これで何度目だろう。
突如視界内に出現したナイフを避けて、直感のまま後ろへ剣を振るう。かなりの力を込めたそれからガキンという音が響き、その先の小柄な肉体が吹き飛ぶ。
そして。
ザクッ
「ぐぅっ……」
痛覚が抉られる。
腕に刺さったナイフを引き抜くと、びちゃびちゃと朱紅い雫が下に落ちた。また命の総量が削られた。
戦う前は全く感じてなかった焦燥感が体の中でもう既に無視できないほど大きい。既に相手を倒すも時間を稼いで逃げるもなく、死ぬか生きるかの次元に立っていた。
ケタケタといえ女の声とも壊れた機械音声とも感じられる声が聴こえる。目を向けると先程吹き飛ばした相手が少し離れた位置に立っていた。どうやら少しもダメージなど負っていないらしい。吹き飛ぶ程の衝撃もやつにとっちゃ風船で弾き飛ばされた位のもんなんだろう。
「嫌になるぜ……」
正直楽な仕事だと思っていた。
コードネーム持ちとはいえ、たかが女1匹。
しかも小柄で身体能力自体は人を越えると言っても一般人での話で、ほかの化け物共と比べたら火力なんて全くと言っていいほどないのに。
それなのに。
自分の体は既に10箇所以上も刺されていた。
それも不意打ちでもされたかのように、かなり深く。刃先が短いナイフとは言えこのキズの量と失った血の量はマズイ。
それもそれも、あいつの能力のせいだ。
そんな考えに呼応するように、やつの体がまるでノイズが走ったテレビのようにブレる。
「くそ、またかよ!」
ーー自消行異【ノイジークロック】。
静かに、金属を引っ掻いたような掠れた声。
「ぐぅっ!」
前後から迫るナイフを躱して真上から迫る彼女の攻撃に剣を合わせる。
だがこのままではジリ貧。であれば。
「そぉら!」
ドンっ、と真下の地面を思いっきり蹴りぬき、大量の土埃を巻き上げる。同時に力を入れてやつを再度吹き飛ばす。これでやつにスキが生まれて、その間に土煙に紛れて逃げ出せば
ーー不針【ワスト】
カチッ。
ザクリ、と内蔵をエグる鋭い刃物。
視線を下ろすとバケモノが笑みを浮かべていた。
数瞬前。確実に剣は触れていたし、その重みのままはじき飛ばした感触があった。
だと言うのに、目の前にあるのは別の事実だ。
まるで、時計の針が一振り空打ちされたかのような、そんな。
だがどれだけ目の前の絶望から目を背けても、時計の針は決して戻らない。
「くそっ……たれぇ」
ケタケタケタケタケタケタケタケタケタ
甲高い笑い声と共に、針が降り注ぎ標本のように縫い止め、肌を剥ぎ取っていく。
痛覚はもはや麻痺したのか何も感じない。最後に見たやつの顔はノイズまみれで、一筋入った黒い線が何故か涙に見えた。