歌が好きだ。
波に合わせて歌うのが好きだ。
鳥と遊びながら歌うのが好きだ。
遠くの大陸に思いこがれて歌うのが好きだ。
みんなと歌うのが好きなんだ。
だけど、最後に「歌った」のが何か月前か思い出せない。
歌だけなら何度もしたけど、でも「歌った」感じが全然しない。
空が暗いからだろうか。
霧がかかってるからなのかな。
それとも、やっぱりみんなの姿が見当たらないのが原因かな。
船内を1人歩く。
カツーン、カツーンと寂しく響く靴音。
船尾も船首も何故か私しかいない。
どうしてか私以外の人達はいつの間にか消えてしまった。
「歌ってない」のと同じくらい前に。
それ以来、私は船に残された食料とたまに来てくれるほかの船の人から食べ物を恵んでもらうことしかできなくなった。
おなかはずぅっとへってる。全然楽しくない。この前貰った食べ物ももう尽きちゃったし。ずぅっと霧で全然前が見えないし。
いやだなぁ。ぼんやりと海を見る。こういうことが多くなった。
時間が潰れるし疲れないし、何より何も考える必要が無いから。
そんな時向こうから灯りが近づいてきた。
この霧の中だから私たちのとこで少しだけ休ませてもらおうとしてるのかもしれない。
追い返すのもここにいてもらうのも一旦あげてからかな?
こういうことも船にみんなが居なくなってから私がやるようになった。
しばらくして、灯りを付けた男の人が垂らした縄ばしごからこの船に登ってきた。辺りを見回して改めて私に視線を向ける。
大丈夫、この船に上がってきた人が聞くことなら知っている。
「私一人だよ、お兄さん」
「……ちょうど聞こうとしてたんだけどな、よくあるのかい」
「ええ、ここ何ヶ月か」
私に勧められ彼はその辺に座る。
椅子は朽ちているので船の手すりに体重を預ける
「まぁいいや、改めてはじめまして俺の名はランプ。
申し訳ないんだがこの霧が晴れるまででいいからここにいさせてくれやしないか、急に来て困ってるんだ」
「いいけど晴れやしないよ? 何ヶ月かずっとこうだから」
「なるほどな。だけどもしかしたら出来るかもしれないだろう」
私のため息にお兄さんはなぜかやる気をたぎらせる。
それからお兄さんと私は昼と夜も分からずに話し続けた。話す内容は専ら私が出会った冒険と歌、お兄さんの出会った話だったけど途切れることは無かった。
どれくらいだったか、話が途切れた。
いつしかお兄さんの持つ灯りは消えかけて、お兄さんも何となく眠そうにしていた。
私は満足したのでお兄さんを帰してあげることにした。
その体を抱えてお兄さんが乗っていた船に返してあげる。
だけど、お兄さんは私の手を掴む。まぶたが落ちそうで意識も朦朧としていたはずなのに。
「もう眠いんでしょ、だから早く帰らないとダメだよ?」
「まだ、だい、じょうぶ。君も一緒、だよ」
お兄さんの言葉は確かに魅力的だ。だけど今まで試さなかったわけじゃない。私だってここから出ようとしていつもダメだったのだ。今回だけ許されるわけない。
「大丈夫だよ、お兄さん。私は大丈…夫……?」
だけど。
私とお兄さんの体は夜の海に出ていた。
霧をぬけ、その代わり私の船も見えない所へ。
「言ったろ、晴らしてやるって」
気づけばお兄さんの灯りは少しずつ少しずつ戻り始めていた。
それは月明かりと混ざって、私の目にキラキラと宝石のように映る。
「色々、仕組みとか君が置かれてた状況とか、頼まれたこととか。説明しなきゃいけないことはあるけど」
そう言うとお兄さんは船の上で立ち上がり、手をさし伸ばす。
月の下差し出された先は私。
「さ、君の先行きを照らしてあげるから一緒に行こう」
「うん!」
私とお兄さんの影は繋がって重なって。
静かな夜に波と静かな水音が合わさった。そしてひとつの歌が響く。
海の上はなんの目印もなかったけど、きっとランプが照らしてくれるから、私はもう大丈夫。