ごちゃまぜ習作集   作:お否さま

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遅刻しました


【宇宙人と雷と麦畑】

 

雷のようなバカでっかい音に慌てて飛び起きる。

心臓がバックバクうるさい。部屋の暗さから考えるにまだ全然真夜中だ。

寝起きでぼんやりする頭で何となく窓に目を向ける。

カーテンに阻まれて見えないがざんざんバチバチ窓を叩く音がするからきっと豪雨なんだろう。雷がその辺落ちててもおかしくは無い。だけど、心臓の高鳴りがそれで納得を許してくれない。

このままじゃ寝れないし、明日の仕事にも響くだろう。

ひとつため息を吐いて、レインコートを探し始めた。

 

しばらくして、外に出てみる予想通りとても酷い雨で、しかもド深夜だからとても嫌な気持ちになる。

だが、うちの畑に何かあれば、とどうも心が収まらない。さすがにこの天候で長居する気もないし適当に見て回ったら帰ろう。

そう考え畑の方へ重い足を動かす。その時ちょうど別の雷が閃く。割と近い位置だったのか、轟音が耳を打つ。

だが、それよりも。

雷光が、あたりを照らした時に、一瞬だが大きな影が映った。

毎日見てる畑だ、どこに何があるか把握してる中で見覚えのない物が映っていた。

すわ雷で飛行機かヘリか撃ち落とされたのか。確認せざるを得まい。

豪雨のせいで土がグチョりグチョりと長靴にへばりつく。重い雨はそれだけで自分の体力を削ってくる。だがそんなことよりも目の前の未知への恐怖が上回っていた。早く既知に変えたい、その一心で必死に足を動かしようやくその大きな影にたどり着く。

暗さのせいで全容は把握出来ないが、それは金属でできた物のようで、少なくとも飛行機のようなわかりやすい形はしていない。

どちらかと言えば丸っこい……?

 

「……ヘリコプターか?」

「そこに誰かいるのかね」

 

孤独は雨にてうち流されるはずだった。しかし、本来有り得ることの無い答えが銃弾のように私の胸に届いた。心臓が2ビートは早く打つ。

 

「だ、だれだ?」

「現地人のあなたに姿を見せたいのは山々だが、助けをくれないか。」

 

極めて冷静な声。人間の声のようで、しかれど雨音で歪んでいるのか実に異質に聞こえる。あるいは状況のせいともとれるか。共通するのは関わってはいけないような、オカルト的な感覚がある。頭の隅で、ここでやめておけばこれはなかったことになるんじゃないか、という悪魔の囁き。だが結局のところ、物は自分の畑に落ちている、問題の先送りになるだけだろう。

 

「いいだろう」

 

出した声は震えていなかったろうか。

 

「ではその位置から4歩ほど右にずれ、そのまま左手を真正面に伸ばしてくれ」

 

声に従うと、目の前の金属板がズレて光が漏れていく。

そこには予想通りと言うべきか、予想外にと言うべきか。人の姿を外れたものがまちかまえていた。最もメジャーなGLAY型と言うやつ。その怪物は挨拶がわりだ、とでも言うようにわたしに右人差し指?をこちらに向けてきた。その指先はビームでも放ちそうな雨でも歪まない光量を兼ね備えていた。そうか、なるほど私の生命もここで終わりか……。

 

「……む? なぜ目を瞑る? 昔見た映像ではこれが挨拶だったのだが間違えていたか?」

 

挨拶だった。

 

 

「なるほどな、雷で墜落してうちの畑に」

「うむ、君の麦畑を我が宇宙船で荒らしてしまったことは本当に申し訳ない。なにか変えそうにも地球人の期待以上に科学とは不便なものでな」

「いや、事故みたいなものだろう。災害だとでも思ってあきらめるよ」

「そういう訳にはいかない。平たく言えば私の調査活動に不安要素が残る。」

 

とりあえず、宇宙人を家に招いてみた。意外や意外、彼は友好的であった。

いや、意外なのはこんなド深夜に得体の知れない生物連れ込んでる自分の方だが。普段はこういった面倒ごとは流しているのに。

まぁ、あのまま放置もできなかったが。

しかしどうしたものか、あちらの言い分もわかる。出会ったばかりの現地人を信用しろというのも無理な話だ。

起きたことも災害のようなものだし、私としてはこのままさっさとどこかに言って欲しいのだが、向こうもあの乗り物が壊れているらしくしばらくこの辺で活動すると言っているし。

困った。

 

「あー、ちょっと待っててくれ」

 

あれこれ考えていても仕方ない。なにか腹に入れてから考えよう。大抵の悩みはご飯を食べれば解決するはずだ。

まぁウチはパンだけど。

奥からコーヒーと焼いたパンを持ってくる。

客人に出すのが、もっと言えば見た目は明らか人外に出すのがこれで合ってるか甚だ不安だが、話すための油は何も無いよりマシだろう。

 

目の前に置かれたそれに彼は興味津々のようだ。

私の認識はいたってなんてことの無い丸パン。だが彼の認識だとなんになるのだろうか、少なくとも客人をもてなす用に出していることを理解してもらえれば良いが。なにせ、普通の人間と同じく会話できると言っても結局は人ならざるもの、文化そのものが一切違うかもしれない。

そんな物思いも杞憂であり、後に思えば実に失礼だったと反省したくなる。

彼は驚くべきことに私は一礼し、そしてパンを持つとそのままかぶりついたのだ。時間が固まる。次の瞬間。

 

「なんだこれは、なんだねこれは?」

 

雨音の間に静かな感嘆。そして私に顔を向けると

 

「こんなに美味しいものは食べたことは無い!

地球の美食レベルはそれなりだと聞いていたがなるほど頷ける、なんて言う食べ物だこれは」

「ええと、丸パン、ですよ。原料は小麦でそんなに大した材料じゃない。さっきあんたが墜落した畑に生えてる……あっ」

 

つい余計なことまで言いすぎた。

だが、彼は気を悪くした様子は無く、むしろしゅんとしているようだった。

 

「それに関しては本当に済まなかった、こんなに美味しいものを作る材料だ、生活の足しにもしていたのだろうに。」

 

私はそれにたいして何も返せなかった。否定するのは違うだろう。謝罪は相手の誠意、否定するのは簡単だが、良くないことだと思う。だからといって肯定もするのも傲慢ではないだろうか。

しかし、その間をなんと勘違いしたのか。

 

「あいにく返せるものは無い、好みで働くことで返済としては貰えないだろうか」

「なっ、それは」

「いいのだ、どちらにせよあれが治るまでは帰れんし、あんたの畑にもおじゃまし続けることになるだろうから」

 

そっちが良くてもこちらがいいとは限らないのだが!?

そうは言いたくても、やはり相手の精一杯の誠意だ。

あと、先程のパンのやり取りで多少険は取れたが依然人外の価値観があることは否定しきれない。端的に言えば何するか分からない。しかし断った時もまた同様だ。

 

渋々頷くしか無かった。

 

「助かった。……そちらの考えも理解できるからそう難しい顔をするな」

 

表情の機微を読み取られるのは多少の羞恥が湧き、顔を背ける。

気まずさブレンドのせいか、首の関節がぎこちない。

 

「実は、前回来た時はこっぴどく拒否されてな。

今回はステルスしてたのだが、まさかステルス機構に誘雷というデメリットがあったとは、私もうっかりものだな」

 

やめてくれ、気遣いのうっかりエピソードはもう丸分かりすぎて逆に辛い。余計に空気が死ぬ。

とはいえ、私はこの宇宙人のことをどこか嫌いになれずにいた。不器用な気遣いもそうだし、誠意を持って謝ってくれる。何より私のパンを美味しいと言ってくれた。それだけで、これからの生活に絶望よりも多少楽しそうだ、という気分を味わっていた。

恐らく平坦ではないだろうけれど、見た目も種族も何もかも違うけれど。

美味しいという気持ちが一緒なら、きっとなんとでもなるだろう。

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