人とロボットで、見た目以外はほぼ遜色のない、共に歩める時代になってから早40年ほど。
街路樹からひらはらと色付いた葉が落ちる中、僕は友人と一緒に街を歩く。
道の途中では、大通りで手を繋いで歩くボルトむき出しファッションのアンドロイドとニコニコ笑顔の男性、テレビでは艶やかな光沢と完璧な造形美とは裏腹にコテコテの関西弁で笑いをとる円柱型ロボット。
現実世界でもメディアでも、彼らは珍しくなく、そして人と笑い合える存在となった。
そして、僕の隣にもその波は来ていた。
そよ風に舞う木の葉を追って、視線が横へ。
その先にいたのは完全なホワイトと黒い接着面で構成されたいかにもロボット!みたいな肌と、丸みのある柔らかい印象のボディに機械という特徴を殺さず活かす美少女顔。頭に着いたなにかの装置は元気に跳ねるツインテールのようで、とても愛らしい。街路に落ちる赤ぐらい鮮やかな恋をずっと彼女にしている。
じっと見つめていると、彼女の虹角膜レンズと僕の目が合う。
こてん、と首を傾げると彼女の内蔵スピーカーから
「どうしたの?」
と金属らしさとソプラノの綺麗な音色の特徴を併せ持った音が耳朶を打つ。
合成された物である程度量産可能なのは分かっているのだけど、毎度のようにその音に聞き入る。
彼女の声を、姿を、存在を感じ取るだけで僕の魂は震えてしまう。幼なじみで小学、中学と一緒だったこともあるが、それほどまでに僕は彼女に夢中だった。
だが、そんな日々もここで終わり。
「あのね、渡したいものがあるんだ」
「え、君から私に!? 何かの記念日とかは記録してないけど?」
「違うんだ」
そうして僕は彼女の目まぐるしく動く虹彩を正面から見つめる。
沢山の色がちりばめられてそれらが縞模様のように、そして幾何学的な調和を見せるその瞳は初めて見た時から僕の心を掴んで離さない。
これまでも、今日も、これからも。僕はこの瞳と君に全てを捧げたい。
「今日が記念日だからあげるんじゃない。今日を記念日にするために贈りたいんだ」
「そんな使用方は私のメディアに記録されてないかも?」
彼女の言葉を受けて1歩前へ。
彼女の冷たくて、滑らかな手を取り、その中に1つ心を置く。
彼女は人みたいにパチクリしながら、その箱を開く。
「これは……検索結果から人工着色された縞瑪瑙のリング?
私の虹彩ガラスと同色ですね」
「そうだよ、君のために選んだんだ。
ぼくと、付き合ってください」
言った。言った、言った言った言った!ついに言った!
彼女は虹彩レンズをめいっぱい開いていた、口のところも大きく開いている。
息が苦しい、世界が止まっている。
彼女の動きが僕のすべてになっている。
それは苦痛なようで甘美な時間でもあった。
だがそんな時間は他ならぬ機械生命が破壊する。
「あ……あ……ちょ、ちょっと待機させてください!
熱暴走がオーバーフローしてます!」
わたわたと手を振る彼女。
そんな彼女を落ち着かせたいがために手を重ねる。
だがますますその動きが増える。
「あな、あの、あのですね、言語モジュールと結論と論理モジュールが同じ結論が結論でして!」
「焦らないで、僕はずっと待ってる」
その言葉を聞いた彼女は混乱の中で少しだけ本当に少しだけ口角を上げる。そして呼吸なんてする必要ないのに、大きく息を吸い込む動作と吐く動作をした。
しばらくして彼女は前を向く。僕の方を真っ直ぐに向く。
「私のような機械生命で良ければ喜んで」
初めは意識が白くなった。そうして、まるで夏から秋にかけてかのように色が鮮やかになっていく。
「ありが、とう」
「ええ、なんで!?」
気づけば僕は涙を流していた。男なのに情けないとは思うけど、嬉しさが溢れ出して止まらない。
そんな僕の様子に挙動不審になる彼女だった。だが、何を思ったか、少し僕から離れる。そして、街路樹から落ちた真っ赤に色づく紅葉を拾い僕に見せつける。
「私の表情モジュールには搭載できないので見せられないケド」
その葉を口元に持っていき、彼女の口元が綻ぶ。
「私の気持ちはこの赤と同じくらい、だよ」