ごちゃまぜ習作集   作:お否さま

82 / 100
【心と心】

 

 

心とはなんだろう。

ある頃から僕はずっと、その考えに取りつかれていた。普通であれば、考えることが出来るのであればそれは心と言えるのではないか、という結論が返ってくるんじゃないだろうか。

 

けれど、それはロボットにも言えるのだろうか。

目の前にいる『彼女』を眺めながらそう思う。

 

「如何されましたか?」

 

ふわり、と花が開くように笑う。比喩表現にしては強くその意味を含有するように、無表情から一転して、だ。僕が見つめる限り彼女は笑顔を続ける。目を離せばそれは即座に感情を失ってしまうのだろう。

 

美女メイド型自立AIロボット。

父が買ってきた、世間で流行りのものだ。母にしばかれる父は言っていた。「どうせなら見目麗しいのが家の中にいる方がいいだろう」と。倍しばかれていた。

AIやロボットが生活に浸透してきてもう何十年も経った。今じゃ、その辺歩けば棒にあたるレベルでAIロボが多い。

だからこそ、強く思うのだ。

人工知能に果たして心があるのだろうか。

ココロと言うべきものは確かにあるだろう。人への反応をする為に膨大な感情サンプルを複合した画一された反応をするためのソレはある。だが、それは0と1で構成された「情報」であって心と言えないのではないか。では本当の心とはなにか。分からない。

徒然、思うことが増えた。

それもこれも彼女がいるからこその悩みであるが。

 

「あ、私の表面パーツに汚れでもありますか?」

 

そう言うとコミカルに、悪く言えば機械的に彼女は己の表面を撫で始める。そんな姿は僕の前でしか見せない。いつもは完璧な挙動をするのだ。なのに僕の前だと、動作以外はポンコツというかあたふたし始める。

だからこそ、これがココロなのか心なのか、そして僕の感じる気持ちがなんなのか決めきれずにいるのだ。

 

「いーや、心について考えていただけ。

AIにも心があるのかなってさ」

 

そんな言葉が漏れたのも、迂闊としか言いようがない。電気回路の1部に傷をつけてしまった位の迂闊さ。ふと、彼女からの早いレスポンスがないことに気づく。不審に思ってその顔を伺ってみる。

彼女は泣いていた。

 

「うぅ、あなたにもそんな情緒があったんですね」

 

えぇ……。貶されてることに嘆く感情とシンプルに女性の泣き顔にどくどくと焦りが湧いてくる。

 

「ど、どういう意味?」

「いえ、あまりにも感情をお見せにならないので……もしや私と同じロボットなのでしょうかと考えていました」

 

そう言うと、彼女は優しく僕を抱き寄せた。

それは機械の加減で潰さない心遣いと、人のような温かみがあるハグだった。

 

「今日はとてもいい日ですね」

 

だからだろうか。電気信号の漏れはもうひとつ口にしたくない言葉をたたき出していた。

 

「あぁ、好きな人にハグされてるからいい日だな」

 

迂闊にも程がある。

気づいた時には遅かった。顔から火が出る。ああもうなんでこんなこと……! 機械に行っても仕方ないのに。きっとありがちな「ありがとうございます」ぐらいだろうな。

だがその予想は……

 

「え……あ、えと、あの……嬉しいです、私も好きです……!」

 

じんわりと背中に回された機械パーツから熱が伝わってくる。伝播したそれは僕の心臓を狂い立たせ、痛いほど激しくさせる。

 

「今日は本当にいい日です」

 

そう言うと彼女は、ハグで狭まった顔の距離を更に近づけ

 

「『心』と『心』で通じ合えた日ですから」

 

その日から、心の意味を考えるのは、少しばかり雰囲気が変わった。

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。