ごちゃまぜ習作集   作:お否さま

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【王子と川とズボン】

その日はなんでもない1日だった。

ただ学校へ行き、適当に授業を受け、昼休みに友人とだべりながらご飯を食べて、午後に睡魔と戦う。

そんなどこにでもある一日。

 

おそらくもう得ることが難しくなる最後の1日だった。

 

その日も普通の一日を普通に過ごして、オレは帰り道を歩いていた。いつもつるんでるヤツらは部活やら用事やらで隣を歩いていない。

久しぶりに1人で歩いている。

 

だからだろうか、ふと目の前にいるやつが気になった。ソイツがなにか奇行をしてるだとか、目を引く見た目をしていた訳では無い……ああいや変な格好はしてないという意味で。

なんとも見覚えがある後ろ姿だな、と記憶の隅から引っ張り出そうとすると、思い当たった。

クラスメイトのイケメンだ。

学校の王子とか言われてるタイプのものすごいイケメンだ。実際に話したことは無いが、性格も良い奴らしい。交友関係の拡大にあまり積極的では無いオレにさえ聞こえるくらいの人物だ。見覚えがあって当然だった。

 

今まで気づいていなかったが、帰り道が一緒らしい。とはいえ、話す仲でもないのに信号待ちだったりで顔を合わせた時に気まずいし、今度からは帰り道を変えようとは思うが。

 

と、前を歩く王子が突然等速な運動から変速した。前方へではなく横方向へ。しかもかなり焦った顔にほんのりの絶望を滲ませて。

丁度、橋の欄干から下を見ている感じだった。

このまま行くと道幅もあって確実に気づかれる。通り過ぎる方が気まずい、と面倒さを堪えながら王子に声をかける。

 

「どうしたんだ」

 

後ろにいたオレには気づいていなかったのか、びくりと肩を震わせると勢いよくこちらへ振り返った。

 

「びっくりした、誰かと思えば央矢(ひろや)くんか。……全然なんでもないよ」

 

正しく、妹が戸棚に隠してあったお菓子を奪った時みたいな、まずいとはっきりわかる顔をしていた。

完璧超人みたいな王子がそんな顔をしているのを見ると、場面では無いが少し面白く感じる。

 

「そんな焦った顔しといてなんでもないわけないだろ。一応クラスメイトだし、オレにできる範囲なら多少力を貸すぞ」

 

主に明日から気まずさを抱えて生きていきたくないが故に。王子は形の良い眉をしょんもりと下げ、困っていた。

 

「えっと、せっかくの申し出はありがたいのだけど、そこまでしてもらう訳にはいかないよ。

妹からの誕生日プレゼントが橋の上から落ちちゃって、困ってたんだ」

「なんだそんなことか」

「そんなことって何さ」

 

オレの物言いにムッとしたようで、声に険が混じる。そんな王子に構わずオレは更に聞く。

 

「落としたのはなんだったんだ」

「お茶しばのストラップだけど」

「わかった」

「わかったって、君……え、もしかして」

 

王子の声がしりすぼみに消えていく。

声が小さくなった訳ではなく、俺がその場から離れていったからだ。

 

黙々と走り橋の下にまで来たオレはそのまま川に飛び込む。

幸い、膝よりちょっと上ぐらいの水だし冬でもないからある程度の時間は確保して探せるだろう。

オレが帰宅部でよかったな。

 

「何してんのさ君!」

 

後ろから、普段聞かないぐらいに焦った完璧超人さんの声が聞こえてくると、一緒にジャブジャブと音が響く。そのまま2人で手分けして川の中を手探りで探す。

 

「何してんのも何も無いだろ、脈絡もなく川遊びするような年齢に見えるか?」

「そうじゃなくて、君になんのメリットないだろ、なんでそこまでしてくれるんだよ」

「だからといってあのまま帰ったら、次の日からオレが心苦しいだろ」

「そんなことで!?」

「そんなことじゃない、オレにとっちゃ大事なことだ。あんたにとっての妹のように。

あと、妹から貰ったものは大事にしろほんとに」

「最後だけものすごい圧を感じるのだけど……?」

 

頭上に輝いていた太陽も段々とオレンジ色に白色を落として地平線と同じぐらいの位置になった頃合いで目当てのものが見つかった。

 

「なぁ、これか?」

「あ、あ、ありがとう!」

 

王子は綺麗な顔をクシャクシャにさせて泣いていた。

その顔をじっと見つめるのは失礼な気がして夕日が眩しい振りをして目を逸らす。

しばらくして泣き止んだ王子と川から出る。

 

「ねぇ、もう1回聞くけどどうしてここまでしてくれたの」

 

オレンジ色にきらめく瞳がこっちを真っ直ぐに射抜く。

真剣に答えなきゃ行けない気がしたオレは居住まいをただし、その瞳を真っ直ぐ見つめ返す。

 

「さっきも言ったが、妹は大事にしろ。

そして、オレが気まずいからだ。

良い事や他人の困り事を見逃した時の気まずさ、自分への失望はずっと続いて、中々自分のことを認められなくなるからな。積極的にいいことをする気は無いけど、困ってる人間が目の前にいたら少なくとも自分が仕事をしたと言えるぐらいのことをしなきゃ気が休まらないんだよ」

 

自分なりに真面目に答えると、王子はハッとした様子でしばらく黙っていた。オレの言葉を噛み締めてるようにも、何かを思い出してるようにも見えた。

 

 

 

「改めてありがとう、央矢くん」

「きにするな、クラスメイトだろう」

「いやいや、きちんとお礼することは僕にとって大事だから。それに伴って君を家に招待したいのだけどいいかな。濡れた服を洗濯して乾かすまででよいから。

僕の家ここからすぐそこだし」

「断るのも面倒だし、いいぞ」

「はっきり言うね……」

 

 

「おい王子、面倒だし一緒に風呂に入るぞ、さっさとズボンを脱げ」

「いや全然僕は後でいいしなんなら君は正気かって疑いたきゃぁーー!!」

 

後で聞くところによると、クラスメイトは知っていたようだが。

 

「女物のパンツを……? あー、えっとそうだな趣味は人それぞれだよな……」

「少なくともこの場で変態の謗りを受けるのは君の方だからな!?」

 

王子は大変イケメンな女性だったらしい。あと名前も初めて知った。

 

そうしてオレは、1週間ほどクラスメイトから「変態王」のあだ名と殺意を受け、親友が一人増えた。

 





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