ごちゃまぜ習作集   作:お否さま

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【太陽の下で】

 

このまま太陽の下でいい。

 

最初の記憶はいじめっ子から助けられたところから始まる。

 

「よう、お前ら何やってんだ?」

 

弾き飛ばされたいじめっ子たちがいつもとは逆に馬鹿みたいに泣きじゃくってたのが印象に残ってる。

そして、太陽みたいに笑う君の姿も。

 

 

「よう」

 

ピトッ。

首筋が冷たさに襲われても叫び声を挙げなかった僕を褒めて欲しい。 心臓は16ビートを刻んでいる。

恨みがましく振り返ると、見知った姿があった。

ジャージ姿。ボサボサの髪。女子の平均より少し高くて男子の平均よりも少し低い身長。なにより、明るく振舞おうとしてるのに怯えが残る瞳。

 

「久しぶり、明」

 

いじめっ子から助けてくれた相手で、小学一年から高校までの長い付き合い。そして、見た目も、性格も、関わり方もほぼ全てが変わってしまった相手。

 

「そろそろお前が帰ってくる頃だと思ってな。ジュース買って待ってたんだ。褒めてくれよ」

 

そう言って、頭を差し出してくる『彼女』。

小さい頃は男と見紛うぐらい、素行がどうしようもなかったし、格好も外を駆け回るために男と変わらない可愛げも無い格好を……それは今も変わらないが。だが、たとえ服装が変わらなくても体型は誤魔化しようがない。そして、それが原因で彼女は。

 

「ど、どうしたんだ?選んだの 好きじゃなかったか?」

 

表情が不穏にユラユラ揺れる。だが、要求に従ってその頭を撫でると途端に、蜂蜜のようにぐちゃりと蕩ける。それは安堵でもあり、隠しきれない心の腐った部分でもある。

 

「やっぱりお前の手、いいな。な、学校なんてやめて1日こうしててくれよ」

 

それは瞳の奥に、そして根本的なところにまで蔓延っていた。

 

「はいはい、君が学校来れるようになったらな」

 

その一言で彼女の全身がぎしりと固まる。だが、それをあえて見て見ぬフリをして、頭を撫で続けると幼子は落ち着いたようだった。

いつまで、あといつまでこれを続ければ良いのだろうか。

 

 

憧れは落ちた。

天童明は、あの日僕を助けてくれた男の子のような彼女は、中学に入った時に折れた。同じクラスの女の子が大学生にカツアゲされそうになったのを助けようとした。だが彼女は、結局女であり、そして相手は男だった。無様に叩きのめされて、彼らの部屋まで連れていかれて、その後は……。

帰ってきた彼女は、端的に言えば芯が折れきっていた。僕以外の、男性全てに恐怖を抱くようになってしまったのだ。そんなんじゃ学校にも行けず、そんな自分が情けなくて追い詰められて更に心は壊れていった。

 

なぜ、僕だけなのか。恐らく幼い頃からずっと一緒にいたからなのだろうとは思う。幼い頃にいじめられていたことから分かるように、男として強い力を有しておらず、体格もひょろひょろ。顔だって冗談交じりに女装でもすればいいと言われたぐらい。

自分だけ。その言葉は仄暗い悦びと、それを感じたことへの罪悪感が浮かび上がらせた。こうしている今も、これだけ心を許してくれているなら彼女のことをものにしたいという気持ちの悪い性別欲が襲う。後は、僕自身のことを男としてみていないことへの落胆と、そんなことになっても変わらない僕に対する友情の嬉しさと、全て持っているがゆえの自身への吐き気と。

以前、彼女は陶然と僕の手にご執心だ。頭を撫でるのを辞めたからか今度は手を握っている。あの日引っ張ってくれた手のひらは、随分と柔らかくそれでいて縋っていた。まるで、振り払われることなど一欠片も考えてないように、ベタりとまとわりついていた。

ああ、この信頼を裏切ってしまえば。

彼女が買ってくれた冷たいココアに口をつける。

甘くて冷たくてとろりとした、自販機特有の粉っぽい不快感。彼女のためなら。吐き気も全て飲み下す。

 

「お前がいてくれるだけでいいや」

 

ああ、僕は太陽の下でいい。

だから、この全てを溶かす熱もまとわりつく光も全て、僕のものに。彼女が『何も』忘れませんように。

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