ごちゃまぜ習作集   作:お否さま

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【大空】

ふと家を出た。

気分がくさくさしていてなんとなく部屋にいたくない気分だったのだ。

アスファルトが続く道を前へ。目的地もなくどこか遠くへ。どれだけ歩いてもあまり景色は変わらない。たまに人の足が視界に入る程度。

特別嫌なことがあった訳じゃない。

お母さんに怒られた。テストの点数が悪くって。だけど怒られるのなんていつもの事だ。自分が悪いのだって分かってる。

でも、いつもの事だから。嫌なことが積まれて積まれて、積まれて積まれて、いつのまにか目の前全部が灰色になるくらい影を落としていたんだ。このままじゃダメだから、影の中から出ようと歩き始めた。遠くへ行かないと影から出れないと思ってただがむしゃらに歩き続けた。なにか特別なことが起こってこの嫌な気持ちも全部消化できるだろう、なんて信じてもないことに縋っていた。

ずっとずっと歩いていると、ベンチがあった。そこでようやく自分の疲れを自覚する。鉛のように重い足を引き摺って腰を預けた。

思ったよりも疲労が溜まっていたようでどうにもこうにもすぐには再開できそうもない。せっかく変えようと外に出たのにこのザマかと思うと、悔しくて少しばかり心の痛みが漏れ出た。

いつまでそうしていたことだろう。涙はいつのまにか止まっていて、子供の声が代わりに聞こえてきた。何となく視線をあげる。そこでようやく公園のベンチに座っていることを自覚した。笑ってしまうことにことここに至るまで自分がどの場所を歩いているかすら知らなかったのだ。ますます影から抜け出せるわけもない、なんともまぁおかしな道中を歩んでいたものだ。

幾人かの子供がお日様の下、楽しそうに遊んでいるのが見える。今の自分には少しばかり眩しい。けれど目をそらしてはいけない気もする。幸いにもベンチは木陰だから、しばらく視線を彼らに預ける。

鬼ごっこだろうか、遊具の上で走り回ってるのは危なげでありつつ、子供のハツラツさを余すことなく伝えている。

そんな遊びもひと段落ついたのだろうか?

みんなが集まってジャングルジムのうえに集まり始めた。そうして1人が思いっきり指を上に向けていた、それはそれはお日様のように輝く笑顔で。

そんな陽だまりへの憧れは私の視線も吸い付け、自然と上を見上げる。

 

息を飲んだ。

 

それは全くもって特別ではなかった。

けれども、今の私を殺すのに必要なものだった。くさくさした気持ちも何もかも丸ごと。

そんな気持ちごと吹き飛ばすようなどこまでも突きぬけた青い青い大空。そして1本の凛としたひこうき雲が、その彼方へ迷いなく進んでいった。

ああ、こんなに簡単な事だったのか。

下を向いてがむしゃらにやるのだってきっと大事だ。でも、きっとたまには上を向かなきゃ、見たいものも見れなくなる。ただそれだけの事が分からなかった自分がたまらなくおかしかった。

 

ベンチから立つ。

いつしか足はとても軽くなっていた。

いやたとえ重くなったって、今日と同じようにまた空を見よう。大空にいる自分を描くために。

 

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