が取れる手段など更に思考を積上げて、下段を見て見ぬフリするくらい。問題の解決ではなく先送り。死ぬまでそれが続けられたなら万々歳。そうでなくとも私を摩耗で殺してくれるならそれもまた、私にとっては嬉しいこと。私の取れる勇気なき精一杯の叛逆なのだ。誰よりも弱い私を誰も止められない、それはとても愉快なことだろう。ああ、とても素晴らし___
………!
……多少の興奮で、咳き込むこの体は時たま私の予想を遥かに下回ってくれるな。
そうして私は今日も空を見る。窓ガラスに次々現れる透明の筆跡は、色がないのに背景の灰色のせいか、どこか汚らしい。
何かを描いているように乱雑な筆跡がある、何も描いてない1枚のガラス。何かを描こうにも色がないが故になんの意味もない、そんな絵。私はそれでも、目が離せない。
理由は単純だ。
まぶたを閉じる。
直ぐに描かれる、何色でもない汚らしい斑点の連続。
意味を見出そうにも、意味が無いことしか分からないそんな光景。
何度も何度も見た、主観的にも客観的にも。
瞼を開ける。
ほら、雨天は今日も違わない。