「みっちゃーん! 久しぶりねーー!?」
横方向から、唐突に強襲をかけてきた声に思わず顔を上げる。
田んぼの向こうに、近所のおばちゃんが居た。
相も変わらず、太陽に負けないくらい明るくて人好きのするニコニコとした笑顔だ。
「おばさんこんにちはーー!」
こちらも負けじと大声を出した。
他の人なら曖昧に笑って流してるとこだけど、昔からだいぶお世話になっているし、失礼な態度を取りたくなかった。それと今の気持ちを悟られたくなかったのもある。
そんな私のからげんきには多分気づいてないだろうけど、おばちゃんはわざわざ田んぼの向こうからこっちにきてくれた。
「こないだぶりねぇ、みっちゃん」
「うーん、1週間くらいだったっけ」
近所に住んでいるとはいえ、ここは田舎で、その日の気分で帰る時間が割と大きく変わる私とおばちゃんが会う日はそんなに多くない。
ただなぜかいつも私が悩んでる時に会う気がする。今日みたいに。
「あらあらまぁまぁそんな経つの、飴ちゃん食べるかい?」
おばちゃんは虎柄の手ぬぐいで手を拭くとバッグから飴を取り出す。意外と黒糖とかではなく子供が好みそうなソーダ飴だ。
沼倉
「ありがとうございます。」や
ろ
飴を受け取って、口にほおりこむと童心が弾けて心までしゅわしゅわする。
「そういえば、この前まで一緒だった男の子はどしたの、あんまり楽しそうだったから遠くから見てたけど」
しばらく飴を楽しんでると、1番聞かれたくないことを聞かれた。
「あー、その……」
「珍しく歯切れ悪いじゃないの、聞かれちゃまずかった?」
心配そうにこちらを見てくるおばちゃん。
申し訳ない。
そう思って意を決して口を開く。
「実は彼氏だったんですけど、振られちゃって」
てへへ。とできるだけおどけて告げてみる。
そうでもしないと、ふたをした感情が溢れそうだった。
それを聞いたおばちゃんは、目を丸くして小さくごめんねと呟いて。
そして、しばらく考えた後、私に待つようにと言って近くの自宅に戻っていった。
地面のアリに目を向けていると、おばちゃんが帰ってきて私の手に何かを握らせた。
「はい、これ。あげるから」
中を見るとそれは私でも知ってるくらい有名な遊園地への旅行券だった。
「なんで、これって」
「いいのいいの、懸賞で当たってほとんどただみたいなもんだし。あと、私ももう歳だしねぇ」
そう言うとおばちゃんはわざとらしく手ぬぐいで額の汗を拭う振りをする。
それでも呆然としている私に彼女は、ぎゅうっと手を握る。
「それにね、あんたの顔が昔の私みたいなのよ。ほっとけないわ。だから、早く元気になって、また私と話してくれるかい?」
いつも通り。
私が元気がない時のいつものように彼女は暖かく私を励ましてくれる。
今だって、全然恩を返せてるとは思えないのに、話してくれるだけでいいんだって、お手伝いしてくれるだけでいいんだって。ほんとの娘じゃないのに。
きっと、お母さんはお姉ちゃん子だったんだろうなとふと思った。だってこんなに優しいお姉さんがいるんだもの。お母さんが居なくなった後も変わらずにその子どもにまで優しくしてくれる、そんなお姉さんが。