ごちゃまぜ習作集   作:お否さま

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【ウサギと天丼と月面】

 

 

天丼が食べたい。

あのぷりぷりとしたエビを包むしゃくしゃくの衣と、それに合わせる為だけに作られた温かいつゆを白銀のシャリ野にも染み込むようにばっとかけ一気にかき込む。想像するだけでヨダレが出てくる。

 

しかし、ここにはエビがない。

 

当然だ、ここは月面。水が湧き出るなんて望むべくもない。いわんや海洋生物などとてもとても。しかし、しかしだ。日本人であるなら天丼を食べなければ死ぬ。そういうものだし、もう既に天丼の口になっている。

 

月でできた友人にその辺熱く語っていると、呆れた目と共に次の言葉が返ってきた。

 

曰く「エビがどんなものか知らないけど似た生き物ならいるよ」とのこと。

半信半疑の私に向かってそいつは続ける。

要は海に住む生き物だろう、月面にだって海はあるんだ、と。

それを聞いた私は思わず膝を打って、簡単の声を上げる。確かに確かに。月の海と呼ばれる存在を聞いたことはある。であれば、地球製とは多少異なるとはいえ、似たような存在がいるのは道理である。

ならばと、そいつのあとをついて現場へ向かう。即断即決だ。天丼は全てにおいて優先される。

 

移動時間は短かった。重力抵抗が無いのと、月の兎の案内付きであることは大きく作用する。

辺りは見渡す限りの岩と、目の前に広がる大きな穴。まぁ知ってはいたが、水は無い。

現実の海と同じような凹み方だから海と呼ばれるようになったらしいが、こんなとこに生物がいるのか。友人の顔をじっと見つめる。

 

だが、そいつは背中を向けたままぐっぐっと全身をほぐすと、

 

「じゃ、いってくんね」

 

そう言って穴に飛び降りていった。声をかける暇もなかった。

更に信じられないことに、そいつが飛び降りた時水しぶきを幻視したのだ。

どんだけ眺めても底までくっきりクリアに見えるから、水などないはずなのだがあれは一体。

だが驚くのは、まだ早かった。

しばらく待っていると、友人が何かを抱えてやってきた。

 

「はい。」

「ハイじゃないが」

 

それは天丼だった。

いやもう、まんま天丼だった。

蠢く天丼を天丼として認めて良いものなら。

 

「こいつを姿焼きして丼に盛り付けて食べるのが月面のメジャー料理よ」

「じゃあもう天丼じゃん」

 

認めたくは無いし、どの部位がどの役目をになってるかは聞きたくないけど。

 

その後、何匹か取って帰った後に焼いて食べさせてもらったが本当に天丼だった。

でも。

 

「見た目も、味も天丼だけどこいつはちげーーーよ!!」

「プリプリだったろ。ちなみに名前は月の言葉でテンドーモドキ」

「やっぱもどきじゃねぇか、美味しかったけど!」

 

これを天丼の味として感じ、美味しいと思ってしまうことはとても屈辱的だった、とだけ記しておこう。みんなも月面に来たら食べてみてくれ。

 

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