ごちゃまぜ習作集   作:お否さま

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【ベルの音】

消えたい、消えてしまいたい。

鋼鉄の扉の目の前、寒い廊下の前僕は立ち尽くしていた。つけっぱなしのテレビが居間からやかましく騒ぎ立てる。

早くしろ、早くしろ、早くしろ。

ベルの音がなおも心を穿つ。

扉を開けたくない。だというのに僕の選択を世界は認めたくないように否定し続ける。

 

きっと、そう思っているのは僕の心の弱さゆえなのだろう。

たかが、学校で上手くいかなくて。

嫌な奴らに目をつけられて。

学校に行かなくなって。

助けてくれなかった先生が自宅まで来て。

僕の安否を心配して毎日呼びかけてくれたとしても。

その場に出ていけない、他人を信用出来ない僕の弱さが良くないんだろう。あの先生ならきっとそれさえも仕方の無いことだと受け入れてくれる。他の誰がなんと言おうと、私だけは君を好きでいるよ、なんて甘い言葉を言われたこともある。本当に本当に優しい先生なんだろう。だからこそ、僕は信用出来ない。

きっとその言葉は僕だけじゃないから。

そして、それを言えるほど強くもないし、そんな傲慢と独りよがりを煮詰めた性格でも人格を捨てられていないから。無意味な抵抗だ。ここで食い下がるほど彼女にその手間をかけさせてしまう。先生としてベストを尽くしてしまうのに。

僕はその対象が、僕だけに向けられていて欲しい。

僕は弱くてなんの魅力もないから、きっと先生からの愛を受け取ってそれを失ってしまえばもう立ち直れない。だって、他の人の方が先生からの友愛を受けるのに相応しく愛嬌や才能があるのだから僕のことなんて直ぐにどうでも良くなってしまうはずだ。

それにこんな手間をかけさせてしまっている僕のことを嫌いにならないはずがない。そうでないとおかしい。世界が間違っているわけは無いんだから、きっと今の先生の役を終えたら僕のことを嫌な奴として認識して、徐々に会話もしなくなっていくだろう。だっていつもそうだった。僕が悪いのだけしか分かっていない、そんな関係をずっと。

だから受け取る前に、消えてしまってどこでもない場所で最期を迎えたい。

 

だけどだけど。

世界はそんなこと許してくれない。

いつも、努力をしない僕には厳しいから。

 

ベルの音はいつの間にかやんでいた。

ずっと耳元に貼り付いていたそれは消えて、テレビの音しか聞こえない静寂。きっと諦めたのだろう。

あぁ、そうだ。僕が諦められるのに相応しい人間であることをまた証明した。

 

「ガチャリ」

 

扉に背を向けた瞬間。後ろからノブを回す音。

急いで振り返ると、それは開きかけていた。

何も出来ないまま、目を剥いていると外の光とともに先生が室内に飛び込んでくると、お互いに予期せぬ邂逅に驚く。何も言えない時間が流れていく。

だが、彼女には同行人がいたらしい。大家さんが僕の顔を見て

 

「なんだい、元気そうじゃないか」

 

そう言うと帰っていく大家さん。

知らず止めていた息を吐き出すと彼女とシンクロしていた。

 

 

「返事は無いのに、過呼吸みたいな音が聴こえてきたから」

 

そう前置きをして僕の差し出した水を飲む彼女の頬は赤かった。

 

「大家さんに説明して鍵を開けてもらったの。

結果勘違いではあったんだけど」

 

ベルの音を気にしていた僕がバカみたいだ。

あれだけ色々ぐつぐつと煮えたぎっていた思いがそんなことで無意味になってしまった。

実際に会ってしまうと、想像していたよりもずっと彼女は僕の身を案じてくれていた。それが万人ものであってもいいと思えるくらいに。

 

心の中の警鐘も今は小さく消えかけるぐらいに。

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