ごちゃまぜ習作集   作:お否さま

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後ろの方まんまですけれど、とある楽曲を参考に作ってます。


笑顔

 

しとしとと、雨が窓を打つ少し暗い部屋の中。

いつもならがやがやと喧しく部屋の中を彩るテレビも今は口閉ざしていた。視界は水分で歪んで、嗚咽がテレビの音をかき消しそうだったから。

俺は部屋の中でひとり、大声で泣きじゃくっていた。理由は言いたくない、これ以上惨めな気持ちになりたくない。

そんなみみっちいプライドが自分の中にあることに気づいて、さらに胸の奥は痛くなる。

グッシャグシャで汚い顔で、間違っても人には見せられない。

 

けれども、不運は重なる。

 

コンコン、と部屋の中にノックの音が転がり込んできた。それは俺の足元で止まったけれど、今はあいにく外に出る気はない。

けれど無視をする訳にはいかなかった。

ワンワン泣いてたんだから居留守なんて使えない。誰にも会えない顔なのに。

 

「なんだよ、誰だよ!」

 

突き刺すような声がドアへ向かう。

けれども、ドアの向こうの相手はたじろぐ様子もなくこう言った。

 

「そんなことはいいんだ。ただ、あんたに笑顔を持ってきただけのやつだよ」

 

嘘は言ってないんだろう。

あまりにふざけた答えに、おれは怒る気力もなくなった。

 

「そんなもん呼んだ覚えない、消えてくれよ」

 

気を抜けば縒れそうになる声を精一杯引き締めて、何とかそれだけ言うとオレはドアの前から離れた。そうでないと、いなくなってもらわらないと思いっきり泣けやしない。つまらないプライドだった。

 

転げながら部屋の真ん中に戻ると、堰き止めていた分勢いを増した感情に身を任して大声をあげる。あいつの存在をかき消すくらいの声。

そのせいか、それとも消えたのかやつはそれ以上声をかけてくることは無かった。

 

雨の音はますます大きかった。

 

 

涙は未だに枯れずに、嗚咽は部屋を大洪水のように埋めつくしていた。いくら泣いても後から後から感情がせききってくる。いつしか俺は強く膝を抱えて顔を埋めて何も見えなくなっていた。

 

そんな時、コンコンコン、と最初より強い音が耳に飛び込んだ。

 

「なぁ、寒いからお前の傍に寄らせてくれないか」

 

涙でふやけて弱りきった心に、途端にむしゃくしゃとした気持ちが湧いてくる。

あの野郎、消えろって言ったのにまだいやがったのか。

俺の事なんてほっといてくれ、という気持ち込め、声を上げる。

 

だが俺のそんな声に、そんな弱々しい気持ちにやつは酷く動揺したらしい。

 

「誰にもそんなこと言われたことないのに。

なんでか分からないが涙が出てくる、なんでだよ笑わせに来たってのに」

 

冗談じゃねぇ、扉の先にいるやつと初めて気があった。だって、お前が泣いてちゃ、俺ももっと泣きたくなるじゃねぇか。

向こうから聞こえた情けない泣き声に我慢できず、心の奥から感情がせりあがってくる。

こんなの呼んじゃいないってのに、今より酷くしてちゃ仕方ないだろ、くそ。

 

泣き止むことも降り止むこともなく。同じ空の下、同じような涙が雨声に飲み込まれていく。

 

 

いつしか、窓を叩く音は小さくなっていた。

背中越しのしゃっくり混じりの声もよく聞こえてくる。あいつも同じだろう。バカみたいな泣き声、きかせやがって。

だからこれは何となく、本当になんとなく。

 

「なぁ」

 

後ろに向かってポツンと声を灯す。

 

「お前、今でも俺を笑わせるなんて言えるのか?」

 

期待してたわけじゃない。ただ、仲間だと思ったから、そう聞いただけ。

けれどあいつは情けないぐしゃぐしゃの声で、それでも芯のある声で

 

「そりゃそうだろ、じゃないと今更帰れない」

 

なんて、自分だって辛いくせに人のことばっか気にしてやがる。

 

「それに、それだけが生き甲斐なんだ。カッコつけさせてくれ」

 

バカみたいなこと言いやがった。思わず、泣き疲れた喉の奥からふっと笑いが漏れ出た。

馬鹿なヤツだから疑う必要もなかったんだな。

お手上げだ。

 

「おっけー、あんたを部屋にあげるだけならいいやと思えるようになった」

「それじゃあ!」

「だが困ったことにドアがあかねぇんだ」

「え……」

「泣いたツケかな、ビクともしねぇ」

 

そこで俺は勇気を振り絞ってドアの向こうに「助け」を求めた。

 

「だからよ、そっちでドアを押してくれ。鍵はもう開いてるから」

 

か細い、ほんとにか細い今の俺が唯一出せる、SOSのメッセージ。今までの俺ならきっと飲み下していたそんな言葉。一緒に泣くくらいのバカだからこそ、言えた。

 

けれど、そんな俺の弱さを賭けたメッセージは。

 

「……おい、どうした。まさか」

 

薄い板の向こうは小さい雨音がはっきり聞こえるくらい静まり返っていた。

 

「なんだよ、お前もかよ」

 

結局のところ、信頼というものは本当に薄っぺらいものだと思い知らされた。

 

「冗談ならやめてくれよ、今更さ。

俺だけ置いて消えるなんてよ」

 

押し込めたはずの涙が、胸の痛みが呆れるほどあっさりと帰ってきた。ぽたりぽたりと床が濡れていく。

 

「ほんっと、冗談じゃねぇ!!!」

 

 

ああそうだな。

 

張り上げた大声にも負けないぐらいやかましさが爆発する。

 

ドアとは真反対。

きらきらと彩る割れたガラスと、輝く太陽背中に背負った姿はまるで幼い頃に夢見たヒーローだった。

 

なのに持ってるのは鉄パイプだし、涙でくしゃくしゃの情けない顔だし、オマケに

 

「あんたに笑顔を持ってきた」

 

なんてカッコつけて言うもんだから。

 

「ずっと待ってたぜ」

 

喉奥に突っかかっていた言葉はスルッと口から飛び出していった。

目の前の男は、カッコつかないけれど濡れているけど明るく笑っていた。

 

「結局どうやって笑わせるんだよ?」

 

ずっと前に約束したような決まりきった言葉。

するとやつはポケットに手を突っ込む。 おもむろに取りだしたのは何の変哲もない手鏡だ。ぐいと俺に突きつけるとこう言った。

 

「あんたの泣き顔、笑えるぞ」

 

なんだよそれ。

鏡に映った俺の顔は、散々泣いたくせに実にあっさりと涙を止めた。

目の前の男と、呆れるくらい同じ表情だった。

 

 




歌詞とか詩って凄いですよね。
こんな短い中に伝えたいこととか感情の激しさとかが綺麗に詰まってるんですもの。
BUMP OF CHICKENさんは大好きですが、今回改めてそういう視点に注目しながら聞き直して、この短い中でちゃんとストーリーがあって無駄なく締められているのを真似したいなと思いました。
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