ぷわり、と煙が宙に浮かぶ。
日差しはぽかぽか暖かく、人通りもぱらりぱらりといった具合。
平和だ。この上ない平和。もー、とっても平和もしここに宇宙人が攻めてきたならあまりの緩さに侵略するのをやめてしまうのではないか。そしたら、この新聞を売って一緒にコーヒーでも飲もう。きっと素敵な午後になるだろう。
タバコを吸いながら落ち着いた時間はすぎていく。
何も無い午後、店番で立ってるニューススタンドにて。
大学生である僕が青春を投げ捨ててここに居る目的とはとある物品のためだ。お金で買えないので、それを譲り受ける為に渋々店番を変わっているってわけ。
まぁ、得られる物品は煙管だから、僕自身、青春はどっちにしろ遠いんだけども。
このキセルがなんと、もう売ってない限定品かつ僕ですら知ってるくらいの高級品。しかもデザインまでイカしてる。いや、イカしてるから高級品なのか?希少価値がつくのか?
何はともあれ、コレクターとしてはそいつがどうしても欲しい。おまけにおじさんはあんまり大事に扱ってない。
ちなみに、ここに元々座ってたおじさんはずっと前から見たかった映画を見に行くんだとさ。僕にとっちゃ大事なキセルもそこにうっちゃってる状態だ。まったく。
「さいこうだね」
うへへ。
おっとヨダレが。
今日1日平和な中、僕はずっとこのキセルの造形美に心奪われていた。もう1日店番やってもいいし、キセル磨きとかやらせて欲しい。
そんなおり、穏やかだったストリートに一陣の突風が吹く。
ポスターが宙へ舞い上がり、スカートはめくれ、女の子の悲鳴が聞こえて、新聞も暴れだし、キセルがつられてころがって……ってふざけんな!!
慌てて手を伸ばしても時すでに遅し。
のんびりしていた僕への天罰なのか、キセルはニューススタンドから落ちて遠くへ遠くへ逃げていく。
更に空から降りてきた鴉がそれをくわえると、空中へ。
立て続けに起こった不運。僕はほうける事しかできない。
そこへ、友人からの電話がかかってくる。
「なぁ、今カラス見たんだけどさ、多分お前が欲しがってたキセル持ってたぞ」
その声とともに、腹の奥からふつふつと湧いてきた気力がほうけているだけの僕の横っ面張り飛ばす。
「おもしれぇ、やってやろうじゃあねぇか!!!
そいつの位置教えてくれ!」
自分の意思でニューススタンドから踏み出し、カラスへ向けて全力ダッシュ。
こうして僕とカラスやろうとの、1日を跨ぐ一騎打ちが始まった。
キセルは取り戻した。
おじさんには怒られた。キセルは貰えなかった。
「なーにが平和じゃ!!!」
平和は刺してくるから嫌い。