ごちゃまぜ習作集   作:お否さま

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【終わらせないで】

 

 

そいつはちょいと厳しいんじゃないか。

目の前のつむじを見ているとそんな考えがはたと浮かぶ。目の前の女性はなりふり構わずと言った具合で頭を下げているが、いくら喫茶店といえ制服女子に頭を下げさせてるおっさんはだいぶ目立つ。そんなことにも気づいてくれないあたり、僕ができない、する気がないとかじゃなくて上手くいかない気がする。

特に、引退して筆を折った小説家に何故か聞いてくれ、なんて。デリカシーの欠けらも無い。一生紙で指を切り続ければいい。そもそも探偵は人を探すまでで終わるものなんだが。

しかしこのまんま頭を下げられ続けてもこちらも困る。

 

「んーまぁ、事情は理解できないけど仕事は仕事だ引き受けよう」

「本当ですか!?」

「ただし」

 

がばりと頭を上げ目を輝かせた少女に興味を失い、往来へ目を移す。ストローに口をつけ、アイスコーヒーで喉を湿らす。私のプライドにかけてできるだけ言いたくないことの滑りを少しでも良くするため。

 

「…………できるところまで、だ」

「わ、分かってます、無理は言えませんもの……」

 

心根が正直なのだろう。表情に不満が全く隠せていないが、とりあえず口では納得してくれた。不満がある理由もたいてい察しがついている。彼女はバレてないと思っているだろうが、名乗った苗字は彼女の探し人の【本名の】苗字と一緒なのだから。依頼人の事情に深入りするのは探偵として良くないのだが、今回はそもそも依頼が悪い。

なんてたって似たような依頼をこの前受けたばかりなのが何よりタイミングとして悪い。

 

少女が何度も頭を下げて帰っていくのを、財布から出ていった英世とともに見送る。

そのまま姿が見えなくなった頃。

 

「まさか、依頼達成前にあっちから来るなんてびっくりですね。目的達成でいいですか?」

「まぁ君の力とも言えないが達成は達成だ」

 

後ろの席から、タール数が多いタバコのような重い声。そうしてそのまま僕の正面に座るのはいかにも頑固なおじいさんで、そして。

 

「【孫】を見つけてくれてありがとう」

 

深々と頭を下げる『依頼人』。

 

「いいえ、【小説家】さん。今回は私が積極的に解決したわけじゃありませんから。依頼料も少しでいいです。」

 

彼が差し出した封筒から喫茶店代だけ抜いて返す。

彼の感謝もその程度で、いい。

 

「それよりもですね」

 

僕は友人へタバコを差し出す。

それを何も言わず受け取る彼に問いかける。

 

「なんで今になって、こんなこと依頼してあの子に僕を頼るような手紙まで送ったんですか?」

 

答えずに彼は貰ったタバコに火をつける。そして、深く吸い込み、そして細く長く、なにか詰まったかのように長く吐き出して、ようやく口を開いた。

 

「終わらせないでほしかったからだよ」

 

それは後悔でもあり、日差しを浴びる老人のような全てを置いてきた人の表情でもあった。

だが、そんな感傷は許さない。

探偵としての僕と、友人としての僕の珍しい意見一致だった。

 

「自分の夢を?それとも孫娘の夢を?」

「……いいじゃないか」

「考えたんです」

 

彼の言葉は、弱かった。

それが許せない。僕の良くないとこだ。

 

「ねぇ、あなた。孫にしか伝わらないようなメッセージかなにか書いたものに忍ばせていたでしょう。

たぶん、自分を追って小説家になろうとするあの子を応援するような」

じゃないと、【顔を見せない祖父が】【筆を折った程度で】一介の女子高生でしかない彼女が怪しい手紙に示された怪しい探偵を頼ってまで探そうとするはずがない」

きっと両親には反対されていたんでしょうかね?僕が奢った1番小さなパフェでものすごく喜んで食べていた、生活が困窮しているのでしょうか。それとも夢を見ること自体禁止されているのか……自分の親のようになって欲しくないから」

ねぇ、どうなんですか?」

 

口矢を射る度、彼の表情は強ばる。

だがそれでも止まれなかった。

1度区切りをつけると彼は口を開こうとして、やめて、それを2度繰り返した。だから僕はまっすぐその目を見返して、その行き先をうながす。

 

「それは……お前の推理か?」

 

答えだった。僕と彼の間では。

だから、僕も彼に答える。

 

「証拠がないから妄想ですよ。探偵としては失格です。けれど」

 

「友人としてはこれ以上ないぐらいでしょう?

何せ、僕も終わらせないで欲しい側ですから」

「それは、あいつの夢をか、それとも俺の小説か」

「言わせないでくださいよ。推理不要なので。」

 

彼は微かに笑った。いつの間にかタバコの火は消されていた。残り火もなく綺麗に。

 

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