パタン、と本を閉じる。目を瞑って静寂と余韻に浸る。
そうした後、目を開くと時計の針が二時間の経過を示していた。
知らずに溜めていた息をほう、と吐き出す。止まっていた自分の時間が正常に戻るような感覚がした。ついでにぐいっと体を伸ばすと、凝り固まった背中からボキボキと音が鳴る。一息つこうと、今しがたまで読んでいた本を置き、コーヒーカップに手を伸ばすが、中のコーヒーは空っぽだった。
なるほど、読書とは時間だけではなくコーヒーまで泥棒していくらしい。
それなら、と机に備え付けられた呼び鈴ボタンを押す。
読書の余韻に浸っていると、暫くしないうちに店員さんが2階まで登ってくる音が聞こえる。
注文をするために、店員さんの方へ振り返るとそこには大量の唐揚げを持った彼女の姿。
呆気にとられていると、そのまま私のそばをとおりすぎて奥の別客の元へ。先走りしていた気持ちのおかげで少しばかりバツの悪い思いをしながらその姿を目で追う。
にしても多いなあれ。文庫本10冊程度は高さがあるぞ。
注文のものを置いた店員さんがこちらに歩いてくる。しかし、読書カフェに唐揚げなんてガッツリしたメニューなんかあるものなんだな。
パスタとかカツサンドとかそういったOL女子が好きそうなメニューばかりだと思っていた。
「お待たせしました、ご注文はお決まりでしょうか」
「ああ、すみません、ええと
「うんまっ、なにこれ!!!」
耳に飛び込んできた大声に心臓を揺さぶられ、視線も意識も持っていかれる。どうやら今の声は奥に座った先程の唐揚げの客なようだ。ソイツはものすごい勢いで目の前の山を減らしていた。
よくよく聞いてみると、時折
「これは、からあげ教信者もびっくりニッコリでしょ」
やら
「宗教建てれるよもはやこれは」
とか
「信仰を集めるために変なことしなくてもいいね」
なんて色々と呟きながら食べている。
なんで、やたら宗教に関係した発言なんだろう。だが、ふむ。
口元は笑みを浮かべて、キラキラと目が輝いている。
何より、食べるスピードが凄い。はふはふと熱さに拮抗しながらも次から次へと手が止まらない。
店員さんに視線を戻すと、彼女もそちらに唐揚げ客に視線を向けていた。
そして業務を思い出したのか、私と目が合うとんんっと咳払いを挟み、恥ずかしそうに苦笑した。
「ええと、改めて何にしますか」
そうだな。今日は気分を変えてみようか。
「コーヒーと、ああいや。緑茶と」
意外と緑茶と唐揚げは読書に合うらしい。
意外な出会いに感謝を。