ひゅるりと寒風が吹き、ここまで届くほどの喧騒もかなり遠くに聞こえる。そんな朝に。
「うー……あー……」
寒空の下、ベンチで黄昏れる独り。
意味も無い唸り声を上げ、自身の失敗を悔いるその姿は週6勤務で疲れきったサラリーマンがふと現状を直視してしまったかのようだ。親父可哀想。今うなだれてるのは俺なんだが。
元旦の、しかも1番混み混みの初詣タイミングにこんな所で変な声を出しているのは訳がある。
そもそも、俺も元々その中に友人と一緒にいたのだが、俺の失言で怒らせたようなのだ。よう、というのは俺自身は何が失言だったのかとんと分からなかったから。ただ、一瞬悲しそうな目をしたのと、
「うん、そうだよね」
と喧騒にかき消されそうな程の声がまろびでたのだけは憶えている。
その後、走り去ったそいつは人垣に阻まれてすぐに見えなくなった。気難しいやつで済ませられたらいいが、生憎俺にとっては代かけがえのない親友だし、だからこそ余計に落ち込んでいるのだ。願わくばアイツにもそう思って欲しくて、ずっと一緒にいたいって気持ちを伝えたのが良くなかったのだろうか。
この先もずーっと変わることの無い友情を願った俺が間違っていたのか。良くない考えが次々と頭に浮かんでいく。
灰色の雲を見上げる。どんよりとしたそれは1年の始まりには少しばかり景気が悪い。泣き出しそうな空の下、どこかにあいつがいるはずだけど結局見つけられなかった。
「……っはぁ〜、動くかぁ」
いつまでも油を売っていても仕方ない。あいつも帰ったことだろうし、俺も家路につかなければ。座っていたベンチからノロノロと立ち上がった。
ただそう思いつつも、何となく家に帰ろうという気分がわかない。重いのは空の影響か、足が嫌がっているからか。仕方なく気分転換に自販機へと向かう。
この公園は、いつもなら子供連れの主婦が多く、よくジュースやお茶が売り切れていることがある。だが、さすがに元旦だからか俺の思い通り今日は誰もいない。だから選ぼうと思えばなんでも選べたのだ。
ガコン、ガタン。
「あっ」
手に取ったものを見て俺は思わず声を上げた。
いつもここで買っている、売り切れることは少ないコーヒー。
それも2本。
手癖だった。
「どうしようかなぁ、あいつもいないし」
手のひらには2つ分の熱が伝わってくる。
ふと、隣でこの缶を飲むアイツの笑顔が浮かんで温かさがじんわりと心の奥に染み込んでくる。いつの間にか地面には一足早い雨が降っていた。
「じゃあ、ぼくが貰おっか」
ふうっというため息と共に、1本コーヒーが奪われる。
振り返ると同時にカシュッという音が鳴る。
「あちっ」
「……猫舌だろ、お前は」
「えへへ」
そこには果たして居なくなったはずの親友がいた。
てっきり既に家に帰っていると思っていた彼女が。
白い息で顔がよく見えない。彼女の姿を見た瞬間急に視界もぼやけた。
「なに泣いてるのさ」
「うるせぇ」
情けない男だ。増える地面の水滴から目がそらせない。
だから、見ない振りをする。
「帰るんじゃなかったのかよ」
「ほんとはね。でも、ほら」
そう言うと彼女は懐から別の缶を『2つ』取り出した。
「ぼーっとしてたらいつもの癖で多く貰っちゃって、どうしようかなっていつもの公園来たんだよね。おしるこふたつも要らないし。そしたら、しなだれてる冴えない男の子が1人いたから」
「ほっとけよ。……コーヒーと交換だ」
「仕方ないなぁ、君、お餅好きだもんね」
渡してきた缶に朝日がきらりと反射する。いつの間にか空には切れ込みが入っている。伸びた二筋の光が、地面に降りて等しく交わって辺りを照らす。それに充てられたのか雪も嬉しそうに輝き出した。
突然遠くで鐘の音が鳴ると、どちらからともなく目を合わせ、2秒後に同時に吹き出す。何が面白いのか、そこに意味はなくて、きっと二人でいることに意味がある、今までも。そしてこれからも。
「そういえば結局なにに怒ってたんだ?」
「君が一生友達でいるって言ったから」
「……そんなに嫌だったのか?」
「そんなわけないじゃん! そうじゃなくて……そうだな、一生君の物半分くれるくらいの仲になりたいってこと」
「? 同じじゃないか?」
「うん、ぼくの考えすぎだよねやっぱり。……かくご、しといてね?」
「よく分からんがお前と一生一緒なら楽しいから問題ないよ」
「……ぼくもだよ」
親友が笑みを浮かべて眺める先には夫婦桜が立つ。冬で葉すらつけていないのに、耀く雪のせいかそれはいつもよりとても綺麗に見えた。
隣のヤツには少し言えないけど。